リッスン・トゥ・ハー

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hanabi

2009-08-25 | リッスン・トゥ・ハー
大方通り雨だろうとたかをくくっていたけれど、待てど暮らせどやむ気配すらなくて、雨宿りをしていたジーンズショップの店員も、時々外を気にしてはため息をついている。今日は花火大会で、たぶん恋人だか友だちだかとそれを見に行く予定があって、仕事なんかやってる場合か、とはやる気持ちを必死で抑えているのだろう。雨がさらに強くなる。ジーンズショップには客がおらず、それほど広くない店内に、やはりそれほど多くない品数で、私は何か雨宿りするだけだと悪いかなあと思いつつ、ちょうど雨の様子を見に来た店員さんと目があって、いらしゃいませ、とつぶやいたから、まあ、それじゃ雨宿りのついでに商品でも見せてもらいましょうかと店内に入った。店員はひとりだけで、暇をもてあそばせていたようで、あくびかみ殺して服を折りたたんでいた。もうすぐ止むはずだ、止んだらすぐに、ありがとうございました、とか言っておうちに帰ろう。だけど雨は強くなるばかり。さて、これ以上待っていても仕方ないかもしれない、と思い始めた頃、店員が私に突然話しかけてきた。今日花火大会は見に行きますか。いいえ、行きません。正直に答えたけれど、ちょっと見栄でも張っていくんですよなんていっておけばよかったかなあ。店員はそうですか、といったきり何にも言わなくなった。服を折りたたんでそれほど乱れていなかったけれど何か息が詰まりそうだったから逃げるように。雨の音で何も聞こえない、私の名前を呼ばれたような気がして、だけど、そんなわけないか、あの店員さんは今日はじめて会ったのだし、別に名乗ったわけでもないし、と思い直してもう、店内も十分回ったし見るものもないので、雨を見ていた。強い雨は一本の線のようで、アスファルトに当たって、はじける線が立てる音はとても大きかった。気づくと店員がすぐ横にいて、雨、止みませんね、と独り言のように言った。私は、そうですね、と答えて思いついて、花火行くんですか、と尋ねた。店員は私の方を見ずに、いや、いきません、といった。雨の音にかき消されそうな声だった。雨がつよくなったんだ。

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