壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

シナリオを作ってみました(2)

2011年08月09日 | 

ビルの谷間。携帯電話を手にする浩一。
田舎のすずの家。心配げに、受話器の向こうに意識を集中するすず。

浩一「う、いや、じつは……」
すず「どうしたね」
浩一「実はね、母さん、クルマを運転していて事故ってしまって……」
すず「剛司、お前、いつ免許、取ったんね?」

浩一、あわてる。
すず、何となく、オレオレ詐欺でないか、と気付くが、頼りなげな相手に騙された振りをして、少し話を聞いてみよう、という気になる。

浩一「いや、あの、友だちの車に乗せてもらってて、ちょっとケガして……」
すず「大丈夫なんかい? あんたも友だちも?」
浩一「う、うん」

タイトル『○○○○○』(テーマ音楽)

すず「どうしたね?」
浩一「いや、あの、その……。自動車部品メーカーなんだけど、オレの担当の会社で、借金の返済が止まってしまって」
すず「それで、どうしたね?」
浩一「それでって、オレの担当の……」
すず「それで?」
浩一「この3カ月、返済がなくて、100万ばかり溜まってて。何とかしてくれないかな?」
すず「……」
浩一「……」
すず「よかね、用意しちょる」

驚く浩一。

すず「その代わり、振り込みはせんね。農協まで遠いから。あんたが取りに来んね。今週末、銀行は休みだろ。山田錦駅で待ってっから」
浩一「山田錦駅って言われても……」
すず「忘れたんかね。全然帰ってこんから。ほら、播州線の終点の」
浩一「あ、あああ、ああ……」

インターネットカフェ。播州線の山田錦駅を調べる浩一。
すず宅、仏壇。亡き夫の遺影に向かって。すず「なんかオモシロかことになりそよ」

週末、無人の山田錦駅。播州線は単線。ボストンバック一つの浩一が立つ。

浩一「ちぇ、何もないよ」
すず、現れる。
浩一、気付く。
すず「剛司、よく帰ってきたね。まずは父ちゃんに報告たい」
戸惑う浩一。その浩一の手を引いて、すず、家へ向かう。

すず、自宅。仏間。チーン。
仏間の並びの茶の間。ちゃぶ台に手料理がたくさん並んでいる。

浩一「あの……、おれ、剛司じゃあ……」
すず「分かっちょる。それ以上、言わんでよか。それより、たんと食べね。あんたの好物ばっかよ」
浩一「は、はい」

浩一、おずおずと食べる。そのうちガツガツと。

すず、給仕をしながら、過去を振り返り、独り言。「18んとき、いきなり東京行くなんて言い出して。それっきり。なーんも一人でできんやった子が、独り立ちしたんだからねぇ。親冥利に尽きるね、うれしかね」
浩一、聞きながら、黙々と食べる。

都会、しゃれたバー。四菱銀行男性と、木村証券女子の合コン。剛司、楽しそう。

すずの家。洗い物をする浩一。
すず「男が台所仕事なんか、するもんでなかよ」
浩一「いいから、母ちゃんは休んでてよ。おれ洗うから」




シナリオを作ってみました(1)

2011年08月08日 | 

矢崎浩一(26歳)、自動車部品メーカーの期間工
山田すず(60歳)、農業、ひとり暮らし
山田剛司(26歳)、メガバンク勤務

6畳一間のがらんとした部屋。家財道具なし。浩一、右手にした通帳を見る。残高2万6,833円。左手にした「雇用契約不継続通知」を見る。「諸般の事情により契約通り9月30日の期間満了とし、契約は不継続……」。

浩一「は~あ~。3年もまじめに働いてきたのに。通知一枚だ。これから、どうして生きていくかな~」

浩一、通帳と通知をボストンバックにしまい、部屋を出る。建物の玄関に「○○工業株式会社 独身寮」の看板。昼の休憩時間。事務所に数名の従業員。

浩一「お世話になりました」
一同、申し訳なさそう。「たっしゃでな」「元気でな」などボソボソ声が上がる。

工場街の中の一本道。駅を向かって、背中を丸め、とぼとぼ歩く浩一。
タイトル『○○○○○』(テーマ音楽)

地方の畑。すずが鍬を振るっている。
すずの家。仏壇に、夫の遺影。

すず「あんたが逝って3年になるね。東京の大学にやった剛司が、大きな銀行に就職した、これで安心できるって喜んだ刹那、コロっと逝くんだもんね」

チーン(鉦の音)

ビルの谷間。浩一、携帯電話を手にする。掛けようか、掛けよまいか、逡巡する。

浩一「もしもし、オレ、オレだけど」
相手「オレって誰ね?」
浩一「オレだってば」
相手「あんた詐欺ね、え、そうでしょ。警察呼ぶわよ」(ガチャン)

これで3トライ目。自分のバカさにいい加減あきれるが、取り直し4回目。

浩一「もしもし、オレ、おれだけど」
すず「あんた、剛司かい?」
浩一「?」
すず「剛司なんだろ? 元気でやってるかい? 全然連絡してこないから、心配してたんだよ。銀行忙しいんんかい?」
浩一「う、うん。まあ。ぼちぼち」
すず「たまには連絡してこんね。父ちゃんが逝ってから、初七日に帰ってきたきりで、四十九日も盆も正月も帰ってこんね」
浩一「う、うん……」
すず「どうしたね? いつもの剛司じゃなかみたいよ」

言葉に詰まる浩一、心配げに受話器の向こうに注意を集中させるすず。

都会の銀行のオフィス。スーツ姿の剛司。胸には四菱銀行の社員証が光っている。颯爽と働く。

■以前から温めていたシナリオです。「つづく」


ハーモニカ横丁 吉祥寺

2010年12月09日 | 
こんばんは。のれんをくぐり、引き戸を引くと、なかは山小屋風。女性の一人客が、どうぞ、というしぐさで奥を示してくれます。狭い店内を進み、カウンターの一番奥の席に着きました。「ちょっと待っていてくださいね」と女性客。ほかには、男性の一人客が2名。みな常連のようで、親しげに話をしています。

しばらくすると、トイレかどこかに行っていたのでしょうか。70代と思しきおばさんが、カウンターの中に戻ってきました。

昨夕、吉祥寺(東京都武蔵野市)で仕事が終わり、初めて立ち寄ったハーモニカ横丁でのこと。戦後のヤミ市起源の横丁で、多くの飲み屋が軒を連ねています。いずれ行きたいと憧れていた横丁です。最近は若い経営者が始めるおしゃれな店も増えており、どの店に入ろうかと、しばらくうろうろ。小魚がアンコウのチョウチンに誘われるよう、その赤提灯に入ったのです。

店を入るとき、低い梁に、ゴツンと頭をぶつけました。「店の構造を知らない、いかにも一見客、恥ずかしい」。そんな思いも、お湯割り3杯を飲むうちにどうでもよくなりました。帰り際、「いや、お恥ずかしい」というと、「常連でもぶつけるんですよ。きっといいことありますよ」と女性客。なにかいいことありそな予感です。


ある酒場にて

2010年07月09日 | 
「はい、と元気よく返事するもんだ」「かわいそうだよね」

カウンターの隣席にいる、お客さんが言いました。地域の祭りのかしらです。

オレが「タバコ買って来てくれ」と、下のやつに頼むでしょ。すると、内心はイヤでも「はいっ」て元気に返事をするもんだ。すると、その姿を見ている、もう一回り下のヤツは、「いや、僕が行ってきます」となるんだ。普通は。

そうやって、組織や秩序は守られると言っているんですね。ちょっと感動しました。

オレたちゃ、そうやって上の代から教わってきたんだ。ところが、こいつら(と一回り下の後輩を見て)には下がいない。かわいそうだよね。

たかが村祭りでありません。

企業だって、失われた10年で採用を絞り、世代の断絶、文化の継承の危機を経験しています。いま再びの不景気です。同じ轍を踏むのでしょうか。であれば、あまりに悲しいことです。