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興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

2014年10月28日

2014-10-30 23:40:52 | 

食事と炎症と癌の関連: 重要なファクターが発見される
Relationship between diet, inflammation and cancer: Key factor found



Children's Hospital Oakland Research Institute(CHORI)の研究チームは、スフィンゴ脂質として知られる脂質のカテゴリーが、食事と炎症、そして癌という3つの関係を結びつける重要な要素であるかもしれないことを発見した。

今週JCIでオンライン発表される論文でJulie Saba医学博士と彼女の研究チームは、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)というスフィンゴ脂質の代謝産物が、結腸の炎症と炎症性腸疾患(IBD)、そして炎症関連大腸癌に関与するというエビデンスを提供する。

S1Pは哺乳類食品(mammalian food product)に含まれ、ヒトの正常な細胞でも作られているが、それとは反対にスフィンガジエン(sphingadiene)と呼ばれる大豆または植物タイプのスフィンゴ脂質は、これらの病態から保護する可能性がある。



炎症と癌の関係は100年以上前から認識されてきた。この関係は特に結腸発癌において明らかであり、IBD患者は一般集団より大腸癌の罹患率が高い。発癌すなわち細胞の形質転換のプロセスにおいて、炎症がその最も早い段階に関与するというエビデンスが増えつつある。その段階で細胞は癌の特性の多くの面を獲得する。

国が工業化するにつれてIBDと大腸癌の罹患率が上がるという観察は、食事と栄養の変化が大腸炎と大腸炎関連大腸癌に関与することを示唆する。哺乳類食品等に含まれる生理活性(bioactive)スフィンゴ脂質は発癌において基本的な役割を果たし、その理由はプログラム細胞死経路とストレス応答、免疫と炎症を調節するその能力による。



スフィンゴ脂質の代謝の影響は特に大腸癌で密接な関係があるが、その理由は、腸と上皮細胞が食事のスフィンゴ脂質の分解によって産生される代謝産物にさらされるからである。中でも、哺乳類のスフィンゴ脂質の最終的な分解産物であるS1Pは細胞の成長と発癌を促進する炎症誘発性のシグナル脂質である。

悪性の形質転換と大腸癌が進行するにつれて遺伝子の変化が腸の組織で生じ、それにはS1Pを産生する酵素のスフィンゴシンキナーゼ(SPHK)の増加と、S1P分解を触媒する酵素であるS1Pリアーゼ(SPL)の減少が含まれる。これらの変化は腸粘膜でのS1Pの蓄積につながる。

S1P蓄積の炎症と発癌への影響を調べるため、研究者は腸組織でSPLを欠損するマウスを生み出した。彼らは化学物質により大腸炎関連大腸癌を誘発するモデルマウスを用いて、その応答の特徴を記述した。

その結果、コントロールマウスと比較して変異マウスはより多くの炎症を示し、腫瘍の発生率はより高かった。マウスと細胞培養実験の組合せを使用して、科学者はS1Pの下流にあるカスケードを特定した。それは最終的に2つの腫瘍抑制タンパク質、PTENとCYLDのサイレンシングにつながる。

S1Pが癌を促進するのとは対照的に、スフィンガジエンと呼ばれる大豆または植物タイプのスフィンゴ脂質はS1Pに代謝されることができず、代わりに腸組織でSPL濃度を上昇させ、それによりS1Pの代謝・分解を増強することが研究者によって示された。

さらに、マウスへのスフィンガジエンの経口投与は、炎症ならびにIBDの徴候、腫瘍の発生を減少させた。加えて、IBD患者の結腸ではS1P関連の遺伝子発現が増加していることを研究者は示した。



今回の研究では、哺乳類のスフィンゴ脂質が炎症と発癌を促進する可能性が示唆される。また、植物/大豆スフィンゴ脂質はS1Pに変換されず、抗炎症性であり、いくつかの癌シグナル経路の活性を低下させる。食事に含まれるスフィンゴ脂質が結腸発癌を増強するか阻害するかは、それがS1Pに代謝される能力次第であることが示唆された。

今回の発見は、食事と炎症と癌の機械論的な関連を明らかにすると共に、大腸癌リスクが高い患者、例えばIBDの人たちの化学予防的治療薬としてスフィンガジエンをさらに研究することを支持するエビデンスを提供する。

記事出典:
上記の記事は、UCSFベニオフ小児病院オークランドによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.スフィンゴシン-1-リン酸リアーゼのダウンレギュレーションは、STAT3により活性化されるマイクロRNAによって結腸発癌を促進する。

JCI、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141028145439.htm

<コメント>
前回に続いて、スフィンゴシン-1-リン酸S1P)についての記事です。

本文によれば、STAT3はmiR-21を介してPTENも抑制することが明らかになっていて、今回の研究ではS1PはSTAT3を活性化させてmiR-181b-1を誘導し、cylindromatosis(CYLD)もサイレンシングすることが明らかになりました。さらに、IBD患者の結腸の生検でもS1PとSTAT3シグナルが促進されていました。

2009年にも同グループによるスフィンガジエン(sphingadiene; -eneは二重結合の意)についての記事が出ていました


2014年10月28日

2014-10-29 23:34:47 | 医学

新たな臨床試験データ:
多発性硬化症の候補薬は、潰瘍性大腸炎でも有望

New clinical trial data:
Multiple sclerosis drug candidate also shows promise for ulcerative colitis



潰瘍性大腸炎の候補薬RPC1063に関する新しい臨床データが本日発表された。RPC1063はスクリップス研究所(The Scripps Research Institute; TSRI)で最初に発見されて合成された新薬であり、スフィンゴシン-1-リン酸の受容体1(S1P1)に対するアゴニストである。

RPC1063は現在、中度から重度の活動性潰瘍性大腸炎の患者199例で第2相試験中である。最新の結果によれば、RPC1063を1mgで8週間投与した患者の16.4パーセントが臨床的寛解に至った(プラセボ群は6.2パーセント)。

「RPC1063はすでに多発性硬化症で著しい効能と安全性を示しているが、潰瘍性大腸炎の患者でも有望さを示したことに我々は喜んでいる」、TSRIの教授であるヒュー・ローゼンは言う。彼はEdロバーツ教授と共に、RPC-1063を発見した研究チームを指揮してきた。

RPC1063を開発するReceptos社(サンディエゴ)のスポンサーによる臨床試験は、おおむね良好な忍容性を示した。



候補薬RPC1063は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)分子ライブラリをTSRIフロリダの分子スクリーニング・センターで分析する中から得られた。用いたアッセイ・テクノロジーはラ・ホーヤにあるローゼン研究室によるものである。TSRIはReceptos社に化合物のライセンスを供与し、米食品医薬品局(FDA)の承認を受けるべくRPC1063を開発している。

今回のポジティブな結果から、Receptos社は潰瘍性大腸炎の第3相試験、クローン病の第2相試験を開始する予定である。加えて、RPC1063は多発性硬化症の第3相試験中である。

記事出典:
上記の記事は、スクリップス研究所によって提供される素材に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141028082135.htm

<コメント>
RPC1063というスフィンゴシン-1-リン酸Sphingosine-1-Phosphate; S1P)の作用を調節する新薬がIBD治療薬として開発中という記事です。

今年9月には多発性硬化症に対する第2相試験の結果も出ています。同様の機序を持つフィンゴリモドFingolimod)が既に多発性硬化症の治療薬として国内での承認を受けています


2014年10月21日

2014-10-28 23:28:29 | 医学

関節リウマチに関与する新しいシグナル経路の特定
Rheumatoid arthritis: Researchers identify new signaling pathway thought to play role



関節リウマチ(RA)は全身性の炎症を伴う自己免疫疾患であり、関節内の骨の侵食はRA患者における障害の主な原因である。

Hospital for Special Surgery(HSS)の関節炎・組織変性プログラムを担当するBaohongチャオ博士たちは全く新しいシグナル経路を発見し、RAの骨破壊に関与する可能性がある根本的なメカニズムを解明した。



近年、RA発症に関連する遺伝子を特定するためにGWASが実施され、RBP-Jという遺伝子のバリアントがRAの発症と関連することが判明した。しかし、その役割は未知のままだった。

「RA患者は健康な人と比較して、このリスク遺伝子の発現レベルがかなり低いことが明らかになった」、チャオ博士は説明する。

また、彼らはRBP-Jタンパク質が新しく特定されたシグナル経路により過剰な骨侵食を制御するメカニズムを解明した。

「我々は今回の結果にきわめて興奮している。なぜなら、この新しく特定されたRBP-Jにより制御されるシグナル経路が、RAの予防と治療のための新たな標的を提供するからである。これは基礎研究と臨床治療の両方に新しい道を開く」、チャオ博士は言う。



科学者たちはネクスト・ジェネレーション・トランスクリプトーム塩基配列決定という強力な技術を使用した。それは何千というヒトの遺伝子それぞれの発現レベルに関する情報を提供することが可能である。

「この技術は今回の新しいシグナル経路の重要な構成要素の解明につながった」、チャオ博士は言った。

学術誌参照:
1.RBP-Jは、破骨細胞形成のITAMによって媒介される共刺激に関して条件を課す。

JCI、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141021101616.htm

<コメント>
破骨細胞の形成(osteoclastogenesis)を調節するRBP-Jというタンパク質の発現が関節リウマチでは減少しているため、破骨細胞が増大して関節の破壊が促進されるという記事です。

本文によれば、破骨細胞の分化にはRANKシグナルに加えて、共刺激として主にDAP12やFcRγ受容体に伴うITAMシグナルが必要です。このITAMシグナルの必要性は、RBP-Jが適切に発現しているおかげである、というのが今回の研究の内容です。

逆に言うと、RBP-Jが発現していなければITAMシグナルという共刺激がなくてもTFN-αにより破骨細胞に分化しやすくなり、実際、関節リウマチ患者ではRBP-Jの発現が低下しています。

具体的には、RBP-JはTGF-βR1の発現を抑制しています。TGF-βR1の刺激はカルシウムシグナルにつながり、ITAMシグナルもPLCγ2を介してカルシウムシグナルにつながるため、TGF-βとITAMはお互いに破骨細胞の分化を促進します。RBP-JがTGF-βシグナルを抑制している(そしてRANKLシグナル後にはRBP-Jは低下してTGF-βシグナルを維持する)ので、破骨細胞は適切に分化することができます。
(RBP-J restrains expression of TGF-βR1 and thereby modulates cell responsiveness to TGF-β, which in turn regulates expression of PLCγ2 at the transcription level through binding of Smad2/3 to its upstream regulatory region.
Our results provide direct evidence that Plcg2(PLCγ2) is a target of SMAD2/3.)

他にも、例えばNotchシグナルは破骨細胞の形成に影響しますが、NotchもTGF-βシグナルとクロストークします。RBP-Jは、Notch、Wnt/βカテニン、NF-κB、TLR、TNFシグナル等の様々な要素の入力を受けて破骨細胞の形成を調節し、関節リウマチの発症と進行に影響を及ぼしているようです。

関節リウマチとTLRとTNFに関しては以前にも記事がありました。

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/8f334bb9fe856f6e1d461bc9fe30ec2f
>TLR5受容体はTNF-αという強力な炎症性分子を上方制御することが発見された。TNF-αはさらにより多くの骨髄性細胞を関節にリクルートして、そこで骨髄性細胞は破骨細胞(osteoclast)に変わる。

2014年10月24日

2014-10-27 22:23:11 | 医学

背中に問題がある女性の性生活を改善する新しい発見
New findings will improve the sex lives of women with back problems



ワーテルロー大学による新しい発表は、腰を痛めた女性のより良好な性生活に対して新たな望みを与える。その発表ではセックスの間の脊椎がどのように移動するかを初めて実証し、異なるタイプの腰痛症(low-back pain)で苦しむ女性にとってどのセックス・ポジションが最善かについて概説する。

この新しい勧告は、先月リリースされた男性用のガイドラインに続くものである。



腰痛の女性は後側位でのセックス(spooning)が最善のセックス・ポジションであるという考えが世間では一般的だが、ヨーロピアン・スパイン・ジャーナルで発表される今回の発見は、その偽りを暴く。

「後側位でのセックスは神経の伸張と組織への荷重を低下させると考えられてきたため、医師は伝統的に背痛の人たち全てに後側位を推奨してきた」、ワーテルローの博士候補であるナタリーSidorkewiczは言う。

「しかし我々が脊椎モーションと筋肉活性を調べたところ、後側位でのセックスは実際にはある種の背中痛の人にとって最悪なポジションの1つである可能性がある。」



今回の先駆的な研究ではCGキャラクタアニメーションの映画製作者によって用いられるような赤外線・電磁気モーション・キャプチャ・システムを組み合わせて、10組のカップルの脊椎が5つの一般的なセックス・ポジションでどのように移動するかを追跡した。

どんな運動が患者の痛みを引き起こすかという情報も加えて作られたガイドラインによれば、「伸び」に耐性がない女性、つまり背中をアーチ形にするか、うつぶせで痛くなる女性は、例えば後側位のセックスを正常位と取り替えると良い。加えて、枕は脊椎をニュートラルなのポジションに保つのを助ける。

「屈曲」に耐性がない女性、つまり足の指に触るか長期間座ることによって悪化する女性は、後側位、または犬のようなスタイルのセックスが推奨される(上体を手で支持する形態。肘ではない)。

「我々が今知っていることは、あるタイプの背中の痛みにふさわしいセックス・ポジションは、別の種類の痛みにもふさわしいとは限らないということである」、Sidorkewiczは言う。

記事出典:
上記の記事は、ワーテルロー大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.性交の間の女性の脊椎モーションの実証と、腰痛患者への影響の解説。

ヨーロピアン・スパイン・ジャーナル、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141024142015.htm

<コメント>
同じ腰痛でも、そのタイプによって適切な体位は異なるという記事です。モーションキャプチャを使うという本気度に惚れました。

関連記事は先月に発表されたという男性用のガイドラインについてです。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140910093215.htm

2014年10月25日

2014-10-26 22:44:28 | 

ダウン症候群の研究から現れる先天性心臓欠損の遺伝的性質の手掛かり
Clues to genetics of congenital heart defects emerge from Down syndrome study



ダウン症候群は21番染色体の全部、または一部が3つ目のコピーを持つ染色体の異常である。

ダウン症候群の人は知的障害に加えて先天性心臓欠損のリスクが高い。しかし全てのダウン症候群でそうなるわけではなく、およそ半分は構造的に正常である。遺伝学者たちはダウン症候群の人たちの先天性の心臓欠損の原因について調べてきた。

今回、エモリー医科大学、ジョンズホプキンス大学、オレゴン健康科学大学、ピッツバーグ大学の研究者たちは、ダウン症候群の先天性心臓欠損について最大の遺伝子研究による結果を学術誌Genetics in Medicineで報告する。

彼らの報告によれば、ダウン症候群を背景とする先天性心臓欠損の乳児は、まれにしか見られない大きい遺伝子欠失を生じている可能性がより高い。その欠失は、繊毛(cilia)に影響する遺伝子と関係する傾向があった。繊毛は胚の発達におけるシグナル伝達とパターン化に重要な細胞構造である。

今回の新しい発見が示唆するのは、ダウン症候群での先天性心臓欠損のリスクは、余分な21番染色体による大きなリスクに加えて、いくつか別の遺伝子ならびに環境的ファクターに由来する可能性があるということである。



研究には452名のダウン症候群の人々が含まれ、210名が完全房室中隔欠損(complete atrioventricular septal defect; AVSD)だった。AVSDは心房を心室から切り離すための心臓の中心領域が適切に形成されない障害で、ダウン症候群のおよそ20パーセントに見られる。残る242人の心臓は構造的に正常だった。

エモリーの研究チームは高密度マイクロアレイを使用してヒトゲノムの90万箇所以上を探索し、DNAの欠失または重複を含む構造的な変異を検出した。研究の結果、AVSDと繊毛の間のつながりが証明された。

繊毛関連疾患(Ciliopathies)は遺伝子疾患の一種であり、腎臓、眼、神経発生的な障害が含まれる。気道の細胞には肺から粘液とほこりを押し流す可動性の繊毛があり、そしてほとんど全ての細胞は一次(感覚)繊毛(primary (sensory) cilia)を持つ。

「ダウン症候群とAVSDの子供には繊毛に関連する遺伝子(ciliome genes)に障害があるかもしれないという発見は、彼らの終生の治療で大きな違いを示すかもしれない」、エモリー医科大学で人間遺伝学と小児科学の准教授でありシニア・オーサーのマイケル・ズウィック博士は言う。

「これはより多くのグループでの確認が必要とされる示唆的な結果である。」

学術誌参照:
1.ダウン症候群に関連する房室中隔欠損に対する、コピー数多型の寄与。

Genetics in Medicine、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141025152706.htm



<コメント>
ダウン症候群では一次繊毛に関連する遺伝子にも欠失が生じやすく、それが房室中隔欠損(AVSD)という遺伝子疾患につながるという記事です。

一次繊毛はレプチンシグナルにも関与することが最近明らかになりました。

http://www.nutritio.net/linkdediet/FMPro?-db=NEWS.fp5&-format=news_detail.htm&-lay=lay&KibanID=44791&-find

>FTO遺伝子の発現が増えたり減ったりするのに連動して、近傍の遺伝子RPGRIP1Lも影響を受ける。

>RPGRIP1Lは一次繊毛(primary cilia)の制御に関与する。

>FTO遺伝子のイントロン領域には、RPGRIP1Lの発現に影響を与える転写因子CUX1が結合する部位が存在する。

>RPGRIP1Lのひとつを欠損したマウスは摂食量が増え、有意に体重と体脂肪が増大し、さらにRPGRIP1L欠損マウスはレプチンの信号経路に欠陥があった。

>レプチン受容体は一次繊毛の周辺にある。


実際、ダウン症候群ではレプチン抵抗性が生じやすいという研究があるようです。

http://blog.livedoor.jp/pumpkin1205/archives/50210851.html

>ダウン症の子には体脂肪率で考えられるよりも多くのレプチンがあることを示している。

>レプチンをコードする遺伝子は7番染色体にあるため、21トリソミー単独ではこのレプチン増加を説明することはできない

2014年10月23日

2014-10-26 11:55:39 | 

ダウン症候群の人々は、なぜ必ずアルツハイマー病を発病するのか
Why people with Down syndrome invariably develop Alzheimer's disease



ダウン症候群は21番染色体の追加コピーを特徴とするヒトで最も一般的な染色体異常である。

ダウン症候群はアルツハイマー病のリスクの増加と関連する。ダウン症候群の人は40歳までに約100パーセントがアルツハイマー病と関連する脳の変化を生じ、35歳までに25パーセントが、65歳までに75パーセントがアルツハイマー病タイプの痴呆の徴候を示す。

サンフォード-バーナムの変性疾患プログラムの教授で論文のシニアオーサー、Huaxi Xu博士は言う。

「我々の新しい研究は、ソーティング・ネキシン27(SNX27)と呼ばれるタンパク質が、ベータ-アミロイドの生成を調節する方法を明らかにする。ベータ-アミロイドは、ダウン症候群とアルツハイマー病の人々の脳で見られる有害なアミロイド・プラークの主要な構成要素である。」



「SNX27は、γ-セクレターゼとの相互作用を通してベータ-アミロイド生成を低下させる。γ-セクレターゼはベータ-アミロイド前駆体タンパク質を切断してベータ-アミロイドを生み出す酵素である」、Xuの研究室のポストドクターであり、ファースト・オーサーのXin Wang博士は説明する。

「SNX27がγ-セクレターゼと相互作用すると酵素は無効になり、ベータ-アミロイドを生み出すことができない。SNX27のレベルの低下は、機能的なγ-セクレターゼのレベルの増加につながり、その結果としてベータ-アミロイドのレベルは増加する。」



Xuたちは以前、SNX27を欠損するマウスがいくつかの特性をダウン症候群と共有することを発見した。ダウン症候群の患者はSNX27のレベルが著しく低下する。

SNX27は脳の細胞表面である種の受容体を維持している。その受容体はニューロンが適切に発火するために必要とされる。SNX27のレベルが低下するとニューロン活性は損なわれ、学習と記憶に関する問題を引き起こす。

重要なことに、ダウン症候群マウスの脳にSNX27遺伝子の新しいコピーを加えることによって、マウスは記憶の欠損を修復する可能性があることを研究チームは発見した。



研究者はさらに、ダウン症候群のSNX27のレベルの低下は、余分な21番染色体にコードされるマイクロRNA、miRNA-155のコピー数の増加に影響されることを発見した。

今回の研究で、研究者は全てのプロセスを一つにつなぎ合わせることができる。21番染色体の追加コピーはmiRNA-155のレベルを増加させ、それは次にSNX27のレベルを低下させる。SNX27のレベルの低下は、活動的なγ-セクレターゼの増加につながり、疾患で観察されるベータ-アミロイドの産生とプラークの増加を引き起こす。



Xuは言う。

「ダウン症候群におけるアルツハイマー病の特性に寄与する多くのファクターがあるかもしれないが、我々の研究はγ-セクレターゼを阻害してアミロイド・プラークを阻止するアプローチを裏付けるものである。」

「我々の次のステップは、miRNA-155のレベルを低下させる分子をスクリーニングにより特定し、SNX27のレベルを回復してγ-セクレターゼの間に相互作用を増強することができる分子を発見することである。」

記事源:
上記の記事は、サンフォード・バーナム医学研究所によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.ソーティング・ネキシン27は、γ-セクレターゼ活性を調整することを通して、Aβ産生を調節する。

Cell Reports、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141023130807.htm

<コメント>
ダウン症候群でアルツハイマーが非常に多く見られることについて、その原因の一つが明らかになったという記事です。



2014年10月21日

2014-10-22 23:26:28 | 

免疫タンパク質は、陰でこっそり脳細胞の接続を調節する
Immune proteins moonlight to regulate brain-cell connections



『より多いことは、より良いことである』

これは脳に関しては仮定としても明白であるように思われる。

しかし脳細胞間を接続するシナプスに関して言えば、あまりに多くても、少なくても、どちらも脳の機能を破綻させることがありえる。

プリンストン大学とカリフォルニア大学-サンディエゴ(UCSD)の研究者は最近、MHCI(主要組織適合複合体クラスI)という免疫システム・タンパク質が、神経系でシナプスの数の調節を助けるために陰でこっそり働く(moonlight)ことを発見した。

MHCIは脳においてアルツハイマー病やタイプII糖尿病、自閉症のような病態において予想外の役割を果たす可能性があると、彼らはJournal of Neuroscienceで報告する。



MHCIタンパク質は免疫システムに関与することで知られている。免疫系でのMHCIは、病原体と癌細胞からのタンパク質の断片をT細胞に提示する。このような抗原の提示は、T細胞が感染細胞および癌細胞を認識して殺すことを可能にする。

しかし脳でのMHCI免疫分子は、シナプスの密度を制限することが知られている限りの因子の一つである。それはシナプスが適切な数で生ずることを確実にし、適切な数のシナプスは健康な脳の機能をサポートするために必要である。

脳でのインスリン受容体はシナプスの形成を促進し、MHCIはそのインスリン受容体を阻害することによってシナプス密度を制限する。



プリンストン神経科学研究所(PNI)とプリンストン大学の分子生物学部の助教授で、シニア・オーサーのリサ・ブーランジェは次のように言う。

適切なインスリンシグナル伝達とシナプス密度を確保することにおけるMHCIの役割は、MHCタンパク質の活性の変化がアルツハイマー病・タイプII糖尿病・自閉症のような疾患の一因である可能性を高める。

これらの疾患はすべて、「インスリンシグナル経路の破綻」と「シナプス密度の変化」、そして「MHCIのような免疫系分子を活性化する炎症」という要素の複雑な組合せと関連していた。

タイプII糖尿病の患者は「インスリン抵抗性」を生じてインスリン受容体がインスリンに反応を示すことができなくなるが、同様にアルツハイマー病の患者は脳においてインスリン抵抗性を生じる。それは非常に顕著であるため、中にはこの疾患を「タイプIII糖尿病」と呼ぶ者がいるほどであるとブーランジェは言う。

「今回の結果は、MHCI免疫性タンパク質の変化がインスリン抵抗性という障害の一因となる可能性があることを示唆している。」



「例えば慢性的な炎症はタイプII糖尿病と関連するが、この関連の理由は謎のままだった。我々の研究結果は、炎症によって誘発されるMHCIの変化が、ニューロンや他の場所におけるインスリンシグナル伝達に対して何らかの結果をもたらす可能性があることを示唆している。」



MHCIのレベルはアルツハイマー病の人々の脳でも「劇的に変化する」とブーランジェは言う。

正常な記憶の形成は、MHCIの適切なレベルに依存する。ブーランジェがシニア・オーサーだったLearning and Memory誌の2013年の論文では、機能的なMHCIタンパク質が少なくなるようにマウスを品種改良した。その結果、記憶の形成に関与する海馬の機能は目ざましい変化を示し、重度の記憶障害が生じたのである。

「MHCIのレベルはアルツハイマー病の脳で変化する。マウスでのMHCIレベルの変化は記憶を混乱させてシナプス数を低下させ、そしてニューロンのインスリン抵抗性を引き起こす。それらは全てアルツハイマー病の中心的な特徴である」、ブーランジェは言う。



また、MHCIと自閉症の関連も明らかになっている。自閉症の患者は特定の脳領域で通常よりも多くのシナプスが認められるが、さらにいくつかの自閉症関連遺伝子はしばしばmTOR(mammalian target of rapamycin)というシグナル・タンパク質によりシナプス数を調節する。

ブーランジェと彼女の共著者は、MHCIのレベルが低下したマウスではインスリン受容体シグナル伝達が上昇することを発見した。インスリンシグナルはmTOR経路を活性化し、そして結果としてシナプスは増加した。

高かったmTORシグナル伝達がMHCI欠損マウスで低下すると、正常なシナプス密度が回復した。

「このように、MHCクラスIと自閉症関連遺伝子は、mTOR-シナプス調節経路に収束すると思われる。」

これは興味深いことだ、と彼女は言う。妊娠中の炎症は胎児の脳でMHCIレベルを変化させ、それは遺伝的に自閉症になりやすい人の自閉症リスクをわずかだが増加させる可能性があるからである。

「MHCIを上方制御することは母親の免疫応答のために必須である。しかし、胎児の脳内でシナプスの接続が形成されている時期でのMHCI活性の変化は、シナプス密度に潜在的に影響を及ぼす可能性がある」、ブーランジェは言う。



スタンフォード医科大学で神経生物学・発生生物学・神経学の教授であるベン・バレスによれば、インスリン受容体シグナル伝達はシナプス密度を上昇させる一方でMHCIシグナル伝達はそれを減少させることが知られており、ブーランジェはMHCクラスIがインスリン受容体に実際に影響を及ぼしてシナプス密度を制御することを示す初めての人物であると言う。

「これら2つのシグナリング・システムの間に直接的な相互作用があるというアイデアは、非常に意外だった」、今回の研究には参加しなかったバレスは言う。

「この発見は、脳回路がどのように発達するかという新しい洞察だけでなく、老化で生じる脳機能の低下に対する新しい洞察に通じるだろう。」

今回の研究は、タイプII糖尿病とアルツハイマー病の間に機能的なつながりがある可能性を特に示唆しているとバレスは言う。

「タイプII糖尿病は最近アルツハイマー病の危険因子として明らかになったが、アルツハイマー病で見られるシナプスの喪失とどのようなつながりがあるかは不明だった」、彼は言った。

「タイプII糖尿病にはインスリンへの反応の減少が伴うことを考慮すれば、MHCIシグナル伝達は正常なインスリン・シグナル伝達を圧倒することができるようになり、それがアルツハイマー病のシナプスの減少に寄与するのかもしれない。」



過去15年間の研究は、MHCIが脳で「実り多き2つの人生を送る」ことを示したとブーランジェは言う。

脳には「免疫特権immune privilege)」がある。その意味は、脳で察知された脅威に対して免疫システムは急速には反応を示さず、そして効果的でもないということである。しかしMHCクラスI分子は健康な脳のあらゆる場所に存在し、さらに正常な脳発達と機能のためにも必須であることを数多くの研究が示してきた。

学術誌Molecular and Cellular Neuroscienceに掲載された彼女の研究室による2013年の論文は、免疫システムがまだ成熟していない状態にある時に、MHCIが胎児マウス脳にさえ存在していることを示した。

「多くの人々は、MHCIの様な免疫分子は脳に存在していないはずだと考えた」、ブーランジェは言う。

「MHCI免疫タンパク質は脳で実際に働いていることが分かった。それはまさしく完全に独特な何かのために働く。MHCIに免疫システムと神経システムにおける二重の役割があることにより、それは2つのシステムの間に有害な、そして有益な相互作用を仲介できるのかもしれない。」

記事源:
上記の記事は、プリンストン大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.MHCクラスIは、ニューロンのインスリン受容体シグナル伝達を阻害することによって、海馬シナプス密度を制限する。

Journal of Neuroscience、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141021111405.htm

<コメント>
炎症と代謝、そして様々な疾患をつなぐ分子としてのMHCクラスI分子についての記事です。

下の写真はマウスの成体の小脳で、緑はインスリン受容体、赤はプルキンエ細胞のカルビンディンです。インスリン受容体はプルキンエ細胞上にシナプスを形成する神経線維に強く発現し、プルキンエ細胞はMHCクラスIを発現しています。



2014年10月19日

2014-10-20 23:21:37 | 免疫

子供の遺伝子は、母親の関節リウマチのリスクに影響を及ぼす
Children's genes affect their mothers' risk of rheumatoid arthritis



子供の遺伝子の構成は、母親が関節リウマチを発症するリスクの一因かもしれない。それは女性がなぜ関節リウマチになりやすいのかについて説明する。この研究はアメリカ人類遺伝学会(ASHG)サンディエゴの2014年年次総会で10月21日に発表される予定である。



関節リウマチは、種々の遺伝子ならびに環境的要因と関連づけられてきた。実際、免疫システムの遺伝子HLA-DRB1や感染症の経験は病態と関連する。そして女性は男性よりも関節リウマチを発病するリスクが3倍高く、そのピークの割合は40代と50代の間にある。

カリフォルニア大学バークレー校の大学院生であるジョバンナ・クルース理学修士(MS; Master of Science)によれば、関節リウマチが女性に偏っていることは妊娠に関する要因の関与を強く示唆するという。

「妊娠中の母親の体内には、胎児に由来する細胞が少数だが循環しているのが観察される(胎児マイクロキメリズム)。そして女性の中にはそのような胎児細胞が数十年もの長い間生き残る者もいる。

関節リウマチの女性は、そうでない女性よりも胎児細胞が残っている可能性が高い。このことは胎児細胞が関節リウマチ発症の潜在的な危険因子であることを示唆する」、クルースは言った。

「なぜこのようなことが起こるのかは不明だが、HLA遺伝子が関与しているのではないかと考えている」、彼女は説明した。

父親から関節リウマチのリスクが高い対立遺伝子(allele)を受け継いだ子供がいると、その女性は関節リウマチのリスクが上昇した。この影響は母親の遺伝子間での違いを考慮した後にも残った。

記事源:
上記の記事は、アメリカ人類遺伝学会によって提供される素材に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141019094605.htm

<コメント>
胎児の細胞は母親の血液中に何十年も残り(胎児マイクロキメリズム; fetal microchimerism)、それが関節リウマチ発症のリスクになり得るという記事です。

マイクロキメリズムはイヌにも見られるようです。


2014年10月14日

2014-10-19 11:47:36 | 

分子の『パンくず跡(breadcrumb trail)』は、メラノーマが蔓延するのを助ける
Molecular 'breadcrumb trail' that helps melanoma spread found



英国の癌研究者は、メラノーマ細胞は体で自然に生じている分子の『跡(trail)』に引き寄せられ、追いかけることを発見した。それはこの深刻なタイプの皮膚癌を転移させるように仕向ける。


Cancer Research UKの研究チーム、グラスゴー大学のBeatson研究所によれば、メラノーマ細胞は自分自身に『青信号』を出して移動する。その青信号とはリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid; LPA)という分子であり、このシグナルは体内の移動と転移を促進する。

研究者は、腫瘍細胞は周囲のLPA分子を分解することで「旅に出かける」ことを癌細胞系統とマウスで示した。いったん近くのLPAが枯渇すると、癌細胞はLPAを捜し求めて腫瘍から血流へと移動する。そうしてメラノーマ細胞は、体の新しい部位へとつながる小道(trail)を作る。

隣にしっかりとくっつく他の癌とは異なり、メラノーマ細胞の構造は初めから転移しやすいことを意味する。そのため、メラノーマはLPAによって与えられた青信号の指示を受けるとすぐに移動し始めた。このことが意味するのは、メラノーマは急速かつ激しく転移するために治療するのが困難な可能性があるということである。

研究者はメラノーマ細胞を撮影して分析することにより、それらが1日1ミリメートルという速さで移動することを発見した。この速度は、数週以内に体のどこにでも到着することができることを意味する。

学術誌参照:
1.メラノーマ細胞はLPAを分解して局所的な濃度勾配を生じ、化学走性の分散を引き起こす。

PLoS生物学、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141014142746.htm

<コメント>
メラノーマは進行するにつれてリゾホスファチジン酸Lysophosphatidic acid; LPA)という分子を分解して、LPAが枯渇するとすぐに移動を始めてしまうという記事です。論文にはLPAの源としてメラノーマ自身が生成するとあり、メラノーマは自分が作ったLPAを自分でどんどん分解していることになります(In many tumours, including melanoma, expression of autotaxin and thus autocrine production of LPA has been associated with tumour progression [50] )。

研究ではLPAの受容体1-3への結合を競合的に阻害するKi16425という阻害剤等でその影響が確かめられていますが、LPAがカドヘリンのレベルを調節するという報告等もあり、それらの可能性は今回の実験では否定できないと論文にはあります(We do not exclude other mechanisms; it has for example been proposed that LPA regulates cadherin levels [49], which would not be visible in our assays.)

よく転移に関与すると言われるSDF-1は、今回メラノーマの化学走性(chemotaxis)には影響がありませんでした


2014年9月15日

2014-10-18 23:12:01 | 

統合失調症は単一の疾患ではなく、遺伝子的に異なる多種多様な障害である
Schizophrenia not a single disease but multiple genetically distinct disorders



ワシントン大学の新しい研究によれば、統合失調症は単一の疾患ではなく、8つの遺伝子的に異なった障害であり、それぞれが独自の症状の組み合わせを持つ。



統合失調症のリスクのおよそ80パーセントは遺伝であることが知られている。科学者はその特定の遺伝子を特定しようと奮闘してきた。

今回の研究では4,000人以上の統合失調症患者に対する遺伝子の影響を新しいアプローチで分析した。それにより統合失調症を8種類に分類し、その原因となる異なった遺伝子集団を特定した。

「遺伝子は単独では機能しない」、C.ロバートCloninger医学博士は言う。

「それはちょうどオーケストラのように協力して働く。それらの機能について理解するためには、その相互作用を知らなければならない。」



精神医学と遺伝学のウォレス・レナール教授であるCloningerと彼の同僚は、統合失調症患者とそうでない人々のDNAの変異を、それぞれの患者における症状とマッチング(matching; 組み合わせ、照合)させた。

彼らは統合失調症4,200人と健康なコントロール群3,800人のゲノム内に存在する約70万箇所の一塩基多型(SNP)を分析し、それぞれの遺伝子変異(variations)が互いにどのように相互作用して疾患を生じるかについての情報を得た。

例えば、研究者はいくつかの幻覚または妄想の症状に対して異なる遺伝子の特徴にマッチさせ、特定の遺伝子変異群は相互作用して統合失調症の95パーセントの確実性(certainty)を生じさせることを証明した。

別のグループでは、解体した言動(disorganized speech and behavior)は、あるDNA変異の組み合わせ(SNPクラスター)と特に関連していた。このDNA変異の組み合わせは統合失調症の100パーセントのリスクをもたらした。

※訳者註: ここでいう100パーセントとは、そのSNPクラスターを持つ人は100パーセント統合失調者患者であるという意味

それぞれの遺伝子は統合失調症との関連は弱いかまたは一貫しないにもかかわらず、相互作用する遺伝子集団のグループは、約70~100パーセントという非常に高くかつ一貫した疾患リスクを生じる。この遺伝子変異群を持つ人々は、疾患を避けるのはほとんど不可能である。



研究者は全部で42の遺伝子変異クラスターを特定した。このクラスターは統合失調症のリスクを劇的に上昇させる。

「これまで科学者は、それぞれの遺伝子と統合失調症との間に関連を探していた」、ワシントン大学の精神医学教授、ドラガンSvrakic博士は説明する。

「ある研究が関連を特定しても、誰もそれを再現することができなかった。我々は遺伝子が独立して作用しないという考えを見落としていた。遺伝子たちは協力して働き、脳の構造と機能を損なって疾患に帰着する。」



Svrakicによれば、研究チームが遺伝子の変異と患者の症状をそれぞれグループに構成すると、DNA変異の特定のクラスターが共に作用して特定のタイプの症状を引き起こすことが観察できたという。

次に彼らは、患者を症状のタイプと重症度によって分類した。例えば幻覚または妄想の異なるタイプ、またはイニシアティブの欠如、系統的な思考の問題、感情と考えの間のつながりの不足などである。

その結果、それらの症状プロファイルは「8つの質的に異なる障害」を説明するものであり、根底にある遺伝子の状態に基づいていることが明らかになった。

学術誌参照:
1.統合失調症の隠れたリスク構造の発見: 3つの独立したGWASでの確認。

アメリカン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140915083548.htm



<コメント>
統合失調症のリスクを上昇させる42のSNPクラスターを特定し、それらのクラスターを異なる症状タイプと関連付けることができたという記事です。

興味深かったので購入してとりあえず少しだけ読んでみました。42のSNPクラスターの中で最もリスクが高いのは「19_2」というSNPの組み合わせです。このSNPクラスターには9人の統合失調症患者が含まれますが、正常なコントロール群は0人でした。これがつまりリスク100パーセントということになります。42のクラスターは70パーセント以上ということなので、60パーセント台のSNPクラスターはまだ存在するということなのでしょう。

19_2に含まれる遺伝子は、アクチン結合タンパク質ARPC5L、ゴルジ装置関連タンパク質GOLGA1、リボソームタンパク質RPL35、細胞移動のRas経路を調節するSCAI、そしてWDR38でした。

19_2と関連付けられる症状の分類は「中度の進行、解体した陰性の統合失調症(Moderate process, disorganized negative schizophrenia)」。これが「8つの分類」の1つです。症状の表現型セットは51_38とされ、これは「ひどく解体しているか緊張病性の行動(Grossly disorganized or catatonic behavior)」と説明されています。

論文には19_2の実例が挙げられています。「彼にはまったく幻覚(hallucinations)がなかった」という表現があり、これがつまり51_38の特徴なのでしょう。


2014年10月14日

2014-10-16 22:26:55 | 

肝臓の免疫細胞は、脂肪肝疾患と肝臓癌を促進する
Immune cells in liver drive fatty liver disease, liver cancer




脂肪肝は大量のアルコール消費が原因だが、非アルコール性の脂肪肝(non-alcoholic fatty liver disease; NAFLD)は主に脂肪と糖の過剰な消費、そして運動不足と座りがちなライフスタイルによって引き起こされる。

NAFLDが慢性化すると慢性的な炎症反応も起きて、組織の明確な病理学変化を伴う非アルコール性の脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis; NASH)につながる可能性がある。

NAFLDとNASHは、慢性ウイルス感染とともに肝細胞癌(HCC)の最も一般的な原因である。HCCは癌の中でも成長が早く、そしてHCC患者のために効果的な根本治療は存在しない。



脂肪肝、脂肪性肝炎、HCCのような疾患を引き起こすメカニズムは依然として理解されていない。しかし、免疫細胞の特にCD8+T細胞とNKT細胞が重要な役割を演ずるようである。この発見は、ヘルムホルツ・ツェントラム・ミュンヘン・ドイツ環境健康研究センター(Helmholtz Zentrum München - German Research Center for Environmental Health)のMathias Heikenwälder教授たちが率いる科学者チームによってもたらされた。

科学者たちはマウスを使ってメタボリックシンドロームの長期間作用(long-term effects)を調査し、脂肪肝を引き起こす新しいメカニズムと、それがどのように肝臓癌の発症につながるかを解明した。



科学者たちは、代謝のアンバランスが免疫細胞の活性化とその肝臓への移動につながると考えている。

肝臓へ移動した免疫細胞は肝細胞と相互作用して炎症性応答を引き起こし、肝臓組織を損傷して、さらに肝細胞の代謝的な活動を不安定にする。

「初めに、免疫細胞は脂肪肝変性を促進する。特定の免疫細胞によって引き起こされる炎症は脂肪肝の病理の進行を促進し、NASHを発症させる。これらのプロセスは肝細胞変性の基礎であり、それはHCCを引き起こす可能性がある」、Heikenwalder教授は説明する。

「今回の結果は、これら重篤な肝疾患の発症に対するまったく新しい洞察を提供する。今回の知見を基にして、我々はこれらの疾患と戦うための新しくかつ予防的な治療戦略を開発したい。」

その最初の研究が、前臨床モデルにおいてすでに進行中である。

記事供給源:
上記の記事は、ヘルムホルツ・ツェントラム・ミュンヘン・ドイツ環境健康研究所によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.肝臓のCD8+T細胞とNKT細胞の代謝的活性化は、肝細胞とのクロストークにより、非アルコール性脂肪性肝炎と肝臓癌を引き起こす。

Cancer Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141014152536.htm

<コメント>
Abstractによると、高脂肪に加えてコリンCholine)が不足した食生活(CD-HFD)を続けていると、NKT細胞が分泌するLIGHT(TNFSF14)が脂肪肝を引き起こし、CD8T細胞とNKT細胞が肝細胞を傷害して炎症が起きるようになります。

LIGHTは肝細胞のLTβRのリガンドであり、LTβRとNF-κBシグナルはNASHから肝細胞癌への移行を促進します


Mallory body(MDB): マロリー小体。アルコール性肝炎で見られる好酸性の封入体で、成分は中間径フィラメント(ケラチン8とケラチン18)など。
肝細胞癌などでも観察される。

他にも、高脂肪食は腸内細菌の構成を変化させ、増加したClostridiumなどのグラム陽性菌が産生する2次胆汁酸(デオキシコール酸)が肝癌の発症を促進するという研究もあります。
http://first.lifesciencedb.jp/archives/7410


2014年10月13日

2014-10-15 05:20:30 | 生命

年老いた母親から生まれる子供のミトコンドリアには、高い割合で突然変異が見つかる
Greater rates of mitochondrial mutations discovered in children born to older mothers



ペンシルバニアの科学者による「母体年齢効果(maternal age effect)」の発見は、母親の卵細胞(egg cell)に存在するミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異の蓄積の予測に用いられる可能性がある。

mtDNAの突然変異は子供に伝達(transmission)されるため、彼らの研究は遺伝カウンセリングに有益な洞察を提供するかもしれない。mtDNAの突然変異により200以上の疾患が生じ、mtDNAは糖尿病や癌、パーキンソン病、アルツハイマー病のような疾患を引き起こす一因でもある。



細胞内でエネルギーを生み出すミトコンドリアは自分自身のDNAを持つが、今回の研究によれば母親自身のmtDNAはもちろん、年老いた母親から生まれる子供のmtDNAには高い確率で変異が見られる。

「多くのミトコンドリア疾患は、心臓、骨格筋、脳など多くのエネルギーを必要とする臓器に影響を及ぼす」、生物学教授のKateryna Makovaは言う。

「それらは悲惨な疾患であり、そして治療法が存在しない。ミトコンドリアの伝達に関する我々の発見はきわめて重要である。」



多くの専門家から構成される研究チームは、母親の年齢がmtDNAの突然変異の蓄積において重要かどうかについて研究し始めた。mtDNAの変異は、母親と、そして伝達の結果として子供に蓄積される。

mtDNAの配列決定により、年老いた母親の血液と頬の内側の細胞ではより多くの突然変異が見られた。研究に参加した母親の年齢の範囲は25歳から59歳だった。

「この発見には驚かなかった」、Makovaは言う。「我々は年をとり、細胞は分裂し続ける。したがって年を取るほど多くの突然変異が生じる。」

しかし、より年老いた母親から生まれた子供のmtDNAに突然変異の割合が高かったという発見には驚いたという。研究者は同様の突然変異プロセスが母親の体細胞(somatic cell)と生殖細胞系(germ line)の両方で生じると考えている。



今回の研究はさらに、卵細胞の発達に関する別の重要な発見につながった。

発育過程の卵細胞は「ボトルネック(bottleneck)」という期間を経験することが知られている。ボトルネックではミトコンドリアDNA分子の数が減少するが、科学者はこのボトルネックがどれぐらいの「大きさ」なのかを知らなかった。

「ボトルネックが大きい場合、母親のミトコンドリア遺伝子の構造は子供にも引き継がれるだろう」、Makovaは説明する。

「しかしそれが小さい場合、つまり、卵細胞の発達の間にミトコンドリアDNAが激しく減少するならば、その子供の遺伝子の構造は母親のそれとは劇的に異なるかもしれない。そして我々の発見によれば、このボトルネックは実際きわめて小さいのである。」



この発見は特にミトコンドリア疾患を有する母にとって重要である。多くのミトコンドリア疾患は、その兆候が表れるために70~80パーセントのmtDNAが病原性の変異を持つ必要がある。しかし他の疾患では、疾患を引き起こすために必要な変異mtDNAはわずか10パーセントである。

「我々が研究で発見したようにボトルネックがきわめて小さい場合、これらの割合は劇的に変化する可能性がある」、Makovaは言う。

「ボトルネックのサイズを知ることにより、疾患を運ぶmtDNAが子供に伝えられる割合の範囲を予測できるようになる。」

学術誌参照:
1.ヒトのミトコンドリアDNAの伝達における、母体年齢効果と、生殖細胞系の厳格なボトルネック。

PNAS、2014年10月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141013152816.htm

<コメント>
ミトコンドリアと母体年齢効果(maternal age effect)の関連についての記事です。

細胞のミトコンドリアに正常と変異体が混在している状態はヘテロプラスミー(heteroplasmy)と呼ばれ、卵細胞の形成過程における減数分裂での「ボトルネック効果」により、それぞれの卵細胞に配分される正常と異常の割合はかなり異なってくる可能性があります。




Eurekalertの方には具体的なグラフが載っていました。




以前にも母体年齢効果についての記事がありました。


http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/449218709b0b00549d23259d94a0d56d

>卵母細胞(oocyte; 未発達の卵子細胞)における染色体分離のエラーは、先天性異常と流産の主な原因である。女性が30代後半に届く頃には、染色体の数が間違った胎児を妊娠する確率は30パーセントを超える。

>この現象は母体年齢効果(maternal age effect)として知られているが、その原因となる分子的なメカニズムはほとんど理解されていない。


http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/3540ae5577d6176d0069165511a6c61a

>減数分裂の早い段階では姉妹染色体の間の動原体は機械的に融合し、その融合は染色体の分離が早すぎないように保ち、置き忘れられて終わらないようにする。

>融合した動原体は単一の動原体よりも多くの結合エレメントを含み、頑丈で断裂しにくい結合を形成する。

2014年10月8日

2014-10-13 22:14:42 | 免疫

皮膚が食物アレルギーのリスクに寄与する可能性
Skin exposure may contribute to early risk for food allergies



マウントサイナイによるマウスでの研究によれば、多くの子供はピーナッツを最初に食べる前にピーナッツアレルギーになる可能性があるという。

その原因の一つは、ピーナッツが皮膚に触れることかもしれない。



アレルギーの発症プロセスの初期において、食物アレルゲンへの皮膚の曝露は「感作(sensitization)」に寄与する。この場合の感作とは、皮膚がたびたびの曝露(exposure)によって抗原(例えばピーナッツ)に反応するようになることを意味する。

アレルギーが生涯にわたって続く傾向があることを考慮すると、ピーナッツアレルギーがどのようにして始まるかという問題は重要である。その反応のいくつかはとても激しく、有病率は集団の1~2パーセントと高い。

過去の研究では、母乳やハウスダストでピーナッツタンパク質に接触する時に初めて子供はアレルギーになる可能性があることが示された。しかし今回の研究により、その「罪人」のリストに「皮膚への曝露」が加わる。

マウントサイナイのアイカン医学部で小児科学の准教授であるセシリアBerin博士は次のように言う。

「マウスの皮膚で活性化される免疫経路を阻害すると、ピーナッツアレルギーの発症は阻止された。我々の次のステップはヒトでこれを確認することだろう。」

学術誌参照:
1.皮膚への曝露は、ピーナッツ・アレルゲンに対するTh2依存的な感作を促進する。

JCI、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141008203750.htm

<コメント>
少し前に「茶のしずく石鹸事件」があり、当時のアレルギー・免疫誌で経皮感作について特集していたのを思い出しました。

それによれば、「2008年にイギリスのLack Gは食物アレルギーに関する新しい概念を提唱した。経口摂取は免疫寛容を促進し、経皮的接触はアレルゲンの感作を惹起促進するという概念である。この二重抗原曝露仮説(Dual allergen exposure hypothesis)は、これまで消化管での感作が主体であると考えられてきた食物アレルギーの概念を一新した」とあります。


2014年10月11日

2014-10-13 11:36:27 | 腸内細菌

糞便移植用のカプセル剤は、経口投与でも侵襲性の方法と同程度に効果的である
Oral capsule as effective as invasive procedures for delivery of fecal transplant



クロストリジウム‐ディフィシレ(C. difficile)の持続的な感染に対して、今回発表された有望で非侵襲的な方法は、結腸スコープ(colonoscopy)や経鼻胃管(nasogastric tube)による治療と同程度効果的であるようだ。

マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究者は、アメリカ感染症学会(Infectious Diseases Society of America; IDSA)の学会週間(ID Week)カンファレンスでのプレゼンテーションと時期を同じくして、オンラインのJAMAで糞便の微生物叢移植(fecal microbiota transplant; FMT)について報告した。

彼らは耐酸性のカプセルを経口投与することによりC. difficileによって引き起こされる再発性の下痢の排除に成功し、それは侵襲性の方法と同程度に効果的であった。

「FMTは標準的な処置に反応を示さない活動的なC. difficile感染の治療と再発の阻止に効果的であることを、これまで多くの報告が示してきた」、MGHとボストン小児病院の小児科学感染症のフェローであるIlan Youngster医学博士(MD)医科学修士(MMS)は言う。

「以前使われた方法、つまり結腸スコープ、経鼻胃管、浣腸は、すべて患者に潜在的なリスクと不快感がある。カプセルの利用は手続きを非常に単純化して、多くの人がそれを使いやすくなる。」



今年早くに同じMGH研究チームは、冷凍した糞便を結腸スコープまたは経鼻胃管により腸に届けることは細菌叢の移植にとってどちらも等しく効果的だったことを示した。

冷凍された素材の使用は、ドナーから得られた冷凍サンプルを貯蔵して維持できる可能性を与える。そのサンプルはあらゆる健康問題に関して事前にスクリーニングされ、新しく感染症を伝染させるリスクや、患者ごとにドナーをリクルートしてスクリーニングする必要性を低下させる。



Youngsterは次のように付け加える。

「我々はこの治療をさらにアクセスしやすくなるように努力しているが、一般の人々に家族や友人からの糞便を用いた『自家製(home brew)』のFMTを試みる潜在的な危険性について知らせることは重要である。

多くの人々は細菌やウイルス、または寄生生物のキャリアである可能性がある。それらは便で排出されるが彼らには症状がない。いかなる形であれ、この方法は完全にスクリーニングしたドナーからの素材で、厳しい医学的な監督下でのみ実施されるべきである。」

記事供給源:
上記の記事は、マサチューセッツ総合病院によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.再発性のクロストリジウム‐ディフィシレ感染に対する、カプセル化された冷凍糞便による微生物叢の移植。

JAMA、2014年10月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141011172138.htm

<コメント>
糞便、つまりウンコの移植が、いよいよ現実的になってきたようです。


http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/67aa4cfb527efe206dba7f9f6469c697

>糞便の微生物移植(健常な提供者からクロストリジウム・ディフィシル腸内感染で苦しむ患者に便細菌を供給すること)は、好ましい細菌を回復して、レシピエントの腸に作用する。

>糞便の移植は1950年代からレシピエントの90パーセント以上を治療することに成功していたが、それらがどのように腸機能を回復するかは明らかではなかった。

>「この研究で肝心な点は、失われた細菌を供給するのではなく、複数の微生物の移植によって失った機能が実行されるということである」、アナーバーのミシガン大学のヴィンセントB.ヤング医学博士は言う。

2014年10月9日

2014-10-11 23:17:00 | 代謝

合成油脂を含む食事は、マウスの自閉症スペクトラム障害を改善する
Mouse version of an autism spectrum disorder improves when diet includes a synthetic oil



レット症候群というまれな自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder; ASD)の若いマウスモデルに合成油脂のトリヘプタノインを追加した食事を与えると、そのマウスは通常の食事のマウスよりも長生きした。

重要なことに、トリヘプタノインを追加した食事後は、身体的および行動に関する症状の重症度が低下した。

研究者はトリヘプタノインがミトコンドリアの機能を改善したと考えている。ミトコンドリアの障害は他のASDでも観察されるため、研究者はこの実験的結果がレット症候群だけでなく、より一般的なASD患者を助けることができる望みを与えると言う。



レット症候群はメチル-CpG-結合タンパク質2(MeCP2)をコードするMECP2遺伝子の突然変異によって引き起こされる珍しいASDである。

レット症候群で見られる徴候は他のASD患者でも観察されるが、このことは根底に存在する類似性を示唆する。

研究チームはMeCP2タンパク質を欠損するマウスを使用した。MeCP2の欠如はマウスに重度のレット症候群を引き起こす。

それらのマウスを調べる際にポストドクターMinユング・パーク博士の目を引いたのは、、健康なマウスと同じ重さだったにもかかわらず脂肪が大量に蓄積し、脂肪を含まない組織(例えば筋肉)は少なかったということである。

これに対してジョンズ・ホプキンス医科大学の研究プロジェクトのリーダーであるカブリエーレRonnett医学博士は、カロリーが正常な組織の機能を養うのに用いられず、代わりに脂肪として貯蔵されていると考えた。

この可能性はRonnettと彼女の研究チームにミトコンドリアの役割を考慮させた。ミトコンドリアは栄養分を高エネルギー分子であるATPに変換し、ATPは筋肉の構築と神経細胞の成長のようなプロセスを促進する。

ミトコンドリアはTCA回路と呼ばれる一連の生化学的な反応を使用してATPへの変換を可能にする。研究メンバーのスーザンAja博士助手によると、

「TCA回路の成分が減少するとTCA回路は停止して栄養分は適切に処理されず、ATPがつくられない。それらは代わりに脂肪として貯蔵される。」



Ronnettは、レット症候群の神経症状のいくつかは脳細胞の不完全なミトコンドリアとエネルギーの低下によって引き起こされる代謝性欠乏(metabolic deficiencies)から生じる可能性があると推測した。

「レット症候群は生まれて6ヶ月から18ヵ月で明らかになる。それは新しい神経結合が多く作られている期間であり、脳のエネルギー必要性が特に高い時期である」、Ronnettは言う。

「ミトコンドリアに障害があるかストレスに曝されている場合、そのような需要の増大を満たすことはできないだろう。」



以前の異なる代謝異常の人々における小規模な臨床試験は、トリヘプタノインによる食事介入が助けになる可能性を示唆した。

トリヘプタノインは無味無臭で、オリーブ油より少し薄い(thinner)。

それは容易に加工処理されて、TCA回路の成分の1つを生み出す。



実験ではレット症候群マウスは生後4週間目で離乳され、カロリーの30パーセントがトリヘプタノインになるように正常なペレット食に混ぜて与えられた。

結果、治癒からは遠いもののトリヘプタノイン処置の結果は印象的であったと研究者は言う。

処理されたマウスは、ミトコンドリアが健康になり、運動機能は改善され、他のマウスに対する社会的関心は増加した。そして、油を与えなかったマウスよりも4週間(30パーセント)長く生存した。

また、研究チームはトリヘプタノインを添加した食事が体脂肪・ブドウ糖・脂肪の代謝を正常化することを発見した。



「レット症候群モデルマウスのミトコンドリアは、穴が開いて破損したバケツであると考えることができる。そこからはTCA回路の成分が漏れてしまい、漏れた成分は脂肪になる」、Ajaは言う。

「我々はどのようにバケツの穴をふさぐかについて理解していなかった。しかし、今の我々はバケツをいっぱいのままにしておくことができる。トリヘプタノインを与えてTCA回路を補充(replenish)することによって。」

「このオイルがASDのヒトで機能すると仮定するには早過ぎるが、これらの結果は我々に望みを与える」、Ronnettは言う。

現在トリヘプタノインは研究目的のためにだけ使われ、ヒトの薬剤または栄養補助食品として利用することはできない。

記事供給源:
上記の記事は、ジョンズ・ホプキンス・メディシンによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.MeCP2ヌル・マウスにおける補充的トリヘプタノイン食は、ミトコンドリアの基質利用を促進してメタボロームを改善し、寿命と運動機能、社交性を改善する。

PLoS ONE、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141009141452.htm

<コメント>
レット症候群という自閉傾向を伴う発達障害のモデルマウスではミトコンドリアのTCA回路が上手く回っておらず、トリヘプタノインを与えることにより様々な徴候が改善したという記事です。

以前トリヘプタノインがGlut1欠損による癲癇(てんかん)を改善するという記事がありました。

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/26dc841dbc7d25c72156dffba447ac93

>G1Dで唯一証明された治療は高脂肪のケトン誘発食だけであり、しかもそれは患者のおよそ3分の2にしか効果がない。加えてケトン食は腎結石と代謝性異常のような長期リスクがある。

>本研究の結果によれば、トリヘプタノインはケトン誘発食と同程度に効果的なように見える;