旅芸い者放浪記

前沢政次 ブログ

スピリチュアルケアを身近なものに

2014-06-17 06:15:41 | 読書
岡本拓也『誰も教えてくれなかったスピリチュアルケア』(医学書院 2014年4月)を読みました。書評というか、推薦の言葉を書いてみました。

的確な日本語訳のない用語は理解が難しい。スピリチュアルケアもそのひとつである。「霊的」「魂の」「精神の深い部分の」などいずれの訳語もピンとこない。

新進気鋭のホスピス医岡本拓也君がこの問題に取り組んだ。その基礎となっているのが構造構成理論である。岡本君は単著第一作『わかりやすい構造構成理論』(青海社)でケアに関わる理論的枠組みを示した。

そして今回、その哲学的基礎の上に立って『誰も教えてくれなかったスピリチュアルケア』を上梓した。

本書がめざしているのは、スピリチュアリティ、スピリチュアルな経験、スピリチュアルペイン、そしてスピリチュアルケア、これら4つの概念の相互関係を明らかにすることである。

まずは第1章でケア担当者が日常臨床で用いている技法を解説する。物語への傾聴、音楽、食事、ユーモアと笑顔、愛することなど、さりげなく交わされるふれ合いの中にケアの真髄を見出すことができる。

2,3章は個別性の理解をふまえて、「スピリチュアルな経験」を解説する。すし職人であった方の「しめサバ握りの物語」はホロッとさせられる。そして、4章から5章ではスピリチュアリティの内容を考察する。それを深めていくことによって、人間が経験によって築いていく「意味・価値・目的」の具体内容を明らかにし、人間だれもにに備わっているスピリチュアリティの本質に迫る。医療では重要な課題なのに、医学ではほとんど無視されてきた領域に光を当てる。

そして6章はスピリチュアルペイン、7章はスピリチュアルケアを定義づける。ここで著者が強調するのは、スピリチュアルペインやケアが、ある限られた分野の特殊な状況で生じることではなく、日常生活のただなかで感じ合う痛みであり、ケア担当者があらゆる場面で持つべき態度・姿勢であることである。

本書を読んで抵抗を感じるとすれば、それは構成構造理論の用語がしばしば使われていることであろう。著者はそのために「より詳しく学びたい人のためのコーナー」「Q&A」を使ってやさしく解説する。そのなかにも珠玉の言葉がちりばめられている。

ケア担当者すべてが活用できる本である。特にプライマリ‐ケア分野で全人的アプローチの振り返りに役立てていただきたいと願う。      


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1 コメント

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感謝! (岡本拓也)
2014-06-19 09:20:30
前沢先生、ご紹介、ありがとうございます!
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