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俳優・勝地涼くんのこと。

『未来講師めぐる』(1)-3(注・ちょいネタバレしてます)

2009-06-16 01:22:22 | 未来講師めぐる

さて作品そのものについて。
正直最初公式サイトで塾長のヅラ疑惑や塾の名称がしょっちゅう変わるなどの設定を読んだときには、いかにも奇をてらった上っすべりの設定のように感じて、ドラマそれ自体も設定倒れの上っすべりになりやしないかといささか心配になったものでした。
第1回を見た時点ではもろもろの設定や個性的すぎるキャラの性格、演出などがやはりあまり上手く噛み合っていない感があって不安が的中したかと思いかけました。
しかし回を追うごとに、最初は極端すぎると感じたキャラクターへの愛着が増してゆき、うるさいほどに過剰に思えた設定や演出のもろもろ、そこから生まれる世界観が、いつのまにかたまらなく愛おしいものへと変わっていったのに驚きました。

私は宮藤さんの作品を見たのは『めぐる』が最初だったんですが、その後ほかの作品もいろいろ観てみると、全体にスロースタータータイプというか、世界観に馴染んでゆくほどに急激に面白さ、愛着度合いのボルテージが上がる作品が多いように思えます。
宮藤さんはもともと舞台出身で、読売文学賞を受賞した『GO』をはじめ映画でも活躍していますが、ある程度長い期間をかけて視聴者と付き合ってゆく連続ドラマの形式が一番宮藤脚本の特性、魅力に見合っているんじゃないでしょうか。『池袋ウエストゲートパーク』しかり『木更津キャッツアイ』しかり。

そしてそんな脚本の魅力を増幅させたのが役者陣の演技であり、ポップな(ときにぶっとんだ)演出だった。
番組終了直後に出版されたドラマの脚本(『未来講師めぐる』(角川書店、2008年刊行)。以下の文中で「脚本」と書いているのはこの本のことです)を読みましたが、基本的には脚本に忠実に映像化してあるにもかかわらず、やはりドラマの方が面白さが倍増しています。

たとえば「ところで100%めぐるは?」というユーキの問いを受けての江口の台詞「100%お休みです」が、実際のドラマでは「100%まだです」に変わっている。江口役星野さんのアドリブなのか現場で演出家の直しが入ったのかはわかりませんが、このほうがより会話のテンポが良くなり面白いシーンに仕上がっています。
また第9回で千鶴から倦怠期かと指摘されたユーキが「飽きる?めぐるがユーキに?ユーキがめぐるに?お互いに!?」とパニくる場面も、脚本では単に台詞だけ示されているのを「ユーキが一人言を言いながら画面をフルに使ってムダにちょこちょこ(早回しで)動き回りヘンなポージングをする」という形に演出していて、テンポよくメリハリをつけてコミカルに見せていた(このシーン、勝地くんの台詞の言い方、間の取り方も秀逸でした)。

さらにはめぐるとユーキを中心に皆さんが披露してくれる各種のコスプレ――第5回の幼稚園児も第6回のSPルックも第8回の芋虫めぐるも第9回のモーモーつなぎ他も脚本段階では何も書かれていない。
演出と衣装さんのノリが脚本の内容をふくらませて、一般視聴者には普通に面白く各俳優ファンにはお宝もののシーンをがんがん生み出してくれました。遊川和彦さん(『さとうきび畑の唄』の脚本家さんです)が書いてらしたことが思い出されます(※1)。それは蜷川さんとは対照的に(『カリギュラ』(1)-2参照)演出家・監督が脚本を変えることをむしろ歓迎する宮藤さんの姿勢による部分も大だったと思います(※2)

もう一つ特筆したいのは、番組公式サイト内のブログ「パねログ」について。
キャスト・スタッフの有志が回り持ちで撮影裏話をあれこれ紹介してくれているのは連続ドラマの公式ブログには多いパターンかと思いますが、プロデューサーさんにお願いされた(圧力をかけられた)勝地くんが何とほぼ毎週ブログを書き込んでくれたのでした。
所属事務所(フォスター)のメッセージコーナーがなくなって以来久々に、勝地くん自身の手になる文章に触れましたが(携帯サイトは登録してないもので)、今時の若者には珍しく顔文字や絵文字を一切使わない文章は、あいかわらず丁寧な言葉使いながらも適度にくだけていて、明るく真面目で爽やかな人柄をうかがわせます。毎回共演者とのスナップや作中でのコスプレ姿を写した写真を紹介してくれるサービス精神も満載。
このブログの存在が、「愛すべきバカ」なユーキのキャラクターとあいまって、勝地くんのイメージを大いにアップしたことは疑いえないでしょう。

勝地くん以外の執筆者の方々、とりわけスタッフさんたちの文章にも作品への愛情と自分の仕事への誇りがひしひしと感じられて、読んでいてわくわくさせられたものです。 
素晴らしい脚本に引っ張られるように、役者・スタッフみんなのノリと意気込みが注ぎ込まれた、奇跡のようなコラボレーションの起きた大傑作だと思います。

 

※1-「『G・T・O』『オヤジぃ。』を書いた脚本家 遊川和彦が語る――『21世紀のTVドラマと宮藤官九郎』」(『宮藤官九郎全仕事』(宝島社、2004年)収録)。「クドカンのドラマなんかは、つくっている現場も楽しいと思いますよ。美術さんも「こんなの作ってみました!」とか、俳優も「こんなふうにしたらどうだろう?」とか、みんなが本気になる。当たり前のものを当たり前につくろうとしているなら、そうはならない。彼の脚本がいいから、みんなを本気にさせているんですよ。」

※2-『キネマ旬報』2009年2月上旬号(キネマ旬報社)の宮藤官九郎インタビュー。「僕は役者が面白く見えていないと嫌で、上手くいってないギャグとか、台本通りにやられるとたまらないんですよ。そんなの、現場でスベってるなら変えればいいじゃん、と。一字一句、脚本を変えるなという作家さんもいるとは思うんですけど、僕のはそんないいものじゃないですから(笑)。『あのセリフ、ハマってなかったんで変えました』とか『あのギャグ、上手く行かなかったんでカットしました』とか言ってくれる監督はすごく好きですね。そもそも僕は、完成品は監督のものだって割り切ってますから、脚本に対して遠慮されると困っちゃうんですよ。監督のものなんだから、脚本変えていいのに、という。」


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『未来講師めぐる』(1)-2

2009-06-13 00:31:54 | 未来講師めぐる
もう一つの危惧ポイントであった髪型について。例のプチリーゼントヘアは移動ホットドッグ屋のアルバイト仕様で、ほかに私服の時のニット帽姿、屋内での帽子を脱いだ状態、と主に3種のヘアスタイルが登場しました。
ニットを被ってるときは、帽子で前髪が上がってる分きりっとした眉が際立って、男らしい、格好いい印象が強い。対して帽子を脱ぐと、(前年の舞台『カリギュラ』のシピオンを思わせる)緩くパーマのかかった茶髪と前髪で眉が適度に隠れるために一気に可愛さが増す。

そして当初は不安だったバイトスタイルの頭ですが、実際動くところを見てみると、あの一見素頓狂な髪型が彼の端整な顔立ちを引き立てていることに気づきました。
制服の明るい紺の上着と赤いシャツも彼の白い肌に映えるし、たいていローラースケートを履いているのも脚をさらに長く見せる。
また私服のときは、色のコントラストのはっきりした制服とは逆にピンクを主とするパステルカラーとチェック柄・星柄など可愛い系のアイテムで構成されていて、これまた色白の肌とふわふわ髪に実によく似合う。
格好よくて可愛くて綺麗で・・・1ドラマで3回美味しいとでもいいましょうか。

さらには第4回以降毎回のように披露してくれるギャル男風、幼稚園児、SPなどのコスプレといい、勝地くんの魅力をいろんな角度から見せまくってくれました。宮藤さん及びスタッフの皆様には1ファンとして本当に感謝しきりです。

勝地くんはこれまで『さとうきび畑の唄』や『亡国のイージス』などのイメージから、世間的には何かしら重いものを背負った真面目で影のある青年がはまる俳優さんと見なされてきた感がありました。
こうした役がはまっているのは確かなんですが、古くは『1980』、新しいところでは『SOUL TRAIN』『東京タワー』などコメディ芝居も演じているし、それらを実に上手くこなしている。彼のコメディ芝居の才能が一般にあまり知られてないのはもったいないなとつねづね感じていました。

なのでこの『めぐる』を見た方々が「あんな面白い演技もできる人だったんだ」といった評価を多く寄せていたのには内心快哉を叫んだものです。
深夜枠のドラマであり視聴率もそんなに高くなかったものの、何と言っても連続ドラマ、そして毎回メインどころで活躍してるわけですから、これまでにないほど広く彼のコメディ演技を視聴者に印象づける形になりました。

もともと宮藤さんは、これもコメディ芝居(というか全編しょーもないギャグ)の『犬顔家の一族の陰謀』で勝地くんに「目をつけた」だけに、『めぐる』以降も『少年メリケンサック』のマサル、『蜉蝣峠』の銀之助とコメディ演技が主の役に勝地くんを起用しつづけ、すっかり「クドカン作品の勝地涼はおバカキャラ」というのを定着させてしまいました。
同時に、端整な容姿にもかかわらず不思議と美形設定の役を演じることのなかった勝地くんをはっきりと「イケメンのモテキャラ」に設定している。
(といっても役柄がワンパターンなわけでもなく、「イケメン」「おバカ」以外はユーキもマサルも銀之助もまるで似通ったところはない)

しかしいわゆる「若手イケメン俳優」らしい扱いかと言えばそうではない。以前「「演技派俳優」という事」で勝地くんは(外見に反して)カテゴリー的には「非イケメン演技派」枠じゃないかと書きましたが、宮藤作品の勝地くんはさらに一歩進んで「綺麗な顔はネタのうち」な状態に至っている。
現時点での最新作『蜉蝣峠』など海千山千の「劇団☆新感線」の役者陣に見事に馴染んでしまって、ほとんど「怪優」ゾーンに入りかかってるんじゃないか。
勝地くんの新たな可能性を引き出し続けてくれている宮藤さん、次は勝地くんにどんな無茶振りをしてくれるのか、今から楽しみです。

(つづく)

 


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『未来講師めぐる』(1)-1

2009-06-10 01:54:39 | 未来講師めぐる

2008年1月期テレビ朝日系列で放映。宮藤官九郎さん脚本、深田恭子さん主演の極上のラブ&ホーム&お仕事コメディードラマ。

勝地くんは深田さん演じる主人公めぐるの年下の彼氏・海老沢ユーキ役で、『ハケンの品格』以来一年ぶりの連続ドラマにして連ドラでは初の二番手。宮藤さんとは前年の夏に「劇団☆新感線」の舞台『犬顔家の一族の陰謀』で共演しており楽屋も一緒だったことから、当時すでに執筆に入っていた『めぐる』に呼ばれたという経緯があったそうです(それ以前にも『この胸いっぱいの愛を』で共演していますが)。
ほかも宮藤さんと親交の深い舞台系の方たちなど宮藤作品常連の役者さんたちが多くキャスティングされ、実にアクの強い、しかしほのぼのとした不思議に心地好いドラマを作り上げていました。

当初出演情報を聞いたさいには、人気のクドカン脚本、それも二番手とあってなかなかに期待がふくらんだのですが、公式サイトのプチリーゼントな写真を見て爆笑。「おバカキャラ」の設定はいいんですがこの髪型は・・・。『東京タワー』の平栗くん(モヒカン)以来の衝撃でした。何かこの写真だけでドラマを見るべきかどうか思わず悩んでしまいました(笑)。
さらにもうひとつ引っ掛かったのが20年後のユーキを田口浩正さんが演じるということ。もちろん田口さんが嫌とかいうことではなく、「今はイケメンの彼氏が、満腹時には残念な20年先の姿に見えてしまう」という設定上、視聴者の笑いを取り注目と人気を集めるのはどうしても田口さんバージョンのユーキのほうになってしまう。
勝地くんバージョンのユーキは単に「ちょっとおバカな二枚目」というだけの影の薄いキャラになっちゃうんじゃないかなあなどと危惧してしまったわけです。

結果的には、ええもう全くの杞憂でした。影が薄いどころか、おバカ度満点で紆余曲折あれどめぐるを愛しつづけるユーキは、限りなく可愛く魅力的なキャラクターでした。
第3話あたりまではまだ少し演技の上で固い部分もあったのですが、ユーキが主人公と言ってもよい第4回でのはじけっぷりを機に完全にユーキのキャラを自分のものにし(番組公式サイト内のブログ「パねログ」によると第4回(時期とユーキの衣装からの判断)を見にいらした宮藤さんに「もうちょっとテンションあげても平気だよ」とのアドバイスをもらったそうなので、それがあのはじけた演技につながったのかも)、実にすべての言動を自然に、生き生きと演じきっていました。本当に海老沢ユーキという人物がその場に実在しているとしか思えないほどに。
勝地くんが「パねログ」やDVD特典の座談会で「これまで演じてきた中で一番好きになったキャラ」だと語っていたのも納得です。個人的に近年の勝地くんのベストアクトだと思います。

(つづく)

 


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