Drug sensitivity restored in breast cancer tumors
Findings confirmed in patient biopsies and laboratory models
August 11, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160811142627.htm
ケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)医学部の研究チームは、HER2陽性の腫瘍が薬剤に抵抗する方法の一つを明らかにしてOncotarget誌で発表した
今回の研究では、HER2陽性の乳癌で主力go-toの抗癌剤であるトラスツズマブtrastuzumab(ハーセプチンとしても知られる)の治療前と治療後の腫瘍の生検を調査した
トラスツズマブで治療可能な乳癌とそうではない乳癌があるが、研究者はトラスツズマブに応答した腫瘍で活性化した遺伝子を応答しなかった腫瘍の遺伝子と比較することにより、いくつかの遺伝子が腫瘍の薬剤抵抗性を助けることを明らかにした
研究者がそれらの遺伝子の一つであるS100Pを阻害したところ、トラスツズマブに抵抗性だった腫瘍は再び感受性を回復した
今回の研究では、遺伝物質genetic materialの小さな部品であるmRNAと、非コードRNA/noncoding RNAの一種である『長鎖遺伝子間ノンコーディングRNA/ long intergenic noncoding RNA(lincRNA)』に焦点を当てた
これらの小さな断片は正常な細胞でもDNAから作られているが、腫瘍では調節が破綻dysregulatedしている
※ncRNA: noncoding RNA(ノンコーディングRNA)
※lncRNA: long noncoding RNA(長鎖ノンコーディングRNA)
※lincRNA: long intergenic noncoding RNA(長鎖遺伝子間ノンコーディングRNA)
研究チームはまず最初にトラスツズマブに応答した腫瘍と応答しなかった腫瘍の細胞の間で異なっているRNAを分析し、1542のmRNAと371のlincRNAを突き止めた
これらの違いから、それぞれの腫瘍ではお互いに関連がない独自の細胞シグナルネットワークが活性化していると研究者は推測した
彼らはラボで培養した細胞を使い、RNAのリストを絞りこんでいった
彼らが関心を持っていたのは、トラスツズマブへの抵抗性と関連するシグナルを治療的に操作して乱すことが可能なRNA分子を発見することだった
研究を主導したAhmad Khalil, PhDは、ケース・ウェスタンで遺伝学部の助教授Assistant Professorである
彼の説明によると、
「我々の仮説は、トラスツズマブに応答した患者の腫瘍とそうでなかった腫瘍との間にはmRNAとlincRNAの両方に遺伝子発現の違いが存在するというものだった」
乳癌早期の腫瘍細胞の25から30パーセントの表面にはHER2というタンパク質が見られ、トラスツズマブはそのHER2に接着して固定することにより働く
トラスツズマブはHER2が活性化することを妨害し、HER2が遺伝子をコントロールできないようにする
研究チームはHER2を表面に持つ腫瘍細胞を培養し、腫瘍の生検での発見を立証validateしようとした
この細胞をトラスツズマブに長期間さらしてexposure癌の治療計画を再現したところ、乳癌細胞の中には患者の生検とちょうど同じようにトラスツズマブに抵抗する細胞が現れた
彼らはラボで培養したHER2癌細胞でトラスツズマブ抵抗性とトラスツズマブ感受性の癌細胞の間で異なるmRNAとlincRNAを突き止め、腫瘍の生検とラボの培養でそれぞれ判明したRNAから重複するものを探したところ、18のmRNAと7つのlincRNAを同定した
それらは生検と培養の両方で、トラスツズマブへの抵抗性と関連があった
研究チームはさらに、この抵抗性の中心となる一つの遺伝子、S100Pに焦点を絞った
S100Pという遺伝子はトラスツズマブに抵抗する乳癌細胞で高度に活性化している
他の研究でS100Pは前立腺癌と膵臓癌に関連付けられている
S100Pは腫瘍の成長をサポートする遺伝子ファミリーに属し、癌細胞の内部では複数の区画に存在することがわかっている
「S100Pは、著しい発現の違いを示す鍵となる遺伝子の一つである」
Khalilは言う
「大規模なデータセットのコンピュータによる複数の独立した分析から現れてきた経路の一部であるという理由からも、この遺伝子は突出している」
研究者はS100Pを阻害する遺伝物質の小片をデザインし、このS100Pの阻害剤によりトラスツズマブに抵抗性だった培養細胞は感受性を回復した
さらなる分析からS100Pは乳癌細胞内の重要なタンパク質を活性化することが示され、トラスツズマブがHER2を阻害した時にスイッチが切られるタンパク質の機能を補うcompensateことが判明した
この活性化されたタンパク質は、薬剤に応答した腫瘍細胞がその環境内で遺伝子発現を適応させるのを助ける可能性があるという
「我々のデータは、癌細胞がトラスツズマブに抵抗するためにはS100Pの高い発現レベルが必要だということを実証する」とKhalilは結論付ける
このエキサイティングな発見は、S100Pを枯渇させることがトラスツズマブへの感受性を回復する方法の一つになるかもしれないことを示す
次のステップでは抵抗性メカニズムをさらに調査し、ヒトの腫瘍でS100Pを阻害するために利用可能な薬剤をスクリーニングすることになるだろう
また、彼らはトラスツズマブへの抵抗性を調節する他のmRNAとlincRNAの役割をさらに調査する予定である
早期ステージ乳癌患者の約3分の1は、トラスツズマブの治療が最初は有効でもしばらく後に再発する
再発した患者の腫瘍はトラスツズマブに抵抗性であり、その後の治療オプションが限られることになる
トラスツズマブ抵抗性の背後にあるメカニズムは、これまで突き止めるのが容易ではなかった
いくつかの研究ではトラスツズマブ抵抗性のメカニズムが細胞培養モデルを使って提案されているが、今回の研究ではラボの細胞培養と患者で増殖する腫瘍の両方に存在するメカニズムを初めて発見した
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27449296
http://dx.doi.org/10.18632/oncotarget.10637
Transcriptome-wide identification of mRNAs and lincRNAs associated with trastuzumab-resistance in HER2-positive breast cancer.
機構的に見ると、S100PはRAS/MEK/MAPK経路を活性化し、トラスツズマブによるHER2阻害を相殺するように補正する
我々はS100Pの上方調節がエンハンサーレベルでのエピゲノムの変化epigenomic changesによって促進されるようだということを実証する
関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=S100P
Entrez Gene Summary for S100P Gene
この遺伝子によってコードされるタンパク質はS100ファミリーのメンバーであり、カルシウム結合モチーフのEFハンドを2つ持つ
S100タンパク質は細胞質と核のどちらかまたは両方に局在し、細胞周期の進行や分化など様々なプロセスの調節に関与する
他のS100遺伝子は染色体1q21に13存在するが、S100Pは4p16に存在する
S100PはカルシウムイオンCa2+に加えて亜鉛イオンZn2+やマグネシウムイオンMg2+にも結合する
UniProtKB/Swiss-Prot for S100P Gene
S100P_HUMAN,P25815
カルシウムセンサーとして働き、カルシウムシグナル伝達に寄与する
カルシウム依存的な方法で他のタンパク質(EZRやPPP5Cなど)と相互作用し、上皮細胞の微絨毛microvilliの形成のような生理学的な役割を間接的に演じる
細胞周期を刺激する可能性があり、それはオートクリン的にRAGE受容体を活性化することによって仲介される
関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519100604.htm
トリプルネガティブ乳癌のネオアジュバント(術前)化学療法への応答は、メチル化によって制御されるJタンパク質/methylation-controlled J protein(MCJ)タンパク質の発現と相関する
関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/29756e384e0389f3f8ba464f7c046de5
HER2乳癌の抵抗性を回避する新たなタンパク質化合物DARPins
関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160623122948.htm
CBX8はエピジェネティックにNotch経路を上方調節し、腫瘍形成を促進する
Notchは予後の悪さと関連し、その上方調節は特にトリプルネガティブ乳癌で薬剤抵抗性をもたらす
うまいことに、CBX8はERやHER2のようなサブタイプと関係がない
http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.06.002
http://www.cell.com/cell-reports/abstract/S2211-1247(16)30721-5
古典的にはCbx8はH3K27トリメチルを認識するPRC1の一部とされるが、今回我々はH3K4トリメチルを認識する非古典的な複合体Cbx8-Wdr5を発見した
Cbx8-Wdr5複合体はH3K4me3レベルを維持することでNotch経路を促進する
<コメント>
エピジェネシスepigenesis
エピジェネティクスepigenetics
エピジェネティックな変化epigenetic changes
エピゲノムepigenome
エピゲノミクスepigenomics
エピゲノムの変化(?)epigenomic changes
日本語
「エピジェネシスの変化」4件
「エピジェネティックな変化」180件
「エピゲノムの変化」123件
「エピゲノミックな変化」10件
英語
"epigenetic changes" 537000件
"epigenomic changes" 13600件
Findings confirmed in patient biopsies and laboratory models
August 11, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160811142627.htm
ケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)医学部の研究チームは、HER2陽性の腫瘍が薬剤に抵抗する方法の一つを明らかにしてOncotarget誌で発表した
今回の研究では、HER2陽性の乳癌で主力go-toの抗癌剤であるトラスツズマブtrastuzumab(ハーセプチンとしても知られる)の治療前と治療後の腫瘍の生検を調査した
トラスツズマブで治療可能な乳癌とそうではない乳癌があるが、研究者はトラスツズマブに応答した腫瘍で活性化した遺伝子を応答しなかった腫瘍の遺伝子と比較することにより、いくつかの遺伝子が腫瘍の薬剤抵抗性を助けることを明らかにした
研究者がそれらの遺伝子の一つであるS100Pを阻害したところ、トラスツズマブに抵抗性だった腫瘍は再び感受性を回復した
今回の研究では、遺伝物質genetic materialの小さな部品であるmRNAと、非コードRNA/noncoding RNAの一種である『長鎖遺伝子間ノンコーディングRNA/ long intergenic noncoding RNA(lincRNA)』に焦点を当てた
これらの小さな断片は正常な細胞でもDNAから作られているが、腫瘍では調節が破綻dysregulatedしている
※ncRNA: noncoding RNA(ノンコーディングRNA)
※lncRNA: long noncoding RNA(長鎖ノンコーディングRNA)
※lincRNA: long intergenic noncoding RNA(長鎖遺伝子間ノンコーディングRNA)
研究チームはまず最初にトラスツズマブに応答した腫瘍と応答しなかった腫瘍の細胞の間で異なっているRNAを分析し、1542のmRNAと371のlincRNAを突き止めた
これらの違いから、それぞれの腫瘍ではお互いに関連がない独自の細胞シグナルネットワークが活性化していると研究者は推測した
彼らはラボで培養した細胞を使い、RNAのリストを絞りこんでいった
彼らが関心を持っていたのは、トラスツズマブへの抵抗性と関連するシグナルを治療的に操作して乱すことが可能なRNA分子を発見することだった
研究を主導したAhmad Khalil, PhDは、ケース・ウェスタンで遺伝学部の助教授Assistant Professorである
彼の説明によると、
「我々の仮説は、トラスツズマブに応答した患者の腫瘍とそうでなかった腫瘍との間にはmRNAとlincRNAの両方に遺伝子発現の違いが存在するというものだった」
乳癌早期の腫瘍細胞の25から30パーセントの表面にはHER2というタンパク質が見られ、トラスツズマブはそのHER2に接着して固定することにより働く
トラスツズマブはHER2が活性化することを妨害し、HER2が遺伝子をコントロールできないようにする
研究チームはHER2を表面に持つ腫瘍細胞を培養し、腫瘍の生検での発見を立証validateしようとした
この細胞をトラスツズマブに長期間さらしてexposure癌の治療計画を再現したところ、乳癌細胞の中には患者の生検とちょうど同じようにトラスツズマブに抵抗する細胞が現れた
彼らはラボで培養したHER2癌細胞でトラスツズマブ抵抗性とトラスツズマブ感受性の癌細胞の間で異なるmRNAとlincRNAを突き止め、腫瘍の生検とラボの培養でそれぞれ判明したRNAから重複するものを探したところ、18のmRNAと7つのlincRNAを同定した
それらは生検と培養の両方で、トラスツズマブへの抵抗性と関連があった
研究チームはさらに、この抵抗性の中心となる一つの遺伝子、S100Pに焦点を絞った
S100Pという遺伝子はトラスツズマブに抵抗する乳癌細胞で高度に活性化している
他の研究でS100Pは前立腺癌と膵臓癌に関連付けられている
S100Pは腫瘍の成長をサポートする遺伝子ファミリーに属し、癌細胞の内部では複数の区画に存在することがわかっている
「S100Pは、著しい発現の違いを示す鍵となる遺伝子の一つである」
Khalilは言う
「大規模なデータセットのコンピュータによる複数の独立した分析から現れてきた経路の一部であるという理由からも、この遺伝子は突出している」
研究者はS100Pを阻害する遺伝物質の小片をデザインし、このS100Pの阻害剤によりトラスツズマブに抵抗性だった培養細胞は感受性を回復した
さらなる分析からS100Pは乳癌細胞内の重要なタンパク質を活性化することが示され、トラスツズマブがHER2を阻害した時にスイッチが切られるタンパク質の機能を補うcompensateことが判明した
この活性化されたタンパク質は、薬剤に応答した腫瘍細胞がその環境内で遺伝子発現を適応させるのを助ける可能性があるという
「我々のデータは、癌細胞がトラスツズマブに抵抗するためにはS100Pの高い発現レベルが必要だということを実証する」とKhalilは結論付ける
このエキサイティングな発見は、S100Pを枯渇させることがトラスツズマブへの感受性を回復する方法の一つになるかもしれないことを示す
次のステップでは抵抗性メカニズムをさらに調査し、ヒトの腫瘍でS100Pを阻害するために利用可能な薬剤をスクリーニングすることになるだろう
また、彼らはトラスツズマブへの抵抗性を調節する他のmRNAとlincRNAの役割をさらに調査する予定である
早期ステージ乳癌患者の約3分の1は、トラスツズマブの治療が最初は有効でもしばらく後に再発する
再発した患者の腫瘍はトラスツズマブに抵抗性であり、その後の治療オプションが限られることになる
トラスツズマブ抵抗性の背後にあるメカニズムは、これまで突き止めるのが容易ではなかった
いくつかの研究ではトラスツズマブ抵抗性のメカニズムが細胞培養モデルを使って提案されているが、今回の研究ではラボの細胞培養と患者で増殖する腫瘍の両方に存在するメカニズムを初めて発見した
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27449296
http://dx.doi.org/10.18632/oncotarget.10637
Transcriptome-wide identification of mRNAs and lincRNAs associated with trastuzumab-resistance in HER2-positive breast cancer.
機構的に見ると、S100PはRAS/MEK/MAPK経路を活性化し、トラスツズマブによるHER2阻害を相殺するように補正する
我々はS100Pの上方調節がエンハンサーレベルでのエピゲノムの変化epigenomic changesによって促進されるようだということを実証する
関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=S100P
Entrez Gene Summary for S100P Gene
この遺伝子によってコードされるタンパク質はS100ファミリーのメンバーであり、カルシウム結合モチーフのEFハンドを2つ持つ
S100タンパク質は細胞質と核のどちらかまたは両方に局在し、細胞周期の進行や分化など様々なプロセスの調節に関与する
他のS100遺伝子は染色体1q21に13存在するが、S100Pは4p16に存在する
S100PはカルシウムイオンCa2+に加えて亜鉛イオンZn2+やマグネシウムイオンMg2+にも結合する
UniProtKB/Swiss-Prot for S100P Gene
S100P_HUMAN,P25815
カルシウムセンサーとして働き、カルシウムシグナル伝達に寄与する
カルシウム依存的な方法で他のタンパク質(EZRやPPP5Cなど)と相互作用し、上皮細胞の微絨毛microvilliの形成のような生理学的な役割を間接的に演じる
細胞周期を刺激する可能性があり、それはオートクリン的にRAGE受容体を活性化することによって仲介される
関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160519100604.htm
トリプルネガティブ乳癌のネオアジュバント(術前)化学療法への応答は、メチル化によって制御されるJタンパク質/methylation-controlled J protein(MCJ)タンパク質の発現と相関する
関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/29756e384e0389f3f8ba464f7c046de5
HER2乳癌の抵抗性を回避する新たなタンパク質化合物DARPins
関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160623122948.htm
CBX8はエピジェネティックにNotch経路を上方調節し、腫瘍形成を促進する
Notchは予後の悪さと関連し、その上方調節は特にトリプルネガティブ乳癌で薬剤抵抗性をもたらす
うまいことに、CBX8はERやHER2のようなサブタイプと関係がない
http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.06.002
http://www.cell.com/cell-reports/abstract/S2211-1247(16)30721-5
古典的にはCbx8はH3K27トリメチルを認識するPRC1の一部とされるが、今回我々はH3K4トリメチルを認識する非古典的な複合体Cbx8-Wdr5を発見した
Cbx8-Wdr5複合体はH3K4me3レベルを維持することでNotch経路を促進する
<コメント>
エピジェネシスepigenesis
エピジェネティクスepigenetics
エピジェネティックな変化epigenetic changes
エピゲノムepigenome
エピゲノミクスepigenomics
エピゲノムの変化(?)epigenomic changes
日本語
「エピジェネシスの変化」4件
「エピジェネティックな変化」180件
「エピゲノムの変化」123件
「エピゲノミックな変化」10件
英語
"epigenetic changes" 537000件
"epigenomic changes" 13600件