金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

すあし9

2012-07-02 22:56:29 | APH
すあし9

 歩き方が変わられました。
ゆっくりした口調で巫女が話しかける。
「そうですか」
桜はさらりと答えた。そのまま巫女を待たずにすたすたと本殿に入る。
巫女は口中にため息を漏らす。
宝珠様はどうかしてしまったのだろうか。
ほんの少し前、あの敗戦の前あたりまでは宝珠様はほとんどここにいらっしゃれたのに。やはり、江戸などに行かれたのが良くなかったのだろう。

巫女の嘆きを無いものとして、桜は本殿に入るとそのまま奥に抜けた。

そこには神社にしてはふしぎな物がある。真新しいレンガの家。グリム童話の挿絵にがそのまま置かれたような小さな家。

すあし8

2012-06-03 12:13:15 | APH
すあし8

 白い着物の桜がいる。
ちいさいなとドイツは思う。東洋人は小さい者が多いが特に日本は小さい。だが、それだけだった。ドイツの視点では桜はただ、小さく弱い存在というだけである。
 夢の場面が変わる。
 兄だ。兄が見つめている。兄の瞳に白い桜が映る。兄の瞳の中、白い桜は紅に染まる。
 否とドイツは叫んだ。
 その声で目が覚めた。
 あ、声が出た。
 同時に襲ってくる自己嫌悪感。その現象は男子の健康な生理にすぎない。しかし、。

 桜が帰国してくれて良かった。ドイツは思う。あんな夢を見た後で、彼女の顔をまともに見る自信が無い。
 兄が何もしないので、まだおかれたままになっている桜の荷物。ドイツは日本に連絡しそれを郵送した。



 

すあし7

2012-05-27 21:57:43 | APH
 すあし7
 納得できない人は山ほどいるが、やはりダントツでドイツをあげるべきだろう。なぜ急に帰国したのか?自分が寝ている間に何かあったのか、まさかとは思うがなにしろあの場には世界の愛欲担当たるフランシスがいた。当人は愛の国とかほざいているようだが、もしや桜に不埒なまねをしたのではないか。そんなことがあっては自分を信頼して妹を預けてくれた日本に顔向けができない。いや、兄がいたのだしそういう事態は無いと思うが。
 しかし、それではまさか、兄が桜に不純異性行為を働いたのではないか?
考えると同時にそれだけは無いとドイツの理性が否定する。愛弟子の妹たる桜は兄にとっては妹も同然である。
 だが兄も酔っていただろう。そして桜はかよわい少女だ。兄がその気になれば簡単に取り押さえ意のままにできる。ドイツは考えてしまった。ついまじめに考えてしまった。
 桜は小さい。細い。淡い。手首なぞドイツの半分も無いだろう。兄好みのさらさらでふわふわで。兄にかまわれてちょっと困ったようにでも楽しそうに笑っている顔を思い出す。
 
 桜がドイツに来てから1年もたっていない、それも桜はベルリンではなくボンにいたため顔を合わす機会もそう多くない。その多くない記憶のなか桜はいつも兄にかまわれていた。
 いつもは兄からかまわれている愛犬たちがさみしそうにするほど、兄は桜から離れなかった。それはまわりへの牽制もあるようだが、兄自身が桜を離したくないようなのだ。溺愛という言葉が自然にうかんでくる。
 その割には桜の帰国に対して兄は落ち着いている。電話はしているようだがとくに問い詰めたりもしていない。電話の内容も相変わらずの童話の読み聞かせであるらしい。
 よくわからないなとドイツは思う。兄が桜を好んでいるのは理解できるが、それはどういう領域なのか。
そんなことを深く考えているせいか夢を見た。夢の中の桜は白い着物姿で、兄はもう袖を通すことの無いプロイセンブルーの軍服だった。

すあし6

2012-04-27 13:42:37 | APH
すあし6

 いきなり帰国しました。と言われて納得する人は少ないだろう。特に今回、本田桜の帰国には誰一人納得できなかった。

 まずはちょっと意外な人から例示しよう。
 カナダである。あまり知られていないがカナダの誕生日は7月である。大抵の国と同じくカナダも誕生日は国を挙げてお祝いする。外国の観光客もたくさん来るし、高級ホテルは予約で埋まる。
 国の化身には様々な特権がある。高級ホテルの利用権もそのひとつだが、今までカナダはその特権を使ったことは無い。ところが今年は早々にそれを予約した。しかも最高級のスイートルームを、ダブルで7日間である。
 報告を受けたカナダの上司は(スローペースのうちのお国様もようやくそういうお付き合いをする相手ができたのだな)と喜んだ。ところが予約は取り消されてしまった。
 それをさりげなく上司が問うと、カナダは答えた。
「今年は一緒に桜を連れて行くからと聞いたから予約したんです」
 「ギルベルトさんも来てくれないかもしれない。本田さんどうして急に帰国させたのか、・・・アルフレッドなら聞いているかもしれないけど」
 後半の言葉はつぶやきになったが上司はしっかり耳にした。
(はて、うちのマシューの楽しみにしていた相手はどういう者なのか)
相手が国家でなく州や県レベルでそのために気を使っているのなら、国賓ではなくても別の名目で招待してもいい。かわいいマシューの大事な相手ならカナダ政府としては大歓迎である。
 数ヵ月後、本田桜あてにカナダ政府から届いた招待状に「油断しました」とつぶやいたのは菊。妹を変化させたのはてっきりフランスかギルベルトかと思っていたのに、まさかカナダとは!!!「許しませんよ」黒くつぶやく日本。妹の桜がそもそも個体としてのカナダを認識していない事に気が付くまで、菊はカナダ産のサーモンを食べなかった。


 さて、数ヶ月先の話はともかくとして、宴会の翌日に戻そう。
 もちろん一番納得できないのはギルベルトである。桜が連れ去られてすぐ菊に連絡している。と言うのも桜は庭に出ているところをいきなり連れ出されたので携帯を部屋に置いたままだった。
 「おい、どういうことだ」
師匠時代の強い口調で問われた菊は、おもわず八橋無しの答えを返してしまった。
「わかりません。でも私には桜が要るんです」
弟子の言葉で心情面での原因を察したギルベルト。それは兄であり修道会でもあるギルの察しの良さである。
 それでも直接のきっかけがあったはず、というわけでフランシスはギルとトーニョにダブルでぼこられた。

すあし5

2012-04-20 19:59:47 | APH
すあし5

 フランシス以外の男達はなぜこんなことになったのかなどは気にしていない。
当事者の桜は感覚の波に揺らぐだけでせいいっぱい。もうおぼれかけている。唇が震える。Aの形に開かれる。
 お、いいな。そう思ったフランシスは携帯を出して、写真を1枚。それをすぐ添付して菊に送ってやった。




 結果を先に書けばこのメールを見た菊は真っ青になって、官邸に夜間訪問。
 わけがわからず鯉のように口をぱくつかせるばかりの総理に命令書を突き付けてサインさせる。翌日、スペインの日本大使館員が高級車で乗りつけ、口を開く暇もない国たちをしりめに桜をさらい帰国させた。


すあし3

2012-02-13 02:30:52 | APH
すあし3

 熱い冷たい海が伝わる
ぱしゃり。水の音がする。その音に桜はうっかりと目を閉じた。すると自分がどこにいるのか、どういう状況なのかを忘れた。産まれたときの記憶。両足が暖かい水に浸り、この地のモノになるとわかった始まりの記憶。それが今の感覚とつながる。

 もう少し時間があれば、桜の表情の異常さに彼女に触れている男たちは気がついただろう。この時、冷たい手の男は桜の足の爪の内側を優しくなぞるのに集中していた。桜本人の手さえめったに触れないそこは、湯につかっていたせいもあり湿っていた。爪の堅さといつも守られている皮膚のたよりなさに同時に触れて、体温の低い男はそれを新しい感覚として認識した。一方でスペインは赤くなっている桜の肌にオリーブオイルを塗りこんでいた。暖かい手の男は普段のおおざっぱな雰囲気とは裏腹に丁寧にやわらかに塗りこんでいく。もう少し時間があれば、二人の男は自分たちが触れている女が快感を感じていることに気がついただろう。しかし、ここで第3の男が部屋に入った。食器をかたずけたフランスが部屋に入ってきた。
 

素足

2012-02-06 00:40:22 | APH
素足2

 どうしてこんなことになってしまったのかしら。
はぁ、と心だけでつぶやく。すると、聞こえているはずもないのに、赤い瞳が見上げてくる。
どくん。ただ、見上げられているだけなのになぜか違う人のように見える。いつも見慣れているのは、射るような強い瞳。そして私だけに見せる顔、孫のように甘ったれてくる瞳。そのどちらでも無い。うるんでいるように見えるのはきっと彼が酔っているから。私を見上げているからではないの。そうよね。みんな酔っているの。だからこんなことになっているだけ。

 右足の小指をこする熱い指の感覚。右足を持ち上げているのは太陽に国、スペイン。
 左足の薬指をくすぐる少し冷たい指。左足を持ち上げるのは、かっての軍国。

冷たい感触が小指の爪をくすぐる。爪、伸びていなかったかしら。桜は思う。前に切ったのは7日前。足のつめは伸びるのが遅いけど、さすがに少し伸びていた。そのほんの少しの爪を男の手が丁寧に洗う。男にしては柔らかい感触の指がいくども爪の表面をすべる。こするほど強くなく、でも存在を忘れさせない圧感で。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 
桜は呼吸を止めて数字を数えた。
少しでも落ち着くために。そうしないとうっかり声を出してしまいそうだ。
それから気がつく。数えている数字のリズムが冷たい手の男が爪にふれるのと同じタイミングであることに。
 熱い冷たい波打っている。いくつもの感覚を足の爪が伝える。
自分たちは国の化身である身だから、いま触れられている部分は私のどこなのかしら。私の始まった淤能碁呂島(おのごろじま)は滴り落ちて産まれたから
 数字を数えなくなってから桜の思考は乱れた。

 
 
 

ぼくとけっこんしてくにになろうその9,5

2011-12-06 00:40:29 | APH
 ぼくとけっこんしてくにになろうその9、5 

 感動という言葉で締めくくれるその9話であったが、実はその数分後ギルベルトは真っ赤な顔と涙目で副官のところに走り戻っている。
 「どうしたのです?」
明らかに動揺している若い…外見は若い…上司を受け止めて、副官は鋭く問うた。大選帝侯から直接命じられている。「プロイセンは強いが、ギルベルトはまだこどもだ。くれぐれもギルベルトを守るように」と。
「なんでもない」
言葉では言いきるが今にも落っこちそうな涙が言葉を裏切る。
副官はギルベルトが走ってきた方向に小隊を向かわせた。敵ではないと思うが、われらの大事なお国様を泣かせた悪いやつをほおっておくことはできない。われらのお国様はいまちょうど思春期頃の外見をしている。戦場の気配をまとわないときのギルベルトは良家のおぼっちゃまに見える。それが高級将校の軍服をまとっているので、悪い女にでもからかわれたのかもしれない。
小隊は焚き火の跡を見ただけで不埒者を見つけることはできなかった。

  
 


 
 この護衛隊長はこの後もギルベルトにずっと付いていた。誰とでも打ち解けるようで、実際には人みしりの強いギルはあまり周囲の人間が入れ替わるのを好まなかった。その退役の日、護衛隊長はふと聞いてみた。あの時どうしたのですかと。
 ギルはあの時のようにまっかな顔になって、さすがにもう涙はうかばなかったが「尻、なぜられた」
 
 フランシスの記憶をもとに再構成した9話にはこの文章は入っていない。フランシスにとっては魅力的な存在に手を出すのは当たり前すぎて印象に残らなかったのだろう。

ぼくとけっこんしてくにになろう9回目

2011-11-20 22:04:11 | APH
ぼくとけっこんしてくにになろう9回目 正当なリンチの記憶
 
 ヘタしたら2桁まで主人公も相方も出番なし・・・だな、これは。

南部の州。第2次大戦の後、東西分裂のおり「これでプロイセンと縁が切れる」と喜んだ。 
南部の州がプロイセンを嫌った理由、そもそもはプロイセンが成り上がりであること。そのプロイセンに無理やり統一され、独立国で無くなったこと。

 ただし、ドイツ統一の餌にされぼこぼこにされたフランシスには別の意見がある。
確かに北部ドイツは軍事力で北ドイツ連邦として統一されたが、南部の連中は違う。あいつらはこのお兄さんをぼこりたいというだけで帝国ドイツに自ら加わったのだ。つまり本来なら南部の連中にはプロイセンに文句を言う資格は無い。現にゲルマンの国であっても統一ドイツ帝国に加わらなかった国もある。ルクセンブルグは今も独立国である。
 フランシスの正直な感情としては、ドイツの南部の州よりもこの時に自主独立を選んだ小国への評価は高い。[ルクセンブルグはもともとフランス系の血が強く心情的にもフランス寄りだった]。


 (ベルリンにもお兄さんの子供たちはいっぱいいたんだけど)
プロイセン現役時代、フランシスの子供達の一部は[フランス人であるプロイセン国民]として幸福に暮らしていた。子供達のほとんどはプロテスタントで、フランス王ルイ16世に迫害追放され(火刑の公式記録がある)路頭に迷うところだった。それを救ってくれたのが大選定公。内密に連絡を取り足弱の年寄りや子供たちを護衛までしてくれた。
その護衛の中に目立つ銀髪の士官がいた。『ジル!』隠れて付いてきたフランシスは思わず叫んでしまった。たかが難民の受け入れに国家様本人が来るとは!

     

参考までに  1985年10月ルイ14世がナントの勅令を廃止。新教徒への迫害火刑略奪が始まる。翌月には選定公のポツダム勅令が出る。当時としては驚くべきスピード対応である。新教徒達は2万人以上が避難していき、1700年頃にはベルリンの人口の3分の1が新教徒のフランス人になった。

「よぉ、久しぶり」
ギルベルトはフランシスに気が付いていた。だからさほど驚きもせず声をかけ護衛の隊列を離れた。
 季節の挨拶から始めるような仲ではない。殺し合い、殴り合い、そのすぐ後に酔いつぶれるまで飲み合い、馬鹿な遊びを共にする二人の国家達はすぐに本題の話を始めた。当然使うのはお国様だけが使う国体語である。
「俺の子供達を頼む」
「もう俺のガキどもだぜ」
「ダンケ」
フランシスはあれこれ言わず、ドイツ語で礼を述べた。
隊列の兵が大声でそろそろ出発すると告げた。足弱の老人に合わせてなので隊列の進みは遅い。
「お前、もう帰れ。俺のガキは俺が守る」
ギルは乱暴な口調で、さらに付いてこようとするフランシスを押し戻した。すでにフランス国境を越えている。これ以上進むことはフランシスの身を危うくする。

 口調も所作も乱暴だが、それが自分の身を思ってのことだとわかっているからフランシスは素直に受け入れた。だが、すぐに隊列に戻ろうとするギルの肩を押さえた。
「何だ?」
「ルイ王は避難民に混ぜて工作員をお前の国に入れるつもりだ」
フランシスの声が低くなる。
「ま、それくらいのことはするだろうな」
ギルの返答はあっさりしている。
「俺が調べられるだけの工作員の名をここに書いてきた」
フランシスは隠し持っていた羊皮紙の束を出した。これを渡したくてフランシスは危険を犯した。まさか、途中でギルに会えるとは思わなかったが。
「ふーん」
その羊皮紙の束がどれほどの重さがあるのか。その価値の重さを知っているから逆にギルは軽く返答した。
フランシスは上司である王に部分的ではあっても逆らったのだ。それが国の体現にとってどれほどの決意であるか。
「俺の子供だったやつがお前のところで騒ぎを起こせば、他の子供達のことも疑われる。お前の上司が受け入れてくれなくなったらあいつらには生きる場所が無い」
だから危険を犯した。王の愛人達やら貴族の婦人達やらの寝室で聞き出して、それでもわからないスパイの名を知るため軍の書類室に潜入さえした。
常に似合わぬ沈痛な表情でフランシスは羊皮紙の束を差し出した。
「おい、休憩のついでだ。めしに付き合え」
どかりと座りギルはすばやく焚き火を用意した。
フランシスは羊皮紙を握り締めたままだ。力の入りすぎた手は血が流れにくくなって真っ白になっている。
つられてフランシスは座った。
「おい、それよこせ」
すっと簡単に羊皮紙の束がギルの手に移った。
ぱさり。
軽い音がした。
羊皮紙の束は特有の獣臭い臭いを出して炎に包まれた。
「ジル!」
「俺の昔の総長が言った。『人はだめと言われたらやりたくなるし、疑われたら反抗したくなる。強制されたらやる気を失くす。一番いいのは本人が自分からやりたくなるように環境を整えてやることだよ』そいつらだって好きで工作員になったわけじゃないだろ」
「ギル」
「そいつらが自分から『プロイセンでずっと生きていたくなる』ようにしてやる」
ギルはその言葉を実行してくれた。

フランシスの手が黒い血のしみをなぜた。ギル、お前は変わらず子供達を守ろうとした。あの時と同じように身を張って。「国として当然のことだぜ」あの時と同じように高笑いして。それなのに、『ドイツ』がお前を傷つけた。



あの夜、まだドイツが統一の喜びで酔いしれていた頃、ギルはフランス国境に近いドイツ南部で刺された。
  

   

ぼくとけっこんしてくにになろうその8

2011-10-22 23:26:38 | APH
ぼくとけっこんしてくにになろう8回目

 G8の内容は経済エネルギー人権など多岐にわたる。日本の復興振りが話題に出たり、あれだけの災害を受けてこの時期にパリまで来れるほど菊が元気になれるとは,日本国民の底力恐るべしと言うところである。
日本に言わせれば、それは復興を助けてくれた世界の人々のおかげである。特に遠方にもかかわらず救助犬まで連れてきてくれたドイツ、さらに険悪な空気だったにも関わらず作戦を展開してくれたアメリカには深く感謝している。
 
 2011年5月27日、会議は終わった。なんだかんだ言いつつ今回はなごやかであった。ただ1国をのぞいては。 その1国の隣人であるフランシスはパリの自宅に直接帰らず隠れ家に寄った。
 わずかに期待していたのだが、ギルベルトからの連絡はこの隠れ家にも無かった。郵便物もメールも何もない。留守電も空っぽのままだ。いつもならしばらくここに来れないときはメールなり留守電なりにメッセージがある。それすらも今回は無い。まるでプロイセンという存在が消えてしまったかのように。
 
 背中に走った悪寒をフランシスは否定した。そんなはずはない。あのうるさすぎるぐらいやかましい男が消えるはずなど無い。ギルは王を、国名を、土地を、国民を、政府を、地図上の名さえも失っても生き延びた。あのギルが消えるはずはない。背中に走った悪寒は寒さのせいだ。
 5月も末であるのに石造りの建築物は寒い。暖房を入れればいいのだが一人ではそんな手間を掛ける気にならず、フランシスは足元のムートンの敷物を拾い膝にかけた。

 ギルはしょっちゅうこの敷物の上で猫みたいに丸くなって寝ていた。寝心地のいいベッドも大きなソファもあるのになぜだかギルは床の上で眠る。だからフランシスは床を埋め尽くすように暖かい敷物やら毛皮やらを敷き詰めた。ギルがどこで眠ってもいいように。ギルがここで眠っていた最後の記憶は昨年の10月。ドイツ再統一20周式典が終わった後である。それまで公式行事にはほとんだ姿を見せなかったギルがこの式典には出席した。久しぶりの公式行事に疲れたのか、ギルはこのムートンの上で丸くなっていた。

 不安がフランシスの背中を押した。携帯を開きドイツの電話番号を押す。心配も限界だ。ギルのことはドイツに訊けばいい。それが一番早い。大丈夫だ。あいつらは兄弟だ。それも同じドイツだ。フランシスは自分に言い聞かせながら携帯のボタンを押した。最後のキーを押そうとする手が止まった。

 あり得ないと思いたいが、もしも、ギルが消えていたら。
フランシスは携帯を握りしめる。余分なキーにあたったらしく画面の表示がエラーになる。
 もしもギルが消えていたとしたら、あの若い国はそれを受け入れられるだろうか。兄の死を否定し兄はどこかの居ると信じ込むのではないか。他国である自分がギルの事を訊くことによってそのバランスを崩れたら。 昨今の世界は安定しているようだが、現実には今もあちこちで戦火があがっている。フランス軍も戦場にいる。NATO軍も戦場にいる。
 あの二回目の大戦を「最後の戦争」とさらりと言える日本は、奇跡の国だ。
 もしルートが大きなショックを受け、そのショックを一人で処理できなければどうなるか。国民が影響をうけ、それはたやすくヨーロッパの不和につながる。その影響はいまだに分権傾向の強いドイツをたやすく引き裂くだろう。
 フランシスの手から携帯が落ちた。携帯の落ちた床には黒ずんだ染みがあった。
フランシスはその染みの理由を知っている。それはギルベルトの血の痕。20年、もうすぐ21年になる、ドイツが統一に酔っていたころ、ドイツの州によってリンチを受けたプロイセンが流した血。
 


 
 ゛

ひまわり セシウム 2000年 西暦3986年

2011-10-08 02:42:04 | APH
 人類が宇宙に出るのは必然だ。地球には寿命があり、それを超えさせるために神は人という存在を進化させたのだから。
そんな風に言ったのはどこのエスエフ学者だったか。あの時代なら誰でも言いそうだから創作かもしれない。

 かってプロイセンと呼ばれたギルベルトはこの1500年間地球と地球の周りを回るコロニー群を見ている。
自己管理型の監視衛星が今のギルの本体。
 
 ヒトガタをとった国が宇宙に住むようになったのはこの1500年ほど。
今や、コロニーにお国様がいるのは常識となった。コロニーに生まれたものは誰でも1度はお国様に会いそれによって国民意識を持つ。コロニーによっては幼少時にこの出会いの儀式をするが、たいていのコロニーでは成人式を兼ねて18歳頃行われる。

 ここ旧ソ連邦合同コロニーでも成人式を行う。若い国民を祝福するのは女性型のお国様、ウクライナ。
豊饒な大地を表象する豊かな胸に、たいていの若者は目をくぎ付けにされる。

 たいていのコロニーでは成人式は単なるお祝の式典にすぎない。
ただひとつ。旧ソ連合同コロニーを除いて。

 新成人の若者たちは儀式の最後にお国様からあるものがたりを聞く。それは1000年以上前。まだウクライナが地球にいたころのお話。

チェルノブイリという土地で起きた原発事故。その毒は意図的にベラルーシの地に降り注がれた。浄化の方法は無く、人はあの土地を救えないまま宇宙に出た。
「このコロニーには本当ならあと2人、国がいるはずだったの」
ウクライナは語る。若者たちが一度も習わない過去を。今のコロニーの政府はあの時代を事を無かったことにしたいらしく、若者たちにあの事故を含めほとんどのことを教えない。だからコロニーの民がこれを聞くのは一生に一度だけ。
 「妹のベラルーシは毒をこれ以上広げないために封印として石棺に入った。弟は、本来ならこのコロニーの中核になるはずの立場を捨てて、地上に残っている。今も地上にいるの」
 「何のために地上に」
若者の一人が尋ねた。
「ロシアちゃんもベラルーシもヒマワリが好きだったわ。いつか、ベラルーシが石棺を出る日のために地上をヒマワリで見たすために」

「そしてこれがお前たちの故郷の姿だ」
ふいに部屋にはいない男の声がした。
誰であるか、ウクライナには見なくても分かった。この1000年以上、年に一度だけウクライナに通信してくる男。一時期は家族でもあった存在。
「ギルベルトちゃん」
「よー、ウクライナねぇちゃん。一年ぶり。あいかわらずいい乳だな」
 天井の旧式の大モニター画面に黄金に輝く平原が写しだされた。
ズームが切り替わり、その平原が背の低いタイプのヒマワリであることがわかった。
 本来ならEUに所属する衛星であるプロイセンは年に一度だけ自分の意思のみで通信回線を開き、高感度カメラで地上のある場所を写す。
石棺のある場所を。
去年まで映像は荒れ果てた廃墟であった。
「イヴァンはやりとげたぜ」

1000年よりもっと前、地上に住んでいた人類の学者があることを見つけた。植物の中でただ一つヒマワリだけが放射性物質を取り込んで浄化できる。ただし、その能力は低く浄化のためには1000年はかかる。
人類は浄化をあきらめ、石棺を封印するにとどめた。その封印が壊れかけ、それを内側から支えるためベラルーシは石棺の中に入った。

イヴァンは石棺の周囲にヒマワリを植えようとしたが育たなかった。やがて人類は地上を離れ、ほとんどの国もそれについていった。
ただひとりイヴァンは地上に残り、ヨーロッパのはるか南の国、スペインの土地から始めヒマワリを植え続けた。少しづつ北へ妹の待つ土地へ。

年に一度だけ地上の様子が写される。始めての年から今まで映るのはただ廃墟と、その後でカメラの位置を変えて写されるヒマワリに覆われたヨーロッパ大陸。
始めてそこに違うものが映る。
ウクライナの瞳が大きく見開かれる。偶然歴史の生き証人になった今年の新成人たちも身じろぎもせず画面を見上げる。


 

おくにをすきになったとり

2011-09-03 12:54:21 | APH
おくにをすきになったとり

作 クマレーラン 仮成社 

あれはてた野原に、ぽつんと 岩だらけの山が そびえていた。
ごつごつした山には、草や木が 一本もはえていなかったので けものもとりも虫もまったくすめなかった
男が歩いていた。男は人の形をしたくにの原型。
金の髪、頑健な身体。名をゲルマン。
民を導く場所を求め エウロペ大陸をさまよっていた。

ある日のこと、どこからか いちわのことりがやってきた。ことりは岩山の上をひとまわり飛ぶと、たった一か所の金の草むらにおりてはねをつくろった。
くにはことりの小さなつめにやさしくつかまれるのを感じた
ことりがうずくまると、はねにおおわれたからだのやわらかさにびっくりした。
空からこんなものがおりてきたのははじめてだ

くにはせいいっぱいやさしい声でたずねた。

「私の上にいるのはだれだ?名をおしえてくれないか」
「わたしはことりよ とおい海の島からとんできました。
 毎年春になると 巣をつくり ひなをそだてる場所をさがしてたびにでるの
 ここでやすませてもらったからまたでかけます」
そう言いながらもことりの小さな足はくにの金髪をしっかりつかんではなさない。

こんなあたたかでやわらかなものにあったのははじめてだ。できるならこの金の草むらでひなをそだてたい。
ずっとこのくさむらにいたい
「では、行くがいい ことりよ」
くにの低い豊かなこえがことりの羽毛をふるわせた。
「またいつか会える時があることを」

ことりは羽を広げかけてからもういちどうずくまりこう言った。
「これまでずいぶんあちこちでひとやすみしたけれどまた会いたいと言われたのは初めて
わたしもあなたのうえにいたい でもこの場所では私もひなも生きられない
だからいつかあなたが生きられる場所に行ったら、わたしはあなたの上に行くわ」
「ことりはずっといきるのか 星や月のように」
「いいえ、でもわたしのむすめがまたむすめを産みそのむすめがまた飛ぶわ
わたしはあなたを教える。いつかあなたを見つけるように」
小さな鳥は大きな国を見降ろし、くどいた。
  

プロイセンの頭にはいつも黄色いふわふわのことりがいる。
このことりがゲルマンをくどいたことりのむすめのむすめなのかはわからない。

 





プロイセンの小鳥を見ているうちに小鳥を好きになった山という名作を思い出し、つい・・・やっちゃいました。ただ、思っているよりも長い話で途中でリズムをとれなくなり挫折。いつかやり直してみたいです。

ドイツ人が減少していく

2011-08-07 22:46:59 | APH
ドイツの若い女性が思う理想の家庭
子供は1人でいい。


フランス・デンマーク・スウェーデン・イギリスの子供の数は2.5人。
ドイツは1.6人

もし、上司に出生率が落ちてるのはあなたがいつまでも独身だから・・・。
と、生殖活動の勧めをされたりしたら、ドイツさんまじめな人だから・・・。

ネタ未満放置所

2011-08-07 22:19:39 | APH
ゴンドラは実際に乗ってみると乗り心地が悪い。
ヴェネチァ人にとっては、足であり、都市内の行き来に便利な、小型自動車だった。
 この小船の上で座っているのは観光客。立っているのは地元人。

  ぜひ、フェリとルートのデート(視察)で見たい場面。
無意識に立って乗るフェリにルートも立ったまま乗る。で、舟が動き出すとふらついて座り込みかける。それをなんとフェリが支える。

 そのときは何も言わないドイツさんなんだけど、なんとなくいつも以上に表情が硬い。視察が終わって帰り道、最初フェリが運転していたんだけどどうにも危なっかしい。
 追い越していく車がヴェネチアナンバーと見てバッシングしていく。
それを見たドイツの眉間にピシリと音立てて皺が入る。
運転席のフェリをひょいとつまみ上げすばやくハンドルを握る。同時にフェリは助手席に下ろされる。
 さっきバッシングした車をたちまち追い上げ、予定の3割り増しの速度でベルリンに帰った。
 


 ヴェネチアは自動車の走れない都市なのでヴェネチア人の運転は信用されていない

さんまに外貨、しょつぱいか

2011-06-25 01:41:43 | APH
秋刀魚苦いか、しょつぱいか。
上のように入力しようとしたら、変換ミスで題名のようになった。
結果的に本来の文字よりも合うので、そのまま使うことにした。

APHの2次創作の名門で語学留学の話を読んだ。黒髪の妹と銀髪の兄が同じ寝台で寝る話だが、(読者の多い話なのですでにわかった人もいるだろう)そこのあるページにこういう話があった。ヨーロッパではキノコを購入するときものすごく産地を意識する。
それはチェルノブイリのせいである。
日本人にとってチェルノブイリはとっくに終わった話題だが、とんでもない。石棺を、管理しているのはあのロシアであるのだ。

ゆえにドイツでは東ヨーロッパ産のキノコはさけられる。

さて、先日小生は買い物に行った。魚を買おうと思ったのだが、結局生魚は買わなかった。海にも放射能は漏れている。これを思い出してしまった。
政府の規定では食品と同じ基準値を海にも適応している。だから、安全という話だった。
はてさて、生物濃縮という単語は政府には存在しないのか。

秋には秋刀魚が一斉に市場にあふれる。今年の秋刀魚はどんな味か。臆病者の小生はドイツ人のひそみに習い、北欧産の冷凍秋刀魚をいただくことにしよう。