金属中毒

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氷樹2

2009-02-13 16:35:34 | 鋼の錬金術師

予定の時刻に氷樹は来た。推定15歳とあったがもう少し若いとマスタングは見た。声がまだ変声期前である。透明感の強いボーイソプラノの少年は礼儀正しく着任の挨拶をする。
そしてロイが問うまでもなくエルリック兄弟の知己と告げた。
「鋼のとはいつ」
「2年ほど前です。ゼノタイムの町で」
ゼノタイムという名は覚えがあった。地元の術師が事件解決に手を貸してくれたと報告書にはあった。
(事実は一緒になって事件をあおったのだろう)マスタングはそのときそう思ったが少年を見る限り火に油を注ぐタイプには見えない。では報告書どおりの単なる協力者だったのか?
柔らかな物腰。礼儀正しさ。皇子様の呼び名が似合いそうな端正な顔立ち。
一般枠試験で銀時計を手にしたのだから腕も良いだろう。
(理想的だ)
文句のつけようが無い少年にマスタングは銀時計を渡し、形式的な注意を与える。短時間に会見を終えようとしてロイは何かに引っかかった。単なる勘だった。何か、理想の少年の中にどろりとした闇が見えた気がした。



電話しフレッチャーの名を教えると,エドはすぐ飛んできた。

「引き離されていた恋人同士みたいに見つめあった後、『兄さん』と呼んで、抱きしめたんです。あの子達兄弟だったんですね」
後に再会の様子を秘書にそう聞かされたとき、マスタングは自分が何か大きな失態を犯したことに気が付いた。しかし、もうどうしようもなかった。


エドワードは弟の肉体を取り戻そうとして成功した。それが理由で弟を失った。弟は生きている。しかし、もはや兄と一緒にはおれない。アル自身はそのことに気が付いていないが。

半年ほど前、不完全な赤い石を使いエドはアルを生身に戻した。狂喜する兄。喜びにあふれる弟。だが、エドの喜びは1日しか続かなかった。アルの記憶が一日ごとに失われていったからだ。記憶を一日ごとに失うアルは自分が記憶を失くしていくことを知らない。アルにとっては目が覚めたら生身に戻っていただけだ。そして毎朝喜びにあふれるアル。喜びの芝居を続けるエド。その間に必死に研究し記憶消去の原因をエドは探ろうとした。だが、解らなかった。そのうちにエドの様子にアルが疑念を抱き始めた。何ヶ月も宿の一室に閉じ込め外部と接触させないのも限度があった。ある日、アルは兄に聞いた。「ぼくは記憶を無くしているんじゃないか」
そしてその疑念すら翌日には忘れていた。
アルの笑顔に耐えられなくなったエドはマスタングに相談した。憔悴しきったエドを見て、とにかくアルを安全な場所、旧部下の農場に預けた。報告ではアルの記憶の退行は今も続いている。
エドからアルを離したのはやむを得ない処置だったが、失策だったとマスタングは今になって思う。

調査報告ではフレッチャーには兄がいた。少し前に死亡したらしい。
兄を亡くした弟は、弟を失った兄と出会い、「擬似兄弟か」マスタングは苦くつぶやく。なくした者を補い合う、それが悪いとは言わない。エドにとってフレッチャーの面倒を見るのは慰めになるはずだ。だが、何かが引っかかる。フレッチャーの兄の死は自然死だったのか?再調査を命じてロイは軍の仕事に戻る。子供のことだけにかまけてはいられない。マスタングは彼が守ると決めた全てのために上を目指すのだから。

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