本屋の店頭で見つけて衝動買いした本、
「孤独という道づれ」 岸惠子著 幻冬舎文庫 2022年
がとてもよかったので紹介します。
岸惠子といえば、有名な女優さんで、なおかつジャーナリストで小説家でもあり、多方面で活躍している方です。
とても美しい方で、パリに長く住んでいらした、ということくらいしか知りませんでしたが、
御年89歳!
数年前に、彼女が書いた『わりなき恋』という小説を読んだことがあります。
70歳間近の女性が飛行機で隣に座った男性と恋に落ちるというお話。
少々生々しい描写もあって、あまり好きにはなれなかった記憶があります。
まあ、岸惠子のような女優さんならあり得るかもしれないけど、普通の日本の婆さんにはあり得ない話だよなあ、と思ってね。
しかし、今回のエッセイ集を読んでみて、
岸惠子の類い稀な才能は、ただ生まれ持った才能だけでなく、
彼女自身の苦悩に満ちた生涯と、それでも生きようとした努力の賜物である、と納得できたのでした。
24歳で日本を後にして、パリで夫と出会い結婚、娘が生まれ、離婚。
娘を連れて日本に帰ろうとしたら、彼女が父親ではなく母親である、という理由で
日本政府は娘を岸惠子の戸籍に入れることを拒否。
仕方なく、パリに戻って娘が成人するまで一人で育てあげたのでした。
また、彼女の母親の介護のために何度も日本とパリを往復した日々や、
娘や孫と会えない日々の苦悩など、赤裸々に語られているのですが、
何より、文章が流麗で美しい。
語彙が豊富で、エッセイというよりは美しい小説を読んでいるような感じで、次々ページを繰らずにはいられない。
そうした魅力が満載されています。
90歳間近にして、この語彙力は驚異的です。
まだ70代になったばかりの私でさえ、ボロボロと語彙が抜けていき、思い出すのに時間がかかったりします。
それなのに、この流麗な言葉の数々!
そして、エピローグのこの一文にはハッとさせられました。
「受けた傷や、躓きを自分で治すのよ。へこたれないのよ。誰かに頼ったりしないのよ。そんな生活をしているわたしは年を取っている暇なんかないのよ」
また、元夫の言葉を引用して、
「見たことのない人にそのものを見せることはできない。
見てしまった人は、見る前に戻ることはできない」
「わたしは『見てしまった人』なのだ。何を見たかを、これから書いていくつもりでいる」
と締めくくる。
この本は、のんべんだらりと生きている私たちに、カーツ!と活を入れてくれる破壊力があります。
なるほどねえ、暇な時間が人を老化させるって真実かも。
人間、幾つになってもいろんなことに挑戦し、挑戦されもし、
バッタバッタと迫りくる無理難題をなぎ倒していくうちに、
気が付いたらあの世、というのが理想の人生なのかも。
そしてまた、
文章を書くって、力技なのだなあと実感させられました。
言葉を操るのだから、これくらいの力量がないといけない、
ボーっとしてないで、きちんと仕事しなさいッ!
と活を入れられた気がします。
いろんな意味で活を入れられ、目を覚まさせられる本です。
高齢者に限らず、若い人にも一読をお勧めします。
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