雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のエッセイ「辞世の時」 第七回 滝沢馬琴

2014-01-14 | エッセイ
 ペンネームは、「曲亭馬琴」 、本名は「滝沢興邦(たきざわおきくに)」。 本名の滝沢とペンネームの馬琴をくっつけて、明治以降の出版会社で表記したものであろう。 馬琴の代表作といえば、「南総里見八犬伝」で、47才で執筆開始、75才に完結するまで、なんと28年の歳月が費やされている。 そして、完成の6年後にこの世を去っている。

 馬琴は61才のおりに全部の歯が抜けたと日記に書いている。 1両3分もする入れ歯を入れているが、これは米俵2.5俵分150キログラムに相当し、現在の価格にして約6万円。  入れ歯は、柘(つげ)の木で作られたもので、磨滅するのも早く、何度も入れ替えたことであろうと想像する。

 「南総里見八犬伝」の執筆が終盤に差し掛かった73才の頃に、馬琴は視力を失っている。 医者であった息子に先立たれ、一家の生活を支えるために、息子の嫁の力添えで執筆を続けたが、生活は困窮していった。

   ◆若者か余命を貪(むさぼ)る者に候はばさもあらめ、我極老に至り、医師三昧いらぬ事に候

 病に倒れ、いよいよ死期が近付いた馬琴は、息子の嫁に「過剰医療拒否」の意思を伝えている。

 馬琴の辞世の句である。

   ◆世の中の 役をのがれて また元に 還るは天と 土の人形

 人間の役務(人生)を離れて魂は天に、肉体は土に還る。

 息子の嫁は、馬琴の臨終を次のように記している。

   ◆六日暁(あかつき)、寅の刻に、端然(たんぜん=乱れることなく)としてご臨終(りんじゅう)あそばされ候。

 享年八十二歳


 ◆南総里見八犬伝◆

 結城の戦いで結城側に付き、父と共に参戦して敗れた若武者里見義実は、死を決意した父親と別れて安房国(あわのくに)へと落ち延びる。
 悪政で領民を苦しめていた安房の領主「山下定包(さだかね)」を滅ぼし、安房国滝田の城主になった義実は、隣国の館山城主「安西景連」の攻撃にあう。
 この抗戦で手柄を立てたのが愛犬八房であった。 功績の褒美に八房は伏姫を望み、姫を連れて富山の洞窟にこもるが、伏姫を取り返しに来た許嫁「金碗大輔(かなまりだいすけ)」に八房は鉄砲で撃たれて死に、伏姫も傷を負う。
 連れ帰られた伏姫は妊娠しており、父親義実と許嫁大輔の目前で自決する。 この時、伏姫の首に掛けていた数珠から八個(仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌)の霊玉が空に舞い上がり、八方に飛び散って、犬塚信乃、犬川荘助、犬山道節、犬飼現八、犬田小文吾、犬江親兵衛、犬坂毛野、犬村大角の八犬士の誕生となる。

 金碗大輔は出家してゝ大(ちゅだい)法師となり、八犬士たちを集める旅に出る。 八犬士は霊玉の導きにより次々と出会い、ゝ大法師は八人の犬士をつれて二十数年ぶりに安房の里見義実の元に帰る。
 2006年のドラマでは安房へ向かう扇谷の軍勢六千と、足利成氏の軍勢二千を迎え撃つ里見の兵は無勢。 次々と矢で射抜かれて倒されるその中、颯爽と八犬士が登場する。
 道節の火遁の術、親兵衛の風遁の術などを駆使して、その強いこと見ていて唖然となるくらい。 たちまち敵軍を制圧してしまう・・・が、これは原作とは違うようだ。 ドラマでは、すべての元凶は、以前に里見が滅ぼした山下定包の妻玉梓(たまずさ)の怨念とし、全編妖怪ばなしになっていた。

 伏姫の伏は、人と犬が寄り添うことを顕(あらわ)し、ゝ大法師のゝ大は、犬という字を分解したもの。

 滝沢馬琴の漫画的かつ自由な発想が、さぞかし江戸庶民の興味をそそったであろうことを彷彿とさせられる。

 (以上は個人の感想・想像などが入り、正確なものではありません)

       (原稿用紙5枚)

第一回 宮沢賢治
第二回 斉藤茂吉
第三回 松尾芭蕉
第四回 大津皇子
第五回 井原西鶴
第六回 親鸞上人
第七回 滝沢馬琴
第八回 楠木正行
第九回 種田山頭火
第十回 夏目漱石
第十一回 十返舎一九
第十二回 正岡子規
第十三回 浅野内匠頭
第十四回 平敦盛
第十五回 良寛禅師


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