9月1日に発足したデジタル庁。菅政権の“目玉”になるはずだったが、トップをめぐる迷走に加えて、菅首相の退陣が決まり、「器だけか?」の声も聞かれる。だが、この組織を甘く見ちゃダメだ。近著「デジタル・ファシズム」(NHK出版新書)で、個人の権利を侵害しかねない日本のデジタル行政に警鐘を乱打した国際ジャーナリスト、堤未果さんの緊急寄稿――。

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今月に発足したデジタル庁が冒頭から波乱を巻き起こしている。

旗揚げした菅首相は総裁選不出馬を表明、サーバーは初日からダウン、事務方トップの石倉洋子デジタル監は商用画像の無断利用が発覚し、就任早々、謝罪に追い込まれた。

主要マスコミは、デジタル庁は、コロナ禍での〈テレワーク促進〉や〈特別定額給付金〉の遅れがきっかけだと強調する。

だが、本当にそうだろうか。

日本社会を隅々までデジタル化する壮大な計画の一端がデジタル庁のスタートであり、これはコロナ禍で生まれたものではない。

「デジタル・ファシズム」という本にも書いたように、この計画は長い時間をかけ巧妙に練られ、着々と進められてきた。それがコロナを理由にして一気に加速されている。最大ターゲットは、デジタル時代の石油といわれる、私たち国民の〈個人情報〉だ。

政府は、これまで各省庁や自治体ごとに保存されていた国民の個人データを一カ所にまとめることで、行政手続きが便利になると言う。ICチップ付きのマイナンバーカードでログインすればスマホ画面で、名前、住所、世帯情報、所得、税金の支払い状況、ワクチン接種履歴などが全て閲覧できるようになるからだ。

だが同時に、一元化された膨大なデジタル個人情報は、顧客の消費傾向分析と誘導で利益を生み出す、企業にとって喉から手が出るほど欲しかった重要データに他ならない。

これまでは自治体が条例で守ってくれていたが、政府はこの間、一つ、また一つと規制を外して、昨年5月、検察庁の黒川問題のどさくさに紛れて、わずか11時間の審議で「改正国家戦略特区法(スーパーシティ法)」が成立した。官民連携などと言い、企業が国民の個人情報に簡単にアクセスできるようなシステムを堂々と完成させてしまったのだ。

今年5月、63本もの関連法案を束ね強引に成立させたデジタル庁は、各省庁のデジタル技官を縦断的にまとめる代わりに、最強権力で上から束ね、巨額の予算を握る内閣の直轄機関として誕生した。今後、巨大な金脈になるIT利権を各省庁から剥がして一カ所に集め、その支配を握るこの省庁にビジネスのにおいを嗅ぎつけた企業が国内外から群がるだろう。

職員は非常勤待遇や兼職容認で民間から集め、「回転ドア」で出入り自由にするという。企業に本籍を置いたままの民間人の利益相反や情報漏洩リスクを防ぐのは至難の業だ。いったい、誰のための個人情報一元化なのか?

この間に政府は、〈世界一、企業がビジネスをしやすい国へ〉を掲げ、規制緩和を進め、随所にお友達優遇体質が見え隠れした。コロナ前も後も、その体質は1ミリも変わっていない。

デジタルはそうした優遇を加速させる上、専門知識を持たない国民には何が起きているかが、ますます見えなくなるだろう。私たちにとって大切なことは〈デジタル〉という先鋭イメージや利便性にだまされず、その軸となる〈透明性〉と〈公正性〉を政府に要求し続けることだ。台湾のデジタル担当相、オードリー・タン氏はこう言った。

「デジタル化を成功させるには、絶対に、権力を一カ所に集中させてはなりません」(つづく)

(堤未果/国際ジャーナリスト)


後からはどうにでもなるということです。

今日咲いた花。


ユートス


秋明菊

まだ頑張っているアジサイ。