リッスン・トゥ・ハー

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隣にある!

2009-08-07 | リッスン・トゥ・ハー
メガネがないと、父が言い出したのは2日前、最初はいつものうっかりかと軽く考えていたが数時間経つ頃にはこれはただごとではないと家族皆、得体の知れぬ恐ろしさを感じていた。父に対して?メガネに対して?それを見守る自分たちに対して?父は探し続けた。飽きもせず、向かいのホーム、路地裏の窓、そんなとこにいるはずもないのに。昼夜を忘れ、仕事を忘れ、食うことも、家族も忘れ、没頭した。父の頭にはメガネのことしかなかったのだ。それほどまでにメガネのことを考えるフランス人がいただろうか。メガネ冥利につきるだろう、たとえどのような状態でいるとしても、これほど思われているのであれば本望、崖から落ちそうになっていたとしても悔いはない。そして2日が経過しなお父はメガネを求めて四つん這いでちょこちょこうごめいている。時に気づいた、ある!隣にある!私のすぐ隣にある!ここは探さなかったのか父、初老、フランス人、生粋の青い目、ああ私は、父に避けられていると言うことか。これは、絆を取り戻す家族の物語である。