ビルの谷間。携帯電話を手にする浩一。
田舎のすずの家。心配げに、受話器の向こうに意識を集中するすず。
浩一「う、いや、じつは……」
すず「どうしたね」
浩一「実はね、母さん、クルマを運転していて事故ってしまって……」
すず「剛司、お前、いつ免許、取ったんね?」
浩一、あわてる。
すず、何となく、オレオレ詐欺でないか、と気付くが、頼りなげな相手に騙された振りをして、少し話を聞いてみよう、という気になる。
浩一「いや、あの、友だちの車に乗せてもらってて、ちょっとケガして……」
すず「大丈夫なんかい? あんたも友だちも?」
浩一「う、うん」
タイトル『○○○○○』(テーマ音楽)
すず「どうしたね?」
浩一「いや、あの、その……。自動車部品メーカーなんだけど、オレの担当の会社で、借金の返済が止まってしまって」
すず「それで、どうしたね?」
浩一「それでって、オレの担当の……」
すず「それで?」
浩一「この3カ月、返済がなくて、100万ばかり溜まってて。何とかしてくれないかな?」
すず「……」
浩一「……」
すず「よかね、用意しちょる」
驚く浩一。
すず「その代わり、振り込みはせんね。農協まで遠いから。あんたが取りに来んね。今週末、銀行は休みだろ。山田錦駅で待ってっから」
浩一「山田錦駅って言われても……」
すず「忘れたんかね。全然帰ってこんから。ほら、播州線の終点の」
浩一「あ、あああ、ああ……」
インターネットカフェ。播州線の山田錦駅を調べる浩一。
すず宅、仏壇。亡き夫の遺影に向かって。すず「なんかオモシロかことになりそよ」
週末、無人の山田錦駅。播州線は単線。ボストンバック一つの浩一が立つ。
浩一「ちぇ、何もないよ」
すず、現れる。
浩一、気付く。
すず「剛司、よく帰ってきたね。まずは父ちゃんに報告たい」
戸惑う浩一。その浩一の手を引いて、すず、家へ向かう。
すず、自宅。仏間。チーン。
仏間の並びの茶の間。ちゃぶ台に手料理がたくさん並んでいる。
浩一「あの……、おれ、剛司じゃあ……」
すず「分かっちょる。それ以上、言わんでよか。それより、たんと食べね。あんたの好物ばっかよ」
浩一「は、はい」
浩一、おずおずと食べる。そのうちガツガツと。
すず、給仕をしながら、過去を振り返り、独り言。「18んとき、いきなり東京行くなんて言い出して。それっきり。なーんも一人でできんやった子が、独り立ちしたんだからねぇ。親冥利に尽きるね、うれしかね」
浩一、聞きながら、黙々と食べる。
都会、しゃれたバー。四菱銀行男性と、木村証券女子の合コン。剛司、楽しそう。
すずの家。洗い物をする浩一。
すず「男が台所仕事なんか、するもんでなかよ」
浩一「いいから、母ちゃんは休んでてよ。おれ洗うから」