議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

束ね法案と一括審議(再掲)

2017-09-10 | 雑感
今月下旬にも召集される第194臨時会では、労働基準法等の一部を改正する法律案が最大の与野党対決法案になるのではないでしょうか。

今回のエントリーで詳細は割愛しますが、同法案は行政権である内閣から立法権たる国会に対して、これまで何度も取り上げてきた「束ね法案」の形式で提出されるのではないか、との報道がなされています。

今回は、2年以上前のエントリーを改めて紹介させていただきます。

「束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日

今回は、普段は滅多に書かないようにしている個人的な思いを、あくまで立法府に身を置く議会人の立場で、少し書いてみたいと思います。

よって、今回は、議院規則でも国会法の紹介でもありません。ただ、このブログの今のルールである、個別の政策の是非については触れないこととします。

昨日、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案(安保関連法案)が、内閣から国会に提出されました。このニュースは、詳細の内容はともかく、多くの方がご覧になったことと思います。

提出された法案は、計2本で、その内訳は、1本が改正法案、もう1本が新法です。

ただ、改正法案の方は、10本の既存の法律の改正案を1本にまとめている、いわゆる束ね法案となっています。

政府・与党の立場から見れば、10本の重い法改正を1本の法案に束ねることで、審議の迅速化を図ることが可能です。

少し具体的に説明します。

今回の法案を個別に提出した場合、1本1本が議論を呼ぶ改正内容を含んでいますので、法案審議のプロセスを10回繰り返さねばなりませんが、これらを1本に束ねることで、趣旨説明~質疑~討論・採決・附帯決議の流れを1回で終わらせることが可能となります。

さらに、今回は、もう1本の新法と併せて一括審議(2本の法案をまとめて審議)する予定ですので、立法府における審議の流れは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議の流れと同じで済むのです。

他方、慎重審議を求める野党の立場から見れば、大別して2つの問題があります。

1つは、上記の政府・与党の立場と真逆の問題です。

今回の提出法案は2本ですが、うち1本は束ね法案であり、さらにいえば、新法のもう1本と併せて一括審議となることが見込まれています。本来であれば、所管委員会は複数に跨るものがまとめて審議されてしまうだけでなく、上述のとおり、法案審議のプロセスは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議と変わらないため、充実審議を求め続けても、限界があると思われます。

慎重審議を求める野党の立場からすれば、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案を、限られた審議時間で、しかもいわゆる後半国会になってから提出された法案の審議を一国会で終えてしまうことに、慎重であるはずです。

となると、先日紹介した「会期不継続の原則の例外」に基づき、継続審議を求めることも考えられますが、与党側が審議を途中で打ち切る手法も国会ルールの中にあるのです(このルールに関しては機会を見て、別途紹介したいと思います)。

もう1つは、法案を束ねたことによる賛否の判断の困難さです。

野党の中でもそれぞれの立場があると思われます。仮に、束ねられた10法案のうち、数本なら賛成できるかもしれない、もしくは修正を加えれば賛成に回れるかもしれない、という内容が含まれているとします。

個別に法案が提出され、これらが一括審議の扱いになっていれば、採決は個別となりますので、それぞれの法案に対する態度を表明することが可能です。

しかし、今回は、10本の改正法案が1本に束ねられて国会に提出されました。

束ねられた10法案のうち、1本でも絶対に看過できない内容が含まれていれば、賛成することは出来ないものと考えられます。なぜならば、束ね法案の場合、どれだけの数の法案の改正が含まれていようとも、外形上は1本の法律案であるため、採決は1回のみとなるからです。

慎重審議を求める野党の立場から見ると、束ね法案に含まれた、それぞれの法案に対する個別の意思表示の機会が封じられているのも同然です。

先日紹介した日本国憲法における三権分立の観点に立てば、国会(立法権)は、内閣(行政権)の下請け機関ではないはずです。

ただ、今回は一刻も早い法案成立を望む内閣(行政権)の意向を色濃く反映した国会(立法権)への法案提出の側面は、どの立場に立とうとも、否定しきれなのではないかと考えられます。

私は立法府に身を置く議会人のひとりとして、かねてから、束ね法案や一括審議に見る問題意識を有していますが、なぜ問題なのかという点について、次回、具体事例を交えながら書いてみたいと思います。

束ね法案と一括審議-その2
束ね法案と一括審議-その3
束ね法案と一括審議-その4
束ね法案と審議時間
第190回国会における束ね法案-その1

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