〈第四回〉
・「あたしがこの世界目指したのは恵都がいたからだし。約束してたんですよ。ずーっと親友でいようって」。ぶりっこ声でテンション高く話す奈子。「おぼえてません。やめてください。やめて」。それだけ言って走り去る恵都。冷ややかに見送る奈子を意味ありげな目で見る浩一。
奈子との関係を聞かされてなくても二人の顔色と話の流れである程度察してる感じがします。
・一人リストンの屋上で下を見てる恵都。「やっぱりな。ここだと思ったんだ」。浩一を筆頭に皆がやってくる。スクール長まで混ざってます。いわく「みんなぞろぞろ階段あがってくから何かと思って」。
そんなスクール長に「いてもいいけど変な茶々入れないでくださいよ」と浩一はえらそうなコメント。発言だけ聞くと何様感がありますが、なんかちょっとユーモラスです。
・「恵都、さっきの何?ていうか恵都と園田奈子って何かあったの?」「あったよ。ずっと昔ね。でももう奈子は忘れてるのかもしれない」。それから恵都は二人の間にあったことを話す。
紅葉は怒り心頭だが浩一は「おれはあの奈子って女が特別ひどいとは思わない」「あいつはさ、どうしても恵都に勝ちたかったんだよ」。そしてサッカーでも勝つためにはいろいろある、フェアプレーばかりじゃない、「でもそういうの上手くやりすごして乗り越えていかないと一流とは言えないんだ」と語りながら恵都の隣に来て座る。「子供でもプロだったんだろ。だったらプロらしく堂々と渡り合えばよかったんだ」。
浩一の発言に、紅葉は恵都がこの話をできるようになるまでに何年かかったと思ってるんだと怒る。確かに恵都を7年もの引きこもり生活に追いやったほどのショックな経験を他人の浩一がとやかく言うべきことじゃないのかもしれませんが、彼のキツい、だけど一理も二理もある言葉を噛み締めてそれに答えるよう行動することで、恵都は確実に強くなっていっている。
恵都は浩一のキツい助言を必要とし、浩一は一言多いと取られがちな自分の言葉をちゃんと飲み込み答えてくれる恵都に救われている。まさにベストパートナーですね。
・翌日奈子がスクールに現れる。スクールの子たちにサインくれと囲まれていた奈子は、恵都を見つけて寄ってくる。
昨日はごめんなさい、あたしもプロデューサーに言われて何がなんだか、と言う奈子に生徒が「奈子さんと恵都ってお友達だったんですか」とテンション高く尋ね、奈子はそうなの、ミュージカルでダブルキャストだったのと嬉しそうに語る。
以前仲良しだったことを強調することで、現在の自分と恵都の立場の違いを見せつけ、かつ恵都が周囲からあれこれ「サニー」のことを聞かれて居心地悪くなるよう仕向けてるのでしょう。つくづく策士。
・奈子の横をすり抜けて向こうのテーブルに座る恵都。追ってきた奈子になぜここがわかったのか聞くとスタッフが後をつけてたとのこと。これ本当はマーサから情報を得たから知ってたわけですよね。二人の繋がりが明らかになるのはもう少し後のこと。
・「でもあたしからあの企画は放送しないって、お願いして約束してもらったから」「許してくれる?」と下手に出る奈子に「うん」と恵都は答え、「よかったー」と奈子は恵都に抱きついてくる。
恵都は固まった顔になるが「あたしと会えたことも喜んでくれるよね?」と言われ、後ろで皆が見てる手前もあり、「うん、久しぶりだよね」と何事もなかったように微笑んでみせる。さすがに人のいい恵都とはいえ、奈子のいかにもな友情ごっこを本気にしちゃいないでしょう。
奈子のほうも見抜かれてるのを承知のうえでメアド交換しようなどとさらに恵都を追いつめにかかりますが、さっきからずっと見ていた浩一が割って入り、恵都をパソコン部屋に誘う。「行く」とシンプルに答えた恵都の表情に、彼女がいかにほっとしたかが現れています。谷村さんはこうした表情の作り方が上手いですね。
・「パソコン部屋なんてあるんだ。あたしも行っていい?」という奈子に、浩一は背中向けたまま「だめ」とにべなく言い切り、さらに振り向いて「あんたは邪魔」と追い打ちをかける。
周囲、特に一般人からはちやほやされ慣れてるだろう奈子にとって、面と向かって「邪魔」呼ばわりされるなんてそうそう経験ないでしょうね。
・パソコン部屋に恵都を連れてった浩一は「おまえ、無理に笑うなよ。いったい誰のために笑ってんの。ていうかさ、嫌なことは嫌ってはっきり言えよ」「もうそろそろ乗り越えろよな。おれたちもいるんだし」とまたも強めの忠告を。でも恵都への思いやりが伝わってくる言葉です。「おれ」でなく「おれたち」ってところに彼の照れが感じられる気もします。
・紅葉と二人帰る途中、大洋と平野のツーショットを見かけた恵都。紅葉はかわいいお店があるからと別の道に行こうとするが、恵都は無言で横断歩道を渡る二人の後を追い、おはようと自分から声をかける。「いいなあこんな早くからデート ?」と笑って話しかけるところに、失恋の傷は完全には癒えてないながらも乗り越えていこうとする恵都の前向きな気持ちが表れています。
平野も「うちのチーム今度大きい試合に出ることになったの」と気安く声かけてくる。大洋からどの程度恵都のことを聞いてるかはわかりませんが、大洋の気持ちを汲んで恵都に邪険にせず彼の友達として受け入れようとしてるように見えます。平野は原作ほどは活躍しませんが、キャラ的には同じようにいい子ですね。
・また二組に別れた後、彼女とコンビニに入った大洋が窓ごしに恵都に何か言ってガッツポーズ送ってくる。さっきあまり喋らなかったのはやはり平野にちょっと遠慮があったのかもですね。
恵都も自然と笑顔になりますが、大洋が遠ざかった後また暗い顔になってその場にかがみこむ。前のことがあるだけに紅葉は心配しますが、「ちょっと胸が痛いけどもうあたしは昔のあたしじゃないから」と恵都は荒い息を整える。
そして「あたしも頑張らなきゃ」と宣言。「でもなに頑張っていいかわかんないんだけどね」と付け加えつつも声は明るい。着実に成長してゆく恵都は眩しいほどです。
・そのまま紅葉とリストンに行くとマーサの車が来て「こないだはどうも。青山さん」と声をかけられる。紅葉はいぶかりながらも二人にコーヒーを運んで中に入り、彼らが二人で話せるようにする。
でもすぐドア向こうの席に座って話に耳をすませてるあたり、何かのときには飛び出して恵都を守ろうという気概を感じます。いい子だなあ紅葉。
・後から恵都が何者か思い出したというマーサは、暇なとき練習台になってほしい、もう仕事する気はないのか、今の方が可愛いしいけてると思うけどな、など恵都に芸能界復帰を促すような台詞を投げかけてくる。
うつむいて考えこむ恵都。自分に何ができるか何を頑張るべきかを日々考えてる恵都であってみれば、気持ちがざわめいて当然ですね。
・現場で時間待ち中の奈子のヘアメイクを手がけてるのはなんとマーサ。「会ってきましたよ青山恵都に。どうってことない子じゃないですか」「正直わかんないな。なんで奈子さんがそんな気にするのか」。
さっきまでとキャラが別人じゃないか。あれだけ恵都を褒めてたくせに。まあ出会い以来の態度的にうさんくさい感じはありましたが奈子のスパイだったとは。
・しかし恵都を落とすばかりでなく、「でもまあいい顔はしてましたけどね」「いや女優としてどうこうってことじゃなくて真っ直ぐで邪念がないというか。今の生活がきっとあれはあれで充実してるんですね」。ここで台本広げてる奈子の顔がメイク鏡に映りますが、ちょっと泣き出しそうな表情をしています。
マーサなりに恵都は今の生活で満足してる、芸能界に復帰する気はないから奈子を脅かすこともないと、奈子を安心させたくてこういう言葉を口にしたんでしょうが、苦しみの渦中にある奈子は恵都が幸せそうにしてるというところに激しい妬みと怒りを感じてしまった。結果的に後の騒動の種を蒔いた格好です。
・恵都が帰宅するとリビングで知佳が奈子のドラマを見ている。母が勉強の時間でしょとさりげなくテレビ消すよう促すのを「いいよあたしに気を使わないで」と恵都は自室へ行く。
奈子が恵都が引きこもった原因であること、彼女が具体的に恵都に何をしたかお母さんたちは知ってるんでしょうか。多分本当のところは知らないまま、ダブルキャストの片割れ、それも才能では恵都より劣っていると思われていて自分もさんざんあの子に負けるなとハッパかけた相手が華々しく活躍してるのを見せれば恵都が傷つくと思っての行動でしょう。
・母に子役時代のリハのビデオを見たいという恵都。母親は戸惑いためらったものの「子役時代の自分がどんなだったか見てみたいの」という恵都の言葉を容れる。
リビングで並んでビデオを見ながら涙ぐんでしまった母親は「あなたの演技見るといつも泣いちゃうのよ。あなたはつらいんでしょうけど」と言う。ちょっとわかりにくい表現ですが、恵都にとっては辛い記憶であっても、お母さんとしては輝いてた頃の恵都の姿に感動せずにいられないという意味でしょう。
母の気持ちを思いやった恵都は「ううん。なんだか自分じゃないみたいだから」と平気な顔をしてみせますが、これはまんざら強がりではなく、過去の自分をそれだけ客観視できるようになった証左じゃないでしょうか。
・「あたしがいやだったのは女優という仕事じゃない。その仕事で否応なく人と争わなきゃいけない事だった。勝ちたいなんて思ってないのに」。
そんなことを思いながら恵都が「サニー」オーディションの看板眺めていると、ちょうど奈子がやってくる。「逃げないでよ」「久しぶりに話さない ?」と奈子から声をかけ、オーディション会場の?ロビーで話す二人。
しかしこないだの余裕ありげな態度はどこへやら、奈子は「フリースクールって弱い人間の集まりだよね。傷かばいあっちゃてさ。あんたがひきこもって楽してる間にあたしは一人でずっと戦ってきた」と毒に満ちた言葉を投げつけてくる。恵都は「そうだね奈子はえらいと思うよ。あの頃からあたしにはないガッツが奈子にはあったもんね」と穏やかに答える。
奈子の失礼な言葉に怒らず傷つかず素直に応答する。その後の奈子のヒステリックな態度からしても、もはや恵都の方が全然精神的に大人な感じです。
・「そんなもんだけじゃやってけないんだよこの世界は!なによあんたなんか。あんたなんかちょっと意地悪されたくらいでへこんじゃって。才能がなければやる気もない。何もないじゃない」。ひどい言葉を投げつけながら、言われる側の恵都より言った奈子の方が自分自身の言葉に呆然としてる感じです。
そして「なんであたしばかりこんなに苦しまなきゃいけないの」と泣きそうな顔で走り去る奈子。自分から誘っておきながら勝手にヒス起こして去ってゆく。奈子の精神的追いつめられ方が顕著です。飲み物の代金を置いていったのがぎりぎりの冷静さですね。
後ろでずっとサニーの歌「友達ってすてきねー」が流れてるのが痛ましさを強めます。
・リストンへ行き奈子の事務所のアドレスを浩一に調べてもらった恵都はすぐに出かけていく(奈子が置いてったコーヒー代が多すぎたため)。そしたら別の道から浩一が現れて恵都に合流。
「一緒についていくんだよ。おまえの天敵だろ。襲ってきたらどうすんだよ」。昔なら偶然をよそおって同行したんだろうに。襲うという表現に恵都はちょっと笑いますが、これは浩一の照れ隠しのための冗談なんでしょうね。
・意外に小さな事務所の作り(実際そんなに力のある事務所ではないことがあとで判明します)。「おじゃましまーす」という浩一の声がちょっと遠慮がちなのが彼らしくなくて可愛いです。人見知りというか結構内弁慶だったりするのかも(もちろん恵都たちは「内」枠)。
・事務所ではちょうど奈子の行方不明騒ぎが勃発中。「どうすればいいのよまったく」とヒスる奈子のマネージャー。先の恵都との会話でも相当精神的に追いつめられてるのが明らかでしたからね。
というより奈子が必死でしがみついてきた世界からドロップアウトしながら友達に守られ幸せそうにして恵都と話したことが、奈子の逃避願望に火をつけたのかもしれません。
・「あのすみません奈子いますか」。ここは一応「奈子さん」とか言っとくべきところでは。相手は恵都が何者かも奈子との関係も知らないんだから。小さい時から大人の中で仕事してたせいか7年引きこもってたわりに口の利き方や礼儀はしっかりしてる感じの恵都ですが、やっぱりところどころ抜けてますね。
・関係者以外は入れないと押し返そうとしたマネージャーが恵都の顔に気づく。奈子から恵都の話を聞いてると言ってましたが、奈子はどんな風に、そしてどんな気持ちで恵都の話をしたんだろうか。
・奈子の居所を知らないかと聞かれて困惑する恵都。そこに奈子から電話が。どこかのホテルにいるらしい奈子はすっかり投げやりな調子。マネージャーは恵都を引っ張って受話器を渡し、奈子と話してくれという。
よほどせっぱつまってるんでしょうが、この強引さはさすが業界人というべきか。しかし「あなた奈子の親友だったんでしょ。あなたの言うことなら聞くかもしれないから」とは。本当に奈子は恵都のことをどんな風に話してたんだ。
・「何であんたがそこにいんの」。奈子としては当然の疑問ですね。さぞ驚いただろうし、自分の縄張りを恵都に荒らされたような不快感もあったんじゃないでしょうか。
恵都は頓着せず「お金返そうと思って。さっきのコーヒー代5千円もしないし」と奈子の世間知らずがおかしいというようにちょっと笑う。笑う場面ではないだろうに。このへんの微妙な空気の読めなさはやっぱり対人スキルがまだまだな部分かも。
・「あんたってほんとバカ」「帰ってきなよ、マネージャーさんが心配してるよ。仕事に穴あけないほうが・・・」「仕事に穴あけるのはあんたの得意でしょ。そんなに言うならあんたが代わりにやってみたらいいのよ」。まあ確かに恵都が言えた台詞ではないというか、言われた側が突っ込まずにいられなくなるような言い草ですね。
しかし恵都が本当に代役やることになるとは奈子も思いもしなかっただろう(ドラマ的には完全に伏線だけど)。奈子が言ったからそうなったわけではないけれどヤブヘビとも言うべき発言です。
・浩一が恵都にネット上の奈子の噂を見せる。どの役も同じに見えると酷評されたり恋愛系スキャンダルが取り沙汰されてたり。「厳しいよなこういう世界は」。
そこへマネージャーがやってきて今日だけでいいから代役をやってくれといってくる。この人恵都に対する態度が終始偉そうで、頼みごとしていてさえ居丈高。つい事務所のタレントを相手にしてるような気になってしまうのか。
・「あなたなら青山恵都って名前が知られてるし、監督だって納得してくれるかもしれない」「お願い奈子を助けると思って」というマネージャーの言葉に対し、浩一が立ち上がって「人助けのつもりならやめとけよ。自分のためだと思うなら、やればいい」と恵都に告げる。
この時の浩一はとても思慮深い目をしている。先に奈子の噂を見て業界の厳しさを口にしたばかりの浩一は、精神的には赤ん坊も同然の恵都がこの世界に片足だけでも戻ったなら、ちょっとのバッシングでも深く傷つきかねないことを知っている。
それでも止めない、むしろ背中を押すようなことさえ口にするのは、再び人前で演じることが恵都が自分がしたいこと出来ることを見つけるきっかけになる、脆く見えても友達に支えられ急速に成長しつつある恵都は昔のように簡単に折れてしまうことはないと信じているからじゃないでしょうか。
・マネージャーは回りの人に迷惑かけたことを謝りまくりながら恵都を女監督のところに連れていく。恵都の名前を聞いて「いたわねそんな子」。どうもあまり好意的な反応とは言い難い。
恵都は衣装に着替えたものの体がすくみ、控え室を出てきたときはまるで幽鬼のよう。廊下を歩いてゆく恵都を浩一が前に回りこんで「今どこへ行こうとしてた」と叱責する。「逃げんのか、そうやって一生」。トイレとかじゃない、逃げたい気持ちになってることを顔色から敏感に判断したわけですね。恵都の成長には本当に浩一の存在が不可欠だと感じる場面です。
・女監督はクールな目で挨拶する恵都を見ているが、仕事(歌のプロモ)の内容を説明しはじめる。新生活・一人暮らしがテーマで「新しい街で友達はベランダの鉢植えだけ」。一箇所泣くシーンがあるから目薬用意してと監督がスタッフに言いかけるのを「あの、目薬は、要りません」と恵都は答える。7年のブランクがあるのに自信があるというか、彼女の女優としてのプライドを見たような。奈子は目薬いるんだろか。
後ろでスタッフが反発の表情を見せてひそひそ話してるのは、ずっとこの世界から離れてたくせに昔と同じにできる気でいるよ生意気に、とか言ってるんでしょうね。
・「演技の出来によっては撮影中止ってのもありえるんで」というスタッフの言葉。奈子に対してだったら決して使わないだろう表現に恵都の実力を危ぶむ気持ちが現れてる。上のひそひそ話といい撮影スタッフは素人同然の子を連れてこられて迷惑がってるんでしょうね。
・不安を隠せないながらも浩一を振り返った恵都は励ますような彼の静かな微笑みに、わずかながら力強さを感じさせる笑顔を返す。こういうちょっとした表情の演技は二人ともさすがです。
・セットに入る恵都を見ながらスタッフは今日は中止決定、あしたスタープロのホシサユリがスケジュール空いてるなんて話をしてる。マネージャーの危惧どおり次はもうここの事務所には仕事回らない感じですね。
・恵都の演技に見入る一同。監督も途中からは恵都を認めたという顔色になる。この撮影シーンが途中から恵都の映像がテレビ画面に映ってる形に切り替わるので、もうオンエア ?しかも PVなのに?見てるのは奈子だけどまだホテルの部屋っぽい(つまり3日と経ってない可能性が高い)のに?と思ってるとマーサから奈子に電話入って「送ったDVD見ました?」「発売は二週間先だけど」。なるほど出来たばかりの映像渡したのね。マーサには居場所を伝えてあるあたり彼には信頼を置いているということか。
マーサが僕の感想ではと言いかけるのを「あんたの感想なんて聞きたくない」と一方的に切る奈子。こんな態度じゃ貴重な味方も失ってしまいかねないと思いますが。
・テレビ画面にグラスのオレンジジュースをぶちまける奈子。今にも泣き出しそうな表情。協力者のマーサにもあんな遠ざけるような態度をとって、いまや友達いないのは彼女の方じゃないのかな。当時だって本当にいたんだかどうか。
・一ヶ月後。紅葉がPVの曲を口ずさみながらリストンへごきげんで入っていく。部屋でスクール長含めた皆が集まって、スクール長と浩一がパソのオセロで対戦中。そこへ紅葉がきて電気屋の大きいテレビに恵都のPVが映ってたと伝える。世間的にも評判いいらしいです。
ただそのわりには奈子のマネージャーから連絡来てる感じでもないですね。PVが話題になってるなら事務所にも問い合わせがずいぶんいってるだろうし中には恵都へのオファーもあるだろうから、事務所の力の弱さを嘆いていたマネージャーが恵都とちゃんと契約結ぼうと動いても不思議ないような。奈子の手前そうもいかないのか。
・紅葉は恵都に女優になるのかと尋ね、あれはたまたまという答えにちょっと安心したと言う。このまま仕事どんどんきたら恵都が遠くなって「リストンなにそれ」みたいになるんじゃないか心配なのだと。
「そんなわけないじゃん。ここがなくなったらあたし生きてけないよ」と明るく笑う恵都ですが、スクール長は「それじゃ困るんだけどな~」「ここはいずれ出て行く場所」。あくまで外の世界で受けた傷を癒し新たな強さを身に付けて再び外へ巣立ってゆくための一時避難所なのだということですね。
リストンは安住の地ではない、安住の地にしてはいけないという事実を突きつけられてほかのメンバーもちょっと暗い顔になります。彼らにとってはまさに第二の家ですからね。
・スクール長は授業に行くと出ていき、浩一も「おれも帰る」と早めに席を立つ。紅葉はスクール長も最近経営問題とか大変みたいだとちょっと憂鬱そう。恵都がそういうことにまるで疎い一方で紅葉は結構情報通。もともと紅葉は(少なくともリストンの中にいるときは)積極的でよく喋ってる印象ですからね。
・「その日が最後だった。浩一はスクールに姿を見せなくなった」。無人のパソコン室を除いて暗い顔の恵都。「そして私のまわりの空気も少しずつ変わっていった」。あのPVのせいで恵都はスクール内でも良くも悪くも芸能人的に扱われるようになってゆく。
代役を受ければこうなりかねないことを恵都より浩一の方が予想してたんじゃないでしょうか。それが経営悪化をさらに促進するとまでは読めなかっただろうけど。
・紅葉たちと庭にいた恵都は、スクールの女の子にここに来るの今日までだから最後に一緒に写真とってくれと頼まれる。OKした恵都は紅葉たちも一緒に、というが紅葉は「スターはつらいねー」といって遠慮し、剛太ともども寂しそうな顔をして歩き去ってしまう。なんか二人との友情にまでひびが入りそうでハラハラ。結局雑誌の騒ぎのせいもありそんな展開にはならずにすんでホッとしました。
授業中も恵都の写真を携帯で取ろうとする連中がいて、これはスクール長が冗談まじりに阻止してくれたものの、そうした騒ぎをよく思わない人間は当然いて「あなたがいると回りが騒いで勉強に集中できないんだよね」と嫌味を言われたりもする。「ここがなくなったら生きていけない」とまで思ったはずのリストンが恵都にとってどんどん居心地悪くなっていってるのが辛いです。
・野菜などを買って浩一の部屋を訪ねる恵都。家知ってるのね。うんと広いマンションの一室。家族はドバイに転勤して一人だそう。食べてるものはカップラーメン系。浩一は二年前から作ってるソフトのブラッシュアップ中なのだという。
「これでうまくいけば巨万の富が築ける、ってそんなうまくいかないけどね」などという浩一は髪に寝癖がついていて格好にかまってる余裕がないという感じです。別にリストンに出てきてもパソコン室に篭ればいい話だと思うのに家での作業に没頭してるのは往復時間さえ無駄にできないと思うからか、それとも勇気出して一歩を踏み出し見事に結果を残した恵都に恥じないように、自分もしかるべき結果を出すまでは恵都に会わない、なんて考えた結果でしょうか。
・恵都はキッチンで米を洗おうとして洗剤に手を伸ばしたところで浩一に手をつかまれる。「洗剤で米は洗わない。おれがやるから」。冷静な声ですが内心笑っちゃいそうなのかも。
これだけなら微笑ましい一コマだったのですが、「あたし足手まといだよね。本当に何もできない」と自嘲する恵都に「そういうこと言うのやめろよもう。ダメじゃないって言って、私を励ましてって言ってるように聞こえる」「おれもさ、ずっとあんたのそばについてるってわけにいかないから」と浩一が答えたことで重い空気が。ふだん「おまえ」っていってるのにこの時は「あんた」ってちょっと他人行儀だし。「そうだね。・・・じゃ、頑張って」と出て行く恵都を「じゃ」の一言で止めもしないし(ちょっと心配そうに追いかけたそうにはしてるけれども)。
スクールでも写真撮影の件で紅葉や剛太と距離ができたようなシーンかあったし、恵都の大切な人たちが遠ざかってくような寂しさがあります。
・一人道を歩く恵都は「わかってる。浩一の言いたいことは。立ち止まるな。甘えるな。一人でも耐え抜け」と心に思う。周囲の変化に居心地悪さや不安を感じてるはずなのに、浩一の冷たい言葉に傷つくのでなく彼の真意を受け止め強くあろうとしている。恵都のポジティブさ、浩一への信頼の深さを感じます。
そして街の大きなスクリーンに映る例のPVを見つめて「でも今の私にはあるだろうか。それだけの覚悟が、それだけの力が」。強さもあるけど迷いもある、手探りで一歩一歩進んでいくからこそ共感できるヒロインですね。
・「あたしがこの世界目指したのは恵都がいたからだし。約束してたんですよ。ずーっと親友でいようって」。ぶりっこ声でテンション高く話す奈子。「おぼえてません。やめてください。やめて」。それだけ言って走り去る恵都。冷ややかに見送る奈子を意味ありげな目で見る浩一。
奈子との関係を聞かされてなくても二人の顔色と話の流れである程度察してる感じがします。
・一人リストンの屋上で下を見てる恵都。「やっぱりな。ここだと思ったんだ」。浩一を筆頭に皆がやってくる。スクール長まで混ざってます。いわく「みんなぞろぞろ階段あがってくから何かと思って」。
そんなスクール長に「いてもいいけど変な茶々入れないでくださいよ」と浩一はえらそうなコメント。発言だけ聞くと何様感がありますが、なんかちょっとユーモラスです。
・「恵都、さっきの何?ていうか恵都と園田奈子って何かあったの?」「あったよ。ずっと昔ね。でももう奈子は忘れてるのかもしれない」。それから恵都は二人の間にあったことを話す。
紅葉は怒り心頭だが浩一は「おれはあの奈子って女が特別ひどいとは思わない」「あいつはさ、どうしても恵都に勝ちたかったんだよ」。そしてサッカーでも勝つためにはいろいろある、フェアプレーばかりじゃない、「でもそういうの上手くやりすごして乗り越えていかないと一流とは言えないんだ」と語りながら恵都の隣に来て座る。「子供でもプロだったんだろ。だったらプロらしく堂々と渡り合えばよかったんだ」。
浩一の発言に、紅葉は恵都がこの話をできるようになるまでに何年かかったと思ってるんだと怒る。確かに恵都を7年もの引きこもり生活に追いやったほどのショックな経験を他人の浩一がとやかく言うべきことじゃないのかもしれませんが、彼のキツい、だけど一理も二理もある言葉を噛み締めてそれに答えるよう行動することで、恵都は確実に強くなっていっている。
恵都は浩一のキツい助言を必要とし、浩一は一言多いと取られがちな自分の言葉をちゃんと飲み込み答えてくれる恵都に救われている。まさにベストパートナーですね。
・翌日奈子がスクールに現れる。スクールの子たちにサインくれと囲まれていた奈子は、恵都を見つけて寄ってくる。
昨日はごめんなさい、あたしもプロデューサーに言われて何がなんだか、と言う奈子に生徒が「奈子さんと恵都ってお友達だったんですか」とテンション高く尋ね、奈子はそうなの、ミュージカルでダブルキャストだったのと嬉しそうに語る。
以前仲良しだったことを強調することで、現在の自分と恵都の立場の違いを見せつけ、かつ恵都が周囲からあれこれ「サニー」のことを聞かれて居心地悪くなるよう仕向けてるのでしょう。つくづく策士。
・奈子の横をすり抜けて向こうのテーブルに座る恵都。追ってきた奈子になぜここがわかったのか聞くとスタッフが後をつけてたとのこと。これ本当はマーサから情報を得たから知ってたわけですよね。二人の繋がりが明らかになるのはもう少し後のこと。
・「でもあたしからあの企画は放送しないって、お願いして約束してもらったから」「許してくれる?」と下手に出る奈子に「うん」と恵都は答え、「よかったー」と奈子は恵都に抱きついてくる。
恵都は固まった顔になるが「あたしと会えたことも喜んでくれるよね?」と言われ、後ろで皆が見てる手前もあり、「うん、久しぶりだよね」と何事もなかったように微笑んでみせる。さすがに人のいい恵都とはいえ、奈子のいかにもな友情ごっこを本気にしちゃいないでしょう。
奈子のほうも見抜かれてるのを承知のうえでメアド交換しようなどとさらに恵都を追いつめにかかりますが、さっきからずっと見ていた浩一が割って入り、恵都をパソコン部屋に誘う。「行く」とシンプルに答えた恵都の表情に、彼女がいかにほっとしたかが現れています。谷村さんはこうした表情の作り方が上手いですね。
・「パソコン部屋なんてあるんだ。あたしも行っていい?」という奈子に、浩一は背中向けたまま「だめ」とにべなく言い切り、さらに振り向いて「あんたは邪魔」と追い打ちをかける。
周囲、特に一般人からはちやほやされ慣れてるだろう奈子にとって、面と向かって「邪魔」呼ばわりされるなんてそうそう経験ないでしょうね。
・パソコン部屋に恵都を連れてった浩一は「おまえ、無理に笑うなよ。いったい誰のために笑ってんの。ていうかさ、嫌なことは嫌ってはっきり言えよ」「もうそろそろ乗り越えろよな。おれたちもいるんだし」とまたも強めの忠告を。でも恵都への思いやりが伝わってくる言葉です。「おれ」でなく「おれたち」ってところに彼の照れが感じられる気もします。
・紅葉と二人帰る途中、大洋と平野のツーショットを見かけた恵都。紅葉はかわいいお店があるからと別の道に行こうとするが、恵都は無言で横断歩道を渡る二人の後を追い、おはようと自分から声をかける。「いいなあこんな早くからデート ?」と笑って話しかけるところに、失恋の傷は完全には癒えてないながらも乗り越えていこうとする恵都の前向きな気持ちが表れています。
平野も「うちのチーム今度大きい試合に出ることになったの」と気安く声かけてくる。大洋からどの程度恵都のことを聞いてるかはわかりませんが、大洋の気持ちを汲んで恵都に邪険にせず彼の友達として受け入れようとしてるように見えます。平野は原作ほどは活躍しませんが、キャラ的には同じようにいい子ですね。
・また二組に別れた後、彼女とコンビニに入った大洋が窓ごしに恵都に何か言ってガッツポーズ送ってくる。さっきあまり喋らなかったのはやはり平野にちょっと遠慮があったのかもですね。
恵都も自然と笑顔になりますが、大洋が遠ざかった後また暗い顔になってその場にかがみこむ。前のことがあるだけに紅葉は心配しますが、「ちょっと胸が痛いけどもうあたしは昔のあたしじゃないから」と恵都は荒い息を整える。
そして「あたしも頑張らなきゃ」と宣言。「でもなに頑張っていいかわかんないんだけどね」と付け加えつつも声は明るい。着実に成長してゆく恵都は眩しいほどです。
・そのまま紅葉とリストンに行くとマーサの車が来て「こないだはどうも。青山さん」と声をかけられる。紅葉はいぶかりながらも二人にコーヒーを運んで中に入り、彼らが二人で話せるようにする。
でもすぐドア向こうの席に座って話に耳をすませてるあたり、何かのときには飛び出して恵都を守ろうという気概を感じます。いい子だなあ紅葉。
・後から恵都が何者か思い出したというマーサは、暇なとき練習台になってほしい、もう仕事する気はないのか、今の方が可愛いしいけてると思うけどな、など恵都に芸能界復帰を促すような台詞を投げかけてくる。
うつむいて考えこむ恵都。自分に何ができるか何を頑張るべきかを日々考えてる恵都であってみれば、気持ちがざわめいて当然ですね。
・現場で時間待ち中の奈子のヘアメイクを手がけてるのはなんとマーサ。「会ってきましたよ青山恵都に。どうってことない子じゃないですか」「正直わかんないな。なんで奈子さんがそんな気にするのか」。
さっきまでとキャラが別人じゃないか。あれだけ恵都を褒めてたくせに。まあ出会い以来の態度的にうさんくさい感じはありましたが奈子のスパイだったとは。
・しかし恵都を落とすばかりでなく、「でもまあいい顔はしてましたけどね」「いや女優としてどうこうってことじゃなくて真っ直ぐで邪念がないというか。今の生活がきっとあれはあれで充実してるんですね」。ここで台本広げてる奈子の顔がメイク鏡に映りますが、ちょっと泣き出しそうな表情をしています。
マーサなりに恵都は今の生活で満足してる、芸能界に復帰する気はないから奈子を脅かすこともないと、奈子を安心させたくてこういう言葉を口にしたんでしょうが、苦しみの渦中にある奈子は恵都が幸せそうにしてるというところに激しい妬みと怒りを感じてしまった。結果的に後の騒動の種を蒔いた格好です。
・恵都が帰宅するとリビングで知佳が奈子のドラマを見ている。母が勉強の時間でしょとさりげなくテレビ消すよう促すのを「いいよあたしに気を使わないで」と恵都は自室へ行く。
奈子が恵都が引きこもった原因であること、彼女が具体的に恵都に何をしたかお母さんたちは知ってるんでしょうか。多分本当のところは知らないまま、ダブルキャストの片割れ、それも才能では恵都より劣っていると思われていて自分もさんざんあの子に負けるなとハッパかけた相手が華々しく活躍してるのを見せれば恵都が傷つくと思っての行動でしょう。
・母に子役時代のリハのビデオを見たいという恵都。母親は戸惑いためらったものの「子役時代の自分がどんなだったか見てみたいの」という恵都の言葉を容れる。
リビングで並んでビデオを見ながら涙ぐんでしまった母親は「あなたの演技見るといつも泣いちゃうのよ。あなたはつらいんでしょうけど」と言う。ちょっとわかりにくい表現ですが、恵都にとっては辛い記憶であっても、お母さんとしては輝いてた頃の恵都の姿に感動せずにいられないという意味でしょう。
母の気持ちを思いやった恵都は「ううん。なんだか自分じゃないみたいだから」と平気な顔をしてみせますが、これはまんざら強がりではなく、過去の自分をそれだけ客観視できるようになった証左じゃないでしょうか。
・「あたしがいやだったのは女優という仕事じゃない。その仕事で否応なく人と争わなきゃいけない事だった。勝ちたいなんて思ってないのに」。
そんなことを思いながら恵都が「サニー」オーディションの看板眺めていると、ちょうど奈子がやってくる。「逃げないでよ」「久しぶりに話さない ?」と奈子から声をかけ、オーディション会場の?ロビーで話す二人。
しかしこないだの余裕ありげな態度はどこへやら、奈子は「フリースクールって弱い人間の集まりだよね。傷かばいあっちゃてさ。あんたがひきこもって楽してる間にあたしは一人でずっと戦ってきた」と毒に満ちた言葉を投げつけてくる。恵都は「そうだね奈子はえらいと思うよ。あの頃からあたしにはないガッツが奈子にはあったもんね」と穏やかに答える。
奈子の失礼な言葉に怒らず傷つかず素直に応答する。その後の奈子のヒステリックな態度からしても、もはや恵都の方が全然精神的に大人な感じです。
・「そんなもんだけじゃやってけないんだよこの世界は!なによあんたなんか。あんたなんかちょっと意地悪されたくらいでへこんじゃって。才能がなければやる気もない。何もないじゃない」。ひどい言葉を投げつけながら、言われる側の恵都より言った奈子の方が自分自身の言葉に呆然としてる感じです。
そして「なんであたしばかりこんなに苦しまなきゃいけないの」と泣きそうな顔で走り去る奈子。自分から誘っておきながら勝手にヒス起こして去ってゆく。奈子の精神的追いつめられ方が顕著です。飲み物の代金を置いていったのがぎりぎりの冷静さですね。
後ろでずっとサニーの歌「友達ってすてきねー」が流れてるのが痛ましさを強めます。
・リストンへ行き奈子の事務所のアドレスを浩一に調べてもらった恵都はすぐに出かけていく(奈子が置いてったコーヒー代が多すぎたため)。そしたら別の道から浩一が現れて恵都に合流。
「一緒についていくんだよ。おまえの天敵だろ。襲ってきたらどうすんだよ」。昔なら偶然をよそおって同行したんだろうに。襲うという表現に恵都はちょっと笑いますが、これは浩一の照れ隠しのための冗談なんでしょうね。
・意外に小さな事務所の作り(実際そんなに力のある事務所ではないことがあとで判明します)。「おじゃましまーす」という浩一の声がちょっと遠慮がちなのが彼らしくなくて可愛いです。人見知りというか結構内弁慶だったりするのかも(もちろん恵都たちは「内」枠)。
・事務所ではちょうど奈子の行方不明騒ぎが勃発中。「どうすればいいのよまったく」とヒスる奈子のマネージャー。先の恵都との会話でも相当精神的に追いつめられてるのが明らかでしたからね。
というより奈子が必死でしがみついてきた世界からドロップアウトしながら友達に守られ幸せそうにして恵都と話したことが、奈子の逃避願望に火をつけたのかもしれません。
・「あのすみません奈子いますか」。ここは一応「奈子さん」とか言っとくべきところでは。相手は恵都が何者かも奈子との関係も知らないんだから。小さい時から大人の中で仕事してたせいか7年引きこもってたわりに口の利き方や礼儀はしっかりしてる感じの恵都ですが、やっぱりところどころ抜けてますね。
・関係者以外は入れないと押し返そうとしたマネージャーが恵都の顔に気づく。奈子から恵都の話を聞いてると言ってましたが、奈子はどんな風に、そしてどんな気持ちで恵都の話をしたんだろうか。
・奈子の居所を知らないかと聞かれて困惑する恵都。そこに奈子から電話が。どこかのホテルにいるらしい奈子はすっかり投げやりな調子。マネージャーは恵都を引っ張って受話器を渡し、奈子と話してくれという。
よほどせっぱつまってるんでしょうが、この強引さはさすが業界人というべきか。しかし「あなた奈子の親友だったんでしょ。あなたの言うことなら聞くかもしれないから」とは。本当に奈子は恵都のことをどんな風に話してたんだ。
・「何であんたがそこにいんの」。奈子としては当然の疑問ですね。さぞ驚いただろうし、自分の縄張りを恵都に荒らされたような不快感もあったんじゃないでしょうか。
恵都は頓着せず「お金返そうと思って。さっきのコーヒー代5千円もしないし」と奈子の世間知らずがおかしいというようにちょっと笑う。笑う場面ではないだろうに。このへんの微妙な空気の読めなさはやっぱり対人スキルがまだまだな部分かも。
・「あんたってほんとバカ」「帰ってきなよ、マネージャーさんが心配してるよ。仕事に穴あけないほうが・・・」「仕事に穴あけるのはあんたの得意でしょ。そんなに言うならあんたが代わりにやってみたらいいのよ」。まあ確かに恵都が言えた台詞ではないというか、言われた側が突っ込まずにいられなくなるような言い草ですね。
しかし恵都が本当に代役やることになるとは奈子も思いもしなかっただろう(ドラマ的には完全に伏線だけど)。奈子が言ったからそうなったわけではないけれどヤブヘビとも言うべき発言です。
・浩一が恵都にネット上の奈子の噂を見せる。どの役も同じに見えると酷評されたり恋愛系スキャンダルが取り沙汰されてたり。「厳しいよなこういう世界は」。
そこへマネージャーがやってきて今日だけでいいから代役をやってくれといってくる。この人恵都に対する態度が終始偉そうで、頼みごとしていてさえ居丈高。つい事務所のタレントを相手にしてるような気になってしまうのか。
・「あなたなら青山恵都って名前が知られてるし、監督だって納得してくれるかもしれない」「お願い奈子を助けると思って」というマネージャーの言葉に対し、浩一が立ち上がって「人助けのつもりならやめとけよ。自分のためだと思うなら、やればいい」と恵都に告げる。
この時の浩一はとても思慮深い目をしている。先に奈子の噂を見て業界の厳しさを口にしたばかりの浩一は、精神的には赤ん坊も同然の恵都がこの世界に片足だけでも戻ったなら、ちょっとのバッシングでも深く傷つきかねないことを知っている。
それでも止めない、むしろ背中を押すようなことさえ口にするのは、再び人前で演じることが恵都が自分がしたいこと出来ることを見つけるきっかけになる、脆く見えても友達に支えられ急速に成長しつつある恵都は昔のように簡単に折れてしまうことはないと信じているからじゃないでしょうか。
・マネージャーは回りの人に迷惑かけたことを謝りまくりながら恵都を女監督のところに連れていく。恵都の名前を聞いて「いたわねそんな子」。どうもあまり好意的な反応とは言い難い。
恵都は衣装に着替えたものの体がすくみ、控え室を出てきたときはまるで幽鬼のよう。廊下を歩いてゆく恵都を浩一が前に回りこんで「今どこへ行こうとしてた」と叱責する。「逃げんのか、そうやって一生」。トイレとかじゃない、逃げたい気持ちになってることを顔色から敏感に判断したわけですね。恵都の成長には本当に浩一の存在が不可欠だと感じる場面です。
・女監督はクールな目で挨拶する恵都を見ているが、仕事(歌のプロモ)の内容を説明しはじめる。新生活・一人暮らしがテーマで「新しい街で友達はベランダの鉢植えだけ」。一箇所泣くシーンがあるから目薬用意してと監督がスタッフに言いかけるのを「あの、目薬は、要りません」と恵都は答える。7年のブランクがあるのに自信があるというか、彼女の女優としてのプライドを見たような。奈子は目薬いるんだろか。
後ろでスタッフが反発の表情を見せてひそひそ話してるのは、ずっとこの世界から離れてたくせに昔と同じにできる気でいるよ生意気に、とか言ってるんでしょうね。
・「演技の出来によっては撮影中止ってのもありえるんで」というスタッフの言葉。奈子に対してだったら決して使わないだろう表現に恵都の実力を危ぶむ気持ちが現れてる。上のひそひそ話といい撮影スタッフは素人同然の子を連れてこられて迷惑がってるんでしょうね。
・不安を隠せないながらも浩一を振り返った恵都は励ますような彼の静かな微笑みに、わずかながら力強さを感じさせる笑顔を返す。こういうちょっとした表情の演技は二人ともさすがです。
・セットに入る恵都を見ながらスタッフは今日は中止決定、あしたスタープロのホシサユリがスケジュール空いてるなんて話をしてる。マネージャーの危惧どおり次はもうここの事務所には仕事回らない感じですね。
・恵都の演技に見入る一同。監督も途中からは恵都を認めたという顔色になる。この撮影シーンが途中から恵都の映像がテレビ画面に映ってる形に切り替わるので、もうオンエア ?しかも PVなのに?見てるのは奈子だけどまだホテルの部屋っぽい(つまり3日と経ってない可能性が高い)のに?と思ってるとマーサから奈子に電話入って「送ったDVD見ました?」「発売は二週間先だけど」。なるほど出来たばかりの映像渡したのね。マーサには居場所を伝えてあるあたり彼には信頼を置いているということか。
マーサが僕の感想ではと言いかけるのを「あんたの感想なんて聞きたくない」と一方的に切る奈子。こんな態度じゃ貴重な味方も失ってしまいかねないと思いますが。
・テレビ画面にグラスのオレンジジュースをぶちまける奈子。今にも泣き出しそうな表情。協力者のマーサにもあんな遠ざけるような態度をとって、いまや友達いないのは彼女の方じゃないのかな。当時だって本当にいたんだかどうか。
・一ヶ月後。紅葉がPVの曲を口ずさみながらリストンへごきげんで入っていく。部屋でスクール長含めた皆が集まって、スクール長と浩一がパソのオセロで対戦中。そこへ紅葉がきて電気屋の大きいテレビに恵都のPVが映ってたと伝える。世間的にも評判いいらしいです。
ただそのわりには奈子のマネージャーから連絡来てる感じでもないですね。PVが話題になってるなら事務所にも問い合わせがずいぶんいってるだろうし中には恵都へのオファーもあるだろうから、事務所の力の弱さを嘆いていたマネージャーが恵都とちゃんと契約結ぼうと動いても不思議ないような。奈子の手前そうもいかないのか。
・紅葉は恵都に女優になるのかと尋ね、あれはたまたまという答えにちょっと安心したと言う。このまま仕事どんどんきたら恵都が遠くなって「リストンなにそれ」みたいになるんじゃないか心配なのだと。
「そんなわけないじゃん。ここがなくなったらあたし生きてけないよ」と明るく笑う恵都ですが、スクール長は「それじゃ困るんだけどな~」「ここはいずれ出て行く場所」。あくまで外の世界で受けた傷を癒し新たな強さを身に付けて再び外へ巣立ってゆくための一時避難所なのだということですね。
リストンは安住の地ではない、安住の地にしてはいけないという事実を突きつけられてほかのメンバーもちょっと暗い顔になります。彼らにとってはまさに第二の家ですからね。
・スクール長は授業に行くと出ていき、浩一も「おれも帰る」と早めに席を立つ。紅葉はスクール長も最近経営問題とか大変みたいだとちょっと憂鬱そう。恵都がそういうことにまるで疎い一方で紅葉は結構情報通。もともと紅葉は(少なくともリストンの中にいるときは)積極的でよく喋ってる印象ですからね。
・「その日が最後だった。浩一はスクールに姿を見せなくなった」。無人のパソコン室を除いて暗い顔の恵都。「そして私のまわりの空気も少しずつ変わっていった」。あのPVのせいで恵都はスクール内でも良くも悪くも芸能人的に扱われるようになってゆく。
代役を受ければこうなりかねないことを恵都より浩一の方が予想してたんじゃないでしょうか。それが経営悪化をさらに促進するとまでは読めなかっただろうけど。
・紅葉たちと庭にいた恵都は、スクールの女の子にここに来るの今日までだから最後に一緒に写真とってくれと頼まれる。OKした恵都は紅葉たちも一緒に、というが紅葉は「スターはつらいねー」といって遠慮し、剛太ともども寂しそうな顔をして歩き去ってしまう。なんか二人との友情にまでひびが入りそうでハラハラ。結局雑誌の騒ぎのせいもありそんな展開にはならずにすんでホッとしました。
授業中も恵都の写真を携帯で取ろうとする連中がいて、これはスクール長が冗談まじりに阻止してくれたものの、そうした騒ぎをよく思わない人間は当然いて「あなたがいると回りが騒いで勉強に集中できないんだよね」と嫌味を言われたりもする。「ここがなくなったら生きていけない」とまで思ったはずのリストンが恵都にとってどんどん居心地悪くなっていってるのが辛いです。
・野菜などを買って浩一の部屋を訪ねる恵都。家知ってるのね。うんと広いマンションの一室。家族はドバイに転勤して一人だそう。食べてるものはカップラーメン系。浩一は二年前から作ってるソフトのブラッシュアップ中なのだという。
「これでうまくいけば巨万の富が築ける、ってそんなうまくいかないけどね」などという浩一は髪に寝癖がついていて格好にかまってる余裕がないという感じです。別にリストンに出てきてもパソコン室に篭ればいい話だと思うのに家での作業に没頭してるのは往復時間さえ無駄にできないと思うからか、それとも勇気出して一歩を踏み出し見事に結果を残した恵都に恥じないように、自分もしかるべき結果を出すまでは恵都に会わない、なんて考えた結果でしょうか。
・恵都はキッチンで米を洗おうとして洗剤に手を伸ばしたところで浩一に手をつかまれる。「洗剤で米は洗わない。おれがやるから」。冷静な声ですが内心笑っちゃいそうなのかも。
これだけなら微笑ましい一コマだったのですが、「あたし足手まといだよね。本当に何もできない」と自嘲する恵都に「そういうこと言うのやめろよもう。ダメじゃないって言って、私を励ましてって言ってるように聞こえる」「おれもさ、ずっとあんたのそばについてるってわけにいかないから」と浩一が答えたことで重い空気が。ふだん「おまえ」っていってるのにこの時は「あんた」ってちょっと他人行儀だし。「そうだね。・・・じゃ、頑張って」と出て行く恵都を「じゃ」の一言で止めもしないし(ちょっと心配そうに追いかけたそうにはしてるけれども)。
スクールでも写真撮影の件で紅葉や剛太と距離ができたようなシーンかあったし、恵都の大切な人たちが遠ざかってくような寂しさがあります。
・一人道を歩く恵都は「わかってる。浩一の言いたいことは。立ち止まるな。甘えるな。一人でも耐え抜け」と心に思う。周囲の変化に居心地悪さや不安を感じてるはずなのに、浩一の冷たい言葉に傷つくのでなく彼の真意を受け止め強くあろうとしている。恵都のポジティブさ、浩一への信頼の深さを感じます。
そして街の大きなスクリーンに映る例のPVを見つめて「でも今の私にはあるだろうか。それだけの覚悟が、それだけの力が」。強さもあるけど迷いもある、手探りで一歩一歩進んでいくからこそ共感できるヒロインですね。