夏木広介の日本語ワールド

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天皇陵の発掘に関する宮内庁の考えは間違っている

2010年12月13日 | 歴史
 宮内庁が管理する天皇陵と称する陵墓の発掘は許されていない。理由は「現在の皇室の祖先が葬られ、今も祭祀が行われている墓である」にある。尊崇の対象だから、静安と尊厳の保持が何よりも優先されねばならない、と言うのである。
 その理由は一面では正しい。しかし日本の古代史に関してはあまりにも謎が多過ぎる。なぜなら、伝えられている様々な歴史書には間違いが多いので、正しい歴史書を作る必要があると言って作られたのが『古事記』であり『日本書紀』だから、そこには当時の皇室の自分達だけが正統な存在である、との勝手な思いが充満している。そこで、対立するあるいは並立する様々な権力の存在を認める歴史書は抹殺された。だからこれらの歴史書に古代史の真実が存在している訳が無い。
 けれども、陵墓には嘘は無い。陵墓は雄弁に事実を物語る。従って、本当に真実の古代史を追究するなら、そうした陵墓の発掘は避けて通れない。
 そして、先の一面では正しかった理由は、次の事情で正しさが減殺されてしまう。それは宮内庁の陵墓の指定は正しくない、との理由である。
 最近、奈良県明日香村の牽牛子塚(けんごしづか)古墳が斉明天皇と娘の間人(はしひと)皇女の合葬墓であるとの見方がより強まっている。同古墳の隣の古墳(越塚御門古墳と命名された)が斉明天皇の孫の大田皇女の墓である事が有力視されているからだ。『日本書紀』には、斉明天皇と間人皇女を合葬した墓の前に大田皇女を葬った、と書かれていて、今回の発見と一致している。
 これに対して、宮内庁はここから約2・5キロ離れた車木ケンノウ古墳と近隣地を斉明陵、大田皇女墓として指定している。これに関しては、新聞の記事には、それが『日本書紀』の記事とどのように合っているのか、合っていないのかの言及は無い。多分、根拠が無い指定なのだろう。

 今回の発見は宮内庁の指定があまり確たる根拠が無く行われているらしい事の一つの証拠になるが、これ以外にも数多くの天皇陵が単なる言い伝えを根拠にして指定されていると言われている。つまり、宮内庁は何の根拠も無く、古墳の発掘を拒否している事になる。
 たとえ、先祖の墓として今も祀られているとしても、その発掘が先祖の尊厳を損なうとは思えない。もしも発掘が尊厳を損なう行為なら、徳川家の将軍の墓の発掘をした徳川家の子孫達はとんでもない事をした連中だ、と言う事になる。しかしそんな事は無いのである。そしてその発掘で様々な新事実が判明したのである。
 皇室の宗教である神道では死者はその家を守る神となる。その神としての存在こそが祀られるべき存在であり、その白骨が祀られている訳ではなかろう。それに発掘は墓を暴くのでもなければ、盗掘をするのでもない。純然たる学問的発掘に何のやましい事があろうか。
 理不尽な拒否を続けていると、宮内庁は皇室に不利な何かが発見されるのを恐れているのではないか、としか思えなくなる。新たな何かが発見されなくても、古代において、皇室の系統には不自然な点があるのは周知の事実である。その一つが継体天皇にある。更には大和朝廷以外にも日本には大王の存在があった事は、学者が認めようが認めまいが、中国大陸の歴史書が完全に証明をしている。
 だからこそ、天武天皇は自分達が正統である事を主張しようと、歴史書の編纂を命じたのである。
 先祖の尊厳や宗教的理由を持ち出して、我々日本人全員の歴史に勝手に幕を引いたり、隠したりする事は許されない。もっともらしい理屈を付けて古墳の発掘を拒否するのなら、宮内庁は、天武天皇が様々な歴史書を抹殺した責任を取るべきではないのか。それが全日本人に対する正しい責任の取り方だと私は思う。