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about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『四つの嘘』(2)-8-2(注・ネタバレしてます)

2012-09-10 06:35:13 | 四つの嘘
・満希子と大森はお洒落なブティックで、二人の服を大人買い。もちろん払うのは満希子。時計のときはこんな高いもの受け取れないと遠慮して見せた大森もここでは素直にお金出してもらってるようです。
もし大森が詐欺師じゃなくて満希子を本気で愛する純な学生だったとしても、こんな貢ぎ方してたら相手を堕落させてしまうと思うんですが。相手が自立心の強い気概のある人間ならかえって反発するだろうし。

・夜、高層マンションのキッチンで料理する満希子。大森結構リッチな部屋に住んでるなあと思ったんですが、実はウィークリーマンションだとあとでネリの指摘により発覚。満希子は「ウィークリーでもなんでも、そこが彼とあたしの家なの」と即座に反論してましたが、この時点ではウィークリーと気付いてたんでしょうか。まあウィークリーに住んでる学生は(東大生も)普通にいますし、ウィークリー住まいだから怪しいとは言い切れませんが。

・満希子の手料理で食事をし、フラフープのテレビゲーム(Wii?)に興じて楽しく過ごした満希子は「泊まってっちゃおっかなー」といたずらっぽいようなゆるいような声で口にしますが、「泊まったら、僕我慢できないよ?」とさらっと笑いにじませた口調で言う大森の言葉にやや緊張の面持ちで顔を向ける。もとが堅物だけに一線を越えることに対する抵抗感はいまだ捨てきれない様子です。ラブホの中まで入りながら逃げられた経験のある大森もそこはよくわかっていて、「言ったでしょ、この前は性急だったって。満希子さんのことはもっと大事にしないといけないと思うんだ」と満希子に優しい顔を向ける。
満希子みたいてタイプはなかなか手を出さないくらいの方が誠意があるとか思って信用を深めそうだし、肉体関係を結ばなくても金を引き出すには問題なさそうだし、ということでこの余裕ある態度なんでしょうね。大森の言葉に満希子はほっとしたような、ちょっとがっかりしたようでもある笑顔を返しているので、やはりしばらく焦らすくらいの方が完全に落とすには効果的なようですね。

・西尾家食卓。豪華な手料理が並んだ大森のマンションと対照的にファーストフードの食べかすと汚れた皿がテーブルとシンクに散乱。一人テーブルに武が頬杖をついていると明が入ってきて「どうなってるんだよこの家。塾から帰ってきてもめしもねえのかよ」と足元のごみを蹴飛ばして歩きながら荒れた口をきく。親の金で勉強してご飯を(普段は)用意してもらいながら何をこんなえらそうなんだか。
それにしてもちょっと満希子が留守しただけでこんなに家の中がごみだらけになるものなのか。満希子が泊まりがけでバンクーバーに行ったときは問題なくやってたようなのに。この晩はゆかりもいないとはいえ、武だって洗い物くらいできるはず(前に満希子と竹内まりやデュエットしながらお皿拭いてた)。西尾家の家庭崩壊を視聴者に印象づけるため、いささか汚れっぷりを誇張して描いてみたものでしょう。
このありさまを前に、日頃一人で家事全般を引き受け、家庭としての体裁を維持してくれてた満希子に多少なりとも感謝しようとは誰もしてないらしいのも(主婦の役割を放棄してることへのいらだちはあっても)なかなかひどい話ではあります。

・詩文が一人テレビを見ながら食事してると河野母から電話が掛かってくる。また冬子がらみだろうなと思ってると「冬子ちゃんが、冬子ちゃんが大変なの」と電話口で叫ぶ。今度は何やらかした。
このとき河野母は「すぐタクシーできて!」とわざわざ交通手段まで指図してますが、そういっとかないと貧乏かつ呑気な詩文は電車でゆっくり来るにちがいないとか思ってるんでしょうね。実際詩文は戸惑ったような顔してるものの焦ってる様子はないですし。ちゃんと言われた通りタクシーで乗りつけてはいますが、わざわざタクシーでといった以上、料金は河野母持ちだと確信してるからでしょうね。

・今度の大変の中身は冬子が熱を出して薬を飲ませても熱が下がらないことだった。「あの子よく高熱だすんですよ」「そんな呑気な、ほっといたら死んじゃいますよ」。救急車呼ぶべきかと焦る河野母とそんな大げさなことじゃないと思うんですけどと言う詩文の温度差は、冬子無断外泊のときと同じパターンですね。
部屋で苦しげに寝てる冬子を見舞った詩文は「クーラーのあたりすぎじゃないの?」とまるで心配してなさそうな口調。それでも「杏仁豆腐作ってあげるね」と優しく言い、ロックアイスを入れたビニールを冬子の足元や脇に入れて体を冷やしてやる。熱がある時は体温めるほうがいいんじゃないのと河野母は言ったものの、そういう考え方もありますけど冷やすのもいいんです。あの子はこれでいつも治ってましたからと詩文がいうともう反論しない。「これでいつも治って」たという言葉に冬子を産み育ててきた母親ならではの経験値、時間の積み重ねを感じたからですね。
さらに台所で杏仁豆腐を作る詩文に「熱があるときいつもこれ食べさせてたの?」と尋ね、「はい、冬はくず湯、夏は杏仁豆腐。喉ごしがいいですから」と答えが返ってきたのに、密かに見直したような顔をしてます。喉ごしのよいものという配慮、それもコンビニなどで買ってくるのでなく手作りというところに、娘を放ったらかしにしてると思ってた詩文が案外細やかに子供に手をかけていたのがわかったからですね。

・調理を続けつつ詩文は「結婚、しようかと思うんです」と真顔で切り出す。「えっ」と河野母は驚く。「あなたが ?だ、誰と?」「この前、ご紹介した、歯医者さんと」。驚きはしたものの相手が澤田と知って「あーあー、あの方。そう」「良さそうな方だったわね。見た目もいいし」と河野母も反対するつもりはなさそう。年齢的釣りあいも社会的地位も条件は上々ですからね。これが英児とかだったらさぞ顔しかめたことでしょうが。

・「冬子ちゃんには話したの ?」「いえ、まだです。でも河野さんと冬子には賛成していただかないと、この話は決められないと、思ってました」。きっぱりした笑顔で詩文は言う。戸籍上は冬子はもう娘ではないし一緒に住んでもないので絶対許可を得ないといけないことはないでしょうが、ここは母子の情として娘の許しをもらいたいと考えて当然の局面ですね。
しかし冬子だけでなく河野母にも賛成してもらわないと決められないと思ってたというのは少し意外ではあります。これは冬子の養母としてというより元夫の母親としてということでしょうか。かつて圭史と別れ、河野母いわくそのために再婚する気にもなれないほどの傷を彼の心に残した詩文が再婚することを圭史の母として許せるか、という。河野母ははっきり許すとは言いませんが、詩文の言葉に打ち解けた笑顔になって「案外真っ当なこと考えるのね」と軽くツッコんでるくらいなので、この話を不愉快とは思っていない、実質認めているのがわかります。
「年のせいかだんだんと」と詩文は答えますが、確かにもっと若い頃だったら河野母にも認めてほしいとか、そもそも穏やかな暮らしをしてみたいとさえ思わなかったことでしょう。時が流れ角が取れて、いつのまにかあの河野母ともこうして和やかに話ができるようになっている。年齢を重ねることに焦りを感じていた(求人の幅の狭さを思い知らされたりもした)詩文ですが、年を取るのも悪いことばかりじゃない、そんな風にも思えてきてるんじゃないでしょうか。

・西尾家の朝。食卓に散らかったごみをかたっぱしからごみ袋に入れている満希子。結局大森宅に泊まったんでしょうか。夜のうちに帰ってたら、いかに遅かろうと疲れてようと、主婦たるものその場で大雑把な片付けくらいはやらずにいられないと思うので。

・そんな時大森から携帯に電話が。いそいそと台所に走り(周りに誰もいないようなのになぜ?)電話に出る。「すぐ会えないかな」「助けてほしいんだ」となんだか緊迫した声。「助けてほしい」の台詞についに本性出してくるかと思った視聴者も多かったんじゃないですかね。どうもここまでの話が上手すぎましたから。

・喫茶店?で会う満希子と大森。「700万ないと大変なことになるんだ」とすがるような目つきの大森。さすがに目をむき「700万 ?」と体を乗り出す満希子。何でも仲間とやってるベンチャー企業がピンチだそう。「今すぐ700万ないと会社をつぶさなきゃいけないんだ」「融資の金を佐藤が持って逃げちゃって。それでシステム会社への支払いもできなくって」と言う大森に、「それじゃ警察行かないと」と満希子は言いますが、大森は首を振り「警察より先にお金なんだ、今700万あれば会社も持ちこたえられるから」と700万円即時調達にこだわる。
傍目には怪しさ満点ですが、「どうしよう、どうしたらいいんだ」と泣きそうな声で口元押さえてみたり視線さまよわせたりする大森をしばらく見ていた満希子は、やがて口元を結んで「わかった、700万でいいのね」と切り出す。やっぱりまんまと乗せられちゃったか。
本当に満希子が好きなら彼女から金を引き出すなんてみっともないこと、(最終的にはそうするしか仕方なくても)もっと躊躇しそうなものだろう、と思ってたら、「こんなみっともないこと頼めるの満希子さんしかいないんだ」と好きだからこそ頼めるという方向性にしっかりフォローを入れてきた。さすがに抜かりがない。「700万ないと大変」というだけではっきり自分の方から「700万貸してくれ」と切り出さず満希子の方から言わせたあたりも実に巧妙。あとになって返せといわれても「貸してとは一言も言ってない、くれたお金じゃないの?」と開き直れますからね(後でお金受け取るシーンでは明日借用書を作るといってますがそれも本当に作るんだかどうか)。

・いったん家に帰り、通帳と印鑑を持ち出した満希子は、紙袋を抱えて急ぎ足でビル街の階段を下り、下で待ってた大森に封筒を渡す。「ありがとう」「間に合う ?」「これからすぐシステムの方に渡す。借用書は明日作るから」「いいのよそんなの」といったやりとりの後に、大森は「この問題が片付いたら一緒に暮らそう」と真顔で言う。さすがに固まる満希子。
こないだは家族を傷つけないようにうんぬん言ってたはずなのに、と思ってたら「西尾家には迷惑かけないって言ったけど、もうムリだよ、こんなに深くかかわりあってしまったし」と、これまた視聴者のツッコミに応えるようなフォローを入れてきた。満希子は彼の目を見たまま小さく何度もうなずく。さすがに700万も持ち出したとあっては、もう恋愛“ごっこ”の範疇にはいられない。家族か彼かを選択する覚悟をしなくてはならない。今大森に言われるまではただ煽られるままに焦ってただけでそこまでの覚悟はなかったんでしょうけど、700万渡してしまった自分自身の行為によって背中を押された格好ですね。
しかし「会社も一緒にやっていこう、ぼくと満希子さんならできるよ」と大森は耳に心地よいことをいいますが、佐藤以外のメンバーはどうするんだよ。ちゃんと話を聞けば穴だらけなのわかるはずなんですけどねえ。

・詩文堂のカウンターで本を読んでた詩文は、満希子からの電話で「ブッキです。私離婚することにしたから」といきなり切り出される。「えっ!?」 さすがの詩文も本気で驚いた様子。「好きな人がいるの。原も知ってる人」。目をぐるっとさまよわせあきれた風情の詩文。
相手が大森なのはもうわかりきってるでしょうが、ついこの間自分は決して他の男によろめいたりしないとさんざん主張していた満希子が「好きな人がいるの」。どんな急展開のもと自身の不倫を公開する気になったのか、気にならないわけないですね。

・以前と同じレストランでネリも含め三人で会う。「うちの商売のこともあるから離婚には時間かかるかもしれないけど。とりあえず一緒に暮らそうっていうから」「彼のマンションで。御茶ノ水から本郷に抜けるところにあるでしょ。シティプラザって」「ウイークリーでもなんでも、そこが彼とあたしの家なの」。満希子の話に詩文は疑惑の目を向けている。
「シテイプラザの305」と話の流れで部屋番まで教える満希子に「305でどうやって食べていくの」とネリも冷ややかな調子。満希子は少しむっとした顔で「彼が卒業するまではあたしの蓄えでやってくわ。私も彼の会社で働くし」「会社よ。ベンチャー。あたしも700万出資したし」。700万と聞いて詩文が目をむく。まあ誰だって怪しいと思いますよねこんな話。しかし「あたしの蓄えでやってくわ」って、大森の経済力・経営能力を結局信用してないんじゃあ。

・「ちょっと大丈夫なの700万も出しちゃって」というネリに「だってうちキャッシュで5000万あるし、仏壇だってひとつ何百万もするものがいくつもあるし」と満希子はいう。それは店の財産だろう。他の男と一緒になろうという女がそれを当てにしようというのが図々しいです。
しかし満希子は自分名義の貯金てのは全くないんですかね。いかに社会で働いた経験がないとはいっても、亡き両親が彼女名義でお金残してくれたりしてないのか。

・「そういうことじゃなくてあたしたちが心配してるのは」、と言い聞かせるように語るネリ。「あたしたち」と詩文も数に入れてるのは確認するまでもなく詩文でも誰でも心配・不信に思って当然の話だからでしょう。百歩譲って詐欺じゃないとしてもベンチャー、IT企業なんていかにも軽薄に時流に乗っかっちゃいましたみたいな会社(しかも学生が経営者)の将来性なんて危ういもの。とっとと倒産して700万円は無駄になる可能性が大と考えるのが自然ですね。
しかし満希子はネリの言葉をさえぎり「わかってるわよー。夫には女がいるんだし、子供たちだってあたしを必要としてないんだから。あの家と商売の権利手渡したら何にも問題ないでしょ」と全く別のことを答える。ネリたちが問題にしてるのは満希子が出て行ったあとの西尾家の状態ではなく、家族を捨てて怪しげな男について行こうとしてる満希子の先行きのほうだというのに。
話の通じなさにもはや言葉なくした感じで二人はしばし黙ってしまいますが、思うにこの満希子の問題のはきちがえっぷりは「あたしを必要としてない」と言いつつ、内心では自分がいなければ西尾家は立ち行かないと思っているからなのでは。だからこそネリたちも西尾家のことが心配になるんだと解釈してるんじゃないですかね。

・グラスを置いた詩文は「いつ出したの700万」「今日」「出資してくれって言われたの ?」。詩文の問いに無言であいまいにうなずいてみせる満希子。「振込先は?」「手渡した」「あのさ受け取りとかその領収書とかは」「明日借用書書くって」。ふーんと疑いの目もあらわな詩文。出資といいながら借用書では話がおかしいですからね。そのへん満希子は気付いてないんでしょうか。さすがにその700万がなかったら今日倒産していたとはみっともなくて言えなかったんでしょうけど、「穴埋めに貸した」を「出資」と偽ったあとをちゃんと言い繕えてない。満希子の社会経験のなさがもろに露呈してる感じです。
とはいえほとんど尋問のような詩文の質問に満希子は文句つけるでもなく一つ一つ答えている。心の底ではやはり満希子も大森の話に不審感を拭えずにいて、その不安が問われるままに結構突っ込んだ内情まで語る行為として表れてるように思えます。もともと満希子は「自分ひとりじゃ抱えきれない」と詩文やネリにやたらべらべらいろんなこと、普通なら秘密にしておこうとするようなことまで喋りまくる傾向があった。この満希子のおしゃべり癖こそは大森最大の誤算だったんじゃないかと思います。彼女が700万渡したことのみならずウィークリーの部屋番まで友人にバラしたせいで、最終的には逮捕されるに至るんですから。

・肩すくめて「もう行かなきゃ」という詩文。振り返らずさっさと出て行く彼女を見送った満希子はひそひそ声で「面白くなさそうな顔してた原」「私が幸せなのが気に食わないのよ。美波のときだってそれで河野さんに手え出したんだもの」などという。だったら詩文に連絡しなきゃいいのに。しかも前にも大森がらみで相談があると呼び出そうとした経験があるのに。
まあおそらくは満希子の無意識が危険を感じていて、詩文なら有効な助言・行動を取ってくれるような予感があるゆえに、自分でも不思議に思いつつ連絡を取ってしまうということなんじゃ。実際単身305号室に乗り込むという詩文の驚くべき行動力がなかったらどんなことになってたかわかりませんからね。

・話すうちにはっと息のんで「彼にも手出すかも」と詩文が去ったほうを振り返る満希子。あきれ顔のネリは「高校時代と今はちがうわよ」とたしなめるが「わからないわよ原は病気だもん」と一言。いくら詩文が手を出そうとしても大森が受け付けなければそれまでなんですが、大森も存外信用ないですね。

・呆れかえってるネリに満希子は「ネリは恋をしたことがないからわかんないのよ」と暴言を。「恋をしたことがない」と何を根拠に行ってるんだか。そもそも何を勝ち誇ってるんだかなあ。さすがにネリむっとしたような表情で「若い男との恋か・・・・」と呟く。そして自身の呟きをきっかけに英児との出会いからのことを思い返す。こうやって英児の行動と言葉があらためて紹介されると大森と比べて男らしさが際立ちますねえ。
英児の記憶につい涙ぐんで口押さえるネリに満希子は「どうしたの」と驚く。ナプキン?を口にあてまだ涙声のネリは「あたしはずっと仕事だけだったから。でもブッキの気持ちわかるよ」と満希子を見て親身な声で言う。自分も年下の男と恋をしたとは言わないんですね。
満希子とは対照的に詩文もネリも恋愛に限らす自身のことをべらべらしゃべったりはしない。とくにネリにとって英児とのことは終わって間もない、自分の中で整理がついてないうえ大切な記憶でもあるから、満希子への対抗意識みたいな形で軽々しく口にしたくないんでしょうね。

・「たとえ失敗しても、お金損しても、好きなように生きたもの勝ちだよね」としゃくりあげながらネリは言い、本式に泣き出してしまう。きっかけはなんだかアレですが、やっと英児と別れた辛さを素直に涙に変えられたのはネリにはいい機会だったのかも。
最初はもらい泣きしかけてた満希子が「失敗しないから、わたし」と睨むようなじとっとした目になってるのは、ネリが「お金損しても」と700万円は無駄になる前提で話してるからでしょう。そして詩文とちがってネリが結局は満希子の恋を応援するような姿勢になったのは、将来性は危ういにしても積極的に満希子からお金を搾取しようとしてる詐欺師とまでは思ってないからですね。

・ウイークリーマンションの305号室。チャイムの音に大森がドアを開けるとぽつんと詩文が立っている。戸惑ったような大森に「700万、返してもらいにきたわ」と詩文は無表情に言い放つ。
ふっと笑って「何のことですか?」という大森に「言ったはずよ。嘘とほんとの見分けもつかないような人を、傷つけないでって」と静かな怒りを感じさせる口調で詩文は言う。しかし一人で乗り込むとはさすがに大胆すぎます。相手は男だし悪いやつだと分かっているのに。実際あとでかなり危ない目に会うことになります。

・大森は部屋の中をちらっと見てからドアを大きく開けて「まあ入ってください」とキザな立ち方で言う。このあたりでそろそろ視聴者に対しては地金を出してきてる感じです。部屋の中をいったん見たのも中に誰かいる、満希子が詩文より早くたどりついてるはずはないので、おそらくは悪い仲間が潜んでるんじゃないかと思わせます。

・大股にためらいなく部屋へ入っていく詩文。扉を自分で開けて中へ通ると、大森は後ろ手にその扉を閉める。詩文の退路を断つような動き。さっそく危険な空気が漂っています。「ここに住んでるって嘘でしょ」「こんなものですよ男の部屋なんて」「だますなら心の体力のある若い子にしてよ。ブッキは最初からお金目当てだって知ったら生きてられないわよ」。後半少しかすれる声に詩文の激しい怒りが感じられる。
しかし「最初からお金目当てだって知った」あとも満希子はしゃあしゃあと生きのびて普通に家庭生活に戻っていった。面倒な部分は一切詩文に押しつけて。ここは詩文も満希子の「心の体力」、おばさんの図太さをいささか甘く見積もった感があります。詩文は家族こそ最後まで守ろうとしたものの、世間的な体面や地位や名誉や、そういうものには捉われることなくこれまで生きてきた。だから捨てられないものが多い人間の、それらにしがみつく力の強さを実感をもって想像できないのかもしれません。

・詩文の言葉に大森は真顔で「西尾さんとは、本気です」と言う。この期に及んでまだ満希子を騙してはいないと主張する大森の姿に、ひょっとして本当なのかな?と一瞬引っ掛かりそうになってしまった(苦笑)。さすがに詩文はそんな芝居はひっかからず「・・・なめんじゃないわよ大人を!」と一喝。
この時チャイムが鳴り、大森がドアのレンズから見ると満希子が立っている。思い込みの激しい満希子のことだから下手したら二人が密会して一気に修羅場かもと想像してたら、大森は変に隠しだてしようとせずすぐにドアを大きく開いて、「満希子さんの友達がきていいがかりつけるんだよ」と詩文がここにいること、無効が勝手に押しかけてきたのであって自分にやましい点は何もないことをごく短い言葉でさくっと釈明してのけた。しかも親にチクる子供のような口調で理不尽にいじめられてる感まで出してみせるという。やっぱり性質悪いですね。
とはいえ「いいがかり」の内容についてはさすがにはっきり言わなかった(詩文は自分が満希子をお金目当てで騙してると主張してる、なんて言ったらせっかく自分を信用してる満希子の心に疑いの種を蒔くことになる)ために、満希子は自分のいいように(もともと不安がってた内容そのままに)解釈して大騒ぎすることになるんですが。

・玄関に立った満希子は「原・・・」と呆然と呟き、詩文は無表情に見返してから顔そらす。満希子は怒りの形相で乗り込み目の前に立って、「この人は、むかし友達の彼氏を横取りした恐ろしい女なの。だまされないで」と詩文を見据えたまま大森に説明する。大森は横の満希子を見る。「人のものが盗みたいだけなのよこの人は。あなたのことが好きなわけじゃないの。男の人から見たらいい女かもしれないけど、お願いだからだまされないで」。
大森は詩文に言いがかりをつけられたと訴えたのに、言いがかりの内容が何なのか尋ねるかわりに、詩文が大森を誘惑した前提で「騙されないで」とくりかえしている。要は自分の思うことを一方的に押し付けてるだけで、大森を好きだといいながら彼の気持ちの強さを信じてもなければ、彼の話をちゃんと聞いてさえいない。おばちゃんにはありがちな傾向とはいえ・・・他人の言葉を理解できない、コミュニケーションが成り立たないという点ですごく孤独な人なのかも。家庭で孤立した格好になったのも満希子が夫や子供の思いを無視してる自覚もないままに無視しまくった結果だったし。

・さすがに詩文は「だまされてるのは、ブッキなのよ!」と言って満希子を見つめますが、満希子は「お願い」とバッグを床におろして「この人を奪わないで」と大森の腕にすがる。さらには「私の最後の恋を横取りしないで!」と涙まじりの声で叫ぶ満希子を放心したように見つめる詩文。全く話が通じない。これじゃあ助けようにも助けられない、という愕然たる思いが詩文の表情から伝わってきます。そんな詩文の思いなど考えもせずに「なんでもするから、私から大森先生をとらないで」満希子はかきくどく。
大森は眉根寄せて悲しげな表情でうつむき加減にしている。目下彼は満希子に、詩文に誘惑され浮気しかかったかのごとく「言いがかり」をつけられてるわけですが、それについて何も釈明せず黙っているのは、はっきり言って何言っても無駄だから、満希子の思い込みに(幸い自分を責める方向には向いてないので)適当に話をあわせといた方がいいという判断ですね。

・「原が邪魔さえしなかったら、あたしきっと幸せになれる。」「なってみせるから邪魔しないで、一生のお願いだから、お願い、原」と頭を下げる満希子。しばらく無表情に見降ろしていた詩文はついに力なく「わかったわ」と答える。詩文が足早に出て行ったあと、大森と満希子はどちらからともなく硬く抱き合う。二人の幸せを乱す悪魔をついに追い払って結束を高めた、とでもいうような光景です。
「離婚届をうちにおいてきたわ」と満希子はバッグから封筒を取り出し現金の束2つをテーブルの上におく。「これが西尾家のたくわえの四分の一。二人の子と夫にあとの四分の三は残してきたけど」。自分で稼いだお金でもないのにこの図々しさには唖然とします。4人家族だから一人四分の一ずつという計算なんでしょうが。
「このお金で、あなたの会社を立て直して。一から出直しましょう。二人で」。真剣な目で聞いていた大森は満希子を抱き寄せ、二人は濃厚なキス。そのまま床に押し倒す。満希子はうっとりと目を閉じてなされるがまま。さすがにここまでくれば満希子も拒否モードには入りませんでしたね。詩文の存在がかえって完全に迷いを押し流したというか。

・うっとりしたまま目を開けた満希子は、はっと息を呑み目を見開く。なんと大森の学友三人、金持って逃げたはずの佐藤までがにやにやしながら満希子を見下ろしている。やはり大森がくわせ者だったことがついに確定した瞬間です。しかしこのタイミングで三人が出てきたってことは、もう最初っから輪姦にいくつもりだったわけですか。
頼む前から家の財産の4分の1持ってくるような満希子なんだから、しばらくは大森と二人でママゴトのように暮らしながら金を吸い上げてく方向でもよかったんでは。とくに大森は今までのように自分個人に貢がせたほうが大金を独り占めできるはずなのに。そうはさせじと仲間たちが早めに参入してきちゃったんですかね。あるいは完全に満希子を手にいれたうえは、もうあんな女と一日たりとも恋人の振りなんかしたくないという大森の意向があったのか。

・いきなりBGMがテンポの速いものに変わり一気にサスペンスムードに。一度足早にマンションを出た詩文はまた足早に引き返してくる。今満希子の身に迫りつつある危機を敏感に察知したものか。あれだけ親切心をむげにされ一方的に言われたにもかかわらず、まだ満希子を助けようとする詩文の女気には驚きます。
ためらわず305号室のチャイムを押し、部屋の中に乗り込むもののリビングのドアを開けても誰もいない。寝室の中も無人。唖然として「ブッキ・・・」と詩文は呟く。詩文はすぐに引き返したわけですから入れ違いに出て行った可能性はかなり低いですからね。
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