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興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

2015年5月19日

2015-05-24 11:28:34 | 代謝

β細胞の生と死
The life and death of beta cells



糖尿病は現代社会の悩みの1つである。患者数は毎年増加し、世界ですでに3億8000万人を越える患者がいる。International Diabetes Foundationによれば2030年までに5億人以上が2型糖尿病にかかると推定されている。現在スイスでは43万人以上が糖尿病に罹患し、そのうちの4万人が1型糖尿病である。

1型と2型糖尿病に共通するのは膵臓でインスリンを作っているβ細胞が次々に死んでいくことである。それにより細胞が血液からブドウ糖を取り込んで燃料として代謝する際に重要なシグナルが阻害される。



 マイクロRNAは細胞死の引き金を引く

何がβ細胞の死を引き起こすのか、その原因はこれまで正確にはわかっていなかった。今回、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)Institute of Molecular Health Sciencesの教授であるMarkus Stoffelを中心とする研究者グループは、インスリン産生細胞がなぜ機能しなくなるのかを左右する新しいメカニズムを発見した。それはマイクロRNA(miR)200という短いリボ核酸の過剰な産生によって引き起こされる。

糖尿病のマウスのβ細胞ではmiR-200の産生が非常に増加し、この特定のマイクロRNAが過剰になる。研究者は糖尿病のマウスモデルを使い、強制的にmiR-200を作らせることで急激にβ細胞が死ぬことを証明した。反対に、miR-200を阻害することで極度のストレス下でさえβ細胞は生き残った。β細胞のストレスとは例えばマウスの血液中の脂質濃度の異常であり、もう一つはインスリンが作られる場所である小胞体へのストレスである。

「これらの観察は非常に意味深く、そして興味深い」、Stoffelは言う。

彼らの実験は、miR-200がβ細胞の生存において重要な役割を演じることを示す。miR-200がβ細胞にプログラム細胞死(アポトーシス)をもたらすことができるのは明らかである。



 β細胞が燃え尽きる

β細胞は糖尿病の発症において重要である。糖尿病の前兆の1つはインスリン抵抗性である。例えば太りすぎた人たちの筋肉は、β細胞が作るインスリンにあまり反応しないか、またはまったく反応しない。β細胞はインスリン産生を増加させるために分裂して増殖するが、やがて働き過ぎたβ細胞は疲弊して次々に死んでいく。インスリンは不足し、結果として糖尿病になる。

「妊婦でもある程度までは同じことは起きるが、このβ細胞の分裂プロセスと増加したインスリン分泌は可逆性であり、妊娠後は元に戻る」、Stoffelは言う。

しかし、このプロセスは太った人々では可逆性ではなく、しかも彼らは血中脂質濃度にも問題がある。脂質の異常はさらなるストレスをβ細胞に与える。



 マイクロRNAの三つ組

Stoffelの研究グループは、最近いくつかのマイクロRNAを特定した。それらはβ細胞の生存と機能に関連があり、したがって糖尿病にも影響するものだった。

「いくつかのマイクロRNAがβ細胞に作用するようだ。それらはそれぞれ異なるストレス対策タスクを実行する」、彼は言う。

彼らが発見したmiRファミリーの1つは、より多くのインスリンが必要とされる状況への反応としてβ細胞が分裂するために重要である。このマイクロRNAが存在しない場合、β細胞はほとんど分裂しないだろう。別のマイクロRNAファミリーは、どれくらいのインスリンが作られて発現するかを制御する。

「我々は今回、第3のファミリーであるmiR-200はβ細胞の生と死を左右することを確かめた」、Stoffelは要約する。

これらの短いRNA配列は、大きな治療の可能性を示す。それらの活性は、配列と完全に相補的であるように対応するRNA鎖によって阻害できる。Stoffelはそれをantagomir(拮抗マイクロRNA)と呼ぶ。

antagomirは現在、C型肝炎の治療法として第二相の臨床試験が実施中である。miR-122のantagomirはC型肝炎ウイルスの複製を停止させる。antagomirが糖尿病に関係する有害なマイクロRNAを扱えるのか。できるとすれば、どのようにして使えばいいのか。それを確かめるためにさらなる研究が必要である。

学術誌参照:
1.マイクロRNA-200ファミリーは、2型糖尿病で膵β細胞生存を調節する。
The microRNA-200 family regulates pancreatic beta cell survival in type 2 diabetes.

Nature Medicine、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150519122108.htm



<コメント>
脂質異常や小胞体ストレスによって、どのようにβ細胞が死ぬのかの一端が明らかになったという記事です。

今回の記事に出てくるマイクロRNAのmiR-200ファミリーには、miR-200a、miR-200b、miR-200c、miR-141、miR-429が含まれます。miR-200ファミリーは癌の悪性化を抑制することで知られていますが、糖尿病にとってはあまりありがたくない存在のようです。

AbstractReference33を見ると、ERストレスの間に誘導されるP58IPK/DNAJC3はERストレスのネガティブフィードバック要素として機能し、そのP58IPK/DNAJC3をmiR-200が抑制してしまうことでERストレスが抑制されにくくなるとあります。

β細胞はERストレスに弱いとされています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/144/2/144_53/_article/-char/ja/
>β細胞は小胞体ストレスに対して脆弱であり,閾値を越えた小胞体ストレスを受けると積極的にアポトーシスを誘導する.

ERストレスがTXNIPを介してアポトーシスを誘導するというCell Metabolismでの報告もありました。

http://www.cell.com/cell-metabolism/abstract/S1550-4131(12)00284-7
>ERストレス→IRE1α→TXNIPを不安定化させるmiR-17↓→TXNIP↑→NLRP3↑→IL-1β↑→アポトーシス↑

あと、記事中のβ細胞の機能等に関与する別のマイクロRNAというのは、おそらくこの2つのことでしょう。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24789908
MicroRNA-7a regulates pancreatic β cell function.
 miR-7a─┤インスリン顆粒の膜との融合→インスリン分泌

※太っていて軽度の糖尿病だがβ細胞機能が補償されている人(obese and moderately diabetic individuals with compensated β cell function)ではmiR-7aは減少している
(miR-7aはブレーキだがインスリンが必要なのでブレーキが解除されている?)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19289822
miR-375 maintains normal pancreatic alpha- and beta-cell mass.
 miR-375→β細胞の成長と増殖

他にも色々あります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21654750
MicroRNAs 103 and 107 regulate insulin sensitivity.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23389544
Obesity-induced overexpression of miR-802 impairs glucose metabolism through silencing of Hnf1b.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16258535
Silencing of microRNAs in vivo with 'antagomirs'.
 antagomir-122─┤miR-122

2015年5月7日

2015-05-10 16:45:40 | 

研究者はタンパク質の故障を乳癌と白血病につなげる
Researchers connect haywire protein to breast cancer, leukemia



スクリップス研究所(TSRI)の科学者たちによる新しい研究は、乳癌や白血病などのいくつかの癌の原因を解明する。Current Biology誌の2015年5月7日号で発表された彼らの研究によれば、必要以上に多いサイクリンEというタンパク質はDNAの複製を遅らせ、細胞が分裂するときに癌と関連する有害な突然変異を導入する可能性がある。

「サイクリンEの過剰発現は、癌へとつながる道の一つである」、研究の首席著者でTSRI教授のSteven Reedは言う。



細胞が2つの娘細胞に分裂する時には、まずDNAを複製しなければならない。そして細胞が分裂するごとに、DNAの複製はエラーを起こすリスクを伴う。例えば、余分な複製が生じたり、削除されたり、乱れたりする可能性である。

正常な細胞では、サイクリンEはDNA複製プロセスを開始する酵素のCdk2に結合して活性化させる。細胞が適切に分裂するためには、サイクリンEがちょうど正しい量であることが必要である。不幸なことに、遺伝子の突然変異の中には細胞のサイクリンEの産生を過剰にするものがある。

ReedたちはサイクリンEを最初に発見した研究室である。彼らの先行研究は、異常な高レベルのサイクリンEが染色体不安定性と関係し、細胞が分裂するにつれて染色体の突然変異が増加する可能性が上がることを示した。サイクリンEは癌細胞でしばしば過剰発現し、その過剰発現は乳癌患者の生存率の低下と関連する。今回の新しい研究は、サイクリンEがどのようにして染色体の不安定性とDNAのエラーをもたらすのかについて明らかにする。



 DNAの『綱引き』

研究者は、乳癌の癌細胞で観察されるのと同レベルのサイクリンEを乳腺の上皮細胞で強制的に過剰発現させ、通常のヒト乳腺の上皮細胞と比較することでサイクリンEの役割を調査した。TSRIの助教Leonardo Teixeiraを中心とした実験では、サイクリンEの調節を失った細胞ではDNAの複製に非常に長い時間かかることが判明した。実際、DNAが複製し終わる前でさえ、細胞分裂は次の段階に進むように思われた。興味深いことに、染色体の中で16箇所の極めて特異的な領域は頻繁に複製を失敗した。

研究者は続いて、サイクリンEの調節を失った細胞の中で、細胞分裂プロセス後期の、別々の娘細胞に引き離され始めるときのエラーに関してふるいにかけた。染色体を蛍光性タンパク質で視覚化すると、サイクリンE調節を失った娘細胞の染色体は、複製が終わらなかった箇所で一緒にくっつき合っていた。

「綱引きが続き、片方の染色体がひきちぎられるか、両方の染色体が1つの側へ行くのを観察できる」、Reedは言う。

DNAの異常な「橋」が娘細胞を結びつけ、染色体のかなりの量が引き裂かれて近くで浮いている様子が実験で観察された。これらの異常分裂が生じたあと、サイクリンEの調節を失った細胞の3分の1はDNAの欠失を示した。欠失が起きた領域は、細胞が分裂する前に複製が終わらない傾向があると特定されていた箇所だった。



 癌とのつながり

研究者は次に、サイクリンEの調節を失った細胞のDNA欠失による遺伝子の不安定性がどのようにして癌の原因となりうるのかについて調査した。興味深いことに、DNA欠失箇所の多くは、DNAが脆弱であるか複製が困難であることがすでに知られていた領域だった。

腫瘍DNA配列のデータベースを使った分析では、サイクリンEの過剰発現と直接関連づけることができる乳癌腫瘍において、彼らが研究で特定した16のDNA領域のうちの6つが損傷を示した。

サイクリンE調節を失った細胞で一般的に損傷を受ける領域の1つは、骨髄リンパ混合系統白血病(MLL)と呼ばれる白血病の一種で広く再編成される領域とも一致した。MLLもサイクリンEが一因であることがすでに示されている。



本研究によってもたらされた未解決の問題の1つは、すべての染色体が完全に複製される前にどうやって細胞分裂ができるようになるのかについてである。そのような事故が起きないように「チェックポイント」が存在するとこれまで考えられていた。

Reedは、これらの複製に失敗する領域が十分に小さいために、細胞の「チェックポイント」を迂回して分裂し続け、有害になりうる突然変異を蓄積すると考えている。

学術誌参照:
1.サイクリンEの調節不全は、特異的なゲノム領域の喪失を促進する。

Current Biology、2015年5月

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150507122701.htm

<コメント>
細胞分裂の周期を調節するサイクリンEが過剰になるとDNAの複製を遅らせ、複製が終わらないまま細胞分裂が進んで染色体が引きちぎられてしまうという記事です。

Abstractを見ると、複製が終わらない領域は、いわゆる脆弱部(fragile site)や、骨髄リンパ混合系統白血病の切断点クラスター領域(mixed-lineage leukemia breakpoint cluster region; MLL BCR)のような領域に位置していたとあります。

サイクリンEと乳癌の生存率は以前から報告されているようです。

http://www.nejm.jp/abstract/vol347.p1566
病期 I 期の乳癌患者 114 例のうち,腫瘍中のサイクリン E が低濃度の患者 102 例では,診断 5 年後までに乳癌で死亡した例はなかったが,低分子サイクリン E が高濃度の患者 12 例は全例が同期間内に乳癌で死亡していた.

2015年4月29日

2015-05-06 00:38:22 | 

癌の増殖に関係する遺伝子の新たな機能の発見は、新しい治療の可能性を開く
Uncovering new functions of a gene implicated in cancer growth opens new therapeutic possibilities



胚の発生と腫瘍が増殖する間の血管形成(blood vessel formation)と関連付けられていた遺伝子は、腫瘍が進行する間の免疫も抑制することが明らかにされた。4月29日にNature Communicationsで発表されたワイルコーネル医科大学の研究者らによる今回の発見は、メラノーマや他の後期ステージ癌の新しい治療へのアプローチとワクチン開発への道を開く。

研究者たちは20年前、通常は胚でのみ発現するInhibitor of Differentiation 1(Id1)という遺伝子は癌患者にも存在し、腫瘍の進行に寄与することを発見した。今回の研究はId1の別の作用を明らかにする。Id1は免疫細胞の発生中の通常の経路を乗っ取り、骨髄から始まる免疫システム全体に干渉する。免疫細胞による免疫応答がなければ人体は腫瘍を撃退することができず、代わりに癌は増殖して転移することができるようになる。

「Id1を標的にすることで全体的な免疫機能を回復できる可能性がある」、首席著者のDavid Lyden博士は言う。彼はワイルコーネル医科大学の小児心臓病学のStavros S. Niarchos教授であり、小児学部の教授である。

「免疫システムが作用していれば、治療の選択肢は広がる。進行転移癌の罹患率とそれによる死亡率の増加を考慮すると、免疫を抑制して転移を促進するメカニズムがどのように働くのかについての理解は急務である。」



今回、研究者たちは腫瘍が分泌するトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)がId1の活性化を促進することを発見した。活性化したId1は連鎖反応を開始し、免疫細胞を新しい経路へと方向転換させて、成熟した抗原提示細胞ではなく未成熟な免疫抑制細胞を大量生産する。免疫システムが効果的な防御を開始するための能力は無効化され、癌細胞は免疫に邪魔されることなく増殖して転移できるようになる。

「骨髄は通常、腫瘍の浸潤と増殖を止めることができる樹状細胞という免疫細胞を生じる」、筆頭著者のMarianna Papaspyridonos博士は言う。

「しかし、腫瘍によってTGF-βが分泌されてId1が上方調節されると樹状細胞の正常な発生は妨げられ、代わりに免疫システムを抑制する免疫細胞が生まれる。」

その免疫細胞は骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell)と呼ばれ、癌をたやすく増殖して転移できるようにする。研究者は進行メラノーマ患者でこの発見を実証した。患者の血漿ではTGF-βレベルが増加し、骨髄由来の末梢血球ではId1のレベルが高かった。



Id1を標的にすることで、3方向からの(three-pronged)治療アプローチが提供される。
まず最初に、腫瘍それ自体の転移する可能性を低下させる。次に、腫瘍が新しい血管を形成する能力(血管形成)を低下させる。最後に、患者の全身の免疫機能を回復する。

「このアプローチにより、免疫細胞は腫瘍を異物であると認識して攻撃する」、Lyden博士は言う。彼はワイルコーネル医科大学でSandra and Edward MeyerがんセンターとGale and Ira Drukier児童健康研究所にも任命されている。

「ワクチン開発は改善され、より良い治療の転帰と、そして最終的には癌患者への利益につながるだろう。」

学術誌参照:
1.Id1は、骨髄性細胞成熟を損なうことにより、抗腫瘍免疫応答を抑制し、腫瘍進行を促進する。

Nature Communications、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/04/150429145458.htm

<コメント>
腫瘍はTGF-βを分泌して免疫を抑制し、増殖と転移を促進するという記事です。

Abstractを見ると、TGF-β/Id1の過剰発現により生じる骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)により、脾臓での制御性T細胞(Treg)は増加していました。Id1を誘導するのはTGF-βだけでなく、IL-6とBMP-7もでした。