リッスン・トゥ・ハー

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ほたる

2009-08-03 | リッスン・トゥ・ハー
ホタルは道路まではみ出してくるように、瞬いて飛んでいた。無数の光が点滅し、舞い上がり、舞い降り、その淡い光に照らされて暗闇にふたつの影が見えた。もう見つからないかと思った、と彼女は僕の手を握る言い訳のようにつぶやく。マア見つかってよかったやんか、僕は握り返す。一匹のホタルが僕らのすぐ上を舞っていて、それを僕は目で追い、おそらく彼女も今追っているんだろうと思う。静かな息遣いが風の音にまぎれる。その川は道路を挟んで左右に通っていて、それぞれの側にホタルが舞っているのだけれど、その橋はちょうど車一台が何とか渡れるという幅で、僕はその橋を通り過ぎたところのちょっとした路肩に車を停めていた。降りて、端の欄干にもたれながら、ホタルを見ていた。彼女は僕の手を引き、車が来たら危ないからこっちきて、と川沿いの砂利道のほうへ向かう。彼女の職場の人が駐車場から出てきたところを自動車にはねられ、重症からちょうど一昨日亡くなったところだったから、交通事故を異様に恐れていた。そのくせ、実際に知り合いの誰かが、親戚の誰かが事故にあったということはなく、漠然とした恐れを幼い頃から抱いているのだと感じた。ホタルが頭の上を横切った。風がおくれて吹いてくる。川のせせらぎは、夜空に吸い込まれてしまったのかあまり聞こえない。ホタルは音もなく飛んでいる。点滅し、点滅する。僕がちょうど追っていたホタルが光を失い、再び灯すことをしない。力尽きてしまったのか、単に気まぐれなのか、僕の気のせいなのか、よくわからないが僕は彼女の手をすこし強くにぎりしめた。消えないでね、と彼女の声が聞こえた気がした。

ベッカム下着広告

2009-08-03 | リッスン・トゥ・ハー
なぜそこまでするのか、と言う疑問をその広告を見た誰もがつぶやいてしまう。ベッカムともあろうものが、ベッカムという人を知らない人がいるかもしれないので一応説明しておくと、ベッカムは有名なサッカー選手である。人気、実力を兼ねそろえた第一線で活躍するサッカー選手であり、編み物のプリンスとしても有名である。ベッカムの真骨頂はドリブルをしながら、あるいは編み物をしながらと言う方が正確かもしれない、同時に行い、ボールはゴールに吸い込まれ、編み物は受注先に吸い込まれた。ドリブル中に編み物をしては行けないというルールはどこにもなく、従って誰も見て見ぬ振りを決め込んでいたが、それでもベッカムがあまりにも、編み物に集中するがあまり前線で正座をしている光景をみたとき、さすがにちょっとちょっとと肩を叩くぐらいであった。そのベッカムが下着の広告に出ている。何か大きな意図はあるのだろう、しかしそれはベッカム本人にしかわからないし、本人にだってわかっていないのかもしれない。なんとなくだよ、とかなりの確率で言いそうな気がした。ベッカムはブリーフ一枚で8の字をつくっており、その様は滑稽であった。実に滑稽であった。下着はしっかりと固定され、動くことはない