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2019年10月01日 | 社会・経済

純利益1兆円のソフトバンク「法人税ゼロ」を許していいのか?

孫さんは「日本は後進国」と言いますが…

   週刊現代  2019.19.30

 消費増税のうえ、医療費・介護費の負担増が見込まれる日本。一方で、過去最高売り上げのソフトバンクは1円も法人税を払っていない。金持ちだけがより儲かるこの国、いくらなんでもおかしくないか。

社内で株を回し租税回避

 「日本はAIにおける開発分野で、完全に後進国になってしまった。このまま目覚めないと、やばいことになる」――。

ソフトバンクG(グループ)主催のイベント「ソフトバンクワールド2019」(7月18日)で、基調講演に登壇した孫正義氏は、こう言って嘆いてみせた。

AIや自動運転など最新の技術がテーマとなったこの講演。「日本企業の戦略は焼き直しばかり」「衰退産業にしがみついている」と厳しい発言が増えている近ごろの孫氏だが、この日も冒頭のように、日本経済の現状を辛辣な言葉で一刀両断。テクノロジーについては「日本は後進国」と言い切った。

 ソフトバンクGは'16年には英半導体大手アーム社を3.3兆円で買収、'18年には主幹事業であった携帯キャリア事業を子会社化した。こうした流れの中でいま、孫氏がもっとも注力しているのは、SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)なる投資事業だ。

単なる通信サービス企業から、日本最大規模の10兆円を運用する投資ファンドへと変貌を遂げようとしている。

孫氏は同講演で次のようにも語っている。

 「『孫さんは日本の会社にちっとも投資していない。何か思いがあるのか』とよく聞かれる。悲しいことに、日本には世界でナンバー1といえるユニコーン(創業10年以内、評価額10億ドル以上の未上場企業)が少ないのが現実で、投資したくても投資できない」

もはや日本には、投資する価値がある企業がないとすら言う孫氏。カリスマの言葉に同調し、にわかに国内産業の未来を憂い始める向きもあるようだが、それ以前に、私たちが知っておくべき事実がある。

 ソフトバンクは国内の投資云々以前に、もっとも大切なおカネを日本に払っていない。それは、莫大な利益に対する「法人税」である。

 2018年3月期の決算で、ソフトバンクGの売上高は約9兆1587億円の過去最高額、純利益は1兆390億円を計上していた。ところが、これほど儲けている企業が、日本の国税に納めた法人税は、なんと「ゼロ」。実質的に1円も払っていないというのだ。

 単純計算はできないが、本来であれば1000億円単位の法人税を国に納めていてもおかしくないはずのソフトバンク。孫氏は合法的な「租税回避」を計画し、国税の手を逃れたのだ。

「ポイントになるのは、'16年に買収したアーム社の株式です。ソフトバンクGはこの株式の一部を、グループ内のSVFに移管しました。

この移管で会社側に損失があるわけではないのですが、税務上の処理ではアーム社株の時価評価額が取得価格を1.4兆円下回り、同額の『欠損金』が生じたという計算がなされた。

その結果、ソフトバンクGの'18年3月期決算は税務上、1兆円超の黒字が消えたうえ、赤字扱いになったのです」(税理士の奥村眞吾氏)

純利益1兆円のソフトバンク「法人税ゼロ」を許していいのか?

孫さんは「日本は後進国」と言いますが…

開き直った孫さん

 東京国税局は欠損金のうち4000億円は'18年3月期に計上できないと指摘し、ソフトバンクGもこれに応じて修正申告している。それでも、1.4兆円という欠損金の処理額があまりにも大きく、追徴課税は生じなかった。

簡単に言えば、買収した企業の株を社内で売り買いして作った損を計上して、課税利益を作らないようにしている。法の抜け道を利用する形で、公表利益と税務利益がかけ離れた、数字の「マジック」を作り上げたのだ。

「かつて日本IBMが米国の親会社との事業再編における株取引で損を発生させ、法人税の圧縮を目論んだのではないかと国税が指摘し、裁判に発展したことがありました。'16年に判決が出たこの裁判は、IBMの勝訴でした。

 今回のソフトバンクGの件のスキームや国税の調査の詳細はわかりませんが、IBM事件のような判例から、海外企業との株取引をうまく使えば節税になるのではないかと判断した可能性があります」(公認会計士で税理士の深見浩一郎氏)

国税の修正申告にも応じたうえで法人税がゼロというのだから、ソフトバンク側からすればむしろ「適法」のお墨付きをもらった格好になる。

こうした結果を見込んでか、今年6月19日のソフトバンクG株主総会で孫氏は、開き直ったかのような発言をしている。

「世界の投資家は世界のルールのなかで色々な節税を合法的にやっている。合法的な範囲のなかである程度節税を図っていく」

 ソフトバンクは租税回避の「前歴」がある。'13年に米携帯電話大手スプリント社、'14年に米携帯卸売り大手ブライトスター社を買収した後、2社の売り上げに関してタックスヘイブンで知られるバミューダ諸島を経由させ、税負担を軽くして利益を増やそうとした。

'13年~'16年の4年間で、申告漏れと指摘された金額は約939億円。もしこれが「違法」とみなされていれば、とんでもない金額のごまかしとして糾弾されるところだった。

だが、国税は「意図的な税逃れではない」と判断。ペナルティーである重加算税は課されなかったのだ。この国は税金を納めなくても怒られない。そう、孫氏は味を占めていることだろう。

こうした孫氏の手法について、経済学者の野口悠紀雄氏は大きなため息をつく。

「今回の件のアーム社株は非上場株で、しかも子会社への売却です。ソフトバンクGが算出した時価評価額が適正なものかどうか、客観的に知ることは私たちにはできません。

ですから、国税がこれを正しく評価し、きちんと追及できたのか疑問が残ります。

 法律的に見れば問題はないのかもしれませんが、日本を代表する企業が、世間一般から疑いの目をかけられるような税金の処理を行うのはいかがなものか、と思います。

携帯会社としてのソフトバンクは消費者に商品を直接販売して利益を出している企業ですから、信頼を失っては大問題です。信頼を失うようなことはないと思っているのでしょうか」

税金ゼロということは、利用者がソフトバンクにいくら携帯料金を支払ったところで、医療費や介護費などに還元されるおカネは1円もないということだ。

税務署もどうかしている

 「企業は社会の公器である」というのは、パナソニック創業者・松下幸之助の基本理念である。企業の利益ではなく社会の利益を追い求め、公共的責任を果たすことが、会社の役割であるという考え方だ。

ソフトバンクは研究開発に投資し、社会に貢献していると言うかもしれない。たしかに、東日本大震災が発生した時にいち早く100億円の寄付を申し出たり、「孫正義育英財団」を設立して優秀な人材を発掘したり、「表向き」の社会貢献は積極的に進めているように見える。

だが、「税金を払う」という基本中の基本の義務を果たしていなければ、単なる宣伝活動にしか映らない。「日本は後進国になっている」と偉そうに言われても、「お前が言うな」という話だ。

サラリーマンや年金暮らしの高齢者でも、少しでも生活を楽にするために、税負担を軽くするためのさまざまな控除を利用したり、相続対策を講じる人は多いだろう。

こうした個人のささやかな税金対策に関して、税務署は血眼になって調査する。少しでも税金を納めずにいると、督促状が届き、延滞金が加算され、場合によっては問答無用で金品を差し押さえられるなど、徹底的な追及を受けてしまう。

その一方で、明らかに「税逃れ」している大企業がなんのお叱りもないのは、いったいどういうことなのか。

 ソフトバンクGは、あくまで表向きは過去最高売り上げだ。そのため、役員報酬や株主配当は高くなる。

孫氏のCEOとしての年間報酬は2億2900万円で、企業規模から考えると控えめと言えるが、自身でソフトバンクG株を2億3000万株以上保有している。

ざっくり計算すれば、年間100億円以上の配当が受けられるうえ、その配当収入も「キャピタルゲイン課税」の扱いになり、給料や事業収入にかかる所得税の半分程度で済んでしまう。

要するに、ソフトバンクが税を圧縮して株価を維持していれば、孫氏の懐に大金が転がり込む仕組みになっているのだ。

孫氏だけではなく、ソフトバンクG株を保有する大口の個人投資家やヘッジファンドも同じように、同社が節税すればするほど懐に入ってくる額が大きくなる。そのため、株主総会で同社の節税スキームに異を唱える者が出ることもない。

これじゃ日本が終わるよ

 一方で、市井の一般国民や高齢者はどうだろうか。いくばくかの貯金をやりくりして暮らす高齢者は、国から言われるままに税金を吸い上げられる。かといって、少しでも稼ぎを増やそうと働きに出ると、様々な控除を外され、結果的に税負担増になる。

それどころか、政府や財務省は仕方のないことだと言わんばかりに高齢者の負担増を訴え、医療費や介護保険料の値上げが社会保障改革の指針に組み込まれている。

こうした幾重もの課税に加えて、今年10月には消費増税も控えているわけだ。元国税調査官の大村大次郎氏は言う。

「日本の法人税は世界的に高額と言われていますが、ありえないほど抜け穴が多く、タックスヘイブンレベルとさえ言うことができます。

『金持ちから1円の税金を取るのは、貧乏人から1万円を取るより難しい』と言ったりしますが、本来であれば消費増税をするよりも、こうした法人税の抜け穴をふさいでいくことで増収を見込むべきだと思います」

 消費増税による家計への負担は4.6兆円と見られている。とてつもない金額だ。だが、'89年から導入された消費税の税収を私たちがこれまで享受してきたかと言えば、そういうわけではない。

立正大学法学部客員教授の浦野広明氏は言う。

 「消費税が導入されてから、これまでに徴収された消費税収の累計は349兆円におよびます。

一方で政府は、法人3税(法人税、法人住民税、法人事業税)の優遇を進めてきました。この法人3税の減税額は'17年度までの累計で、実に281兆円にのぼるのです。

 消費税は逆進性が高く、高齢者をはじめとする所得が高くない世帯のほうが、重い負担を強いられる税金といえます。

 その消費税の8割近くを、法人税の減税で食いつぶしてしまった。税制的には、大資本を持った企業であればあるほど有利な状況で、むしろ格差を容認する仕組みを政府は作っているとさえ思えます」

 こうした我が国の現状は、はっきり言って「異常」だ。タックスヘイブンの活用や租税回避は外国で横行しているイメージがあるが、実際には違う。日本だけが、ソフトバンクのような大企業の「税逃れ」に対して見て見ぬふりをしている。

前出・奥村氏は次のように言う。

「G20会議では近年、『低税率国や租税回避地を利用した脱税に近い方法は、企業のモラルとして禁止しなければならない』と決議しています。

また、ジェフ・ベゾス氏がCEOを務める米アマゾンも税逃れの常習犯で有名ですが、トランプ大統領がベゾス氏を名指しで批判し、苦言を呈したこともありました。

 こうしたことを鑑みると、世界では法人の税逃れに否定的な風潮に向かっていると言えます。そのなかで、意図的に租税回避を行っている孫氏のやり方は、もっと日本で取り沙汰されてもおかしくないと思います」

 なけなしの年金から安くない携帯料金を、ソフトバンクに払っている人もいるだろう。そうして得た儲けは、すべて彼らの懐に入り、税金として世の中に還元されることはない。

 重税にあえぐ庶民から、さらにカネを吸い上げるだけの企業ばかりになったら、それこそ日本は終わりだ。

「週刊現代」2019年9月14日・21日合併号より

 


栗拾い

いがぐりをこじ開けなくても、大きな実が裸で転がっている。

 

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