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人口減を断ち切る施策を

2017年05月15日 | 社会・経済

マヤカシの人手不足と完全雇用 なぜ賃金は上がらないのか

         日刊ゲンダイ 2017年5月11日

 賃金がちっとも上がらない

  厚労省が9日に発表した3月の毎月勤労統計によると、1人あたりの名目賃金にあたる現金給与総額は、前年同月比0.4%減少。物価上昇分を差し引いた実質賃金は0.8%減だ。

  「表向きの数字よりも、実態は悪化しています。統計を見ると、正規雇用を示す『一般労働者』の名目賃金は0.6%減、非正規の『パートタイム労働者』は1.9%も減少しました。トータルの数字が高いのは、たまたま給与水準が比較的高い正規の割合が前年より増え、その分だけ平均値が高めに出たからに過ぎません。実質賃金の実態は1.5%の減少とみられます」(経済評論家・斎藤満氏)

不可解なのは「人手不足」が社会問題化しているのに、まるで賃金が増えないことだ。ドライバー確保に苦労するヤマト運輸はサービスを見直し、ファミレスや牛丼チェーンが24時間営業を廃止するなど、人手不足のニュースがメディアを賑わせている。
ましてや、直近の完全失業率は2.8%と22年ぶりの低水準。有効求人倍率は実にバブル期以来26年ぶりの高い水準だ。統計上は「完全雇用」に近い状況なのである。

  賃金が労働市場の需給に応じて決まるのは、経済学のイロハのイ。本来なら「人手不足」がニュースになるほど労働需要が高まれば、賃金も上昇しなければおかしい。安倍首相がナントカのひとつ覚えみたいに「アベノミクスの成果」として、真っ先に雇用改善を挙げるのに、一向に我々の賃金が上がらないのは、どうしてなのか。

  答えは明快だ。安倍政権が現実を直視せず、「今そこにある危機」に有効な処方箋を出さないどころか、まるで関心がないためだ。今そこにある危機とは、急激な人口減のことである。

 ■猛烈な勢いで内需が縮小していく悪夢

  日本は経済需要の8割以上を内需に頼っている。米国に次ぐ世界第2位の超内需国でありながら、2006年をピークに人口減社会に突入。今後も猛烈な勢いで市場(需要)は縮小していく。

 生産年齢人口(15~64歳)はさらに早い1995年にピークを迎え、2015年までの20年間で約1000万人も減少した。なるほど、人手不足も生じるわけだが、人口減に歯止めをかけなければ、経済活動は活気を失い、国力の低下は避けられない。前出の斎藤満氏はこう指摘する。

 「賃金だって旺盛な市場が出現する見込みがなければ、絶対に増えません。人件費は固定費である以上、経営者は経済成長を実感できなければ、賃上げを躊躇する。コスト上昇分を製品やサービス価格に転嫁できなければ、企業収益が悪化するためです。景気の現状は、イオンの岡田社長が『脱デフレは大いなるイリュージョン』と表現したように、賃上げ分の価格転嫁に慎重にならざるを得ません。賃金が上がらないから、需要はますます衰えるの繰り返し。この悪循環を断ち切るには、人口減という日本経済の構造的問題の解決に取り組むしかない。力強い市場を生み出すためにも、出産の奨励や子育て支援など地道な努力を重ねるしかないのです」

   ところが、安倍政権の少子化対策はやることなすこと中途半端。本丸の人口減問題を放置し、「働き方改革」を最大のチャレンジと位置付けるトンチンカンだ。その改革とやらも、目玉は罰則付きの「残業時間の上限規制」という机上の空論に過ぎない。とことん、労働現場の苦悩を理解しようとしない。血も涙もない政権ではないか。

人口減を断ち切り、力強い市場を創出せよ

  安倍政権がジリ貧必至の人口減社会を放置する限り、長時間労働はなくならない。市場が縮小する中、企業に余剰人員を抱える余裕はない。新たな人材を雇えなければ、シワ寄せは過酷な労働環境となって、社員一人一人にはね返る。

  今や労働者は、1人分の賃金で2、3人分の仕事をこなしているのが実態だ。中小・零細には、かつての就職氷河期に新規採用を見送った企業が多い。社内に働き盛りの人材が薄いため、不惑を過ぎた社員でも馬車馬のように働かされている。

  こんな過酷な状況下で、安倍政権に罰則付きの「残業時間の上限規制」を押し付けられたら、中小・零細はたまらない。長時間労働解消のために無理して社員を増やせば、人件費に圧迫されて経営は傾いてしまう。

 「過労うつや過労自殺の増加など、それこそ『改革』を迫られるほど日本人の働き方が混迷を極めているのに、安倍政権が現状を把握できているかは疑わしい。改革を進める首相自身が3代にわたる世襲議員で、神戸製鋼でサラリーマン経験があるといってもしょせんは政治家になる前の“腰掛け”程度。働く者の気持ちなど理解できないのでしょう。経団連がバックについた政権が『働き方改革』を標榜しても、『働かせ方改革』になるだけ。働く者に安倍政権の働き方改革は「労働生産性の向上」も追い求めている。安倍自身、2年前には「日本経済の生産性を抜本的に高める生産性革命に取り組む」と宣言したが、この発想は危うい。生産性の向上と効率良く働くことを混同しているように見えるからだ。

  ハッキリ言って生産性と効率化は無関係だ。仮にスーパーのレジ打ちのパート店員たちの効率化を進め、2倍の速さで客をさばけたとする。それだけで売り上げが伸びるかといえば、答えは「ノー」だ。肝心の客足が伸びなければ必死の努力も水の泡。逆にパート店員の半分のクビを切る口実に利用されかねない。

  今後は労働現場に、人工知能やロボットがどんどん進出していく。そんな時代にAIと労働者の効率性を競争させるような政策は、人の道に反している。

 ■この国の持続可能性は風前の灯火

何ひとつメリットはなさそうです」(労働政策が専門の政治学者・五十嵐仁氏)

まともな経営者なら、レジの効率を上げる前に、まず客を呼び込み、商品を買わせることを優先させる。それと同じように、今の日本が真っ先に取り組むべきなのは、人口減対策であり、力強い市場の創出である。

  急激な人口減下では、長期にわたる「後退戦」を覚悟しなければならない。限りある資源をできるだけ温存し、次世代に渡すことが重要な使命となるが、安倍政権はアベコベだ。

  少子高齢化社会では「虎の子」となる年金基金を、鉄火場の株式市場に平気でつぎ込む。人口減対策はソコソコに「高度成長期よ、もう一度」とばかり、東京五輪開催費や万博誘致になけなしの血税を投入する。思想家の内田樹氏は3日付の神奈川新聞のインタビューで、こう嘆いていた。

 〈後退戦局面で、「起死回生の突撃」のような無謀な作戦を言い立てる人たちについてゆくことは自殺行為である。残念ながら、今の日本の政治指導層はこの「起死回生・一発逆転」の夢を見ている。五輪だの万博だのカジノだのリニアだのというのは「家財一式を質に入れて賭場に向かう」ようなものである。後退戦において絶対に採用してはならないプランである〉

「10年前から人口減は顕在化していましたが、今からでも遅くない。五輪やカジノに注力する頭脳やマンパワー、数兆円もの予算を人口減対策に振り向ければ、劇的な改善が望めます。正規と非正規の賃金格差を是正し、雇用の安定化を促す。安心して結婚や子育てができる環境を、国を挙げてつくり出すべきです。さもなければ、日本という国の持続可能性は日々すたれていくだけ。安倍政権は、人口減下のマヤカシの完全雇用に浮かれている場合ではない」

  五輪や万博が成功すればバラ色の未来が待っているかのような、冷酷政権の国民騙し。その犯罪的無能は万死に値する。