サイエンス好きな男の日記

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不動産投資シミュレーション(築古戸建の典型例とモデル詳細)

2020-12-20 09:36:01 | 不動産賃貸業

以前は、木造アパートの場合の不動産投資シミュレーションを行いましたが、今回は、築古戸建の場合で同様の計算を行いました。

以下、特に木造アパートと異なる箇所は、青字で示します。

◆築古戸建のシミュレーション結果

シミュレーションでは運用期間はすべて15年間とします。

以下は、この運用期間での賃料収入、NOI、税引前CF、税引後CFです。
なお、以下に示す3つのグラフのシミュレーションでは、利回り14%、家賃58,333円、自己資本率50%(初期投資額に対する頭金の割合)です。

  • 賃料収入とNOIとの差は、管理費・保険・原状回復費・大規模修繕積立金等です。つまり、NOIとは賃料収入から各種経費を差し引いたものです。
  • NOIと税引前CFとの差は、借入金の返済(元本および利子)です。
  • 税引前CFと税引後CFとの差は、所得税・住民税の支払額です。

税引後CFが5年後に下がったのは、築古戸建の建物に対する減価償却がすべて終わり税金が増えたためです。

一方、CFが11年後に大きく上がっているいるのは、この築古戸建のローンが完済したためです。その結果、NOIと税引前CFは一致しています。

なんとなく、イメージがつかめてきたと思うので、この計算で採用したモデルを説明します。

  • 購入時の初期費用:司法書士報酬・不動産取得税・ローン事務手数料など(物件価格の3%)+登録免許税(10万円と仮定)+仲介手数料
  • 運用時:管理報酬(家賃の5%+消費税)、入退去に伴う部屋の原状回復や空室期間の機会損失(物件価格*利回り*0.1)(※1)、火災保険や固定資産税(物件価格の0.4%)
  • 大規模修繕積立金:物件価格の0.5%(毎年積立)
  • 家賃下落:5年までは家賃変わらず。その後の5年間は元の家賃の95%、さらにその後の5年間は元の家賃の90%。
  • 消費税10%、所得税・住民税33%、長期譲渡所得20%
  • 売却時の費用:仲介手数料のみ。
  • ローン:金利2.0%の元金均等払い。10年ローン。
  • 自己資本率(初期投資額に対する頭金の割合):1%~100% (この3つのグラフでは自己資本率50%の場合)
    初期投資額とは、物件価格+購入時の初期費用です。
  • 売却価格:元の利回りに対して5年後は+0.5%, 10年後は+1.0%, 15年後は+1.5%で売却されると仮定。例えば、利回り10%の物件を購入した場合、15年後には11.5%で売却可能と仮定。5年ごとに減額される家賃を使って利回り11.5%となる価格であるため、購入直後の利回り11.5%よりも安い価格となる。
  • 物件価格に対する建物価格の割合:30%
  • 築年数:50
  • (購入時)物件利回り:10%~14% (ここで示した3つのグラフのモデルは、利回り14%です。)

(※1)これは、5年に一度、6か月のコストを見込んでいることになります。りも物件価格*利回り*6/12 が減額になります。この状態が5年に一度発生するならば、1年あたりでみると、物件価格*利回り*6/12 *1/5 = 物件価格*利回り*0.1 が減額になります。ここでは退去が5年に1回生じ、その結果6か月間空室になった、ということを仮定しています。あるいは、原状回復費用として家賃3か月分かかり、3か月間空室の末、入居が開始した、と考えても、コストとしては同じです。

木造アパートと築古戸建で上に示すように、いくつかのパラメータの値を変えています。その理由はいずれも築年数が古いためです。木造アパートは収益を目的とした建物ですので、比較的新しく(場合によっては新築もあり)その分耐用年数が長く、融資も付きやすい、という特徴があります。一方、築古戸建は、元は実需用の建物であり、それがかなり古くなった結果、賃貸用物件として市場にでてきます。したがって、築年数は50年、建物も相当古く建物価格の割合は30%程度、またローンが使えたとしても融資期間は10年(長くても20年くらい)と思われますので、その条件をもとに上記のパラメータを設定しています。

ここで示した数字を使ったモデルは標準モデルと呼ぶことにします。

これらの条件をもとに、15年間(物件購入時から売却時まで)のシミュレーションを行いました。

築古戸建の売却時期と売却額、ローンの残債、そして最終収益示したのが下のグラフです。

(残債は連続性のあるデータのため折れ線グラフとし、売却額や最終収益は、運用期間終了後に決まる額であるため棒グラフとしています。)

オレンジが売却額です。当初500万円で購入した物件は15年後には400万円、その時の表面利回りは15.5%で売却されることになっています。(築年数はどうであれ、きちんと手入れがされて入居者もついている物件が表面利回り15.5%で売りに出されれば、足は早いと思います。)

残債は緑の直線であり、返済と共に年々減少していきます。

そして、青は最終的な収益、つまりいくら儲かったか、という額です。建物の減価償却は4年で終わりますが、収益の増加という点ではさほど大きな影響はないことになります。

次に、税引前のIRR、税引後のIRR(※2)、DCR(借入金償還余裕率)(※3) は以下の通りです。

(DCRは連続性のあるデータのため折れ線グラフとし、IRRは運用期間終了後に決まる額であるため棒グラフとしています。1年後のIRRはマイナスになっています。)

縦軸(左)はIRRに対するもの、縦軸(右)はDCRに対するものです。

家賃が減少することで、DCRは小さくなるものの、ローンが完済する10年後でも1.6を超えているため、安全です。

建物の減価償却は4年で終わるため所得税・住民税が増え、5-10年の税引後CFはかなり少なくはなります。しかし、IRR(税引後)は年が経っても微増し、7年後くらいで8%を超え、その後も高い値を維持しています。

築古戸建でも、減価償却が終わった5年後くらいで売却することを考える投資家がいますが、私はその必要はないと思います。

定量的に言うと、このモデルの場合は減価償却が終わったことで税金は、年間3万円あまりから16万円に増えます。つまり、13万円弱増えるのですが、経費を差し引いた収入(NOI)は年間50万円ほどです。そして、IRR(税引後)もまだ微増しています。

これは何を意味するのでしょうか。わかりやすく言えば、物件を購入することで仲介手数料、不動産取得税、登記費用や司法書士報酬を45万円ぐらい払い、また売却するときにも仲介手数料や司法書士報酬を払うことになるのに、本当に売ってしまっていいの?NOIから税金を差し引いても、37万円の収入があるのだから、まだもうしばらく持っておいたほうが得だよ!と教えてくれているのです。数字はうそをつきません。
別の言い方をすれば、減価償却ができる4年間の節税額は、建物の取得価額160万円*税率0.33=53万円ぐらいであり、これは物件取得の取得費用(45万円ぐらい)+売却時の仲介手数料(20万円ぐらい)よりも少ないのです。したがって、売買をすることで、減価償却による節税がすべて飛んでしまいます。なので、売買時の手数料を払わない代わりに、減価償却の節税もない、と考えると、減価償却が終わったからといって売却する必要はないことがわかると思います。

IRR(税引後)は5年を過ぎると確かに増加率は減少していますが、値そのものは微増を続けています。もちろん、このシミュレーションの仮定から外れて、例えば市況がよくなって想定よりも高く売れそうだ、とか、想定外に何か今後経費が掛かりそうな要因があれば別ですが、減価償却が終わったからと言って売り急ぐことはないと思います。

 

ここまでで、物件購入から売却までのおおまかなお金の流れがつかめましたので、次は、物件購入時の利回りを10%-14%、自己資本の割合を1%-100%の範囲で変えた時に、IRRや最終収益/自己資本、DCRの値を評価してみます。(赤枠は、3つのグラフのシミュレーションで採用したパラメータの値です。)

 

最初の家賃・築年数等で示したパラメータは先ほどのグラフで用いたパラメータでもあり、先ほどの標準モデルでの値ということです。

IRRのセルの色付けは、7.0-8.9%黄 9.0-10.9%緑 11%以上青。また、フォントの赤字はDCR<1.2の場合です。

最終収益/自己資本とは、物件売却で最終的に残ったキャッシュが、投下した自己資本に対して何倍となったかを示しています。直観的にはこちらの数字のほうがわかりやすいですね。0以上であれば最初に支払った金額(自己資本)が回収できたことになり、1.0以上の場合にセルの背景色を青にしています。

DCRの表を見ると、自己資本比率が30%でも1.2以下です。DCRが1.2以上であるためには、自己資本比率は最低でも30%以上、できれば50%は欲しいところです。そして、自己資本比率が50%の場合、利回りが14%でやっとIRRは7.8%です。

私にとっての判断の基準は、今は、ある不動産会社の社債です。この会社の社債は不動産を担保とした社債と無担保社債の2種類あり、前者は配当5%(税引後4%)、後者は配当8%(税引後6.4%)で運用できます。つまり、税引後IRRはそれぞれ4.0%と6.4%になります。

したがって、多少のリスクがある資産運用であればIRRは6%以上は欲しいところ。不動産投資は、それなりにリスクの高い投資だと考えているので、IRRで7%が最低ラインだと私は考えています。これを下回るのであれば、不動産投資はしません。

その基準に照らすと、築古戸建であれば、自己資本比率50%で、少なくとも物件利回りが13%となる物件でないと、IRR 7%を超えることができず、チャレンジするメリットは無いと考えています。

また、木造アパート異なり、物件利回り1%の違いはほぼIRRでも1%程度の違いのようです。

まとめると、築古建ての標準モデルの場合:

  • 減価償却期間が過ぎても収益性には大きな影響はない  → 木造アパートでも同様の結論
  • 自己資本率は30%以下ではリスクが高い。(木造アパートの場合は10%以下ではリスクが高い)
  • 利回り13%が最低ラインであり、14%であれば検討の価値がでてくる。(木造アパートでは利回り9.5%が最低ラインであり、10%であれば検討の価値がでてくる。)

次回は、モデルパラメータを変えた場合の収益性について議論してみたいと思います。

 

(※2) IRRは内部収益率

IRR(内部収益率)とは、投資の収益性を示しています。通常の利回りと違うのは、ある時点でのキャッシュを売却時の時の価値に置き換えて収益性を計算している、ということです。例えば、5年前の100万円と今の100万円では、同じ100万円でも5年前の100万円のほうが、5年間運用でさらに増やすことができるので価値がある、ということを考慮した収益性という意味です。

また、例えば元本がその会社によって保証されている社債では、元本償還の場合、その配当利回りとIRRの値は一致します。つまり、配当5%の社債であればIRRも5%になります。

 

(※3) DCRは借入金償還余裕率

借入金償還余裕率とは、どれだけ余裕をもってローンを返済できるかを示しています。所得税・住民税の還付・納入は、このDCRでは考慮していません。家賃収入から修繕積立金や管理報酬や各種経費を引いた金額をローンによる返済額で割っていますので、1.0だと余裕がありません。一般には、DCRは1.1以上が必須で1.3なら安心だと言われています。

 

 

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