リッスン・トゥ・ハー

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動物園のシマウマが突然出産

2009-08-08 | リッスン・トゥ・ハー
恋をしたのだ。激しく燃える、しかし誰にも知られることのない密やかな恋を。担当の飼育員にさえ気づかれなかったのだから、立派なものだ。なにせ、担当の飼育員はシマウマのすべてを知る人物、腹の中から、排泄物の状態、表情、皮のつや、その内面のすべてを把握していて、なおかつその交友関係も完全に把握している。それができなければ担当とは言えない。が、その本のわずかな重箱の隅を、アイスピックで突き抜いたような恋だった。飼育員と言えど、檻の中で眠り、排泄し、食事をし、生活を送っているわけではない。家族もいる。ちょうど、担当の飼育員は結婚をし、子どもが生まれたばかりであった。シマウマの世話などしている場合ではない。妻も働いている。乳飲み子をかかえながら、働かなければならない理由は、この不況のせいであった。長い冬の景気のせいであった。と言っても働きに出ているわけではない。内職である。風車を竹にくくりつける内職であった。窓から吹き込んできた風が風車をまわした。実に情緒的である。悲しみを増進させる風景、担当の飼育員はその風景を思い浮かべてふりふり肩を揺らしながら家路を急ぐ。動物園の門をくぐりでればシマウマなど抜け落ちたすね毛ほどの関心であった。そういうわけだから、まあ恋をしていても知らないのも無理はない。シマウマの恋は、したがって飼育員が急いで帰宅する頃はじまった。動物園が静まった頃、檻を飛び越えてくるもの、はいやーと叫び声を上げた人が上に乗っている、彼が連れてきてくれたのだ。シマウマははじめ、何が起こったのかわからない。混乱する、乱暴者がやってきたのかと思う。それからはげしく愛される、シマウマはドMなのでなすがまま。上の人はそのまま、どこか優しげな笑顔を浮かべて遠くを見ている。

兆候把握しながら放置

2009-08-08 | リッスン・トゥ・ハー
かなりの確率で恋に落ちるだろう、と思っていたが、結局何もしなかった。というよりもできなかった。しようとはしたんだ、でもどうしても動かなかった、それはつまりしなかったと言うことと同義。だから放置していたと言われても言い返す言葉もない。まあ、言い返す必要も全くないけど。歩は恋に落ちたのだ。通勤の電車でいつも顔をあわせている女の子に。名前も知らないし、何をしているのかモ知らない。だいたい話をしたこともない。歩が知っていることは、自分と同じ電車でどこかに通っていること。時々読んでいる文庫本はいつも同じ本であること。ただ顔をあわせているだけで恋に落ちるなんて、ずいぶん安易な恋だと思うかもしれない。実際安易極まりないが歩にとっては、一生懸命、突き進むことあるのみであった。歩が、女の子のいったい何に惹かれたのかそれは明確だ。のどである。歩は異性ののどの形を偏愛している。のど、様々な形ののど。は?と天の言葉。