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外国人実習生の「人権侵害」

2020年11月26日 | 社会・経済

 スターバックスやファミマの社会的責任とは?

今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 YAHOOニュース(個人) 11/26(木) 

 

 現在、私が代表をしているNPO法人POSSEや連携する総合サポートユニオンでは、カンボジア技能実習生へのパスポート・在留カード取り上げ、「強制帰国」の問題に取り組んでいる。受け入れ企業は、日清製粉グループ子会社の「トオカツフーズ株式会社」、管理団体は「全国中小事業協同組合」、送り出し機関である「株式会社ジェイ・シー・アイ」である。

 この事件の背景は根深く、4年前に強制帰国させられたカンボジア在住の技能実習生たちは、「泣き寝入り」していた。今回、彼らは通訳を通じて「オンライン」で、4年越しに受け入れ企業・管理団体・送り出し機関へ団体交渉を申し入れを実現している。その結果、管理団体と送り出し機関は本人の意に反してパスポートと在留カードを取り上げ強制帰国をさせたことを認めたのである。

 これまでも、労基法違反を告発した外国人などが「強制帰国」させられてしまった事例は多いのだが、帰国後は泣き寝入りするしかない事例がほとんどであった。今回の告発は、日本の「隠された外国人問題」を暴く画期的なものだといえる。

(参考:外国人・実習生に対する「強制帰国」の実態 暴力行為や拉致も横行)

 ところが、管理団体が人権侵害について認めたにもかかわらず、現在も当の受け入れ企業であるトオカツフーズ株式会社は、今回の件に「関与していない」という主張を繰り返し、責任回避を続けている。

 自身が雇用契約を結ぶ技能実習生が自社所有の工場や寮から連行され強制帰国させられているにもかかわらず、「関与していない」ということは常識的に考えられない。管理団体や送り出し機関の人間は、トオカツフーズ に許可を得なければそもそもそれらの敷地に入れないだろう。また、管理団体や送り出し機関が受け入れ企業と協議や確認をせずに独断で「強制帰国」を決定することがあり得るはずもない。

 さらに、問題が指摘されているトオカツフーズは、「スターバックス」、「ファミリーマート」など大手企業の取引先でもある。「強制帰国」させられた技能実習生たちは、スターバックスのサンドイッチやファミリーマートのお弁当を製造していたのである。

 実は、国際的には、人権侵害企業の「取引先」に対しても、社会的責任が追及されることが常識化している。ところが、支援団体の申し入れに対し、ファミリーマートからは「トオカツフーズが取引先だということは事実だが、取引先の雇用に関することは具体的に関われない」と回答があり、スターバックスに至っては、未だなんら回答がないという。

 CSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)を声高に謳っている両社だが、これでは国際的見て、SDGsに反する「遅れた企業」とみなされてもしかたがないだろう。

 今回は、国際的な潮流を概観しつつ、世界から「人身売買」と批判される外国人技能実習生の労働問題への「スターバックス」や「ファミリーマート」の責任と対応について考えていきたい。

「ビジネスと人権原則」とは何か?

 まず、企業の社会的責任の国際的な基準について見ていこう。企業活動におけるSDGsの重要な指標として、「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、「ビジネスと人権原則」)が2011年に国連人権理事会で採択されている。この原則は、次の3点から成っている。

(1)人権及び基本的自由を尊重、保護及び実現するという国家の既存の義務

(2)特定の機能を果たす特定の社会組織として、適用されるべきすべての法令を遵守し人権を尊重するよう求められる、企業の役割

(3)権利及び義務が侵されるときに、それ相応の適切で実効的な救済をする必要性

 (2)の規定では、企業が、世界人権宣言、国際人権規約、ILO中核的労働基準などの国際人権基準を尊重する責任を負うことを明記している。これまでの国際的な人権基準は主に国家に対してその責任があることを示していたが、その対象はすでに「企業」に拡張されているのである。

 人権に関して企業の責任を問う背景には、グローバリゼーションが進展する中で、国家の枠組みを超えて生産活動を行うグローバル企業が増え、個別の国家だけでは労働者の人権侵害に対応できないという実情がある。

 そして、この原則がでとりわけ重要なのは、この原則が、直接雇用する労働者の人権だけでなく、取引先企業の労働者の人権にもコミットするように求めている点だ。「ビジネスと人権原則」13では、次のように明記している。

自らの活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり、助長することを回避し、そのような影響が生じた場合にはこれに対処する。

たとえその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める。

 このように、サプライチェーンの中で起きた人権侵害については、下請に委託をしている企業も責任を負うと言うことが、もはや国際的には「常識」なのである。

サプライチェーンが問題となる背景とは?

 この人権に対する新しい常識は、これまで多くの大企業が下請企業の「人権侵害」によって利益を上げている事実が何度も告発されることで形作られてきた。大手企業はがいくら「SDGs」や「人権遵守」を表明しても、そこに製品を供給する企業が児童労働や労働法違反を繰り返しているのは、明らかな矛盾だったからである。

 日本の外国人技能実習生の問題もこれと同じで、実習先の下請企業の劣悪さに焦点があたることが多い。先月も労働基準監督署が調査した実習先の7割以上の事業所で法律違反が確認されたとの報道があったが、これは、単に実習先の企業が悪いという問題ではない。なぜなら、実習先企業の多くは中小企業であり、これら企業は大企業を含めたサプライチェーンに組み込まれているからだ。

 つまり、技能実習生への人権侵害は、大企業が利益を獲得するために構築したサプライチェーンの中で発生しているのだ。したがって、技能実習生への人権侵害をなくすためには、技能実習生を直接に雇用する企業だけでなく、その企業と取引をし利益をあげている大企業の責任も問われなければならないのである。

「ビジネスと人権原則」基づく国際的な人権運動

 この「ビジネスと人権原則」に基づく運動が活発に展開されている産業のひとつはアパレル産業だ。このきっかけとなったのは、2013年4月にバングラディシュでおきた「ラナ・プラザ」という複合ビルの崩壊事故である。

 「ラナ・プラザ」には、複数の縫製工場が入っており多くの労働者が働き、海外のブランド企業向けの製品を製造していた。同事故では死亡者が1100人以上、負傷者は2500人以上にも上ったため、「ラナ・プラザの悲劇」と呼ばれている。

 この悲劇は、たまたま起きたのではなかった。「ラナ・プラザ」は、以前から老朽化しており、崩壊の数日前には労働者からビルの柱のひび割れなどを指摘されていた。しかし、それでも会社側は、危険を承知で労働者を働かせていたのである。この他にも、「ラナ・プラザ」では低賃金に長時間労働、労働組合への干渉など日常的な労働者への人権侵害が確認されている。

 倒壊現場には、複数の有名ブランドのタグがあちこちに転がっていたという。このような劣悪な状況で労働者たちが世界的に有名なブランドの衣服をつくっていたという事実は、世界の消費者に衝撃を与えることになった。

 ところが、事故当初、有名ブランド企業はこの事故の責任を認めようとはしなかった。そのため、欧米を中心に消費者たちによる不買運動が起き社会的に厳しい目が向けられると補償をすることになったのだ。この時に、有名ブランド企業へ社会的責任を問う根拠となったのが、「ビジネスと人権原則」である。

日本でも問題化

 実は、このような「ビジネスと人権原則」基づく動きは日本でも展開されている。私が代表を務めるNPO法人POSSEも加盟する国際NGO「クリーン・クローゼス・キャンペーン」とインドネシアの衣服生産工場労働者が2018年に来日した。その目的は、ユニクロへ抗議するためだ。

 彼ら彼女らが働いていた工場の労働環境はユニクロとの契約が始まってから悪化したという。ユニクロは注文量が非常に多く納期が短い。その結果、労働者たちは、残業代も払われない中で強制的に残業させられ最低賃金以下で働かされることになった。

 さらに、この状況に抗議するために、労働組合を結成すると組合の委員長は解雇通告されたというのだ。最終的には、工場は倒産し、そこで働く労働者全員が仕事を失った。

 この事例に見られるように、ユニクロは発注側としてサプライヤーである工場に対して「力」をもっており、下請け工場に様々な要求を突きつけることができる。このような力関係のなかで、一番利益を得るのがブランド企業であり、最底辺でもっとも不利益を被るのが現地の労働者なのである。

 遠く離れた下請け工場の倒産に対する補償を実現するのは無理な話に思えるかもしれないが、実現している例がある。

 例えば、アディダスは、下請け工場が破産して2800人の労働者が失業した際に直接的な雇用主でもないにもかかわらず責任をとった。また、ナイキは、インドネシアの下請け工場労働者の残業代を支払ったのだ。ユニクロが、自社の衣服を製造する労働者たちに未払い賃金や失業時の補償などを行うのはグローバル大企業としての社会的責任であると考えられている。

「ビジネスと人権原則」と技能実習生

 当然のことながら、「ビジネスと人権原則」は、日本国内の技能実習生の人権も含まれる。そのことが確認された実例もすでに存在する。

 技能実習生の問題で、直接雇用関係のないブランド企業が注目を集めたのは、2017年12月に放送されたガイアの夜明け「"絶望職場"を今こそ変える!」(テレビ東京)だ。

 番組内で取り上げれらたのは、岐阜県の縫製工場で働く中国人技能実習生だった。彼女たちが置かれた状況は、すさまじく、残業代の時給が400円以下でさらに過労死するほどの長時間労働をさせられていた。

 実習生たちが労働組合に加入した後、会社に対して未払い賃金を請求すると会社は偽装倒産し支払いを逃れようとした。そこで、彼女たちは協力を得ようと自分たちがつくっていた有名ブランド「セシルマクビー」の本社に訪問して申し入れを行った。

 しかし、「セシルマクビー」側は申し入れ書を受け取っただけで積極的には技能実習生の人権侵害問題に関わろうとしなかったのだ。その後、番組取材班は、「セシルマクビー」側に取材を申し込んだが、法的義務がないことを理由に取材を拒否し、さらには、社名が特定されるような映像を使えば法的措置を取ると脅した。

 この経緯のすべてが放送された後、視聴者たちによって、すぐに企業名が特定され、いわゆる「炎上」状態となった。このような厳しい社会的な批判にさらされた後、「セシルマクビー」側は、謝罪と改善を表明したのである。

 また、2018年に岐阜県内の別の縫製工場では、最低賃金以下でミャンマー人技能実習生を働かせていた。実習生たちは衣料品販売店大手「しまむら」に衣料品を納品しており注目を集めた。「しまむら」は、自社の社会的責任をアピールするために、全ての取引先企業に対して、実習生への人権侵害がないように求める通知を出したのである。ちなみに、工場の経営者は実習生に対する人権侵害の理由について「単価が安く、法律を守っていたら事業が継続できなかった」と述べている。

 さらに、2019年には、ノーナレ「画面の向こうから―」(NHK総合)という番組が放送された。番組では、愛媛県の縫製工場で働くベトナム人技能実習生たちが、奴隷のような状況で「今治タオル」をつくっていた様子が取り上げられた。放送後、Twitter上では「#今治タオル不買」のハッシュタグが呼びかけられ炎上状態となった。その際に、問題となったのは、当該の工場だけでなく、「今治タオル」のブランドそれ自体であり、「今治タオル」ブランドの認定や商標を管理する今治タオル工業組合は、組合として社会的責任があることを表明し、外国人技能実習生の労働環境を改善するための取り組みを約束した。

 このように、近年では「ビジネスと人権原則」に基づいて、サプライチェーンに関わる取引先企業などが、技能実習生の人権侵害に対して取り組む社会的責任が明確になっている。スターバックスやファミリーマートも、これらの事例にならうならば、自らの社会的責任を果たすべきである。SDGsを標榜する企業であれば、それは「当然」のことだろう。

外国人労働者差別反対デモ」

 NPO法人POSSEと総合サポートユニオンでは、11/27(金)18時から「外国人労働者差別反対デモ」を行う。集合は、日比谷公園霞門である。

 外国人労働者への差別や人権侵害は、日本社会全体に蔓延している。パスポートや在留カードの取り上げ、強制帰国、長時間労働、残業代不払い、パワハラ・セクハラなど私たちへも相談が絶えない。そのような状況を変えるには、広く社会へ「差別や人権侵害を許さない」という声を上げることが重要だ。

 労働問題を抱えた外国人労働者の方や、それらの差別を無くしたいというひとびとは、世界中で具体的な行動をはじめている。私が代表を務めるNPO法人POSSEをはじめ日本の諸団体でも、多くの市民や学生のボランティアが参加している。

 ますますの外国人技能実習生の権利行使を支える「人権運動」の広がりを期待したい。

NPO法人POSSE 外国人労働サポートセンター

メール:supportcenter@npoposse.jp

今野晴貴

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間3000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。著書に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。2013年に「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、大佛次郎論壇賞などを受賞。共同通信社・「現論」、東京新聞社・「新聞を読む」連載中。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。POSSEは若者の労働問題に加え、外国人やLGBT等の人権擁護に取り組んでいる。無料労働相談受付:soudan@npoposse.jp

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コロナと実習生 制度の矛盾が露呈した

「東京新聞」社説 2020年11月26日

 コロナ禍に伴う解雇などで外国人技能実習生らが苦境に陥っている。「国際貢献」の美名とはかけ離れた「雇用の調整弁」としての技能実習制度の本質が露呈した。制度の廃止を検討すべきだ。

 北関東で家畜や果物が大量に盗まれた事件に関連し、群馬県警は十月、入管難民法違反などの疑いでベトナム人の技能実習生ら十数人を逮捕した。大半は県外の実習生で「コロナで仕事がなくなり、群馬のコミュニティーに身を寄せた」と話しているという。

 外国人実習生の人数は昨年末時点で約四十一万人。その約半分がベトナム人だ。コロナ解雇に加えて、祖国と結ぶ定期便は運休。多くの実習生が来日のため、祖国で多額の借金をしており、手ぶらでは帰れない事情も抱えている。

 かねて技能実習制度は賃金の未払いや不当な労働条件など問題が多く、政府は改善のため、二〇一七年に技能実習法を施行した。

 三条で「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と定めたが、実態は有名無実。コロナ解雇はその典型といえる。

 祖国の送り出し団体と日本の派遣先をつなぐ監理団体、それを統括する「外国人技能実習機構」も設立した。しかし、実習生の窮状に対応しているとは言い難い。

 政府は四月、コロナ禍で解雇された実習生らの他業種への就労を特例として認めた。従来は本国で経験した技術を日本で磨くという制度の趣旨から、他業種への転職は許されなかった。「出稼ぎ」の実習生には朗報だが、技能向上という建前はここでも崩れた。

 加えて、特例には政府の弥縫(びほう)策という側面もある。昨年四月に施行された特定技能制度は農業や介護などの単純労働を外国人に認めるものだが、送り出し国には不評で応募が予想を大幅に下回っている。特例でその不足の穴埋めに解雇された実習生を回した形だ。

 結局、「技術移転」などの名の下、安価で都合のよい労働力を集めるという制度の本質がコロナ禍で浮き彫りになったといえる。

 国の制度で受け入れた以上、政府には実習生を守る責任がある。まずは雇用助成金などで解雇を防ぎ、健康相談などの充実も図るべきだ。

 そのうえで技能実習制度を廃止し、当面は特定技能制度を拡充する必要がある。菅義偉首相は官房長官時代の昨年十二月、外国人受け入れの関係閣僚会議で「外国人が国を選ぶ時代」と発言した。それにふさわしい対応を求めたい。


 先週に続き「講習」を受けてきた。そんなわけで更新するのが遅れてしまいました。

梅ではありません。キノコです。(昨日撮影)今日はまた雪が積もっているはずです。