機械翻訳2

興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

転移する癌はどのようにして免疫を回避するのか

2016-09-29 06:06:09 | 
How cancer’s 'invisibility cloak' works

September 26, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160926111323.htm



ブリティッシュコロンビア大学(カナダ・バンクーバー)の研究者たちは、癌細胞がどのようにして免疫系から見えなくなるのかを明らかにした
これは腫瘍が転移して体中に拡散できるようになるために重要な段階である

「免疫系は最初の腫瘍primary tumorsの出現と広がりを識別identifyして止めるには有能だが、転移する腫瘍が現れると免疫系はもはや癌細胞を認識recognizeして止めることはできないのである」
首席著者senior authorのWilfred Jefferiesは言う
彼はブリティッシュコロンビア大学で遺伝医学Medical Genetics、微生物学Microbiology、免疫学Immunologyの教授professorである

「我々は転移する腫瘍がどのようにして免疫系の裏をかくoutsmartことができるのかを説明する新しいメカニズムを発見した
腫瘍を再び免疫系に認識させるためにこのプロセスを覆すことが可能になりつつある」


癌細胞は遺伝子を変化させ、やがて進化していく
研究者は癌細胞が進化するにつれてインターロイキン33(IL-33)というタンパク質を作る能力を失うかもしれないことを明らかにした
腫瘍内のIL-33が消失すると免疫系は癌細胞を認識する方法がなくなり、癌細胞は転移し始めることが可能になる

研究者はIL-33の喪失が上皮性の癌epithelial carcinoma、つまり臓器の表面をおおう組織で始まる癌で生じることを発見した
そのような癌としては前立腺癌、腎癌、乳癌、肺癌、子宮癌、子宮頸癌、膵臓癌、皮膚癌などがある

彼らはバンクーバー前立腺センターとの協力で数百人の患者を調査し、前立腺癌または腎癌の患者で腫瘍がIL-33を喪失していると、5年間で より急速に癌が再発することを明らかにした
彼らは現在、IL-33に関するテストが特定の癌の進行をモニターするために有効な方法かどうかを調べる研究を始めようとしているところである

「IL-33は前立腺癌の初めての免疫的なバイオマーカーの一つとなりうる
近い将来我々はより大きな患者のサンプルのサイズで調査することを計画している」
微生物学・免疫学の博士課程学生/PhD studentであり筆頭著者first authorのIryna Saranchovaは言う


研究者たちは長い間人体が持つ自らの免疫系を使って癌と戦おうとしてきた
しかし、その治療が実際に能力を示すことを突き止めたのは最近のほんの数年のことである

今回の研究でSaranchovaとJefferiesたちは、転移した癌にIL-33を戻すことが免疫系の腫瘍を認識する能力の再開を助けることを突き止めた
これからの研究でこれがヒトの癌の治療でも有効になりうるかどうかを調査することになるだろう

この研究はカナダ健康研究所/Canadian Institutes for Health Researchの出資によるものである


IL-33はどのようにして作用するのか?
How does IL-33 work?

癌細胞は遺伝子を変化させて進化し、細胞が進化するにつれてIL-33というタンパク質を作る能力を失う
IL-33は主要組織適合遺伝子複合体/major histocompatibility complex (MHC) という別のタンパク質複合体に影響する
MHCは、ある細胞が良い細胞か悪い細胞かを識別するのを助けるための目印beaconとして働く

最初の原発腫瘍の細胞primary tumour cellはこれらのタンパク質が働いているので、細胞の外側に『警告フラグwarning flag』を出して、免疫系が認識して破壊できるようにする
腫瘍からIL-33が消失すると 警告フラグを表示する経路は分解し、免疫系は癌細胞を認識する方法がなくなってしまい、癌細胞は転移し始めることが可能になる


http://dx.doi.org/10.1038/srep30555
Discovery of a Metastatic Immune Escape Mechanism Initiated by the Loss of Expression of the Tumour Biomarker Interleukin-33.

Abstract
免疫による監視と、癌による監視の回避に関する新たなパラダイムを我々は記述する

転移性の癌は 同一遺伝子syngeneicの原発腫瘍primary tumoursと比較して IL-33の発現の減少を示し、
抗原プロセシング機構/antigen processing machinery(AMP)のレベルが低下する

※抗原はプロセシングされてからMHCクラスI分子/クラスII分子によって提示される(抗原提示/antigen presentation)

転移性腫瘍においてIL-33の発現を補うcomplementationと、APMの発現とMHC分子の機能が上方調節され、
その結果として腫瘍の成長速度が抑制され、循環腫瘍細胞(CTC)の頻度が低下する

※complementation: 相補性

ヒトでの並行研究で、IL-33発現の低さは 前立腺癌・腎臓淡明細胞癌kidney renal clear cell carcinomaの再発と関連する免疫性バイオマーカーであることが実証された

したがって、IL-33は原発腫瘍に対する免疫による監視において重大な役割があり、
IL-33は転移性へと推移transitionする間に失われ、癌の免疫回避を発動させるactuate


Introduction
IL-33には二重の機能があり、核内での因子として、また炎症性サイトカインとして働く

核への局在とヘテロクロマチンとの結合はN末端ドメインによって仲介され、それによりNF-κB複合体p65サブユニットの転写を調節する新たな因子としてIL-33が機能できるようにする
C末端ドメインはST2受容体への結合に十分であり、分極化polarizedしたヘルパーT細胞2型(Th2)やタイプ2自然リンパ球(ILC2)からのタイプ2のサイトカイン(IL-5とIL-13)産生を活性化させる

腫瘍発生tumorigenesisへのIL-33の関与について、最近の文献では論議の的となっており、
 免疫保護的な影響がある(26,27
 腫瘍促進的な影響がある(27,28,29,30,31,32,33
という両方を、原発腫瘍の箇所または臨床ステージに依存して表面的には示している



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/721150eedec7d4d56d4052bddc90f2be
メラノーマはIFN-γに反応しないよう進化してイピリムマブに抵抗する



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23528820
マスト細胞はIL-6とTNF-αによりHSV-2ウイルス感染から防御し、それは角化細胞のIL-33によって仲介される



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/13c36bcb505181ccda2d0ceb39931a18
IL-33は呼吸器ウイルス感染に脆弱にするが、IL-33を標的とすることでウイルス感染による喘息の発症を抑える



関連サイト
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/research/papers/post_64.php
マスト細胞はIL-33で活性化されると制御性T細胞を選択的に増やし、その結果気管支喘息を抑制する



関連サイト
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150128093549.htm
肥満の脂肪組織にIL-33を投与すると脂肪組織に独特な制御性T細胞が回復して炎症は減少し、血糖が低下する
 

遺伝子の『スイッチ』はアルツハイマー病の潜在的な標的

2016-09-27 06:06:11 | 
Genetic 'switch' identified as potential target for Alzheimer’s disease

September 20, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160920115633.htm


(ヒトの脳内でのニューログロビンの発現。Allen Human Brain Atlasより)

インペリアル・カレッジ・ロンドンを拠点とする医学研究会議/Medical Research Council (MRC) 臨床科学センター/Clinical Sciences Centre (CSC) の研究チームは、『アルツハイマー病から保護することが知られている遺伝子』のスイッチを入れる仕組みの重要な部分を明らかにした

香港大学/Hong Kong University (HKU) とエラスムス大学/Erasmus University(オランダ・ロッテルダム)との共同研究により、CSCの準教授のRichard Festensteinはニューログロビン遺伝子が上方調節される過程を調査した(上方調節up-regulatedとは徐々にスイッチが入ることである)
ニューログロビンはアルツハイマー病に対して保護的であることが以前マウスで示されている
このマウスはニューログロビンを過剰に作るよう遺伝子操作したものだった


この遺伝子はアルツハイマー病の早期に保護的な役割を演じると考えられているが、疾患が進行するにつれて下方調節down-regulatedされていくようだ
したがって、その上方調節についての今回の研究は、アルツハイマー病を防いだり治療しようとするための新しい方法の開発において役立つことがわかるかもしれない
痴呆症の一般的な原因であるこの疾患には現在のところ治療法は存在しない

CSCのFestenstein教授とHKUのTan-Un博士はエラスムスのSjaak Phillipsen教授の助力を受けて、ニューログロビンが細胞内でどのようにして『つぶれる/fold up』のかを調査した
染色体構造捕捉/chromosome conformation capture(3C)という技術を使った分析による結果、ニューログロビン遺伝子の遺伝子コード領域の外側にある『DNAの特定の領域』が輪を描くようにループして、ニューログロビン遺伝子が始まる場所と接触していることが示された

この新たに突き止められたDNA領域が実際にニューログロビン遺伝子のスイッチを入れることができるのかどうかを確認するため、彼らは二つのアプローチを用いた
まず初めにこのDNA領域を別の遺伝子、いわゆる『リポーター遺伝子』に直接つなげたところ、上方調節を引き起こす『アップレギュレーター』として働くことがわかりやすく実証されたdemonstrated simply
次に『CRISPR』という技術を使って遺伝子を編集し、このDNA領域を細胞から完全に取り除くと、ニューログロビン遺伝子はもはやスイッチが入らなかった

これらの結果から研究チームは、この新たに突き止められたDNA領域が実際にニューログロビン遺伝子の強力なスイッチ・メカニズムであるという確信confidenceを得た

ニューログロビンはアルツハイマーで保護的であると考えられているため、将来この『スイッチ』を使った新しい治療法、例えば遺伝子治療が開発されるかもしれない
そのような治療アプローチを最も効果的にするためには、DNAがコンパクトな『かたまりchunk』である必要がある
重要なことに、研究チームはこの新たな調節領域の位置を特定し、それがニューログロビン遺伝子そのものからはいくらか離れていることを明らかにしている
治療用の効率的な遺伝子治療ユニットを形作るために、ニューログロビン遺伝子とその調節領域との間にあるDNAのあまり関係がない部分less relevant sectionsを取り除けるかもしれない
アルツハイマー病だけでなく他の神経変性疾患、例えば視神経萎縮症optic atrophyでもこの標的が有用であると判明する可能性がある


http://dx.doi.org/10.1093/nar/gkw820
Identification of a novel distal regulatory element of the human Neuroglobin gene by the chromosome conformation capture approach.

Abstract
ニューログロビン/Neuroglobin (NGB) は主に脳と網膜で発現する
過去の研究でNGBが神経細胞に保護的な効果を発揮することが示唆されており、脳卒中やアルツハイマー病の重症度の低下と関連付けられているimplicated
しかしながら、その細胞タイプ特異的な遺伝子発現のメカニズムについてはほとんど知られていない

今回の研究で我々は、NGB遺伝子の適切な発現に関与するのは遠隔調節配列/distal regulatory element (DRE) であるという仮説を立てた
我々は染色体構造捕捉/chromosome conformation captureを使い、2つの新たなDREがNGB遺伝子の-70kb上流と+100kb下流(7万塩基上流と10万塩基下流)に位置することを確認した

※kb: kilo base pair

ENCODEデータベースでは、これらの領域に『DNaseIに特に感度の高い箇所/DNaseI hypersensitive sites』と『転写因子が結合する箇所/transcription factors binding sites』の存在が示された

ルシフェラーゼリポーター/luciferase reportersとクロマチン免疫沈降/chromatin immunoprecipitationを使ったさらなる分析から、上流の−70 kb領域には『ニューロン特異的なエンハンサー』ならびに『GATA転写因子の結合箇所』が含まれることが示唆された
GATA-2のノックダウンがNGBの発現を劇的に低下させたことから、GATA-2はNGBの発現を活性化させるために必須の転写因子であることが示された

NGB発現の活性化におけるDREの決定的に重要な役割は、CRISPRを介するDRE消去後のNGBレベル低下によってさらに確認された

まとめると、NGB遺伝子はそのプロモーターと新規DREとの間に形成される細胞タイプ特異的なループによって調節されることを我々は示す



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メラノーマはどのようにしてイピリムマブに抵抗するのか

2016-09-26 06:06:12 | 癌の治療法
Melanoma tumors use interferon-gamma mutations to fight immunotherapy

September 22, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160922125433.htm

メラノーマの腫瘍は、免疫療法のイピリムマブipilimumabに抵抗するために『免疫応答経路の遺伝子』を突然変異させることがテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの報告により明らかになった

「このような突然変異によるインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)シグナル伝達の喪失は、イピリムマブに対して抵抗するための経路としては初めて明確に腫瘍内で明確になった」
研究のリーダーであるPadmanee Sharma, M.D., Ph.D.が言う

彼女は泌尿生殖器腫瘍内科学・免疫学/Genitourinary Medical Oncology and Immunologyの教授であり、MDアンダーソンの『月ロケット発射計画/Moon Shots Program』の一部である『免疫療法プラットフォーム/Immunotherapy Platform』の科学顧問scientific directorでもある
この『月ロケット計画』は科学的な発見による人命を救う新機軸の開発を加速するよう設計されている

※platform: 宇宙船の位置を制御する装置

彼らの研究結果は、イピリムマブへの応答を前向きに予測するために、そしてIFN-γと関連する抵抗性を打ち破るための新たな治療の組み合わせを探求する目的で、一連のIFN-γ遺伝子をテストすることへの扉を開く


イピリムマブIpilimumab(商品名: ヤーボイYervoy)は、T細胞表面のブレーキとして働くタンパク質のCTLA-4を阻害することで癌に対する免疫の攻撃を解放する初めての薬剤である(T細胞とは適応免疫系の誘導ミサイルとして働く白血球である)
CTLA-4を阻害する薬剤は2011年に転移性メラノーマの治療薬として承認され、他の多くの癌でも単一の薬剤または他の薬剤との組み合わせで臨床試験中である


「これまでの研究で、イピリムマブによる治療が著しい延命効果/生存率の上昇significant survival benefitをもたらすのはメラノーマ患者の約20パーセントということが示されてきた」
Sharmaは言う

「患者の大半で臨床的な奏効/clinical responseが低いことのメカニズムは不明のままである」


患者の応答と生存への影響
Impact on patients, response and survival

インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)は免疫応答を刺激するサイトカインで、つまり免疫細胞の活性化にとって重要なシグナル伝達分子である
加えてIFN-γは細胞表面の受容体に結合し、細胞増殖を阻害して腫瘍細胞の死を促進する一連のイベントを開始することにより腫瘍細胞を直接攻撃する

しかし、この直接的な細胞殺傷の役割は遺伝子の変異によって阻害されるかもしれないとSharmaは言う
Sharmaたちによる以前の研究で、イピリムマブの治療はT細胞によるIFN-γの産生の増大につながることが示されていた
そこから研究チームは、IFN-γ経路に欠陥がある腫瘍細胞がイピリムマブに抵抗するかもしれないという仮説を立てた

まず最初に、イピリムマブの治療を受けた16人のメラノーマ患者から得られた腫瘍サンプル内のIFN-γ経路遺伝子に関して全エキソームシーケンシングデータを評価した
治療に対して4人が応答し、12人が応答していなかった

分析の結果、応答しなかった患者の腫瘍からは合計184の変異が検出され、その内142がコピー数の変化/copy number alteration(欠失または増幅)で、42が一塩基の変化/single nucleotide variantだった
応答した患者respondersでは4つの変異しか見つからなかった
さらに分析したところ、応答しなかった患者はIFN-γ経路の遺伝子に平均15.33の変異があり、コピー数変化が著しい違いを生じていた

応答しなかった12人の内9人でコピー数の変化があり、中でも最も重要significantだったものは、IFN-γの二つの受容体であるIFNGR1とIFNGR2のゲノム喪失、そして二つの重要な下流の遺伝子であるIRF-1とJAK2の喪失だった
経路を阻害することが知られている二つの遺伝子、SOCS1とPIAS4は増幅されていた

TCGAデータベースを使った367人のメラノーマ患者の生存データの分析からは、変異のない患者が48.2ヶ月だったのと比較して、コピー数が変化した患者は40ヶ月という有意にsignificantly短い生存期間だったことが示された


細胞系統とマウスモデルによる確認
Cell line and mouse model confirmation

IFN-γの攻撃に脆弱なメラノーマ細胞系統の実験では、このサイトカインの受容体であるIFNGR1をノックアウトすると、IFN-γが存在していても腫瘍細胞の増殖が可能になった

同じ細胞系統(B16/BL6)を使ってマウスにメラノーマを生じさせてイピリムマブを投与したところ、
IFN-γの完全な受容体を持つマウスでは24匹中4匹しか癌を発症しなかったが、
受容体をノックダウンしたマウスは25匹中12匹で腫瘍が発生した

未治療のマウスは全て腫瘍の増殖で死亡した
イピリムマブを投与したマウスでは完全なIFN-γ受容体を持っていると80パーセントが生き残ったが、
受容体をノックダウンしたマウスは約半分しか生き残らなかった


次の段階
Next steps

今回のチームの研究結果は、IFN-γ経路の11の遺伝子のシグネチャーがイピリムマブの応答を予測するものとして前向き臨床試験でテスト可能であるという見込みを示す
もし予測因子predictorとして確認されればイピリムマブ単独または組み合わせによる治療をガイドするために利用可能である


今回とは別の研究領域として、IFN-γ経路の喪失を乗り越えるための組み合わせ治療の探索がある

「IFN-γ経路の遺伝子が停止した腫瘍に打ち勝つために、免疫系を刺激して他のサイトカインを作らせることが可能かもしれない」
Sharmaは言う

IFN-γシグナル伝達経路の欠陥は、CTLA-4とは別の免疫チェックポイントであるPD-1阻害に対する抵抗性を引き起こす一因であることが他の研究者によって既に発見されている

IFN-γは重要ではあるものの、腫瘍には免疫療法への抵抗を助ける他のメカニズムが存在する可能性についてもSharmaは言及している


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.08.069
Loss of IFN-γ Pathway Genes in Tumor Cells as a Mechanism of Resistance to Anti-CTLA-4 Therapy.
抗CTLA-4療法に対する抵抗性のメカニズムとしての、腫瘍細胞内のIFN-γ経路遺伝子の喪失




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/532f5008161c8bf2e3aad801fa7d002d
アザシチジン癌細胞のウイルス防御経路のスイッチを入れることでインターフェロンを分泌させ、免疫細胞を目覚めさせる




関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141104163019.htm
遺伝子組み換えGM-CSFのサルグラモスチムsargramostimとイピリムマブの組み合わせは、イピリムマブ単独よりも全生存を改善した



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/10/151007135708.htm
Her2+乳癌に対してハーセプチンやラパチニブのような抗erbB2抗体とIFN-γを組み合わせて使うことで、マウスの腫瘍を劇的に縮小させる
IFN-γ→KLF4─┤Snail
 

Aβは凝集して形を変えてから細胞内に取り込まれる

2016-09-25 06:06:09 | 
Shape-shifting protein behind Alzheimer's disease

September 20, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160920110633.htm


(Aβペプチドはアルツハイマー病で重要な役割を演じる
ワシントン大学の新たな研究により脳細胞の内部に取り込まれるためには形状の移行shape-shiftsが必要であることが示された)


アミロイドベータというペプチドがアルツハイマー病を引き起こす要因として関与することは知られているが、それがどのようにして有害となるのかについてはいまだに研究中である

ワシントン大学セントルイス校で生物医学のエンジニアであるJan Bieschkeたちは、アミロイドベータが細胞膜の内部に吸収されて細胞に有害となるためには、その内部構造を長く平らなベータシートbeta sheetの構造に変化させなければならないことを明らかにした
9月9日にJournal of Biological Chemistry誌で発表された今回の研究結果は、ドイツ・ベルリンのマックス・デルブリュック分子医学センターとフンボルト大学との協力によるものである

Bieschkeは工学・応用科学校/School of Engineering & Applied Scienceで医用生体工学/biomedical engineeringの助教授/assistant professorである
彼らは細胞に入り込むpenetrateアミロイドベータタンパク質の構造が特定のタイプのベータシートを持つことを発見した
このベータシートは『レイヤーケーキlayer cake』のようにペプチドがお互いに何層も積み重なった状態である


「凝集する経路のどこかでsomewhereこの種の構造的な要素が形成されてから、アミロイドベータは細胞内に入る」
Bieschkeは言う

「それには二つの段階があり、アミロイドベータは膜に結合して凝集を形成する一方で、細胞の表面から内部へと凝集物が取り込まれる
アミロイドベータは細胞の発電所であるミトコンドリアに干渉し、細胞の呼吸を停止させて最終的に細胞を死に至らせる」

遅発性アルツハイマー病患者の研究では脳内の多くの神経細胞が死んでいることが明らかになっている
今回の研究から得られた知識からBieschkeたちは、いったん細胞内に入ったアミロイドベータの近くで何が起きるのか、そしてそれがどのようにしてミトコンドリアと相互作用するのかを調査することが可能である


「我々はいつか、ミトコンドリアの膜との相互作用を 観察して計測することが可能かどうかを突き止め、
そしてこれらの構造が細胞膜と相互作用するのと同じようにミトコンドリアの膜と相互作用するかどうかを明らかにするだろう」
彼は言う

「我々が問うもう一つの疑問は、次のようなものだ
『アミロイドベータにそのような構造が形成されるのを阻害したり、細胞内に取り込まれるのを操作したりすることは可能なのか?』
それは将来のアルツハイマー病患者を助けるための治療戦略につながるだろう」


http://dx.doi.org/10.1074/jbc.M115.691840
Amyloid-β(1–42) Aggregation Initiates Its Cellular Uptake and Cytotoxicity.
Aβ(1–42) の凝集は、細胞によるAβの取り込みと細胞毒性を開始させる


Abstract
AβペプチドのAβ(1–42) が細胞外プラークに蓄積することはアルツハイマー病の病理学的な特徴の一つである
そのAβ(1–42) が細胞によって再び取り込まれるreuptakeことが、その細胞毒性において重要な段階かもしれないと複数の研究で示唆されている
しかし取り込まれるメカニズムはまだ明らかではない

仮説の一つとして、Aβは細胞に取り込まれる前に、既に凝集した形態で存在するのかもしれない
または、単一のAβペプチド分子がエンドサイトーシス経路に入り、エンドサイトーシス・コンパートメントの状況が凝集プロセスを誘発するのかもしれない
我々の研究の目的は、凝集形成はAβがエンドサイトーシスされる前の『前提条件prerequisite』なのか、それともエンドサイトーシスされた『結果consequence』なのかという疑問に答えることである

我々は蛍光でラベルをつけたAβ(1–42) を使って凝集の形成を可視化し、その取り込みによる内在化internalizationを ヒトの神経芽細胞腫neuroblastomaならびにニューロンで追跡した

実験の結果、βシートが豊富なAβ(1–42) が凝集した物は Aβ(1–42) の濃度がナノモル(10億分の1モル)という低濃度でも細胞内に入った
対照的に、単一のAβ(1–42) モノマーの取り込みは 濃度のしきい値concentration thresholdに直面し、Aβ(1–42) 凝集の形成が可能な濃度ならびにタイムスケールでのみ生じた

取り込みによる内在化 と 膜への結合 をuncoupleさせることにより、Aβ(1–42) のモノマーが細胞膜へと急速に結合してそこで凝集を形成することを我々は発見した
これらの構造はその後に取り込まれ、エンドサイトーシス小胞に蓄積した

このプロセスは代謝的な阻害metabolic inhibitionと相関した

したがって、我々のデータはβシートが豊富な凝集物の形成こそがAβ(1–42) 取り込みと細胞毒性の前提条件であることを暗に示すimply



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160912132548.htm
Aβにはアミノ酸が短いAβ40と長い方のAβ42があるが、レーザーを使った分析によると『凝集しやすい長い方のAβ42』は、『凝集しにくい短い方のAβ40』よりも『のたくる/揺れ動くwiggle』速度が5倍遅い




関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160301144750.htm
Aβのオリゴマーは有害で大きくなると無害になるが、その移行の間に急速に起きるβシート構造のわずかな変化を明らかにした



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2013/07/130701100602.htm
Aβのオリゴマーと原繊維は構造がまったく異なり、そしてニューロンに有害なのは繊維よりもオリゴマーであるようだ
原繊維を標的とする治療がアルツハイマー病にほとんど効果がないのはそのせいかもしれない




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/c13c7fdc9d4c1c84e82ad5adc00d69de
Aβの凝集はどのようにして急速に進行するのか



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160212163905.htm
アルツハイマー病モデルの線虫にベキサロテンを与えると、症状が出てからは効果がないが、症状が出る前なら症状が出なくなる
ベキサロテンはアルツハイマー病と関連する有害なAβ42凝集の産生を開始する最初の『核形成』反応を抑制する



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4f45339247c461908bced75811084a23
短いAβ 4-42は長いAβ 1-42と比べて銅と結合する能力が1000倍も強く、フリーラジカルを生じないようにする



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160310125334.htm
Aβの多型によって、その金属結合ドメインが亜鉛イオンで凝集しやすくなる
Aβの多型は亜鉛による凝集しやすさと凝集を加速し、それが核となってアミロイドの元になる




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/44dd380eae54a796f94b7b5fb5d93849
Aβのオリゴマーは補体分子のC1qとC3を活性化し、C3はミクログリアの受容体CR3を通じてシグナルを伝達して、ミクログリアが脆弱なシナプスを飲み込むように刺激する



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/77f58259ab47b31eee2f0f14795b2978
Aβペプチドには抗菌作用があり、Aβのオリゴマー化はAβペプチドの抗菌作用に必須である



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/39fb7580cfaf1dd51d0ac23e6cc2bd55
TREM2はアポリポタンパク質に結合し、ミクログリアによるAβの取り込みを促進する
 

α-シヌクレインの凝集は脂質膜の上で始まる

2016-09-24 06:06:02 | 
Protein threshold linked to Parkinson's disease

February 2, 2015

https://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150202114450.htm


(合成された脂質小胞から生じたgrow out ofα-シヌクレインからなるアミロイド原繊維を示す、原子間力顕微鏡atomic force microscopyによる画像

Credit: A.K. Buell)

パーキンソン病と密接に関連するタンパク質が脳内で機能不全を起こして凝集し始める『環境circumstances』が、ケンブリッジ大学による研究で初めて定量的に特定された

この研究ではα-シヌクレインというタンパク質の『しきい値threshold』の決定的なレベルが明らかになった
このタンパク質は正常な脳内で化学シグナルのスムースな流れに重要である

いったんしきい値を上回ると、α-シヌクレインが潜在的に有害な構造へと凝集する可能性chancesが劇的に増大する
このプロセスは『核化/nucleation』として知られ、パーキンソン病の発症につながると考えられる一連のイベントの中で最初の決定的に重要な段階である

この研究結果は、どのようにして、そしてなぜパーキンソン病を発症するのかについての理解に向けてさらに一歩前進したことを意味する
慈善団体charityのParkinson's UKによれば現在イギリスでは500人ごとに1人、推定12万7千人がパーキンソン病であり、そして治癒することはないままである

今回の研究の筆頭著者lead authorであるケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジの助教/Research Associate、Celine Galvagnion博士は次のように言う
「パーキンソン病の治療法の発見はその病態の理解にかかっている
我々は最終的に疾患の発症につながりうる最初の分子レベルでのイベントについて仕組みの説明mechanistic descriptionをすることが初めて可能になった」


今回の研究では個々人のパーキンソン病発症の可能性likelihoodはα-シヌクレインとシナプス小胞の数との間の繊細なバランスと関連することが示唆されている
シナプス小胞synaptic vesiclesとはとても小さいtiny泡のような構造を持ち、神経細胞間の化学的なシグナルを伝える神経伝達物質を運ぶ
神経細胞はシグナルを伝えるために絶えず小胞を再生産している

正常な状況下でのα-シヌクレインは神経細胞の一方からもう一方に向けた神経伝達物質の放出の際に重要な役割を演じている
α-シヌクレインは自身を『脂質二重層lipid bilayer』という小胞を包む薄い膜に結合させることによってそれを行う

α-シヌクレインが脂質小胞lipid vesiclesに結合する時、らせん状の形状helical shapeへと折りたたみ方foldingが変化して機能を実行する
しかしながら、特定の状況下で小胞の表面上にあるα-シヌクレインは折りたたみに失敗misfoldし、お互いにくっつき合うstick together
この『核化/nucleation』プロセスがいったん始まると、脳細胞内のフリーなタンパク質分子が脂質表面上の『できそこないの核/misshapen nucleus』と接触する危険がある

これらが結びつくcombineにつれて糸のようにつながった形状thread-like chainsの『アミロイド原繊維/amyloid fibril』が形成され、他の細胞にとって有害になり始める
これらの凝集したα-シヌクレインのアミロイド沈着amyloid depositは『レヴィ小体/Lewy-body』として知られ、パーキンソン病の特徴である


以前の研究で脳内でのα-シヌクレインの過剰発現はどういうわけかsomehowパーキンソン病の発症と関連付けられるassociableことが示唆されており、加えてα-シヌクレインと脂質二重層との相互作用が疾患の発症の加減modulateに関与することがわかっていた
しかし、なぜα-シヌクレインが真に発症につながるのかはこれまで不明だった


今回の研究でケンブリッジのチームは合成した小胞synthetic vesiclesを実験的に作り出すことにより、α-シヌクレインタンパク質が自らを脂質に結合させるプロセスのシミュレーションを実施した
合成された小胞は、様々な量のα-シヌクレインと共にインキュベートされた

実験の結果、小胞に対するタンパク質の比率がおおよそ100のレベルを越えると(これはヒトの脳内で典型的に見られるのよりも10倍高いレベルである)、小胞周囲の脂質二重層に自己を結合させたα-シヌクレインは集中し過ぎて、表面上でお互いにまとまってしまうbunch togetherことが示された
結果として、脂質表面上でのタンパク質の核化の可能性chancesは、溶液中で2つのタンパク質がランダムに結合する可能性と比較して、驚くべきことにremarkably少なくとも数千倍にまで高まることが判明した

Galvagnionが次のように付け加える
「凝集の発生が観察される特定の状況specific conditionsが存在し、他の状況では観察されないということが我々の実験で明らかになった」

「α-シヌクレインタンパク質が核となって凝集するnucleateする能力を左右するのは、比率ratioであることが判明した
これはパーキンソン病につながる始まりの段階がどのようにして起きるのかについてのもっともらしい説明likely explanationを我々にもたらす」


合わせて考えると、今回の結果は膜とタンパク質の相互作用がパーキンソン病を含めた神経変性疾患の開始に関与しうるという重要な役割についての仕組みの説明mechanistic descriptionを初めて提供する
この報告の全体はNature Chemical Biology誌で発表される


http://dx.doi.org/10.1038/nchembio.1750
Lipid vesicles trigger α-synuclein aggregation by stimulating primary nucleation.

Abstract
α-シヌクレインはアミノ酸140残基からなる天然変性タンパク質/intrinsically disordered protein(IDP)である
α-シヌクレインはニューロンやシナプス小胞の可塑性に関与するが、凝集してアミロイド原繊維を形成することがパーキンソン病の特徴である

※天然変性タンパク質: 形状が不安定で相互作用や自己凝集などを起こしやすいタンパク質

α-シヌクレインと脂質表面との間の相互作用は正常な機能を媒介するための重要な特徴であると考えられているが、別の状況下ではアミロイド原繊維の形成を調整modulateすることが可能である

我々は実験的・理論的アプローチを組み合わせ、脂質二重層と結合する状況下でα-シヌクレインが容易に凝集を誘発されるメカニズムを同定した
加えて我々はそのような状況下では最初の核化の速度rate of primary nucleationが3ケタ以上(数千倍)by three orders of magnitude or moreも促進されうることを示す

これらの結果は、α-シヌクレインの可溶性の状態から神経変性と関連する凝集の状態への変換、そして関連する疾患の状態への変換を引き起こす際に 膜とタンパク質の相互作用が持つ重要な役割を明らかにする



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/1eb8a3dd9d17a598ad52ad6fc3230e38
α-シヌクレインはシナプス小胞を整理整頓する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160829163300.htm
α-シヌクレインの変異は凝集の開始initiationと核形成nucleationだけに影響し、延長elongationには影響しない

 

α-シヌクレインはシナプス小胞を整理整頓する

2016-09-23 06:06:39 | 
Parkinson's disease protein plays vital 'marshalling' role in healthy brains

September 19, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160919084606.htm


(α-シヌクレインは健康な脳では細胞内のトランスポーター同士をつなぎ、その流れを調節することによりシグナル伝達プロセスを制御するという役割を果たすことが研究で示唆された
この研究結果は、パーキンソン病でα-シヌクレインが機能しなくなったときに何がうまくいかなくなるのかについて重要な手がかりをもたらす

Credit: Alfonso De Simone)

※marshal「整理整頓する」「配列して結集させる」

ケンブリッジ大学の研究者たちは、パーキンソン病と密接に関連するα-シヌクレインというタンパク質が健康な脳内ではどのようにして働いているのかを立証した
このタンパク質が健康な被験者でどのようにして働くのかを示す今回の研究は、病気を発症した時に何が起きるのかについての重要な手がかりをもたらす


パーキンソン病は『タンパク質ミスフォールディング病/protein misfolding diseases』と呼ばれる疾患グループの一つであり、特定のタンパク質がねじれてdistorted機能しなくなるという特徴がある
そのようなタンパク質はやがて密集して糸threadのようにつながり、他の細胞にとっても有害となる

機能しなくなったα-シヌクレインは長い間パーキンソン病の特徴であると認識されてきたものの、その健康な脳内での役割はこれまで適切に理解されてこなかった
今回のケンブリッジ大学とインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究は、このタンパク質が『シナプス小胞/synaptic vesicle』という細胞内のトランスポーターの流れflowを調節することを示す
これは脳内のシグナルの効率的な伝達にとって根本的なプロセスである

重要なことに彼らはパーキンソン病と関連する変異を生じたα-シヌクレインについてもテストし、それが同じメカニズムに干渉することを明らかにした
それはシナプス小胞の流れを調節するというα-シヌクレインの能力を損ない、ニューロン間のシグナル伝達を弱めていた

今回の研究を支える主な実験を実施したのは、ケンブリッジの学寮の一つであるセント・ジョンズ・カレッジの化学博士課程学生/PhD student、Giuliana Fuscoである
彼女は言う
「α-シヌクレインがシナプス小胞の流れの調節でいくらかの役割を演じることは既に明らかだったが、
我々の研究はそのメカニズムを提案し、どのようにしてそれが為されるのかを正確に説明する」

「早発性early onsetで家族性のパーキンソン病と関連するタイプの変異を持つα-シヌクレインが、このプロセスに影響することを我々は示した
この変異を持つ人々でも実際にその機能は損なわれているのかもしれない」


研究者は今回の結果を現段階では慎重に扱うべきであると強調する
その理由は特にnot least because、パーキンソン病についてはまだ多くが不可解なままだからである

研究の主な執筆者lead authorsの一人であるインペリアル生命科学部のAlfonso De Simone博士は次のように言う

「結論まで一気に飛躍しないよう注意することが重要である
パーキンソン病の発症では非常に多くのことが起きており、その原因は複合的multipleでありうる
しかし、何が起きているのかの理解において我々は一歩前進した」


α-シヌクレインの正確な機能については多くの議論があり、その理由の一部はα-シヌクレインが脳内だけでなく赤血球にすら豊富だからである
このことは、それがかなり奇妙な『変身するタンパク質/metamorphic protein』であり、潜在的に様々な複数の役割を実行していることを意味する

脳内で起きるシグナル伝達を可能にするメカニズムを調節することを今回の研究で証明したことは、大きな進歩の象徴である

「もしマシンの一部を取り除くなら、その除去の結果がどうなりそうかを理解する前に、それが何をすることになっているのかwhat is supposed to doを知る必要がある」
De Simoneは言う

「我々もパーキンソン病で似たような状況になっている
つまり我々はα-シヌクレインが実際には何をするのかを知る必要があった
パーキンソン病への治療アプローチとしてそれを標的とするための、正しい戦略を確認するために」


今回の研究ではラボをベースとした実験を実施し、脳のシナプス小胞のモデルとなる合成した小胞をα-シヌクレインにさらした
そして核磁気共鳴顕微鏡/nuclear magnetic resonance spectroscopyを用いて、このタンパク質が小胞に関してin relation to the vesiclesどのようにして自己を構造化するorganised itself structurallyのかを検討した
この研究結果を確認するため、ラットの脳から得られたサンプル上でさらなるテストを実施した


シグナルが脳を通過するための基本的なプロセスとしては神経伝達物質neurotransmitterがある
それはシナプス小胞によって運ばれ、ニューロンとニューロンの間を接続しているシナプスを通過する

シグナルが伝えられる間、小胞はシナプスの表面へと動いて膜と融合し、シナプス間に神経伝達物質が放出される
その全ては数ミリ秒の出来事であるin a matter of milliseconds

研究者はα-シヌクレインがこのプロセスの間、小胞を結集させて整理整頓するmarshalling the vesicles際に絶対必要な要素として関与することを発見した
このタンパク質には膜と結合する能力を持つ領域が2つ存在し、それはつまり自らを小胞に接着させて、小胞の固定や解放が可能だということを意味する
小胞のいくつかを保持して取っておくhold backことによりα-シヌクレインは極めて重要な調節機能を実行し、一定の期間に通過する小胞が多すぎず、また少なすぎないようにする

Fuscoは言う
「α-シヌクレインは一種の見張りshepherdのような効果を発揮する
これはシナプスそれ自体から離れた場所で生じ、一回の伝達で使われるシナプス小胞の数をコントロールする」


今回の研究は、家族性の早発性パーキンソン病の症例の中には遺伝子の変異の結果としてα-シヌクレインが機能しないためにその整理整頓の役割が弱まっている場合があることを示唆している
例えば、パーキンソン病のトレードマークの一つは脳内の過剰なα-シヌクレインである
そのような状況下ではα-シヌクレインと小胞の接着が多くなりすぎて小胞の流れが制限され、効果的な神経伝達が妨げられるだろう

最後にDe Simoneはこう付け加えた
「現時点の我々には、これらの研究結果が広範囲に関与しているかもしれないとしか考えることはできない
それらの考えのいくつかをテストするためのさらなる研究が必要である
しかしながら、これはパーキンソン病の研究における多くの生化学的なデータを実際に説明するように思われるのだ」


http://dx.doi.org/10.1038/NCOMMS12563
Structural basis of synaptic vesicle assembly promoted by α-synuclein.


Figure 3: Vesicle assembly induced by αS.


(a)
下の小胞 - N末端(赤)- リンカー(26-59,灰色)- α-ヘリックス(65-97,シアンブルー)- C末端(ピンク,98-140)- 上の小胞


Discussion
α-シヌクレインの生理的な活性は様々な脂質膜と結合するその能力と関連することが広く認識されている (48

今回の分析ではα-シヌクレインの2つの重要な領域、つまりN末端にある膜へのアンカーになる領域(アミノ酸残基1から25)と 中央にあるセグメント配列(残基65から97。ここはいわゆるNAC領域と著しく重複する)が独立した膜結合能を持ち、
したがって単一のシナプス小胞(SV)と相互作用することが可能なだけでなく、二つ同時に異なる小胞に結合することを可能にし (Fig. 3a)、それにより相互作用と組み立てを促進することが明らかになった
それはin vitroとin vivoで示された通りである (14, 15, 16

この結果として生じる『ダブル・アンカー・メカニズム』は、なぜα-シヌクレインのNAC領域内にあるセグメントの71から82残基を消去するかまたはN末端アンカー領域の膜への親和性を損なうと小胞のクラスター化に強く影響するのかについて説明する
(これはin vivoでSaccharomyces cerevisiaeの実験で示されている(16



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140929174413.htm
α-シヌクレインは通常の濃度ではマルチマーmultimerとなってシナプスに集まり、シナプス小胞のクラスター化を促進し、その動きを制限している
シナプス小胞をシナプスでクラスター化することにより、α-シヌクレインは神経伝達を根本的fundamentallyに制限する
それは信号に似ていなくもない--自動車を交差点に集めて交通の流れを遅くし、全体の流れを調節する

「通常の濃度でα-シヌクレインは神経伝達を阻害せずむしろ管理しているが、
疾患ではそのレベルが異常に上昇することにより神経伝達が強く抑制されてシナプス毒性につながる」

http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2014.08.027
α-Synuclein Multimers Cluster Synaptic Vesicles and Attenuate Recycling.



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4489cc5b1e62d53015ae6308cff85370
健康な細胞内のα-シヌクレインは構造化されていない状態だった


 

全てのパーキンソン病に共通する分子メカニズムを特定

2016-09-21 06:06:13 | 
Common molecular mechanism of Parkinson's pathology discovered in study

September 8, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160908130556.htm


(Xinnan Wangたちは神経細胞内の欠陥がパーキンソン病に関与する可能性を発見した

Credit: Norbert von der Groeben)


スタンフォード大学医学部の研究者は、全てのタイプのパーキンソン病におそらく共通すると考えられる細胞内の欠陥defectを特定した
この病態の特徴は神経細胞の特定のグループが死んでいくことだが、この欠陥はそのような細胞死に先行して生じ、細胞の絶滅を引き起こす際に重要な役割を演じる

「我々は家族性familialのパーキンソン病だけでなく、より一般的な孤発性sporadicの病態をも特徴付ける分子的なバイオマーカーを発見した」
脳神経外科学neurosurgeryの助教授assistant professorであるXinnan Wang, MD, PhDは言う

9月8日のCell Stem Cell誌オンライン版で記述されるこの欠陥は、使い古されたwear outミトコンドリアがエネルギー供給を止めて有害な汚染物質pollutantを吐き出し始めた時に 細胞が素早くミトコンドリアを分解するdismantleのを妨げる
この発見はパーキンソン病のより早く正確な診断につながる可能性があるだけでなく、全く新しい薬理学的な治療アプローチをも指し示しうると首席著者であるWangは言う
研究の筆頭著者はpostdoctoral scholar のChung-Han Hsieh, PhDである

パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで二番目に多い神経変性疾患であり、65歳以上のアメリカ人の60人から70人に一人がパーキンソン病である
その内5パーセントから10パーセントが家族性で、大半は孤発性である


パーキンソン病で一般的な突然変異
Prevalent mutation in Parkinson's

家族性パーキンソン病の原因として最も頻繁に見られる遺伝子の突然変異はLRRK2というタンパク質をコードする遺伝子に沿った様々な箇所に起きる
そのような変異にはいくつかあるが、最も頻度が高いのはLRRK2のG2019Sという変異であることが判明している
白色人種/コーカソイドCaucasianの場合、家族性の症例では20人に1人、臨床上孤発性だった症例apparently sporadic casesでは50人に1人の割合で見られるturn up in 1 in 20

興味深いことに、アシュケナージ・ユダヤ人/Ashkenazi Jews(ドイツ・ポーランド・ロシア系ユダヤ人)では家族性パーキンソン病の40パーセント、孤発性の13パーセントでLRRK2G2019Sが見られる/show up
そして北アフリカのベルベル人/North African Berbers(北アフリカのコーカソイドでベルベル語を話す人々の総称)では家族性の39パーセント、孤発性の40パーセントである

※Sephardi Jews: セファルディ・ユダヤ人(スペイン・ポルトガル・北アフリカ系ユダヤ人)

このようなLRRK2の変異とパーキンソン病とのつながりを、明確に説明できた者は今まで誰もいなかった
パーキンソン病の患者と対照群から得られた培養細胞を使った一連の様々な実験から、Wangたちはこの謎を解明することに成功した


ミトコンドリアは脂肪やブドウ糖を他の分子、例えばエネルギーを運搬する分子に変換し、それを必要とする場所に供給する
神経細胞は一つの細胞が数百数千ものミトコンドリアを保持しているが、中脳に存在する神経細胞グループ、つまり我々の自発的な動作を常に微調整するために働く神経細胞にとって、ミトコンドリアによるエネルギーの大量供給は特に重要である

それらの細胞はドーパミンという物質を絶えず生産して分泌し(そのような細胞は『ドーパミン作動性』と呼ばれる)、それぞれがドーパミンを脳の別の場所へと『ほとばしらせるsquirting』ためのおびただしい数の腕を長く伸ばしている
それらのドーパミンを作る中脳の神経細胞が不足すると、パーキンソン病の古典的な症状、例えば振戦tremor, 硬直stiffness, 自発的動作の開始と維持の困難difficulty initiating and sustaining voluntary motion, そして時には認知の困難cognitive difficultiesが生じる

パーキンソン病患者でドーパミン作動性ニューロンの細胞死を引き起こすのは何なのかという疑問は、確たる証拠の裏付けがほとんどないbacked by little solid evidence非常に不明確な多くの推測many highly uncertain guessesをこれまで生じさせてきたoccasion
この不明確さは医療者の早期診断を制限し、効果的な治療のための薬剤開発を妨げている

機能不全を起こしたミトコンドリアは古くておんぼろの自動車/old jalopyと似ている
燃費はひどく悪い上に有害な排気ガス、つまり『腐食性の化学物質/corrosive chemicals』であるフリーラジカルfree radicalを大量に吐き出すspew out

しかし、スタンフォードの科学者たちは、欠陥のあるミトコンドリアを廃棄decommissionできるようにするにはまず細胞骨格から切り離すdetach必要があることを示した
細胞骨格とは『細い管のような繊維状の分子によるネットワーク/a network of molecular filaments and tubules』であり、細胞の中に広がって細胞の形状を決定している
ミトコンドリアは骨格から切り離されて初めて破壊が可能になるのである

しかし、ミトコンドリアを細胞骨格につなぎ留めているMiroというタンパク質が切断severedされなければ、このような切り離しdetachは起きないということをWangのチームは明らかにした


Miroを取り除く
Removing Miro

Wangたちは、LRRK2がMiroと複合体を形成した後で初めてMiroの除去が起きうることを発見した
欠陥のあるLRRK2はこの複合体の形成に失敗し、結果としてMiroの除去が著しく遅れることになる

今回の研究でWangと彼女の同僚たちは、ヒトの皮膚を培養した線維芽細胞から20の異なる系統を得た
4つは健康な被験者から、
5つは臨床上孤発性apparently sporadicのパーキンソン病患者から、
6つはLRRK2変異を持つ家族性のパーキンソン病患者から(悪名高いLRRK2G2019Sを含む)、
5つは他の変異を持つ家族性のパーキンソン病患者からだった

これらの細胞に対して生化学的にミトコンドリアへの損傷を誘発し、6時間後にそれらの細胞のいくらかをこじ開けてbreak open、Miroの分解degradationの徴候を観察した
生化学的な攻撃から14時間後、残りの細胞をこじ開けてミトコンドリアの分解breakdownを測定した

健康な被験者から得られた線維芽細胞の培養系統では、4つの全てで特に問題は観察されなかった
しかし驚いたことに、残り16の細胞系統、つまりパーキンソン病の症例から得られた細胞の全てでミトコンドリアの分離と分解は大幅に遅れていた

さらに詳細に分析すべく、彼女たちは最先端のiPSC技術を用いて皮膚の線維芽細胞のいくつかの系統からドーパミン作動性の活動が活発な神経細胞を作成した
それらに生化学的な操作を加えてそれを顕微鏡カメラによるライブイメージングで画像化したところ、健康な被験者の線維芽細胞から作成したドーパミン作動性神経細胞の中の損傷したミトコンドリアは、急速に破壊されることが示された

しかし、LRRK2G2019Sの変異を持つパーキンソン病患者の線維芽細胞に由来するドーパミン作動性神経細胞では、このプロセスとそこに至るまでの鍵となる重要な段階が大幅に遅れていた


フリーラジカル
Free radicals

研究者たちが神経細胞に対して過剰なフリーラジカル産生を生化学的に誘発すると、パーキンソン病の患者のサンプルに由来する神経細胞は全て(家族性と孤発性で等しくalike)、健康な被験者に由来する同等の細胞よりもはるかに多くの数の細胞が死んだ

「健康な細胞はより高いフリーラジカル濃度も処理することが可能だった」
Wangは言う

「しかしパーキンソン病の細胞は、同じ状況下ではるかに死にやすい
そしてそのような状況はエネルギーを集約的に用いる/多量のエネルギーを消費するenergy-intensive中脳のドーパミンを作る神経細胞で起きやすい
その細胞がまさにパーキンソン病で変性する細胞であり、エネルギーを多く消費するということはミトコンドリアも多い」


特筆すべきこととしてremarkably、科学者たちはパーキンソン病患者に由来する神経細胞の欠陥ミトコンドリアの分解の遅れを防ぐpreventことが可能であるだけでなく、それらの細胞がフリーラジカルの猛攻撃に直面しても早く死んでしまわないよう未然に防ぐforestallことも可能であることを発見した

彼女たちは生化学的な『トリック』を使い、細胞内のMiroのレベルを低下させた
このMiroレベルの低下は健康なミトコンドリアを細胞骨格から取り除くには不十分だったが、分離detachmentが起きうるポイントに近いところまで接着の強度を減少させた

彼女たちが化学的にミトコンドリアの損傷を誘発させても、健康な被験者に由来する神経細胞ではミトコンドリアの減少や分解の増大は起きなかった(分解の増大は起きなかった=通常通り分解された)

しかし同等のLRRK2G2019S神経細胞では以前観察された遅れはほとんどpretty muchが消失し、それらの細胞死ははるかに少なかった
それらの細胞においてMiro濃度の低下はMiro切断の失敗を補ったことになる


LRRK2と関連するパーキンソン病の移動運動の困難locomotion difficultiesのショウジョウバエモデルでは(げっ歯類にはこの面での良いモデルは存在しない)、Miroレベルを低下させると幼虫の這う能力が目に見えて低下するという状態が回復し、成体では上昇能力とジャンプ能力の欠陥が完全に無効化された

さらに、ミトコンドリアのストレスが生じた箇所にLRRK2がリクルートされることをWangたちは証明した

彼女たちは多くの様々な細胞内の障害が完全に正常な『LRRK2とMiroの複合体』でさえも機能不全failureに陥らせる一因になると考えており、
その結果としてMiroがグリップを解放しないという機能不全failure to release its gripは信頼できるパーキンソン病早期のバイオマーカーである可能性があり、
そしておそらくは疾患の原因となる重要なイベントかもしれないという


「パーキンソン病の既存の治療薬はその多くが『つまずいたfalteringドーパミン作動性神経細胞』がドーパミンに変換しやすい前駆体を供給することによって作用する」
Wangは言う
「しかしそれは神経細胞の死を防がず、そしていったん死んだ細胞を回復することはできない
パーキンソン病のリスクが高い人々から得られる皮膚の線維芽細胞でMiroのレベルを計測することが正確で早い診断を得る際に有益であると、いつの日か証明されるかもしれない
そして、Miroのレベルを低下させる薬剤が疾患の治療に有益であると証明される可能性がある」


この研究はスタンフォード医学部が『プレシジョン・ヘルスprecision health』に焦点を当てた一例である
その目標は健康な人の疾患を予測して予防することであり、疾患の人を正確に診断して治療することである


http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.08.002
http://www.cell.com/cell-stem-cell/abstract/S1934-5909(16)30249-1
Functional Impairment in Miro Degradation and Mitophagy Is a Shared Feature in Familial and Sporadic Parkinson’s Disease.
Miroの分解とマイトファジーにおける機能不全は家族性と孤発性パーキンソン病で共有される特徴である


※Miro(Mitochondrial Rho GTPase 1)
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=RHOT1

※Milton(英国の盲目の詩人Miltonから
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=TRAK1

※KHC: Kinesin Heavy Chain「キネシン重鎖」
※KIF5B: http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=KIF5B


Highlights
・LRRK2変異体のiPSC由来ニューロンにおいて損傷したミトコンドリアは移動を続ける
・LRRK2変異体ニューロンにおいてMiroは安定stabilizedしていて、損傷したミトコンドリアに接着したままである
・Miroの部分的な減少は機能的なニューロンの欠陥をin vitroとin vivoで救出する
・孤発性パーキンソン病でも同様のMiro蓄積とミトコンドリアの欠陥が起きる


Summary
ミトコンドリアの運動movementは厳密に制御され、エネルギー恒常性を維持して酸化ストレスを防いでいる

Miroはミトコンドリアを微小管モーターmicrotubule motorへとつなぎ留めているミトコンドリア外膜タンパク質であり、
機能不全を起こしたミトコンドリアを除去clearanceする早期の段階で取り外されてremoved、ミトコンドリアの運動motilityを止める

今回我々はヒトのiPSC由来ニューロンと、そして他の補足的なモデルを使い、以前示された『パーキンソン病と関連するPINK1とParkin』からMiroへのつながりを基盤として研究をまとめた
我々は『パーキンソン病と関連する三つ目のタンパク質であるLRRK2』がMiroと複合体を形成することによりMiroの除去を促進することを示す
病原性のLRRK2 G2019SはMiroとの複合体を形成する機能を破綻させ、損傷したミトコンドリアの動作の停止を遅らせて、その結果としてマイトファジーの開始を遅くする

特筆すべきことにremarkably、LRRK2G2019Sを持つヒトニューロンとショウジョウバエパーキンソン病モデルでMiroのレベルを部分的に低下させることは神経変性をレスキューした
Miroの分解とミトコンドリアの運動は、孤発性パーキンソン病患者でも損なわれている

我々はMiroの保持の延長とそれに続いて起こるensue下流の結果がパーキンソン病の病理発生pathogenesisの中心的な要素を構成するかもしれないことを明らかにする



関連サイト
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2011.10.018
PINK1 and Parkin Target Miro for Phosphorylation and Degradation to Arrest Mitochondrial Motility
(PINK1とParkinはMiroをリン酸化と分解の標的にしてミトコンドリアの運動を止める)
Xinnan Wang et al.


Highlights
・PINK1またはParkinの発現はニューロンミトコンドリアの動きを止める
・PINK1とParkinはモーター/アダプターのMiroと共に脱分極depolarizedしたミトコンドリアに結合する
・PINK1はMiroをリン酸化し、プロテアソームによって分解させる
・PINK1がMiroの分解を引き起こすためにはParkinが必要である

Summary
細胞はミトコンドリアの動き、分布、除去を調節することによりエネルギーバランスを維持して酸化ストレスを回避する
我々は2つのパーキンソン病タンパク質、セリン/スレオニンキナーゼのPINK1とユビキチンリガーゼのParkinが、ミトコンドリアの動きを止めることによってそのような調節に関与することを報告する
Miroはプライマリprimaryなモーター/アダプター複合体の一要素であり、キネシンをミトコンドリア表面につなぎ留めているが、PINK1はMiroをリン酸化する
Miroのリン酸化はプロテアソームによるMiroの分解を活性化し、それはParkin依存的な方法による
Miroのミトコンドリアからの除去は、ミトコンドリアの表面からキネシンをも切り離すdetach
PINK1/Parkin経路はミトコンドリアの動きを防ぐことによって、損傷したミトコンドリアが除去される前に隔離している可能性があるmay quarantine
PINK1はParkinの上流で作用することが示されているが、この関係に相当するメカニズムは不明である
我々はPINK1による基質のリン酸化がその後のParkinとプロテアソームによる作用の引き金を引くことを提案する



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19152501
Pink1 forms a multiprotein complex with Miro and Milton, linking Pink1 function to mitochondrial trafficking.
(Pink1はMiroならびにMiltonと複合体を形成してPink1機能をミトコンドリア輸送に関連付ける)



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/00f9bdacc5fee082eb60dda6170341fb
α-シヌクレインのオリゴマーやドーパミンで修飾された形態は高い親和性でミトコンドリアのTOM20に結合してタンパク質のインポートを損ない、ミトコンドリアの老化、呼吸の低下、活性酸素種(ROS)の増加を示す



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/cc43532dd67385196c0da15809ea47d4
LRRK2の突然変異は微小管による軸索輸送を阻害する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/735d3e7de5b11b1efa84ce4c20e84d37
LRRK2は特定のRabタンパク質(Rab3、Rab8、Rab10、Rab12)の不活化により細胞内輸送を調節する



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6527
RAB7L1とLRRK2は協調してニューロンにおける細胞内輸送を制御するとともにパーキンソン病の発症リスクを決定する



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6074
LRRK2変異体の過剰なリン酸化活性によりひき起こされるヒトの神経幹細胞における進行性の核膜異常



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160705135353.htm
尿中のエキソソーム中に含まれる自己リン酸化LRRK2を計測してパーキンソン病のバイオマーカーとして使う



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160727162452.htm
パーキンソン病のリスクとなるSNPsが実際に機能しているエンハンサーやプロモーター領域にあるかどうかを調べたところ、LRRK2は12番染色体長腕(12q12)に存在するが、H3K4me1やH3K27acなどでエンハンサーの活性があるのはB細胞であってニューロンではない
他にも脂肪組織や肝臓に特異的なSNPsが存在した



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https://www.sciencedaily.com/releases/2014/01/140107215351.htm
α-シヌクレインはLRRK2の除去を遅くして除去されにくくするため、LRRK2は封入体に詰め込まれる
つまりLRRK2のキナーゼ活性ではなくLRRK2の凝集そのものが細胞死の直接の原因であり、変異体LRRK2のニューロンにおける毒性はLRRK2レベルとα-シヌクレインレベルに依存し、キナーゼ活性または封入体には依存しない



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https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160808172209.htm
パーキンソン病では線条体の投射ニューロンの電気活動が異常



関連サイト
http://www.natureasia.com/ja-jp/clinical/review/37014
カルシウムチャネル遮断薬はパーキンソン病のリスクを低下させる



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/da60d798a69b4436b35dc94e20655438
変異体α-シヌクレインを過剰発現するマウスモデル(A53T-SNCA)では中脳ドーパミンニューロンにおける黒質選択的な発火頻度の増大が観察された
このA53T-SCNAを過剰発現する黒質ドーパミンニューロンの選択的かつ加齢依存的な機能獲得の表現型は、Aタイプ Kv4.3カリウムチャネルの酸化還元に依存的な損傷によって引き起こされる『ペースメーカー頻度の内因的な増加』によって部分的には仲介されていた



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/800fdf13417f9b0a80859ee62a0f6f31
パーキンソン病の異常行動を示し始めた年老いたMitoParkマウスでは、ドーパミンニューロンで電気活動を増加させる遺伝子発現が高まった
このマウスではインパルス活性と関連するイオンチャネルのサブユニット(Cav1.2, Cav1.3, HCN1, Nav1.2, NavB3)の発現が上方調節される



関連サイト
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2011.02.010
PARIS (ZNF746) Repression of PGC-1α Contributes to Neurodegeneration in Parkinson's Disease.
(PARISによる転写因子PGC-1αの抑制はパーキンソン病の神経変性の一因である)

PARIS (ZNF746) はE3ユビキチンリガーゼparkinの基質
 

癌はどのようにして脂肪に依存するようになるのか

2016-09-19 06:06:36 | 
Taste for Fat: Scientists discover molecular handle behind some cancers' preference for fat

September 15, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160915133058.htm

癌はブドウ糖に耽溺することで有名であり、PETによるスキャンでブドウ糖を大量に取り込む腫瘍細胞を光らせて探し出すことが可能なほどである
しかし一部の癌はブドウ糖よりも脂肪を好むように見えるため、そのような傾向propensityは長い間科学者たちを悩ませてきた

今回Molecular Cell誌で発表されたハーバード・メディカルスクール(HMS)の研究により、一部の腫瘍がどのようにして生命維持の燃料として脂肪を好むようになるのかが明らかになった
この研究では、通常は脂肪の燃焼を止めているシグナル伝達経路がどのようにして癌で異常を生じ、それが脂肪の消費を加速して腫瘍の増殖を刺激する過程を示す

この研究では特に『プロリン水酸化酵素3/prolyl hydroxylase 3 (PHD3)』というタンパク質が、脂肪の燃焼を抑制する細胞内の繊細なバランスを調節するための鍵となる重要な因子であるようだということを突き止めた

PHD3は急性骨髄性白血病や前立腺癌を含めた特定のタイプの癌で異常に少ないことが研究で示された
今回の発見は 腫瘍の燃料を枯渇させるような新たな治療法を開発するための基礎を築くのを助ける可能性がある


「これは癌の代謝の研究における新たなフロンティアを真に象徴する」
HMSで細胞生物学の準教授associate professorであり首席著者senior authorのMarcia Haigisは言う

「この経路の分子的な『操作handle』を理解することは、基礎研究を臨床へとトランスレートするための第一歩となる」


生物学者たちは以前から、栄養の不足した細胞は機能維持のための燃料源をブドウ糖から脂肪へと切り替えることを知っていた
細胞のエネルギーが少なくなるとAMPKというタンパク質がACCという酵素を標的にすることで脂肪の酸化を活性化し、細胞が脂肪を燃焼してエネルギーを作るのを助ける

しかし、十分な資源resourcesがある時の細胞はエネルギーのバランスを維持しようとするseek
科学者たちは細胞が正確にはどのようにして脂肪を酸化するスイッチを切るのかを探求してきた

HMSの研究チームはこの繊細なバランスに関与しそうな要素possible playersを探し求める中で、PHD3というタンパク質に着目した
これまでの数少ない研究でPHD3が細胞の代謝に関与することは示唆されていたが、その正確な役割は不明のままだった

HMSのチームは一連の実験でPHD3が脂肪の燃焼を抑制することを示し、それはACC2を化学的な修飾で活性化することによると実証した
ACC2は、細胞の脂肪燃焼を止めておくのと同じ酵素のバージョンの一つである

 PHD3↑→ACC2↑→脂質生成↑,脂肪燃焼↓


癌におけるPHD3の役割を突き止めるため、研究チームはヒトの全ての癌のデータベースの記録を通して徹底的に探したcomb
ブドウ糖を渇望する腫瘍はこの脂肪燃焼を阻止するブロッカーであるPHD3を高レベルに持ち、甘味を力とするエネルギーの流れを保っておくのだろうと研究者は推測しているsurmise
一方で、エネルギー源として脂肪に依存する腫瘍はPHD3レベルの低さを示すだろうという
2つのタイプの癌、急性骨髄性白血病と前立腺癌は、PHD3レベルが明らかに最も低いことが分析で示された


『いくつかの癌は生存のために脂肪を必要とする』『腫瘍増殖に燃料を供給する脂肪燃焼プロセスにおいて、鍵となる調節因子はPHD3である』という仮説をテストするため、研究者たちが癌細胞系統とマウスモデルでPHD3レベルを正常レベルまで回復させたところ、腫瘍は成長を止めただけでなく、死に絶えた

「これは本当にエキサイティングだった」
Haigisは言う

「我々は多くの代謝経路を癌で変化させてきたが、今回の結果は我々が経路を調整して本当に腫瘍が死ぬことを観察した例の一つだ
それらは脂肪の酸化にとても依存しているので、変化させると死ぬ」」


この発見を臨床に応用するには、なぜ特定の腫瘍が脂肪に依存するのかを理解するために動物モデルや患者からの癌細胞を使ってさらに多くの基礎研究をする必要があるとHaigisは言う

「脂肪は何を腫瘍に供給しているのか? それは他の燃料では供給されないのか?
それは未解決の問題open questionの一つであり、そしてこれは物語の第一章に過ぎないのである」


http://dx.doi.org/10.1016/j.molcel.2016.08.014
PHD3 Loss in Cancer Enables Metabolic Reliance on Fatty Acid Oxidation via Deactivation of ACC2.
癌におけるPHD3の喪失はACC2の不活化を介して脂肪酸酸化への代謝的な依存を可能にする


 PHD3↓→ACC2↓→アセチルCoA→マロニルCoA↓─┤CPT1↑→脂肪酸酸化↑


Highlights
・プロリン水酸化酵素3/Prolyl hydroxylase 3 (PHD3) は、代謝酵素のACC2を水酸化hydroxylateして活性化する
・栄養が豊富な間、PHD3/ACC2という経路は脂肪酸酸化/fatty acid oxidation (FAO) を抑制する
・PHD3はAMLで少なく、それが脂肪への依存を加速し、そしてそれはFAO阻害剤の標的になりうる
・PHD3を再び発現させるとACC2を介してFAOを制限し、培養細胞ならびにin vivoでAMLを抑制する


Summary
腫瘍細胞によるグルコースとグルタミンの利用についての研究が多く実施されてきたが、多くの癌はグルコースの代わりに脂肪を代謝するのを好む
脂肪を好む表現型が広く見られるpervasivenessにもかかわらず、癌の脂肪酸酸化(FAO)を促進する経路についての知識は限られている

プロリル・ヒドロキシラーゼ・ドメイン/prolyl hydroxylase domainというタンパク質は、プロリン残基を基質として水酸化hydroxylateし、燃料の切替えと関連付けられている
今回我々はPHD3が栄養素の豊富さに応じて急速にFAOの抑制を引き起こし、それはアセチルCoAカルボキシラーゼ2/acetyl-coA carboxylase 2 (ACC2) の水酸化hydroxylationを介することを明らかにする
我々は急性骨髄性白血病/acute myeloid leukemia (AML) を含む癌サブセットでPHD3の発現が強く低下することを発見した
そしてPHD3の発現は 外因的な栄養の合図external nutrient cuesにもかかわらず 脂肪の異化作用catabolismへの依存と関連する

PHD3を過剰発現させるとACC2の調節を介してFAOが制限され、その結果としてconsequently白血病細胞の増殖を妨害するimpede

したがって、PHD3の喪失はより多くの脂肪酸の利用を可能にするが、それはFAO阻害に対する癌細胞の脆弱性を示すことにより、代謝的なmetabolic、そして治療法的なtherapeutic不利な点liabilityとしても働く



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141125074828.htm
PHD3はEps15とEpsin1のようなセントラル・アダプタータンパク質と結合し、EGFRの取り込みを促進することによりEGFRを制御する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/991a30f257378e25e2ce5b7d9b0a0bf7
癌細胞は血液中の脂肪に頼って生きることが可能



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/910a0223f30d3b68e39d6905f1c05820
乳癌は増殖するために脂質を取り込む



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4056326cf9626ead69dd90ab0886df52
白血病の癌幹細胞は脂肪組織に隠れる



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。

はぁ?
 

癌細胞はミトコンドリアで乳酸を使う

2016-09-16 06:06:12 | 
'Tracking bugs' reveal secret of cancer cell metabolism

Instead of throwing away valuable nutrients, the cells wring out every last drop of energy

September 12, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160912161023.htm

癌の特徴の一つは細胞の代謝の変化である
細胞の代謝という一連の化学反応は生命にとって非常に基本的であるため、その変化は癌細胞を『ぞっとするほど邪悪creepily malevolent』にするようだ


健康な細胞は血液からブドウ糖(グルコース分子)を取り込み、それを分解してエネルギーを取り出す
その反応は2つの段階に分けられ、最初の段階は細胞質で生じ、次の段階はミトコンドリアで起きる
癌細胞はミトコンドリアの段階をほとんどスキップしてしまうため、それによって得られるはずだったエネルギーは最初の段階を活性化rev upしてグルコースを急速に分解することによって補われると考えられている
結果としてグルコースが部分的に分解された乳酸が大量に生じ、それは『廃棄物waste product』であると長い間見なされてきた

この『仮説』のいくらかは確かに真実である
なぜなら癌細胞は実際に通常よりも多くのグルコースをがぶ飲みsoak upするからである
このグルコース取り込みの増加は非常に著しいものであり、臨床で癌を診断する際に使われる画像化技術の基盤となるほどである

一方で、癌細胞がどのようにしてグルコースから作られうるエネルギーや物質のほとんどを廃棄discardしうるのかという問題は、理解するのが困難な問題であり続けた
(それはまるで王室の毒見役royal poison testerが料理を一口だけかじるようである)

「癌細胞にはとても無駄が多いというのは、癌の研究において非常に困惑させる論題だった
それは道理に合わないように見えるseemingly paradoxicalからだ」
ワシントン大学セントルイス校の化学部で準教授associate professorのGary J. Patti, PhDは言う

PattiとAmanda (Ying-Jr) Chenたちは2016年9月12日にNature Chemical Biology誌のオンライン先行出版号advance online issueで、一見すると簡単な実験によってもたらされた驚くべき結果を記述する
元々は新しい方法論methodologyをテストするために企画されたundertakenはずだった彼らの研究は、癌の代謝についてのこれまでの考え方に対して意図せずunexpectedly疑いを投げかけるものとなった
彼らは乳酸を研究することにより、癌細胞がこれまで考えられていたのとは異なるやり方でエネルギーを作り出すことを示したのである
癌細胞は『廃棄物waste product』であるはずの乳酸をミトコンドリアに取り込む能力があり、そこでグルコースのエネルギーの残りを取り出すことが可能である

「乳酸について学部学生undergraduateの生化学のテキストで調べると、そこには『乳酸は廃棄物として排泄される』と書かれている」
Pattiは言う
「しかし我々の研究で、必ずしもそうではないことが示された
乳酸は生産的に使われうるのである」


ワールブルクのパズル
The Warburg puzzle

細胞が生きるために必要とするエネルギーのほとんどは細胞の発電所powerhouseと呼ばれるミトコンドリアで作られる
細胞質ではグルコースが持つエネルギーのわずか5パーセントが取り出されるに過ぎず、残りの95パーセントがミトコンドリアで取り出される

ミトコンドリアでエネルギーを作るためには酸素が必要であり、そのことはなぜ運動すると筋肉が疲労するのかを説明する
肺が酸素を供給するのよりも速く筋肉を速く動かすexert musclesと、グルコースからはわずか5パーセントしかエネルギーを取り出せないからである


ドイツの生理学者オットー・ワールブルクは1924年、癌細胞は酸素が存在してもグルコースを乳酸へ発酵fermentさせることを発見した

癌細胞は(表面的には)ミトコンドリアでのグルコースの代謝から細胞質でのグルコースの分解へと切り替わるshift
非常に悪性の癌細胞は、驚くべきことに通常よりも200倍も早く細胞質での代謝を実行する
この観察結果はワールブルク効果と呼ばれ、長い間癌の研究者たちを悩ませてきたpuzzle

なぜ急速に増殖し続ける細胞は、作り出すエネルギーが少ない代謝へと切り替わるのか?
それがどのような利点をもたらすのか?
この問題を解決すべく多くの努力が費やされてきたが、真に解決したとは言えない状況である

「文献で代謝の地図を見ると、たいていは乳酸が細胞の外に出ていくことを示す矢印しかない」
Pattiは言う
「それは一本の矢印に過ぎないが、しかしそれが大きな違いなのである」


行き止まりは行き止まりではない
A dead end that wasn't

バイアスのない方法で代謝を研究すべく、Pattiのラボは栄養素に同位体isotopeの標識labelで目印tagを付けて、栄養素が細胞によって代謝された時にそれがどうなるのかwhat become ofを追跡できるようにした

「我々がこの技術を開発した時、こう考えた
『よし、じゃあテストするためにまず何をしよう?』」
Pattiは言う
「そこで我々は、テストに適した『わかりきった』実験は乳酸だと決めた
乳酸はよく行き止まりdead endと呼ばれる
癌細胞にこの行き止まりの目印tagを与えて、(癌細胞の内部に)目印を付けたものが他に何も見られなくなることで、我々の技術がうまくいくことが実証されるだろうと期待した」

しかし彼らが実験を行うと、期待したようにはならないことがわかった
「我々は標識化されたシグナルlabeled signalsを大量に観察した」
彼女は言う
「癌細胞の中に存在する脂質のほとんど全てが目印のついた状態になっていたend up tagged
これはまったく予想もしなかったこので、そして興奮させるものだった」

細胞は乳酸から余分なエネルギーを取り出しただけでなく、乳酸の原子を使って癌細胞の増殖に必要となる他の重要な構築材料を作り出していたのである


「これは大きな変遷transitionだ」
Pattiは言う
「癌細胞は何かを無駄にしているのではなく、全く新しいクラスの分子を効率的に作っていると言われるようになるだろう」

この発見は非常に驚くべきstartlingものだったため、研究チームは乳酸が実際にはミトコンドリアによって使われるということを確認するために一連の実験を実施した
実験の結果、乳酸がミトコンドリアに取り込まれうることが確認されただけでなく、ミトコンドリア内部の酵素が乳酸を代謝してエネルギーと細胞の構築材料を作り出すことも実証された


ケーキを食べてもケーキがなくならない
Having your cake and eating it too

では、どうせanywayミトコンドリアへと輸送されるしかないのだとしたら、なぜ癌細胞は『グルコースから乳酸へと変換する努力』を無駄にするのだろう?

その答えはこうだ
細胞が細胞質でグルコースを代謝する時、その過程で電子が生まれる

細胞は電子をどこかに置いてputおかなければならない
さもなくば、厳密に調節された代謝反応は継続することが不可能になる

健康な細胞は電子をミトコンドリア内部に移動させるが、癌細胞は電子を作るのが早すぎるために保持しておくことができない
このことが癌細胞に電子を乳酸にくっつけて排出せざるを得ないようにさせるのであると、そう考えられるのである/or so it was thought

「我々が今回発見したのは予備手段work-aroundだと考えている」
Pattiは言う
癌細胞は乳酸に電子をくっつけるが、それは貴重な栄養素を無駄にしなければならないということを意味しない

「ケーキを食べたらケーキはなくなる/you can't have your cake and eat it too
しかし今回の場合、ケーキを食べてもケーキはなくならないのである/it's a case of having your cake and eating it too」


http://dx.doi.org/10.1038/nchembio.2172
Lactate metabolism is associated with mammalian mitochondria.
乳酸の代謝は哺乳類のミトコンドリアと関連する

Abstract
グルコースの発酵後に分泌された乳酸が他の細胞や組織によって酸化されたり、糖新生の基質として利用可能なのは十分確立されている
しかしながら、発酵する細胞の内部それ自体では乳酸がNAD+を補充するために作られて後に外へと分泌されると一般に憶測されている
今回我々は、発酵から生じた細胞質の乳酸が哺乳類の細胞それ自体のミトコンドリアによって代謝される可能性を探求した
その結果、発酵を行うHeLa細胞とH460細胞はその脂質の大部分large percentageを合成するために、外因性の乳酸の炭素を利用することを我々は発見した
高解像度の質量分析を用いることにより、豊富な乳酸からの13Cと2-2H標識labelの両方ともミトコンドリアに入ることを我々は発見した

乳酸脱水素酵素/lactate dehydrogenase (LDH) の阻害剤であるオキサミン酸oxamateは、乳酸中でインキュベートした単離ミトコンドリアの呼吸を低下させたが、ピルビン酸中でインキュベートした単離ミトコンドリアの呼吸は低下させなかった

※乳酸脱水素酵素: NADHを補酵素としてピルビン酸から乳酸を生成する反応を可逆的に触媒する酵素

加えて、透過型電子顕微鏡/transmission electron microscopy (TEM) では 乳酸脱水素酵素B(LDHB)がミトコンドリアに局在することが示された

合わせて考えると、我々の結果は 乳酸の代謝 と 発酵する哺乳類細胞のミトコンドリア との間のつながりを実証する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/41d21c8ebda202f1c0bc582fec4aa5d6
細胞が増殖するためにはアスパラギン酸の合成と、それにより余った電子をミトコンドリアの呼吸で消費しなければならないが、
アスパラギン酸を補うかアスパラギン酸輸送体の過剰発現により細胞はミトコンドリアの電子伝達系がなくても増殖できるようになる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/991a30f257378e25e2ce5b7d9b0a0bf7
癌細胞は血液中の脂肪に頼って生きることが可能である



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/f2c26e0f57a3ab816dc42885092e26cc
非小細胞肺癌はグルコースが欠乏すると代わりにPEPCKでグルタミンを使うようになる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/e66f633e000a98c97c5e8bddfa27ba74
癌細胞は解糖系を阻害するとミトコンドリアに依存するようになる



参考サイト
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3545.html
>実は、がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源として使えないことがわかっているのです。



参考サイト
http://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/726e3003fb519fcd2cb85f55e86226c9



<コメント>
乳酸からの矢印、細胞外に一本線ですね

 

膵臓癌ではγδT細胞とαβT細胞がお互いに争う

2016-09-13 06:06:41 | 
Immune system infighting explains pancreatic cancer's aggression

August 25, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160825130612.htm

なぜ免疫系は、膵臓癌を認識して攻撃するのに悪戦苦闘するのか?
その理由を説明するのは細胞同士の『内輪もめinternal conflict』かもしれない

ニューヨーク大学ランゴンメディカルセンターとパールマターがんセンターを中心とする研究によれば、この内輪もめinfightingを抑えることが膵臓癌の治療をより効果的にするかもしれないという

Cell本誌で8月25日に発表された研究では、免疫細胞の強力なサブセットである『ガンマデルタT細胞(γδT細胞)』がどのようにして『腫瘍を攻撃するT細胞』を妨害するのかについて説明する
γδT細胞による干渉がなければ、αβT細胞のCD4+T細胞とCD8+T細胞は増殖し、ウイルスや細菌を攻撃するのと同じようにして腫瘍を積極的に攻撃する
しかし不幸なことに、免疫系は腫瘍を進行させるγδT細胞を大量に作り出し、それらは膵臓癌の腫瘍に浸潤する

最近の進歩した免疫療法では患者自身の免疫系を活性化させて癌と戦わせるというアプローチが用いられ、CD4+T細胞やCD8+T細胞の影響を加速する
今回新たに発表された研究結果は、膵臓癌では、この種の免疫療法はより厳密に標的を定める必要があることを証明するものだ
γδT細胞を阻止しなければ、CD4+T細胞もCD8+T細胞も機能することはできず、癌の増殖を阻止することもできない

「標準的な免疫療法は膵臓癌ではうまくいかない
それが一体なぜなのか、今回我々はその理解を助ける情報を得た」
首席著者senior authorのGeorge Miller, MDは言う
彼はパールマターの免疫学プログラムの部長headであり、外科部では副部長vice chairで、ランゴンの細胞生物学部では準教授associate professorである

「腫瘍に対する主な防御メカニズムは、膵臓癌では完全に無力化される」


Millerの研究では膵管腺癌/pancreatic ductal adenocarcinoma (PDA) に焦点を当てた
過去20年間に次々と新たな治療が現れてきたことで全ての癌の生存率は劇的に改善したが、どんなタイプの膵臓癌でも診断から5年後に生存しているのは約8パーセントに過ぎない

γδT細胞はヒトのPDA腫瘍で数が多くprolific、T細胞の約40パーセントを占める
このことから、Millerと、そしてランゴンで外科研修医surgery residentのDonnele Daley, MDたちはγδT細胞が膵臓癌の促進において独特な役割を演じるという仮説を立てた

複数のテストの結果、γδ細胞が単独では腫瘍の成長を促進しないことが明らかになった
γδ細胞は腫瘍と戦う他の免疫細胞の作用を妨害していたのである

この発見は免疫系の複雑さをも強調するものだとMillerは言う
膵臓癌の腫瘍がノーチェックで増殖することを可能にするγδT細胞は他の癌、例えばメラノーマやいくつかの腎癌、結腸癌とは戦うことが示されている
様々な癌において全ての免疫細胞が同じ役割を持つわけではなく、時折それらはお互いに邪魔をする


この研究は膵臓癌の診断と治療の開発にとって重要な意義を持つが、Millerは研究結果をヒトに当てはめるのは簡単ではないと警告する
なぜなら、ヒトのγδT細胞を阻害することが可能な既知の薬剤や他の方法が現在まったく存在しないからである

今回の研究でMillerのチームは、膵臓癌を生じさせたマウスの腫瘍のサイズと免疫細胞の量を時間を追って分析した
通常のγδT細胞よりも数を減らした膵臓癌マウスは、通常のγδT細胞を持つマウスよりも平均で1年近くも長く生存し続けた


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.07.046
γδ T Cells Support Pancreatic Oncogenesis by Restraining αβ T Cell Activation
γδT細胞はαβT細胞の活性化を抑制することにより膵臓の腫瘍形成を補助する



Highlights
・γδT細胞はヒトの膵臓癌で非常に優勢highly prevalentである
・γδT細胞を消去するかリクルートを妨害することは膵臓癌において保護的である
・膵臓癌に浸潤するγδT細胞はチェックポイントリガンド(PD-L1)を高レベルで発現する
・γδT細胞はαβT細胞の活性化を不可能にするが、それはチェックポイント受容体(PD-1)との結合ligationを介する


Summary
炎症は膵臓の腫瘍形成で中心的paramountである

我々は独特に活性化したγδT細胞の集団を突き止めた
γδT細胞はヒトの膵管腺癌(PDA)において腫瘍に浸潤するT細胞の40パーセントまでを占める

γδT細胞のリクルートと活性化は、様々なケモカインシグナルによって決まるcontingent
γδT細胞の消去、枯渇、またはリクルートの阻害はPDAに対して保護的であり、Th1に分化polarizationしたαβT細胞の浸潤と活性化が増大するという結果になった
αβT細胞はPDAの結果に対して重要ではないdispensableが、γδT細胞を除去した際の腫瘍からの保護を仲介するものとしては必須indispensableである

PDAに浸潤するγδT細胞は高レベルの『疲弊リガンド/exhaustion ligands』を発現し、それにより腫瘍に対する適応免疫を無効化するnegate
γδT細胞のPD-L1を阻害すると、CD4+T細胞とCD8+T細胞の腫瘍浸潤infiltrationと免疫原性immunogenicityが促進され、腫瘍からの保護が誘導された
このことはγδT細胞がPDAにおける免疫抑制性チェックポイントリガンド(PD-L1)の決定的に重要な源であることを示唆する

我々は新たなクロストークを介して癌におけるT細胞活性化を調節する中心的な因子central regulatorsとしてγδT細胞を記述する



参考サイト
http://www.space-arch.com/medicalcost.html
ガンマ・デルタT細胞療法は1回の投与で33万円が目安です。1セットを6回とした場合、それに初診料と相談料を合わせると、合計で200万円程度になります。



参考サイト
http://www.j-immunother.com/gdt/
実際の治療では、患者さんの血液中に存在する少量のガンマ・デルタT細胞を取り出して、その数を莫大に増やし、攻撃力を強化してから、身体に投与します。


<コメント>
莫大に増やしちゃっていいんですか?



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150330122354.htm
腫瘍によってγδT細胞を介して活性化した好中球は、CD8+T細胞を抑制する
 [腫瘍]─(IL-1β)→[γδT細胞]IL-17─(G-CSF)→好中球─┤CD8+T



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/8e8d593bb231a0d168333508e582e009
膵臓癌を形成する最初の段階でマクロファージが呼び寄せられる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/1492f3dda4c9626a8a679ee8afb11de2
悪性の膵臓癌はマクロファージによる細胞死メカニズムで生き残る



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/241d3b5cee4b852d69f2437d9ce7da18
高脂肪食によってTh1、CD8+T、IL-17産生γδT細胞は増加し、TregとNKp46+CD4-ILCは減少し、Th17は変化がなかった



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/04/150416112826.htm
21歳から41歳の健康な成人52人に4週間の乾燥シイタケを1日4オンス(120グラム)食べさせたところ、γδT細胞の機能が向上し、炎症タンパク質は減少した



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140908121504.htm
鵞口瘡(がこうそう)/口腔カンジダ症(thrush)を防ぐには、γδTCRを持つナチュラルTh17とIL-17が必要
 

元の腫瘍がER+/HER-でも循環腫瘍細胞はHER2+が混在するようになる

2016-09-11 06:06:00 | 
Breast cancer cells found to switch molecular characteristics

Spontaneous interconversion between HER2-positive and HER2-negative states could contribute to progression, treatment resistance in breast cancer

August 24, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160824135041.htm

マサチューセッツ総合病院/Massachusetts General Hospital (MGH) の研究者は、腫瘍の分子的な特徴における自発的な変化spontaneous changesがどのようにして複数の細胞の集団が混合した腫瘍tumors with a mixed population of cellsへとつながりうるのかを明らかにした
その治療には複数のタイプの治療薬が必要になる

Nature誌9月1日号の報告によると、元々はエストロゲン受容体 (ER) が陽性でHER2が陰性と診断され、後に転移が生じた乳癌患者の血液中を循環する腫瘍細胞/circulating tumors cells (CTCs) の中には、HER2が陽性のCTCとHER2が陰性のCTCが混合して観察されたという


「我々はER陽性でHER2が陰性だった乳癌腫瘍患者においてHER2陽性の獲得を観察しただけでなく、
この腫瘍細胞の集団は自発的にHER2陽性とHER2陰性との間を揺れ動き、それが腫瘍の進行と抵抗性に寄与することを発見した」
MGH癌センターのShyamala Maheswaran, PhDは言う

「また、我々は対処が難しいこれらの腫瘍の治療に役立つ可能性がある治療法の組み合わせをマウスモデルで示した」


腫瘍内の分子的な不均一性molecular heterogeneityは近年の癌治療における交絡因子confounding factorになってきており、
腫瘍の成長を刺激する様々な細胞集団のそれぞれ全てを特異的に標的とする、複数の薬剤を必要とするようになっている

今回の研究は、患者個々人の腫瘍で生じるHER2の発現の違いと、その違いがどのようにして腫瘍の成長や治療に影響するのかをさらに調査するためにデザインされた

研究チームは、MGH医用工学センター/Center for Engineering in Medicineが開発したCTC-iChipというマイクロ流体デバイス/microfluidic deviceを使って血液サンプルからCTCを分離した
CTCを分析した結果、ER陽性/HER2陰性と診断されて治療を受けた後に転移が生じた18人の患者のうち16人のサンプルで、HER2陽性CTCとHER2陰性CTCの両方が見つかった

ER陽性/HER2陰性の乳癌患者から単離されて培養されたCTCもHER2発現に関して同様のパターンを示し、腫瘍細胞の中にはHER2を発現する細胞と、HER2を発現しない細胞の両方が存在した


このHER2陽性の腫瘍細胞を詳しく調べたところ、複数の成長シグナル伝達経路でタンパク質の発現が上昇を示した
しかしHER2の発現レベルは『HER2が増幅された原発腫瘍/HER2-amplified primary tumor』で観察されるほど高くはなかった

HER2陰性のCTCはHER2阻害剤に感受性がなかったが、それと同じく、HER2陽性のCTCもHER2阻害剤に反応しなかった

しかし、HER2阻害剤とIGFR1阻害剤(インスリン様成長因子受容体1)とを組み合わせると、HER2陽性CTCに対して毒性を発揮した
対照的に、HER2陰性のCTCでは、Notchという発達経路のタンパク質と、DNA損傷に応答する経路のタンパク質の発現が上昇していた

それらの違いを反映して、HER2陽性CTCはより急速に増殖し、標準的な化学療法薬の治療に応答したが、HER2陰性のCTCは化学療法薬に対して抵抗性だった
しかし、Notchシグナル伝達を抑制することが知られる『ガンマセクレターゼ阻害剤』は有効だった


HER2陽性またはHER2陰性の乳癌腫瘍細胞のどちらかをマウスの胸部に注入したところ、両方のタイプを持つ腫瘍が発達した


HER2陽性の細胞が優勢な腫瘍に対して化学療法薬のパクリタキセルを投与すると腫瘍は急速に縮小したが、その後に多数のHER2陰性の細胞によって再発が生じた
一方、HER2陰性の細胞の方が多い腫瘍にパクリタキセルを投与しても全く効果がなかった

※パクリタキセルpaclitaxel: 微小管重合を促進することで細胞分裂を抑制する


HER2陽性とHER2陰性の腫瘍細胞を混合mixtureさせたもので腫瘍を発生させたマウスに パクリタキセルとガンマセクレターゼ阻害剤を組み合わせて投与すると、腫瘍の再発は著しく遅くなった
このことは、組み合わせによる治療戦略が腫瘍細胞の混合した集団を排除するために潜在的に有用であることを示唆する


「この2つの腫瘍細胞の集団が相互に変換convert back and forthする能力は、両方の集団を同時に治療することの重要性を強調する」
ハーバード・メディカルスクールの外科部で準教授のMaheswaranは言う

「我々はこの相互変換interconversionのメカニズムをすぐに調査する必要がある」


http://dx.doi.org/10.1038/nature19328
HER2 expression identifies dynamic functional states within circulating breast cancer cells.
HER2発現は、乳癌の循環腫瘍細胞の内部に存在する動的な機能状態を明らかにする



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/606dc709be1c901d9b3a52674b3a422a
小細胞肺癌の循環腫瘍細胞は巨大な集合体を自発的に形成し、中心部の酸素が乏しく化学療法に抵抗する



関連サイト
http://dx.doi.org/10.1016/j.trecan.2015.07.006
En Route to Metastasis: Circulating Tumor Cell Clusters and Epithelial-to-Mesenchymal Transition


Tumor-Antigen-Independent Purification of CTCs
しかしながら、このCTC-iChipの限界はその流体動力学が個々の細胞または小さなCTCクラスター(2~4個)を単離することに最適化されていることにあり、さらに大きなCTCクラスターまたは腫瘍微小塞栓tumor microemboliは デバイスには入らない可能性がある
この難題challengeに対処すべく、CTCクラスターを捉えるために特にデザインされた別の微小流体デバイスmicrofluidic deviceが開発された[47]
このクラスターチップはCTCクラスター内の細胞間の結合の強さに依存し、特別にデザインされた微小流体孔に、グループ化された細胞をくさびのように締めつけて動けなくするwedge

EMT in Circulating Tumor Cells
CTCによる間葉系の転写の発現は、患者一個人の癌から得られた癌細胞でも一致しない
そうではなく、上皮対間葉系 の 構成の劇的な移行 は連続的な治療計画sequential treatment regimensに対する応答または進行の機能として明らかである
患者個人から分離されたCTCでは、癌が治療計画に抵抗性になるにしたがって 間葉系が優勢な細胞画分が生じ、出し抜けにprecipitously新しい効果的な治療が導入された時にのみ減少して腫瘍の縮小につながる [3]
これらの観察は、CTCにおけるEMT的な特徴は単にその内因的な浸潤性を反映したものではなく、治療介入によって開始される生存経路ならびに薬剤抵抗性経路によって修飾を受けるmodulatedという可能性を示す
 

p53の突然変異は凝集とアミロイド変換を引き起こす

2016-09-09 06:06:12 | 
Computer simulation reveals p53 weak spots, opens new avenues against cancer

September 7, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160907081721.htm

p53は多くの癌と関連する重要なタンパク質であることが以前から知られている
その主な機能は体内の腫瘍形成を抑制することであり、したがって人体を癌の発症から保護している

しかしながら、p53はファミリータンパク質のp63やp73と比較するとかなり『不安定』であり、それら3つの中でp53は祖先となる無脊椎動物のバージョンから最も逸脱deviatedしている

それら3つのタンパク質は全て、標的となる遺伝子の配列を認識して結合するための領域、つまりDNA結合ドメイン/DNA binding domain (DBD) を遺伝子の配列内に持つ
p53の機能喪失は『不安定さを増すDBDの突然変異』によって引き起こされることがほとんどで、そのようなp53は凝集してアミロイド原繊維/amyloid fibrilを形成する傾向がある
そのような結果はp53の高い不安定性によって説明できるかもしれない

加えて、p53の凝集物はプリオンのようなふるまいをする
つまり、p53の突然変異体は正常なp53分子をハイジャックしてしまい、活性のないアミロイドへと変換する

癌の発症につながるp53突然変異の90パーセント以上はDBDの中に生じるため、それは癌の治療法の開発にとって重要な標的である
しかしながら、p53の凝集してアミロイドを形成する傾向は新たな治療戦略を開発する際の障害である


p53 DBDの安定性、アミロイド形成、凝集の根底にある分子的な特徴をより深く理解するため、リオデジャネイロ連邦大学/Federal University of Rio de Janeiro(ブラジル)のJerson Lima Silvaが率いる研究グループは、マイクロ秒のタイムスケールで分子動力学/molecular dynamics (MD) をシミュレーションした
これは時間経過による原子の正確な動きを研究するために用いられるコンピューターによる手法である

分子動力学によって従来の実験では研究が難しかった生物学的なプロセスを詳細に研究することが可能となり、タンパク質がどのようにして作用するのかについての新たな洞察をもたらし、機能に異常が起きた原因を予測する


Scientific Reports誌で発表された今回の研究で研究グループはp53ファミリー(p53, p63, p73)のDBDの配列と構造を調査し、それらがそれぞれのDBDに同様の配列と構造を持っているにもかかわらず、p53だけが他の2つよりも凝集しやすい傾向があることを示した
研究によると、p53に固有innateの構造的な弱点は 水waterによる攻撃に脆弱な『主鎖の水素結合/backbone hydrogen bonds』が高頻度で外側に露出exposedしていることにより説明されることが示された
対照的に、p63とp73は水素結合がうまく保護されており、水による侵略water invasionに抵抗することが可能で、結果として凝集しにくい

「我々の研究はp53 DBDの不安定性の根底にある分子的な特徴に光を当てた
この新たな洞察は、p53を安定化することでアミロイドを形成しやすい傾向を低下させるという新たな戦略の開発に利用可能である」
研究の筆頭著者であるElio A. Cinoは言う


研究グループは現在、一般的なp53の突然変異によって誘発されるアミロイド形成がどのようにして乳癌や膠芽腫などの悪性腫瘍と関連するのかを調査するための研究を実施しており、p53の凝集とアミロイド原繊維形成を減らす方法として特定の小分子やペプチドをテストしているところである


http://dx.doi.org/10.1038/srep32535
Aggregation tendencies in the p53 family are modulated by backbone hydrogen bonds.
p53ファミリーの凝集する傾向は、主鎖の水素結合によって調整される


Abstract
p53ファミリーのタンパク質はp53, p63, p73からなる

p53のDNA結合ドメインは生まれつき不安定であり、アミロイドを形成しやすい配列amyloidogenic sequenceを持っているため、機能喪失を引き起こすアミロイド原繊維を形成しやすい傾向がある
p53を利用した治療を開発するためには、p53の不安定性と凝集の分子的な基盤を理解する必要がある

光散乱/light scattering・チオフラビンT/thioflavin T(ThT)・高静水圧法/high hydrostatic pressure(HHP)による研究から、
p53 DBDはp63 DBDとp73 DBDよりも早く、そしてより多くの割合が凝集し、
そして変性denaturationに対してより脆弱であることが示された

p53 DBD、p63 DBD、p73 DBDの凝集しやすい傾向は、それらの熱的な安定性thermal stabilitiesと強く相関した

分子動力学/Molecular Dynamics (MD) のシミュレーションでは、p53に独特な『構造的不均質性structural heterogeneity』を持つ特定の領域が指し示され、
それは『露出した主鎖水素結合/exposed backbone hydrogen bonds (BHBs)』の頻度の上昇によって促進される可能性がある

この結果はp53 DBDの内部に存在する構造的な脆弱性を持つ領域を指し示すものであり、p53の安定性と凝集を調整するために標的化が可能であることが判明した新たな箇所が 潜在的な癌治療アプローチになりうることを示唆する


Introduction
DBDの突然変異の多くは 既に不安定labileなDBDの 構造的な不安定化destabilizationを引き起こし、37℃でアンフォールドunfoldしやすくする (6

<コメント>
温熱療法はガンには逆効果?


参考サイト
http://ameblo.jp/miyazakigkkb/entry-11932676465.html
数年前、大学病院に在籍中に温熱療法を放射線科医に依頼したことが数件あります。



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160823141616.htm
TGF-βとRasは変異したp53を抑制するが、それによって別のp53ファミリーであるΔNp63を促進し、腫瘍の成長と転移を刺激する



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/aeaba807e851194228c8705fff017340
最初にp53の『構造化された領域』であるDNA結合領域がBAXに結合し、次に『無秩序な領域』が結合することでBAXを活性化させてアポトーシスを引き起こす



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/34e5b27e92e8d4983240c30d8d5400f2
卵巣癌で変異して凝集したp53を回復するペプチド




関連サイト
http://www.natureasia.com/ja-jp/nchembio/pr-highlights/1168
構造的に不安定化した変異型p53で露出している一部分はタンパク質凝集の核となり、正常なp53のみならず、別の関連タンパク質の機能にも干渉する。



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2eed1af5a640a3c03687d4ce78607041
ベータアミロイドプラークとタウの病的な変換が両方とも必要なマウスモデル



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/4489cc5b1e62d53015ae6308cff85370
α-シヌクレインの凝集しやすい領域はどのようにして保護されるのか



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/f9b6db10eb549c924494cb2a6f74cca2
α-シヌクレインの伝わり方はプリオンとは異なる



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ae5451edbe22e1082bef73eac57a4181
リソソーム内のα-シヌクレイン原繊維はチューブを通じて伝わる
 

ヘテロクロマチンの主な機能はトランスポゾンの抑制

2016-09-07 06:06:48 | 
Tight DNA packaging protects against 'jumping genes,' potential cellular destruction

September 1, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160901125055.htm

ノースカロライナ大学(UNC)医学部の研究者たちは、発達時のヘテロクロマチンの主な機能を明らかにした(ヘテロクロマチンとは染色体内のDNAが固く凝縮した部分のことである)
それによると、ヘテロクロマチンは『トランスポゾンtransposon』と呼ばれるウイルス状のDNA配列の活動を抑えるようだ
トランスポゾンはゲノム中に自己をコピー・アンド・ペーストしながら移動する『ジャンプする遺伝子』であり、重要な遺伝子を破壊して癌などの病気を引き起こすことがある

Genes & Development誌のオンライン版で発表された今回の発見は、この細胞生物学の基本的な特徴の役割を明確にするとともに、ヘテロクロマチンが形成される様々な段階different stepsについての科学的な理解を深めるものだ
そして、その形成段階は癌など多くの疾患と関連がある

細胞がヘテロクロマチンを形成するために使うメカニズムを細かく分析することは、それらの疾患で影響を受けた段階、例えば疾患を引き起こすトランスポゾンがどのようにして細胞内で活性化するのかという段階を、治療として標的にするのを助ける


「トランスポゾンの移動を抑圧することはゲノムの安定性を維持するために必要であり、そのような抑圧は発達時にヘテロクロマチンが果たす主な機能であるかもしれないと今の我々は考えている
これまでヘテロクロマチンは遺伝子の発現や細胞の増殖に関与すると考えられてきたが、むしろトランスポゾンの抑圧がヘテロクロマチンの機能であるようだ」
Robert Duronio, PhDは言う
彼は生物学と遺伝学の教授であり、研究の首席著者senior authorでもある

「この発見は誰も予想していなかった」


クロマチンは本来essentially、細胞内に詰め込まれる際にDNAが形作る『巻かれた構造/spooled structure』である

クロマチンの状態には大きく分けてユークロマチンeuchromatinとヘテロクロマチンheterochromatinという2種類がある
前者の緩んだ構造loose structureは遺伝子の活性とタンパク質のコード化が許された状態であると一般にnormally考えられており、
後者のヘテロクロマチンはそれよりも固く密集した構造で、DNAが凝縮されて詰め込まれているため、遺伝子の活性を抑制すると主にprincipally考えられている

ヘテロクロマチンの中でも最も固くtight最も安定した形態は構成的ヘテロクロマチンconstitutive heterochromatinとして知られ、ほとんどは染色体のくびれた領域/constricted region of chromosomesで観察される(一次狭窄primary constriction)
このくびれた領域は細胞分裂の間の染色体の動きに重要である(動原体。セントロメアcentromereとキネトコアkinetochore)


ヘテロクロマチンには様々な機能があると考えられているが、それらの機能を決定的な実験definitive experimentsによって確かめるのは難しかった
これまでのスタンダードな実験アプローチは「ヘテロクロマチン形成を阻害すると何が起きるのか」を観察することだったが、ヘテロクロマチン形成の引き金を引くプロセスを正確に阻害するのは難しい


今回のモデルでは、ヒストンH3というタンパク質の特定の重要な箇所を化学的に修飾(メチル化)して、ヘテロクロマチンを形成する
原理上、特定の箇所をメチル化できないようにしたヒストンH3変異体mutantで 正常なヒストンH3遺伝子を置き換えればヘテロクロマチン形成は阻害されるはずであり、今回のモデルの重要なテストである

しかしながら、この実験をマウスのような高等動物higher animalで行うことは実際にはほとんど不可能である

「マウスやヒトのヒストン遺伝子には3つの異なるクラスターが異なる染色体上に存在し、特にそれらのヒストン遺伝子クラスター内には他のきわめて重要な遺伝子も存在するという理由もあって、異なる箇所のそれらを遺伝子操作することは非常に難しい」
Duronioラボの大学院生graduate studentであり筆頭著者first authorでもあるTaylor J. R. Penkeは言う


幸運なことに別のスタンダードな研究動物としてショウジョウバエがあり、このハエではヒストン遺伝子のセットがずっと標的にしやすい

「我々が変化させたいと考えるヒストンH3遺伝子はショウジョウバエのゲノムでは1箇所にクラスター化しており、他の重要な遺伝子がクラスター内に存在するということもない
そのため、それら全てを一度で取り除き、変異体のヒストンH3遺伝子で置き換えることが可能である」
Penkeは言う


今回の新たな研究でPenkeとDuronioたちは彼らが去年開発した高度なショウジョウバエ遺伝学プラットフォーム/advanced Drosophila genetics platformを使い、正常なヒストンH3遺伝子からヘテロクロマチン形成を引き起こさせない変異体遺伝子で置き換えた

まず最初に驚いたことは、ショウジョウバエの変異体mutantは成体になる前に全て死ぬことはなく、約2パーセントが生き残ったということである
生き残ったハエの染色体chromosomesではヘテロクロマチンの徴候signsが急激な低下sharp dropを示し、それは特に、通常ならメチル化したヒストンH3タンパク質が集中している箇所だった

さらに、長い間ヘテロクロマチンは遺伝子の活性を調節すると想定assumptionされてきたにもかかわらず、変異体の遺伝子発現はほとんど変化していなかった
ヘテロクロマチンによるDNAのきつい凝縮/tight heterochromatin packaging of DNAが緩んでいた領域でさえ、発現に変化はなかった


しかしながら、変異体では一つの大きな変化が見られた
通常なら強くヘテロクロマチンの状態を示す染色体の領域で、トランスポゾンの活性が急激な上昇jumpを示したのである

トランスポゾンというDNA配列は(トランスポゾンの進化的な起源は曖昧だが植物や動物のゲノムの大部分を占めている)自分自身のコピーを作るというウイルスのような傾向を持ち、元いた場所から自己を切り出してsnip、ゲノムのどこか別の場所に自己を再び挿入する

トランスポゾンの活性増大に加えて、トランスポゾンに対して防御するための鍵となるメカニズムが活性化されているという徴候を研究チームは発見した
つまり、トランスポゾンに結合してその活性を阻害するpiRNAというRNA分子の、前駆体となる転写産物レベルが急激に増加していた

※piRNA: PIWI-interacting RNA「PIWIタンパク質と相互作用するRNA」


トランスポゾンも特定の状況では宿主に有益であると考えられているものの、ほとんどの場合は明らかに有害である
ショウジョウバエ変異体の死亡率が98パーセントであり、生き残ったハエの死亡率も高いことの理由として、DuronioとPenkeたちはゲノムに自己を挿入して重要な遺伝子を分断するトランスポゾンの影響が大きいと考えている

「この種のヘテロクロマチンを引き起こすヒストンH3メチル化の大きな役割は、トランスポゾンが動き回ってゲノムを壊してしまわないようにすることらしい」
Duronioは言う


ヒトのヒストンH3遺伝子はショウジョウバエのそれと非常に似ており、進化によるハエとヒトとの間の大きな隔たりgulfにもかかわらず、その機能は高度に保存されていることが示唆される
これはハエがヒトのヒストンの機能を研究するための良いモデルであることを示唆する

ゲノムが一般にどのようにしてトランスポゾンから自己を守っているのかを理解することは、トランスポゾンと関連する疾患をもっと理解するget a better handleための助けになるはずである

トランスポゾンは細胞に癌性の変化を直接引き起こし、それは例えば腫瘍抑制遺伝子tumor-suppressor geneを分断disruptさせたり、DNAを切断breakして染色体の大部分を不安定にすることによる
血友病hemophiliaなど他の多くの疾患の症例が トランスポゾンによる重要な遺伝子の分断と関連付けられている

「胚や胎児の発達の間はゲノムが正確に複製されており、それは癌などの疾患を抑制するための重要なメカニズムである
ヘテロクロマチンがどのようにしてそのような複製の正確さに関与するのかを、今回のような研究で我々は理解していくだろう」


Duronioのラボは、ショウジョウバエのヒストン遺伝子の研究をさらに進めることを計画している
特に、中心的なクラスターから離れた場所に存在している わずかに異なるヒストンH3遺伝子ファミリーについて調査する予定であり、それらは構成的ヘテロクロマチンconstitutive heterochromatinとは別の役割を持つようである


http://dx.doi.org/10.1101/gad.286278.116
Direct interrogation of the role of H3K9 in metazoan heterochromatin function.
後生動物のヘテロクロマチン機能におけるヒストン3リジン9の役割を直接尋問する

Abstract
ヘテロクロマチンの決定的な特徴defining featureはヒストンH3リジン9のメチル化(H3K9me)であり、ここはヘテロクロマチンタンパク質1/heterochromatin protein 1 (HP1) が結合する箇所である
HP1とH3K9メチルトランスフェラーゼはヘテロクロマチンが適切な構造を取るために必要だが、H3K9がヘテロクロマチンの機能ならびに動物の発達に対して具体的specificにどのように寄与するのかは不明である

ショウジョウバエのヒストン遺伝子を操作するために我々が最近開発したプラットフォームを用いて、H3K9R、つまりリジン(K)をアルギニン(R)に置き換えた変異体のハエを作成し、
H3K9の機能と H3K9メチルトランスフェラーゼのヒストン以外の基質とを 分離した

動原体周辺のヘテロクロマチンpericentromeric heterochromatinでの ヌクレオソームの占有nucleosome occupancy ならびに HP1aの結合 はH3K9R変異体では著しく減少する

※ヌクレオソーム占有の減少: ヌクレオソーム(ヒストンとDNA)が占有する割合が低下する=ヘテロクロマチンのようなヌクレオソームの凝縮した構造が減少する

染色体の構造architectureにおけるこれらの変化にもかかわらず、H3K9R変異体で完全に発達したのはわずかな割合だった
この結果と一致して、タンパク質をコードする遺伝子のほとんどでは、ヘテロクロマチン内の遺伝子も含めて、H3K9R変異体とコントロール群との間で遺伝子発現は同じようなものsimilarだった
対照的に、H3K9R変異体は開放型クロマチンopen chromatinの増加を示し、piRNAクラスターとトランスポゾンからの転写が増加しており、トランスポゾンが移動するという結果になった

したがって、H3K9の発達中の主な機能はトランスポゾンのサイレンシングである



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160225135219.htm
http://first.lifesciencedb.jp/archives/3672
http://first.lifesciencedb.jp/archives/12190
トランスポゾンからゲノムを守るpiRNAはどのようにして作られるか




関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/05/160510143700.htm
結腸癌患者10人を調べると1人でレトロトランスポゾンのL1(LINE-1)が癌抑制遺伝子APCを不活性化しており、その患者は強い家族歴があった
しかし、周囲の組織にはL1がAPCを不活化した証拠はなかった



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160122170934.htm
p53はトランスポゾンを抑制する
 

癌はなぜ肺に転移しやすいのか

2016-09-04 06:06:02 | 
Insights on lung micro-environment explain why cancer spreads to the lungs
Discovery could help overcome metastasis as major obstacle to curative treatment
August 25, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160825130446.htm

Oxygen can impair cancer immunotherapy in mice
August 25, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/08/160825130436.htm

アメリカ国立衛生研究所/National Institutes of Health(NIH)の研究者たちは、肺の内部で癌への免疫応答が阻害されるメカニズムをマウスの実験で突き止めた
肺は多くの癌で転移が共通して起きる箇所である

このメカニズムでは、酸素がT細胞の抗癌免疫作用を抑制する
免疫細胞の酸素を感知する能力を遺伝学的または薬理学的に阻害することにより肺への転移は阻止された

研究を実施したのは国立癌研究所/National Cancer Institute (NCI) の癌研究センター/Center for Cancer Researchに所属する Nicholas Restifo, M.D.と、NCIの同僚、そして同じくNIHの一つの国立アレルギー感染症研究所/National Institute of Allergy and Infectious Diseasesの同僚たちである
この研究結果はCell誌で8月25日に発表された


転移は癌による死因の主な原因である
長い間、癌の転移プロセスには癌細胞の拡散spreadと、拡散する先の環境との間の協力が必要であるという仮説が立てられていた
その環境の鍵となる要素は局所的な免疫系であり、免疫系は侵攻してくる癌細胞を排除するために働くことが可能である

研究者たちは免疫細胞の一種であるT細胞が酸素を感知するタンパク質を持ち、それが肺の内部の炎症を制限するように作用することを明らかにした
しかしながら、酸素は炎症だけでなくT細胞による癌への攻撃も抑制することが示された
それにより肺へと拡散した癌細胞は免疫による攻撃を逃れ、転移のコロニーを形成する


「肺は癌が最も頻繁に転移する箇所の一つなので、
肺には独特な免疫学的プロセスが存在しており、腫瘍細胞が肺に転移を確立する能力をそのプロセスが助けるのかもしれないという仮説を立てた
酸素は肺の局所的な環境要因として一般的pervasiveであり、
我々は酸素が免疫の調節においてどのような役割を演じているのかを調べたいと考えた」
Ph.D. candidateとして Restifoのラボで訓練していたDavid Cleverはそのように言う


研究チームは、酸素を感知するタンパク質のプロリルヒドロキシラーゼドメインタンパク質/prolyl hydroxylase domain (PHD) が
頻繁に肺に入ってくる無害な粒子に対してT細胞が強い過度の免疫応答を起こさないように働くことを発見した
この保護的なメカニズムは、循環する癌細胞が肺に足場を得ることも許容する

さらに、彼らはPHDタンパク質が制御性T細胞の発達developmentを促進することも明らかにした
制御性T細胞は他の免疫を抑制するタイプのT細胞である

PHDタンパク質は炎症性T細胞の発達をも制限し、この種のT細胞が癌の殺傷に関わる分子を作る能力を制限する


PHDタンパク質が腫瘍細胞の肺での成長を促進するのかをテストするため、研究者たちはT細胞がPHDタンパク質を持たないノックアウトマウスを作成した
このノックアウトマウスと通常のマウスにメラノーマ細胞を注入したところ、
通常のマウスには大量の癌性のメラノーマ細胞が見られたが、
T細胞にPHDタンパク質を持たないマウスの肺にはメラノーマがほとんど全く見られなかった

PHDタンパク質が肺での炎症性の免疫応答を抑制するという発見から、
研究者たちはPHDの阻害が『養子細胞移入/adoptive cell transfer』という免疫療法の効能を改善するのかを知りたいと考えた
養子細胞移入とは、患者自身のT細胞が癌を認識して攻撃する能力を利用したものである
養子細胞移入では患者の腫瘍組織からT細胞を抽出して大量に増殖させ、それをT細胞の成長因子と共に患者の静脈内に注入する
T細胞が癌の場所まで戻って除去するのを期待してのことである

研究チームは抗腫瘍T細胞を増殖させる際に『ジメチルオキサログリシン/dimethyloxaloylglycine (DMOG)』というPHDの活性を抑制する薬剤と共に培養した
ラボの実験でDMOGはT細胞の癌殺傷能力を改善し、
転移が確立したマウスへ投与すると薬剤を投与されたT細胞はそうでないT細胞よりも遥かに効率的に癌を除去した

DMOGは、ヒトのT細胞を使った別の研究でも癌殺傷能を改善することが明らかにされている
これらの研究結果をヒトの養子細胞移入による免疫療法に応用した臨床試験がRestifoのグループによって調査される予定である

Restifoは言う
「我々の発見はマウスでのものだが、T細胞の酸素を感知する機構を薬剤、遺伝学、環境的な酸素の調節のいずれかで乱すdisruptionことがT細胞による免疫療法の効能をヒトでも促進するのかどうかをテストしたいと我々は切望eagerしている」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.07.032
Oxygen Sensing by T Cells Establishes an Immunologically Tolerant Metastatic Niche.
T細胞による酸素感知は免疫学的に寛容な転移ニッチを確立する





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<コメント>
酸素が多くても少なくても



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PHD3は足場タンパク質であり、通常はEps15とEpsin1のようなセントラル・アダプタータンパク質と結合してEGFRの取り込みを促進することによりEGFRを制御する
健康な細胞では低酸素になるとPHD3がEGFRを細胞内に取り込むために低酸素下での増殖は抑制されるが、
PHD3が失われた腫瘍細胞では低酸素でもEGFRが取り込まれなくなり増殖は制御を失う
膠芽腫glioblastomaの増殖にとって、PHD3の消去/サイレンシング/プロモーターメチル化は重要な段階


Figure 7
[通常]
 低グルコース/低酸素/成長因子不足 →PHD3↑でEGFR取り込み↓→成長抑制

[腫瘍]
 PHD3遺伝子がエピジェネティックにサイレンシングされる→低酸素でもEGFRは取り込まれない→成長促進
 

なぜ黒質のドーパミンニューロンだけが死んでいくのか

2016-09-01 06:06:44 | 
Parkinson's: How toxic proteins stress nerve cells

October 14, 2014

https://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141014083836.htm

パーキンソン病は神経変性疾患としては二番目に多い病気であり、ドイツだけでもほぼ50万人がパーキンソン病にかかっている
この疾患の主な病巣focusは中脳の特定の領域、つまり黒質substantia nigraであり、ドーパミンを作る神経細胞の変性が進行するprogressive degeneration

疾患の原因は折りたたみに失敗したタンパク質misfolded proteinsだが、なぜそのような損傷が特定の神経細胞に限定されるのかは最近になるまで明らかではなかった
フランクフルト市(ドイツ)の神経生理学者neurophysiologistたち率いる研究チームは、この選択的な疾患プロセスがどのようにして始まるのかをパーキンソン病のマウスモデルを使って突き止めた


パーキンソン病患者の運動障害の主な原因は、黒質substantia nigraの特定のタイプの神経細胞、ドーパミン作動性ニューロンdopaminergeic neuronsが徐々に死んでいくことである
ドーパミンの欠乏はL-dopa(エルドーパ。ドーパの左旋型)やドーパミンアゴニストの投与によってある一定の期間だけ補うことは可能だが、この治療によって進行するニューロンの細胞死が止まることはない


過去20年間で研究者たちは、α-シヌクレインタンパク質の有害な凝集aggregatesやその遺伝子の突然変異mutationsが神経変性で必須の役割を演じることを明らかにしてきた
なぜこのプロセスで黒質のドーパミン作動性ニューロンのような特定の神経細胞だけが影響を受ける一方で、すぐ近くimmediate vicinityで同じ変異体のα-シヌクレインを発現するドーパミン作動性ニューロンはほとんどダメージを受けずに生き残るのかは最近になるまで不明だった

ゲーテ大学神経生理学研究所のMahalakshmi Subramaniam博士とJochen Roeper教授が率いる研究グループは、フランクフルトの実験生理学グループ/Experimental Neurology Groupとフライブルク大学と協力の下、影響を受けやすい/感受性のあるsensitive黒質のドーパミン作動性ニューロンが有害なタンパク質に対してどのようにして機能的に応答するのかを遺伝学的なマウスモデルで初めて実証した
このマウスモデルは、ヒトにパーキンソン病を引き起こすα-シヌクレイン遺伝子の突然変異(A53T)を発現する


Journal of Neuroscience誌での彼らの報告によると、感受性のある黒質ドーパミン作動性ニューロンは、影響を受けた中脳領域では有害なタンパク質の蓄積に対して『電気活動electric activity』を著しく増加させることによって応答していた
対照的に、感受性の低いless sensitive近隣のドーパミン作動性ニューロンの電気活動は影響を受けていなかった

Jochen Roeper教授が次のように説明する
「このプロセスはドーパミン系に最初の欠陥が現れる1年も前に始まる
それはつまり、今にも起ころうとしているimpendingパーキンソン病を臨床前に検出するための機能的なバイオマーカーとして将来利用可能になるかもしれない潜在性potentialを持っている
リスクの高い人たちで臨床前から早くに検出できるという潜在性は、神経保護的な治療の開発にとって必須である」


フランクフルトのグループは調節性のタンパク質、つまりイオンチャネルも突き止めており、このイオンチャネルが電気活動を増加させ、酸化的なダメージに応じて神経細胞に関連ストレスassociated stress(訳注: 電気活動と関連するストレスのことか)を引き起こすことを明らかにした

このチャネルの発見は、ドーパミン作動性ニューロンを保護するための直接的な標的タンパク質を新たにもたらす
脳スライスの実験では、ドーパミンニューロンの『電気的なブレーキelectric brake』として働くこのイオンチャネルの機能不全は、ただ単に酸化還元の緩衝剤redox buffersを加えることによって回復可能reversibleだった

このチャネルの酸化還元への感受性redox sensitivityを治療的な薬剤によって低下させることができれば、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンdopaminergic neuronsの細胞死は防げるかもしれない
それは将来のマウスモデルでの課題である


現在彼らは同様のプロセスが他の『パーキンソン病遺伝子』や加齢そのものでも起きるのかどうかを研究中しているところである
「長期の目標としては、これらのマウスの結果がどの程度までヒトに当てはまるのかを調べることである」


http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.5069-13.2014
Mutant α-Synuclein Enhances Firing Frequencies in Dopamine Substantia Nigra Neurons by Oxidative Impairment of A-Type Potassium Channels.
変異体α-シヌクレインはAタイプカリウムチャネルを酸化的に損なうことによって黒質ドーパミンニューロンの発火頻度を促進する


Abstract
パーキンソン病(PD)はα-シヌクレイノパチーであり、高度に脆弱な黒質(SN)ドーパミンニューロンが選択的に喪失していく疾患である
α-シヌクレイン遺伝子の変異(例えばA53T)はPDを引き起こすのに十分だが、それが黒質ドーパミンニューロンに対して選択的に作用するメカニズムは不明である

我々は変異体α-シヌクレインを過剰発現するマウスモデル(A53T-SNCA)を使い、中脳ドーパミンニューロンにおける黒質に選択的な発火頻度の増大をin vivoで明らかにした
これは腹側被蓋野/ventral tegmental area (VTA) のドーパミンニューロンでは観察されなかった

A53T-SCNAを過剰発現する黒質ドーパミンニューロンの選択的かつ加齢依存的な機能獲得の表現型gain-of-function phenotypeは、Aタイプ Kv4.3カリウムチャネルの酸化還元redox依存的な損傷によって引き起こされる『ペースメーカー頻度の内因的な増加/increase of their intrinsic pacemaker frequency』によって部分的には仲介されていた

この黒質ドーパミンニューロン選択的な『ストレス性のペースメーキング/stressful pacemaking』のin vivoでの促進は 変異体α-シヌクレインに対する機能的な応答を規定するdefineものであり、
『リスクの高いドーパミン系/DA system at risk』をパーキンソン病の神経変性が始まる前に発見するための新たなバイオマーカーとして有用な可能性がある



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/800fdf13417f9b0a80859ee62a0f6f31
パーキンソン病の異常行動を示し始めた年老いたMitoParkマウスでは、ドーパミンニューロンで電気活動を増加させる遺伝子発現が高まった
このマウスではインパルス活性と関連するイオンチャネルのサブユニット(Cav1.2, Cav1.3, HCN1, Nav1.2, NavB3)の発現が上方調節される



関連サイト
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15817478
ドーパミンが自己酸化して形成されるドーパミノクロームはα-シヌクレインの125-129残基(YEMPS配列)との相互作用により立体構造を変化させて微小繊維化を可逆的に阻害し、球状のオリゴマーを形成する



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/00f9bdacc5fee082eb60dda6170341fb
α-シヌクレインのオリゴマーやドーパミンで修飾された形態は高い親和性でミトコンドリアのTOM20に結合してタンパク質のインポートを損ない、ミトコンドリアの老化、呼吸の低下、活性酸素種(ROS)の増加を示す



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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/d60d62606eaf926aade6a5e38f2dc3b8
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