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仁藤夢乃×メヘルダード・オスコウイ「私たち人類はみな同じ痛みを持っている」

2019年10月23日 | 映画

 Imidas連載コラム 2019/10/23 

対談! 10代のあなたへ 第8回

 今回は、イランの少女更生施設を描いた話題のドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』(2019年11月2日より東京・岩波ホールほか全国で順次公開)を制作した映画監督メヘルダード・オスコウイ氏との対談が実現。日本から遠く離れた中東の国イランの更生施設で、罪に問われた少女たちはどんな気持ちで日々を過ごしているのか? その人生にはどんな悲劇があったのか? 公開に先立って作品を鑑賞し、「すごく感じるところがあった」という仁藤夢乃が、来日中のオスコウイ監督に話を聞いた。

「まさにそのものだな」と感じた

仁藤 私は先日、映画『少女は夜明けに夢をみる』を、女子高生サポートセンターColabo(コラボ)とつながる10代の女の子たちと一緒に観ました。今回お会いできて、とても嬉しいです。

オスコウイ 私も日本を訪れるにあたって仁藤さんのことを聞きました。この映画はイランの更生施設で暮らす少女たちのドキュメンタリーですが、実は3部作になっていて『It’s Always Late for Freedom』(2008年)、『The Last Days of Winter』(11年)という少年更生施設を追った2作に続く最新作なのです。なので、ぜひ前の2作品も観てもらいたい。恐らく興味をそそられると思いますよ。

仁藤 それはぜひ観たいです。その2作品も日本で一般公開されるといいですね。

オスコウイ イランには、例えば刑務所から出た少女たちの人生をサポートしたり、服役している女性の面倒を見たりする支援者がいて、NGOなどに所属して活動しています。そういった活動をされる方が日本にもいらっしゃることを聞いて、本当にお会いできてよかった。私がライフワークとしている映画制作の中で感じたことに、共感していただけると思います。

仁藤 私たちは「支援」というより、虐待や性暴力被害に遭うなどした10代の女の子たちと共に活動することを大切にしています。それでこの映画を観て最初に感じたのは、登場する少女たちの一人ひとりが、実際に私たちが関わっている日本の女の子たちと同じ背景や気持ちを抱えているということ。「まさにそのものだな」という思いでした。

オスコウイ この映画は既に世界の約40の映画祭で上映されて、大勢の人たちに観ていただきました。その中でさまざまな感想も聞いてきたのですが、ポーランド、カナダ、フランス、アメリカなどでも「私の国の少年院の子どもたちとま全く同じだ」「ただ、あなたの映画の中に出てくる女の子はスカーフを被っているだけ」という意見が多かったことに驚かされました。国は違えど、私たち人類は同じ痛みを持っているんです。

仁藤 世界共通で同じような痛みを負わされている子どもたちがいるのに、彼女たちへの支援は不十分で差別や暴力にさらされています。日本は昔から「家族は支え合うもの」という考えが根強く、今でも家族の再統合神話がまかり通っています。児童福祉や少年院の指導でも「虐待などを背景に行き場を無くし、非行に関わった子どもたちも、もう一度家族の中に戻せばうまくいくだろう」というように。そして「あなたは家族に大切にされている」「問題はあなたにあったのだ」という教育によって、自分を責めている子が日本には多いです。この映画のシーンにも、同じような訴えをした少女が出ていましたよね。

オスコウイ その通りです。彼女たちがなぜ更生施設に送られたのかを探っていくと、家族から逃げたかったという子が何人もいました。私自身も15歳の時、父の破産が原因で自殺しかけたことがあります。多くの少年非行の背後には家族の問題があって、全部が彼らのせいではない。だけど仕方なく社会の悪者になってしまった。そういったことも、この映画を観てもらえればお分かりになるでしょう。

仁藤 冒頭のシーンに出てくるハーテレちゃんが「夢は死ぬこと」と答えていましたが、私も女の子から同じことを言われることはよくあります。〈名なし〉のニックネームをもつシャガイエさんが、最初は監督の質問にすごくヘラヘラと笑って答えているんだけど、性虐待の話になると涙が止まらなくなったり……そういう表情の変化も私が日々接してる女の子たちと重なりました。

オスコウイ 仁藤さんのお話をうかがっていて、ちょっと聞いてみたいことがあります。私たちは、日本はとても裕福な国だと思っていました。そういう国では、性虐待されたり暴力を振るわれたりして、生きるために盗みや傷害などの犯罪に手を染めてしまうような子は少ないと考えていました。だけど日本へ来ていろいろ話を聞いてみると、こんな裕福な国にもいじめやDV、虐待があるみたいですね。なぜ日本のような社会でも、そうしたことが多く起きるのでしょうか?

仁藤 日本は10代の自殺がとても多い。世界的に見ても突出していて、若者の死因の第1位です。この問題の裏には、いじめや大人からの暴力を見過ごし、子どもには「あなたのせい」という自己責任論を押し付ける社会構造があると思うんです。日本ではこの映画のように、女の子が自分の性虐待被害や、世間から「非行」と言われるような行いをしたことをカメラに向かって話したら、放送後にネットなどでものすごくバッシングされるでしょう。家出をしたり、体を売ったり、薬物に手を出したりするのは「悪い子だから」と片付けられて、背景にある暴力や社会的な構造に目を向ける大人はあまりいません。そんな社会のゆがみが、イランや他の国の社会と同じように、子どもたちを追いつめているのではないでしょうか。

オスコウイ なるほど、スイスでもそんなことを聞きました。ところでソマイエという少女が映画の中に登場しますよね。実は更生施設の撮影許可を得るうえでいくつか制約があって、撮影終了後に入所者と接触することは許されませんでした。ところがある日、ソーシャルワーカーから電話があって「ソマイエが“メヘルダードおじさん”に助けを求めている」と言うのです。話を聞くと、ソマイエを含む3人の子が大学進学を希望しているので支援してほしいということでした。そこで資金を集めて彼女らを大学に入れました。ソマイエは今、大学2年生です。

仁藤 ソマイエは、家族で共謀して、暴力をふるう父親を殺した罪で収容された子ですね。「ここのみんなは同じような経験をしてる。お互いの痛みを理解し合ってるわ」っていう言葉が印象に残っています。

オスコウイ 私はこの映画を制作した後、制約を破った罪で裁判にかけられました。そうしたらソマイエが「自分が話をします」と言って、法廷で「この映画が作られたことによって私たちの人生が良い方向へ変わった」と証言してくれました。映画の上映会や講演会などでも「いつでも話をする」「何でも協力するよ」と言ってくれているのです。

一人だけでも助けられるなら

オスコウイ 興味本位で作られたドキュメンタリー番組などでは、こうした更生施設の子らはみな汚くて、悪い子で、とても社会復帰は無理というようなネガティブなところしか見せていないんですね。でも、それだと彼らは刑期を終えて施設を出ても社会から疎外され、薬物依存になるかストリートチルドレンになってのたれ死ぬしかない。政府もそうした闇には蓋をしたがります。だから私はその蓋を開けて、一人だけでも助けられるなら助けてあげたい、そういう気持ちがすごくあるんです。

仁藤 イランでも日本でも、社会の多くの人はこうした問題を見て見ぬふりしたいんですね。

オスコウイ この映画では子どもたちだけでなく、親たちも多くを学んだと思います。いつかわが子が同じようになるかもしれない。私はそうした悲劇を繰り返させないために、この映画を撮りました。ことが起きてしまった後では、私たちの映像はもう何の役にも立たないんです。だから、日本で今、自殺する子が多いという話を聞いて、何が彼女らを追い詰めているのか大人たちに考えてもらうきっかけになればありがたいですね。

仁藤 私たちが関わっている女の子たちがこの映画を観た時に、「すごく共感するけど、これが日本でも起きてることだって思う人はどれだけいるんだろう?」と言っていました。この国でも間違いなく同じようなことが起きています。でもそれを知らない多くの日本人は、この映画を観ても「イランは大変な国だな」とか、他人事としてとらえるかもしれません。

オスコウイ 以前、こんなことがありました。フランスを訪れた時に「パリ郊外で『少女は夜明けに夢をみる』を上映するので、ぜひ来てください」と言われて出掛けたところ、そこには少年院に入所している400人の子どもたちが映画を観るために集まっていたんです。

仁藤 すごいですね。

オスコウイ 企画したのはとても著名なソーシャルワーカーと権利擁護団体だったのですが、上映前に「監督、もしこの子たちが映画を観てブーイングをしたり、怒鳴ったり、あなたを罵ったり、席を立ったりしても気にしないで」って言われました。ところが上映が始まっても誰一人動く気配がないし、真っ暗な会場からは鼻をすする音だけが聞こえました。で、上映が終わって明かりが点くと、みな目を真っ赤にしていたんです。映画に共感して、感動してくれたことが嬉しくて、その日私は一晩泣き明かしました。たった一人、または一つの家族でも救うことができたのなら、私は目的を果たしたと思っています。なぜなら私はそのために自殺願望を捨てて、映画監督になったのだから。

仁藤 日本の少年院でも上映できたらいいのに。日本の少年院では自分がやったことに対する反省を徹底されるので、背景にどんな事情があろうとも「私が悪い」「私に原因がある」って思い込まされている子もすごく多い。映画でも法廷で「ごめんなさい」と言うシーンがあったけど、日本では警察に捕まった時なども「とにかく謝っとけ」っていう、あんな感じなんですよ。だけどイランの少女たちは、カメラの前では「本当は私たちは悪くないでしょ?」と自分で言葉にしている。日本ではそういう本音を言える場がないと思います。少年院でそんなことを言ったら外に出られなくなります。「自分が悪い」と思い込まされている子どもたちも、この映画を観れば自分のことを整理できるんじゃないかなって思いました。

オスコウイ おっしゃる通り。この映画の中の彼女たちの多くは、自分では抗いようもない運命の中で犯罪者になってしまった。ただ私が思うのは、起きてしまったことを云々するよりも、親や家族を始め社会の大人たちが、こうした現実に目を向けることで良い方向へ変わってほしいということなんです。

仁藤 私自身はこの映画を観て、収監されている女の子同士の関わりに生じるエンパワーメントみたいなものがすごく描かれていて、いいなと思ったんですよ。それは日本の少年院ではあり得ないことです。日本の少年院では私語は禁止だし、自分のの名前も、どういう罪で入ったかとかも一切話しちゃいけないので……。

オスコウイ そのことについて誰も異議を唱えないのですか? 私は相手が国でも、理屈に合わない、おかしな点があればどんどん質問や抗議をすべきだと考えています。そうでないと権力者たちは保身にとらわれて動こうとしない。

仁藤 そうなんです。まずは声を上げることが大切です。あと、私がこの映画を日本で苦しい状況に置かれている子どもたちにも観てもらいたいと思ったのは、分かろうとしている大人や、同じような経験をしながら生きている子が他にもいることを知ってほしいと思ったからです。とくに日本の一時保護所や少年院の中では誰もが孤独で、一人ぼっちだと感じているから、「そうじゃないよ」ってことが伝えられるんじゃないかなって。それと、私と一緒に観た少年院への入所経験のある女の子が言ったのが、「この施設では痛みを分かち合えるのがすごくうらやましい」ということでした。

オスコウイ もし機会があれば、私もそうした日本で救いを求めている子どもたちに実際に会って話がしたいです。例えば映画を上映してその後で意見交換をするのもいいですね。もしも呼んでいただけたらいつでも行きますよ。

仁藤 女の子たちは、みんな口々に「オスコウイ監督ってどんな人なんだろう?」って話していました。監督はインタビューでも声だけの出演だったから、「すごい気になる」って言ってましたよ。もし本当にそんな機会に恵まれることがあったら、ソマイエも連れてきてくださいね(笑)。

オスコウイ もちろん連れてきますよ(笑)。ただ、ソマイエは渡航ビザをもらえるかどうか……。その時は子どもたちの声を録音して送ってください。彼女たちも顔は出せなくても、音声だけなら大丈夫なのでしょう? そうしたらソマイエに聞かせて、彼女から一人ひとりにメッセージを返してもらいます。インターネットを使ったビデオ通話も考えましたが、ソマイエは恥ずかしくて電話もできないぐらいシャイな子なんです。

大人が変わらなきゃいけない

オスコウイ 現在、私は女性刑務所を題材にした新作映画を制作中なんですが、その本編に登場する女の子もこのほど大学に入りました。その彼女が私に向かって、「へぇ、男にもいい人がいるんだ」って言ったんですよ。男は全て大嫌いだったんですね。

仁藤 すごく分かる。私がとても好きなシーンなんですが、イスラム教の法学者が更生施設を訪れた時、彼女たちが「なんで女と男は平等じゃないの?」という質問をその男の人にぶつけますよね。そうしたカットを同じ男性である監督があえて入れていることにも、「分かってる人なんだ」と思いました。

オスコウイ 「なんで女と男は平等じゃないの?」という質問は、私もその子からされました。一応は自分の考えを話したのですが、彼女は私の目を一切見ようとしなかった。「男はみんな大嫌いだ」「男はただ私をレイプしたいだけだ」とずっと言っていました。当時、彼女は14歳でしたが、男は目を見るのも嫌なほどだったんです。話を聞くと、家出した時に街で親戚の男に偶然会ったので、親と仲直りさせてくれると喜んでいたら家に連れ込まれ、仲間を呼んでレイプされたんだそうです。日本も恐らく、イランのように男社会だと思います。男は権力を握ると、女の子たちを「自分のもの」として見がちです。ですから私たちの社会では共通して、女の子たちはとくに傷付きやすいのでしょう。

仁藤 本当に同じような状況だなと思いますね。だから、監督がこの映画で「大人たちに伝えたい」とおっしゃることもよく分かります。私たちもいつも「これは大人や男性の問題だ」「女の子の問題として片付けて、彼女たちが責められるのはおかしい」って言っています。親だけじゃなくて、その子たちと共にある社会を作っている全ての大人が変わらないといけない。家族が近くにいるとうまくいかないケースだっていっぱいあるから、そういう時は無理やり家に戻すんじゃなくて、家庭に代わる場所が社会の中にたくさん増えることが必要だと思って活動しています。

オスコウイ そうして社会の中で傷付いている子を、見ないふりするようなことも許してはいけません。ドキュメンタリー監督として私がなすべきは、蓋を開けて真実を多くの人の前にさらけ出し、あなた方のように救いの手を差し伸べる人たちにつなぐことです。ポーランドでこの映画が公開された時にはものすごい行列ができました。国じゅうのソーシャルワーカー、裁判官、少年院の担当者たちが集まってきているということでした。私たちはみな同じ痛みを持っている、日常ではそれを他人には見せないだけなんだと、改めて痛感しました。そうしたソーシャルワーカーが声を上げ、社会を変えなければならない。

仁藤 日本では、ソーシャルワーカーや福祉に関わる人が声を上げることはほとんどありません。心の中では「本当は彼女たちのせいじゃない」と分かっていても、沈黙している大人がたくさんいます。監督がこの映画を通してされていることって、この子たちと一緒に社会を変えるということなんじゃないかな。それは私も活動の中ですごく大事にしていることなんです。

 最後に、日本での私たちの活動を紹介しますね。最近はピンク色に塗ったバスを夜の繁華街に出して、10代の子が無料で入れるカフェを開いています。というのも渋谷や新宿では、少女を風俗産業に斡旋(あっせん)するスカウトが毎晩100人ぐらい雇われて、女の子を勧誘しているんです。家に帰りたくなかったり虐待されてたりする子に、「泊まる所あるよ」とか「仕事あるよ」と誘う人がたくさんいます。それに対抗して、私たちとつながった子と一緒に活動を続けているんです。

オスコウイ 私が知っている中では、そんな感じでポルノ映画にスカウトする人たちがたくさん増えているのはインドですね。以前インドを訪れた時、そんな話を聞きました。でも、これはすごい。いい活動をやっていますね。ちなみに一緒に活動している女の子たちはカフェでどんな手伝いをするのですか?

仁藤 夜の街を歩いている女の子に、オリジナルのカードや生活用品といったグッズを配って、「10代の人は無料のカフェがあるよ」って声を掛けているんです。これがその見本品です。

オスコウイ これ1個ください。これは何ですか?

仁藤 いいですよ、新しいのを差し上げます。これはカードミラーです。行政などが配っているのはたいてい「虐待SOS」「相談しよう」などと書いてあるんですが、そんなのを持ち帰って、もしも虐待をしている親に見つかったら怒られたり暴力を振るわれたりするかもしれない。なので私たちが配るものは、普通のカフェのグッズみたいに見えるようにしています。

オスコウイ とても感動しました。先ほども言いましたが、私たちがやっていることで一人だけでも助けられれば、一人だけでも救われれば、すごくいいことですよね。このグッズはイランのソーシャルワーカーへのお土産にしたいと思います(笑)。

仁藤 はい! 実はこのアイデアは、韓国で行われていた活動から学んで真似したんですよ。

オスコウイ 今回、日本へ行ったら何かいいことが起こるような気がしたんですけど、今日、このグッズを見て「これだった!」と思いました。仁藤さん、みなさん、ありがとう。映画制作にまつわる話だけではなくて、私が一番大切に考えていることの話もできたのですごく嬉しいです。

 2017年、この作品が山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された時、たくさんの人が観てくれたのですが賞はもらえませんでした。授賞式の後で女性が何人か来て、「この映画が絶対に賞を取ると思っていたのに……ごめんなさい」と言われたので、「いいえ、今のあなたの言葉こそ、この映画祭で私がいただいた最高の賞です。あなたと通じ合えた心が、私の一つの財産です」と答えました。だから仁藤さんと一緒に映画を観て感動してくれた女の子たちも、私にとって最高の審査員といえます。こういう場をまた持ちましょう。

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大人に伝えたいこと~少女からのメッセージ

少女から大人たちへのメッセージ 第41回

私に努力しろと言うのなら、もっと大人も私を見る努力をして(14歳・Yさん)

2019/10/23

https://imidas.jp/otonani/?article_id=l-72-002-19-10-g559

女子高校生サポートセンターColabo