そしてもう一つ。何故まだほんの少年であるアギトの声に勝地くんが起用されたのか?
アギトは設定年齢は15歳ですが、外見的には10歳~12歳くらいなので普通なら女性の声優さんが演じそうなもの(よく『アギト』と比較される『天空の城ラピュタ』のパズーのように)。
それをすでに青年期に差し掛かっている勝地くんに振ったのは何故なのか。
考えられるのは(2)で書いたような「女性の声優さんの少年ボイスにはない」「伸びやかさと不安定さが混在する青少年の色気」が求められていたという可能性。
私の見るところアギトは精神的にまだまだ幼くて、トゥーラに対する感情も恋愛の域に達しているとは思えない。
「色気が求められるキャラかなあ?」と感じてたんですが、気になったのが『QRANK』vol.12(2005年11月発売号)での、『アギト』についての勝地くんの発言。
「いくら純粋でも大人にはなっていくじゃないですか。自分の力ではどうしようもなく。
それがすごく歯がゆくて、いろんなことに〝何でだよ!?〟って気持ちになる。
それは今の僕と似てる気がしました。同じようなジレンマをアギトも感じているんだろうなって」。
このインタビュー当時19歳の勝地くんが「大人になっていく上でのジレンマ」を抱えているのは年齢的に自然なことと思いますが、彼は15歳のアギトにも自分と同様の「大人へと脱皮してゆく時期特有の痛み」を見出している。
確かに『アギト』のストーリーをたどってみると、謎を秘めた美少女との出会い、父(権威者)の死とそれを契機とする旅立ち、強化体になる儀式(イニシエーション)による肉体的変化、戦いによる「女」の獲得、と、王道的ビルドゥングス・ロマンの構造を備えているのがわかります。
急激に変化した身体をもてあまし暴走するのも、その暴走が一人の少女に向かっていると見えるのも、思春期の少年の一面を象徴しているようにも思えます。
もしかすると強化体になったアギトの服の露出度が高いのも、イニシエーションを経て逞しく変化した身体、彼が「もはや子供ではなくなった」事を強調するためなのかもしれません。
そして最後には森との一時的融合を経て世界の中での自分の役割を見つけ、トゥーラを連れて故郷へと帰る。
森からの甦生後のアギトのトゥーラに対する表情や態度にはこれまでにない落ち着きと包容力さえ感じられる(二人の関係が本式な恋愛感情に育ってゆくにはまだ時間を必要とするでしょうが)。
してみればやはり作中でアギトが子供から大人(少年から青年というより、子供から少年)へと成長しているのは確かなようです。
中立都市に戻った後のアギトが以前のようにカインと悪さしてる姿はもはや想像できない。
その(子供から少年への)「過渡期」を表現するために、自身も(少年から青年への)過渡期にあった勝地くんを起用したんじゃないでしょうか。
リアルに思春期の、12歳~15歳くらいの男の子を起用する手もあったでしょうが、この時期は声が濁ってしまいがちなので、声だけで表現する声優には難しいかも。
勝地くんの声は決して高い方じゃないですが(むしろ地声はやや低め)、「少年らしい」(変声期中途のリアル少年ではかえって出せないような)透明感と、時に柔らかな時に凛とした響きを持っているので、良くも悪くも純粋な、情の深いアギトの人間性にはぴったりだったように思います。
7/28追記-文中の『QRANK』発売時期について「2005年11月号」と書いてましたが、月刊の雑誌ではないですね・・・。正確な表記に改めました。すみません。