雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「Youは何しに天国へ」

2015-03-26 | ミリ・フィクション
 若い天使たちが集まって、テレビ番組の企画を練った。
   「パクリのようだが、Youは何しに天国へ というのはどうだろう」
 あまり思慮深い天使が居ないらしく、一人の意見を簡単に受け入れてしまった。新しく天国へ来た人にインタビューして、その人の行動に密着取材させて貰おうというものだ。

 生番組が始まった。第一に捉ったのは、大阪のおっさんであった。
   「Youは何しに天国へ」
 天国へ来て、いきなりマイクを突き出されたおっさんは、驚いた。
   「Youは何しにって、知りません」
   「何の目的も無しに来たのですか?」
   「当たり前ですがな、誰でもそうですやろ、来たくて来たのやおまへん」
   「それが、どうして来てしまったのですか?」
   「へえ、以前から胃の調子が悪るおましてな、医者に診て貰ったら、スキルス性の胃がんで、末期やといきなり告知されましたのや」
   「それで、間もなく天国へ来たのですね」
   「へえ、わしは何も来たくて来たのやおまへんのやで、52歳いうたら、下界では青年だす、まだまだもっとしたいことがおました」
   「どのようなことがしたかったのですか?」
   「あのなあ、スナック青菜のママが美人で独身やから口説いて嫁にしようと思うとりましたんや」
   「あなたは独身だったのですね」
   「へえ、バツ3の独り者だした」
   「これから、何処を回られます」
 大阪のおっさん、「むっ」とした。
   「あんさん、あほと違いまっか、初めて来てそんな宛てなどおますかいな」
   「いきあたりばったりですね」
   「そらそうでっしゃろ、観光のパンフレット貰った訳でもなく、グーグルマップにも天国の地図は出てきやしまへん」
   「そうでしたか、ではこれから どうされます?」
   「どうされます言うたかて、何にも分からしまへん、何なら、あんさんがええとこへ案内しておくなはれ」
   「ニセコみたいにサラサラ雪はないし、景勝地といってもお花畑くらいで、あとは雲ばかりだし、ビーチもカジノもありません」
   「天使の皆さんは、どんな処で遊んでなさるのや?」
   「神様の髪のなかでかくれんぼしたり、花畑で蜜を吸ったり」
   「なんや、蚤や蜜蜂みたいなものですなァ」
   「綺麗な女性ならたくさん居ますよ」
   「ほんまかいな、それをもっと早く言っとくなはれ、花みたいなもの、興味ありまへんがな」

 案内されて来たのは、見渡しても一面は雲海である。
   「綺麗な姉ちゃん、一人も居ません」
   「上を見てごらんなさい」
 一人、ふんわりと降りてきた。
   「わあ、ほんまや、綺麗やわ」
   「そうでしょ、こんな綺麗な女性が、わんさか居ますよ」
   「わんさか? 天国へ来て良かった、綺麗な姉ちゃん、もっと降りてきて顔見せてえな」
 また一人、二人と綺麗な姉ちゃんが降りて来て大阪のおっさんを囲む。おっさん有頂天になって喜んでいるが、ふと気付くと皆同じ顔で同じ容姿である。
   「みんな同じオッパイで、あそこも同じですか?」
   「オッパイもあそこも必要ないので退化しております」
   「無いのかいな、それで何で女性と男性が居るのですか?」
   「それは、下界の名残ですわ、尻尾の名残が尾蛞骨のように」
   「あほらし、わし、名残に囲まれていのかいな」

 天国へやって来た大阪のおっさん、しょうもないインタビューを受けて、しょうもないところへ案内されて、憤慨している。
   「こんなところの何が天国や、雲と花と3Dコピーの美人しかないやないか」
 おっさん、ここを本物の天国にしてやろうと奮起する。
   「こんな邪魔な雲なんか必要ない、全部吹き飛ばしてしまえ。女は花が好きやから、花園には手を着けんとこ」
   「この広い天国を、とびっきりのリゾート地にするのや」
 早速、着手することにした。
   「神さん、大きな図体して、そんなところに胡坐かいて居られたら邪魔ですねん」
 神様にはどこか隅っこに居てもらって、おっさんが注文する建材を出して貰ったり、天使たちの退化したものを復活させてもらったりして貰った。
   「糞ほどたくさん居る天使には、手を貸して貰います」

 トッテンカン、トッテンカンと工事が始まる。天使の一人がおっさんのところへ来た。
   「あなた、こんな勝手な事したら、天国で一番偉い天地創造の神様に怒られますよ」
   「叱るなら、叱ってもらいましょ、地獄へ落とされるなら、喜んで落ちましょ」
   「良いのですか、あの恐ろしい地獄ですよ」
   「構いまへん、構いまへん、わし、地獄の方が性に合うかも知れへん」

 流石は天国である。人介作業で、瞬く間に大規模なリゾート地に変わってしまった。
   「競輪、競馬、競艇、パチンコはおろか、カジノから張った張ったのチンチロリン堵場まである。プール、温泉、競技場、シアター、スキー場に、遊園地、と大阪のおっさんが閃いた、ありとあらゆる施設が出来上がり、「これぞ天国」と、おっさん悦にいっている。

 工事の最中に、忠告に来た天使がまたやって来た。
   「やはり、天地創造の神様がお怒りになっていますよ」
   「ほんなら、わし地獄落ち決定だすか?」
   「はい、直ちに地獄よりお迎えがきます」
   「へー、またもやお迎えだすか」

 やがて、でかい鬼がやってきて、おっさんの両腕を抱えた。おっさんの足、宙ぶらりん。
 
 おっさん、地獄を一まわりして、閻魔大王の前に引き出された。
   「お前か、天国で不埒なことを仕出かしたのは」
   「いいえ、天国があまりにも殺風景やったので、天国らしく変えてやりました」
   「天地創造の神は、余計なことをしやがってと、怒っていたぞ」
   「それは、神さんとも思われまへん、自分の怠慢を棚に上げて、怒るとは何事だす」
   「そうか、天国が殺風景なのは神の怠慢か」
   「そうです、閻魔はん、あんたもそうだっせ、地獄は汚らしいですわ」
   「汚らしいか、それではどうすれば良いのじゃ」
   「へえ、わしに任せておくれますか?」
   「任せてみよう」
   「流石、閻魔はんや、天地創造の神さんより話がわかる」

 ここでも工事が始まる。針の山を削り、血の池地獄を埋め立て、綺麗な更地にすると、そこに次々と建物が建築されていく。
   「ここは、雄大な風俗地帯にします」
 ソープランドに、高級ホストクラブ、ゲイバー、地獄めぐりの観光地、おっさんの好みで遊郭まで再現しよった。
   「さあ、地獄の皆さん、用意は万端だすか? ほんなら、鬼さんに頼んで、天国で観光パンフを撒いてもらいます」
   「そうや、ネットでも宣伝してもらう」

 天国から、おっさんにお達しが来た。神様が更に怒って、おっさんを天国にも地獄にも置いておけないと、生き返らせることにした。

   「神様、それだけは勘弁だす、どうぞ地獄に置いておくなはれ」


 (改稿)  (原稿用紙10枚)


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