旅芸い者放浪記

前沢政次 ブログ

ラブレス(LOVE LESS) 愛なき人生行路?

2011-12-29 20:53:00 | 読書

何年ぶりかで小説なるものを読みました。きょうは休みでなく、午前外来診療、午後は予防接種と老人ホームの回診でした。

夏の頃、新聞の書評を読んでぜひ読んでみたいと思ったのですが、時間がなく、ようやく最近買い求めた本です。釧路市出身の桜木紫乃さんの作品です。新潮社刊。

道東の極貧の開拓小屋に育った百合江は、身売りされるように奉公に出、旅芸人一座の女性歌手の歌を聴き、天啓に導かれるように一座に入門する。

10年近く全国を回り、座長は肝硬変で世を去り、師匠は半身麻痺し、まもなく自死。その後、女形でギタリストの宗太郎と流しでかろうじて食べていく。

宗太郎の子ができてまもなく、彼は百合江から離れていく。やがて役場職員との不幸な結婚。借金返しのために温泉旅館の子連れ仲居として働き、宴席では歌を歌う。

二人目の子は帝王切開で生むが、術後の腹を夫に蹴られ、ダウン。さらに長女はいなくなる。勝気な妹に守られて母子で小さな幸せをつかむも長続きはしない。

百合江は一人暮らしになり土地売買で騙され自己破産し、生活保護に。町営住宅で 左手に位牌を握って倒れているところに妹と姪が訪ねてくる。

読後感:著者は愛に裏切られ続けた人生をラブレスと呼びたいのだろうか? 70歳台にもかかわらず「老衰」と判断されたことを不幸としたいのだろうか? 

百合江の人生行路をラブレスとぼくは思わない。夕張炭鉱から開拓に身を転じた飲んだくれの父。人間性を失ったかに思えた文盲の母。でも百合江はSOC(首尾一貫性)を持った女性。柳のように、風のように。仕方のないことはあまり考えない。不幸も幸福も長くは続かない。人生の帳尻なんかどうでもよいと考えることのできた女性である。家族愛も姉妹愛もあった。性の不幸も喜びもあった。

著者はラブレス人生はないということを言いたかったのかなあと旅芸医者は最終的に考えたのでした。ナラティブなアプローチ(患者さんの物語を読み解く)は患者さんの小さな愛、ささやかな物語に共感できる有効な手段だと改めて感じました。

 

 



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