「東京新聞」2023年1月11日
こちら特報部
立憲民主党の泉健太代表が、元日の初詣として、東京・赤坂の乃木神社を参拝したことが物議を醸している。同神社は、日露戦争時の軍神・乃木希典まれすけを祭った神社。政府が防衛費倍増、反撃能力保有など軍拡を進める中で、野党第1党のトップが「軍神詣で」なら歯止めはかからないのでは? と多くの人が懸念するのも致し方ない。泉氏が率いる立民はどうなっていくのか。(宮畑譲、中山岳)
◆アイドルファンには「聖地」
神社は東京メトロ千代田線・乃木坂駅の至近。少し歩けば、六本木や赤坂に出られる。都心のど真ん中だ。10日正午前に訪ねてみると、正月ムードは緩みつつあったが、常に参拝客が出入りしている。その人たちに話を聞いてみた。
「泉氏の参拝に物議? 気にするなと言いたい。そんなことより、早く政権を取ってもらいたい。今年は統一地方選があるし、解散・総選挙もあるかもしれない」。こう語気を強めたのは、立民支持者だという都内に住む81歳の男性。ただ、この日は健康祈願が目的で、「政治のお願いをしに来たわけではない」と苦笑していた。
近年は、人気女性アイドルグループ「乃木坂46」のメンバーが神社に初詣などを行うのが恒例となっている。境内には、メンバーが書いた絵馬も掛けられてあった。ファンの間では、「聖地」とも称される。
ファンで埼玉県内の高校に通う男子高校生(17)は「テレビで見ていたメンバーが、実際に存在することが感じられた。来てよかった」とうれしそう。神社の由来については「乃木坂を知らなかったら、乃木希典のことは知らなかった」と話していた。
◆日露戦争で陸軍大将、明治天皇崩御で殉死
そもそも乃木神社とは、どういう神社なのか。
祭られている乃木希典は明治時代、日本陸軍の軍人として数々の戦功を挙げ、大将に上り詰めた。日露戦争で最大の激戦となった旅順攻囲戦では、多くの犠牲を出しながら二〇三高地などの要塞ようさいを攻略した。
晩年は学習院院長に就き、昭和天皇を養育。1912年、明治天皇が崩御した後、自宅で妻とともに殉死した。当時、その忠誠心に感動した多くの人たちの声を受け、乃木邸の隣に神社が建てられることになった。生前の経歴から軍神とあがめられる。今年は創建100周年に当たる。
軍神を祭る乃木神社は軍国主義なのか。電話取材に対応した神職は「国や妻、自分にも『誠』を尽くした神様という意味でお祭りしている。当時の時代背景から軍人としての役目を全うしたが、神社が戦争を美化することはない」と答えた。ちなみに、2016年に憲法改正を求める署名用紙が境内に置かれていたことがあるが、これについては「コメントできない」。
◆元日参拝のSNSが議論に
問題の発端は、泉氏が元日に乃木神社を参拝した画像をツイッターで上げたこと。これについて、元文部科学次官の前川喜平氏が「明治天皇に殉死した長州閥の軍人を神とあがめる行為」などとツイート。ネット上で議論となった。
泉氏は批判に対しツイッターで、「『軍国主義に追従すると批判されても仕方ない』とか酷ひどいもんだ。そうした考えの方がよっぽど危険。乃木神社創建の経緯もある程度は知っている。当然だが、軍国主義者ではない」などと反論した。
あらためて泉氏側に取材すると、党本部は「既にツイッターでご説明させていただいている」との回答。泉氏の地元・京都には多くの寺社があるが、「京都ではお参りしておりません」とのことだった。
◆複数の政党を渡り歩く
泉氏の経歴をみると、立命館大を卒業後、民主党の福山哲郎参院議員の秘書を務め、2003年の衆院選に29歳で初当選。民主では前原誠司衆院議員のグループの一員として活動した。その後、民進党、希望の党、国民民主党を経て20年の立憲民主、国民民主両党の合流に参加。21年11月の立民代表選で「庶民目線」を掲げ、他の3候補を破って代表に就いた。
複数の政党を渡り歩き党首になった政治手腕について、ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「非自民のリベラル色の強い政治家で、若いうちから当選8回を重ねる選挙力の強さもある。例えるなら、大企業で何でもこなせて上司、部下それぞれの意見を聞いてまとめられる優秀な総務部長タイプだ」と評する。
では、乃木神社参拝で懸念される「軍神詣で」の思想はあるのか。鈴木氏は「泉氏は軍事・防衛も偏りなく論理的に政策を立てるだろう」と否定的な一方で、「SNSでの反論の仕方が騒動を広げた面はある」とみる。
泉氏はツイッターで、乃木神社参拝は年始に回った複数の寺社の一つで、あくまで「近所の神社で国家繁栄、家内安全を祈る」だけだったと強調。前川氏らの批判に「何だか息苦しい」「本当に失礼な話」などと繰り返した。
◆野党第1党の役割とは
こうした反論に対し、自らもツイートで批判した戦史・紛争史研究家の山崎雅弘氏は「批判に対してもまともに説明しようとしていない。参拝は個人の自由だが、野党第1党の党首として乃木神社の由来を知りつつ元日に参り、SNSで発信する影響を考えないのか」と疑問を呈する。
山崎氏は、昨年から岸田文雄政権が防衛戦略を大転換しようとしているさなか、立民が「野党第1党の役割を果たしていないのではないか」とも危ぶむ。
岸田政権は先月、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費の大幅増を認める安保関連3文書の改定を閣議決定。立民は反対しつつも、敵基地攻撃能力の保有自体は専守防衛の範囲内など条件を満たせば「限定的容認」とする見解を出した。
◆覚悟があるのか疑われる
山崎氏は「相手国の領土に撃ち込めるミサイルの保有は攻撃も選択肢に入れた防衛政策であり、専守防衛の逸脱だ」と指摘。「こうした問題が持ち上がっている最中の泉氏の乃木神社参拝は、岸田政権の軍備増強への追従とも受け取れる。日本が戦争へ向かうのを止める覚悟があるのか、疑われても仕方ない」
昨年の国会では、立民の立ち位置に疑問を抱かせる動きが他にもあった。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者救済法案を巡る議論で、競合していた日本維新の会と独自法案を共同提出。自民、公明を含む4党協議を経て同法は成立したものの、被害者や支援者から内容が不十分との批判も出た。
立民は維新との共闘を今後も続ける方針だが、この路線をどうみるか。一橋大の中北浩爾こうじ教授(政治学)は「共産党を含めた野党共闘路線が破綻し、立民は維新と組むことにかじを切らざるを得ない面もある。共闘は当面は機能すると思われるが、両党の政策の根本的な違いや距離は埋まっていない。立民は、現時点で政権交代に向かう展望まで描けていないだろう」と説く。
では、野党第1党として求められるものは何か。中北氏は「まずは今の政治を変えていくという旗印が必要だ。かつての民主党は賛否はあれども『コンクリートから人へ』といった理念と、それを支える政策があった。立民も核となる理念と、実現するための政策を整理して国民に分かりやすく示すことが求められる」と強調した。
◆デスクメモ
乃木は葬儀に20万人が集まった文字通りの軍神。それが今やアイドルがらみでその名が出るのだから、まさに明治は遠くなりにけり。反論ツイートを見る限り、おそらく泉氏もその感覚に近かろう。ただ、その感覚のまま今後の厳しい軍拡、防衛論議に臨まれては非常に心もとない。(歩)
この代表では、こんな絶好な機会にもかかわらず、政権を倒すことは絶望的だ。なるべく早い交代を望む。
共同通信提供
日本の先行きが心配でたまりません。
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こんな気分ですが、ぐっと堪えて明るい国になるようにがんばります。
国会を包囲する国民運動を盛り上げなければ。ユニクロが15%賃金up。専門職は40%upだそうです。これが国際水準です。