ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

「孤独という道づれ」岸恵子

2022-06-03 12:23:49 | 

本屋の店頭で見つけて衝動買いした本、

「孤独という道づれ」 岸惠子著 幻冬舎文庫 2022年

がとてもよかったので紹介します。

岸惠子といえば、有名な女優さんで、なおかつジャーナリストで小説家でもあり、多方面で活躍している方です。

とても美しい方で、パリに長く住んでいらした、ということくらいしか知りませんでしたが、

御年89歳! 

数年前に、彼女が書いた『わりなき恋』という小説を読んだことがあります。

70歳間近の女性が飛行機で隣に座った男性と恋に落ちるというお話。

少々生々しい描写もあって、あまり好きにはなれなかった記憶があります。

まあ、岸惠子のような女優さんならあり得るかもしれないけど、普通の日本の婆さんにはあり得ない話だよなあ、と思ってね。

しかし、今回のエッセイ集を読んでみて、

岸惠子の類い稀な才能は、ただ生まれ持った才能だけでなく、

彼女自身の苦悩に満ちた生涯と、それでも生きようとした努力の賜物である、と納得できたのでした。

24歳で日本を後にして、パリで夫と出会い結婚、娘が生まれ、離婚。

娘を連れて日本に帰ろうとしたら、彼女が父親ではなく母親である、という理由で

日本政府は娘を岸惠子の戸籍に入れることを拒否。

仕方なく、パリに戻って娘が成人するまで一人で育てあげたのでした。

また、彼女の母親の介護のために何度も日本とパリを往復した日々や、

娘や孫と会えない日々の苦悩など、赤裸々に語られているのですが、

何より、文章が流麗で美しい。

語彙が豊富で、エッセイというよりは美しい小説を読んでいるような感じで、次々ページを繰らずにはいられない。

そうした魅力が満載されています。

90歳間近にして、この語彙力は驚異的です。

まだ70代になったばかりの私でさえ、ボロボロと語彙が抜けていき、思い出すのに時間がかかったりします。

それなのに、この流麗な言葉の数々!

そして、エピローグのこの一文にはハッとさせられました。

受けた傷や、躓きを自分で治すのよ。へこたれないのよ。誰かに頼ったりしないのよ。そんな生活をしているわたしは年を取っている暇なんかないのよ」

また、元夫の言葉を引用して、

「見たことのない人にそのものを見せることはできない。
 見てしまった人は、見る前に戻ることはできない」

「わたしは『見てしまった人』なのだ。何を見たかを、これから書いていくつもりでいる」

と締めくくる。

この本は、のんべんだらりと生きている私たちに、カーツ!と活を入れてくれる破壊力があります。

なるほどねえ、暇な時間が人を老化させるって真実かも。

人間、幾つになってもいろんなことに挑戦し、挑戦されもし、

バッタバッタと迫りくる無理難題をなぎ倒していくうちに、

気が付いたらあの世、というのが理想の人生なのかも。

そしてまた、

文章を書くって、力技なのだなあと実感させられました。

言葉を操るのだから、これくらいの力量がないといけない、

ボーっとしてないで、きちんと仕事しなさいッ!

と活を入れられた気がします。

いろんな意味で活を入れられ、目を覚まさせられる本です。

高齢者に限らず、若い人にも一読をお勧めします。

 

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