サイエンス好きな男の日記

気が向いたときに、個人的なメモの感覚で書いているブログです。

相続税対策として配偶者に資産をどれほど残すべきか(3)

2023-05-23 06:48:00 | 資産運用

前回、相続税配偶者控除を考慮した、二次相続後の子供全員の遺産受取額 c2(p) を定式化しました。

ただ、それを解析的に解くことが困難なため、数値計算を行いました。
(数値が小さくてすみません。横が途中で切れてしまっている場合、ブラウザの横幅を広げていただくか、あるいは下にスクロールバーが出ているはずなので、そのバーをスライドさせてご確認ください。)

数値計算のパターンは全部で16通り。

 

n: 子供の数、a: 本人の資産、k: 配偶者の資産(対本人資産比)、p: 一次相続時に配偶者に相続する遺産割合

n は n=1, 2, 3, 10 の 4パターンとし、各nに対して本人の資産(a) が10,000(1億円)、20,000(2億円)、30,000(3億円)、40,000(4億円)の場合の計算結果を示しています。

子供の数と本人資産がそれぞれ4通りあるため、全部で4x4=16通りの表となります。

上半分が n=1, 2  そして下半分が n=3, 10 とし、各nについて、縦に a=10,000, a=20,000, a=30,000, a=40,000 の結果を示しています。

ある一つの表に着目すると、その表の縦は p (一次相続時に配偶者に相続する遺産割合) 、横は k (配偶者の資産(対本人資産比)) を示しています。

p は 0 ≦ p ≦  1 なので 0, 0.1, 0.2, ..., 1.0 としています。k は 0 ≦ k ですがここでは 1 までとしています。

そして、この表の値は、H(p) (二次相続後の子供全員の遺産受取額を本人および配偶者の合計資産で割った値)を示しています。

k を1よりも大きくするということは子供が相続する資産の大半は配偶者の資産であるため、相続税配偶者控除を考慮しない結果と一致します。

さらに、配偶者の資産は相続税の基礎控除を超えている状況ですから、相続税配偶者控除を考慮しない場合の結果である「配偶者の資産(b) が二次相続時の相続税の基礎控除をすでに超えている場合には、本人死亡時にはすべて子供へ相続 (p=0) させる。」ということから、H(p)を最大化するのは p=0 となります。

すでに計算結果から、k=0.6 の時点ですでに p = 0 が H(p) を最大にすることは自明なので、あえて k>1 を調べる必要がない、といえます。

 

例えば、本人の資産が2億円、配偶者の資産が4千万円であり、子供は二人の場合を考えます。

この場合、n=2,  a = 20,000 ですから、上から2番目、左から2番目の表が該当します。そして、k = 4,000/20,000 = 0.2 なので、その表において k=0.2 の列の中で最も高い数字を探すと、それは p=0.1 のときであり、H(0.1) = 0.89125 であることがわかります。

H(0.1) = 0.89125であるから実際の金額としては c2(0.1) = (a+b) x H(0.1) = (20,000 + 4,000) x 0.89125 = 21,390万円です。

つまり、二次相続後の子供全員が受け取る遺産を最大化するためには、本人死亡時には遺産はすべて子供たちに相続する場合であり、その結果、二次相続後に子供が受け取る遺産総額は 21,390 万円であることがわかります。

 

また、すべての表においていずれも p + k = 一定 という傾向であることがわかります。p は 一次相続時に配偶者に相続する遺産割合、k は配偶者の資産(対本人資産比)、そしてH(p)の最大値はいずれも p < 1/2 ですから、相続税配偶者控除により一次相続時における配偶者への相続税は非課税であるため、p + k は一次相続後の配偶者の資産(対本人資産比)であり、二次相続時の配偶者の遺産(対本人資産比)です。

この「一定」の値としてはおよそ以下の通りです。

a n
1 2 3 10
10,000 0.35-0.40 0.40-0.45 0.50 0.90
20,000 0.30-0.35 0.30-0.35 0.40 0.45
30,000 0.25-0.30 0.35 0.45 0.50
40,000 0.20-0.25 0.35 0.45-0.50 0.50

例えば、本人資産3億円、子供2人の場合、H(p) を最大化する p は、p = 0.35 - k  ただし、k ≧ 0.35 の場合には p = 0 であるといえます。

また、子供の数を10人に増やしたとしても本人の資産が多ければそれほど大きくは変わらないようなので、おおよそ上記の「一定」の値は  0.3~0.4ぐらい、つまり p = (0.3 ~ 0.4)  - k  と覚えておけば、そうそう大きく外れることはなさそうです。本人の資産が1億円以上かつ子供の人数が3人ぐらいまでであれば  p < 1/2 ですから、相続税がどうなるのか気になるほどの資産を持ち、かつ、通常の家族構成であれば、二次相続後の子供全員の遺産受取額を最大化する場合、配偶者への相続はすべて非課税となりそうです。

 

まとめると

二次相続後の子供全員の遺産受取額を最大化するためには、一次相続後の配偶者の資産が、本人資産のおよそ3~4割ぐらいになるように本人資産を相続し、残りは子供に相続する。すでに配偶者の資産が本人資産の3~4割以上であればすべて子供に相続する。

たとえば、本人資産が3億円の場合、配偶者の資産が無い場合にはおよそ1億円ぐらいを配偶者に相続し、残り2億円は子供たちに相続したほうが良い、ということになります。

しかし、これでは本人死亡後の配偶者の資産は二次相続時の相続税控除額を大きく超えてしまいます。相続税配偶者控除を考慮しない場合の結論を思い出せば、相続税を低く抑えるには、相続税控除額(3000+600xn)以内に抑えたほうが良いように思えますが、なぜでしょうか。

 

相続税配偶者控除が無い場合、一次相続の相続税は配偶者への相続の額によらず、本人資産と相続人の数によってのみ決まります。したがって、配偶者への遺産は一次相続時だけでなく、二次相続時(配偶者死亡時)においても再度その資産に対して相続税がかかってきてしまいます。

しかし、相続税配偶者控除がある場合、配偶者への遺産については、その一部(二次相続後の子供全員の遺産受取額を最大化する場合は全額)が非課税となります。したがって、配偶者死亡時に初めて、配偶者への遺産が相続税の対象となるわけです。

では、本人死亡時と配偶者死亡時でどちらの場合にその資産を相続税の対象とするべきか、と考えると、相続税の税率が低い場合。配偶者の資産が本人資産よりも少ない(k < 1)場合には、二次相続時の税率は一次相続時よりも低いため、相続税控除額を超えたとしても、本人から配偶者への遺産相続をある程度はしたほうがよい、ということになります。

本人から配偶者への遺産相続を行うことで、税率が高い一次相続時の相続税支払いを減らし、税率が低い二次相続時に相続税を支払うことで、より多くの資産を子供に残すことができる、ということです。

先ほどの計算結果の表で、もし相続税配偶者控除が無かったとすると、例えば n=2, a = 20,000 の場合は以下になります。

この場合、p + k = 0.2 となります。つまり、(p + k) x a = 0.2 x 20,000 = 4,000 となります。これは二次相続時の配偶者の資産が 4,000 を超えると相続税の支払い額が増えてしまう、ということを意味します。そして、これは二次相続時の相続税控除額 3,000 + 600 x 2 = 4,200 と同程度の値を示していることからも、先ほどの説明が正しいことがわかります。

最後に、この計算では、配偶者が一次相続した後、配偶者がなくなるまでの間、その資産額が変わらないとしていますが、実際には資産運用でさらに増えることも、逆に消費して減ることもありますので、実際にはそのあたりのことも考慮しなくてはいけないことは言うまでもありません。

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相続税対策として配偶者に資産をどれほど残すべきか(2)

2023-05-14 08:33:11 | 資産運用

前回、相続税の配偶者控除を考慮しない場合について、子供により多くの資産を相続する場合について検討しました。

今回は、相続税の配偶者控除を考慮した場合について検討します。

まず、この相続税配偶者控除とは、よくある説明としては、配偶者が相続した課税資産が1億6千万円まで、あるいは法定相続分までであれば、非課税となる、というものです。

国税庁のWebサイトでは以下の説明になります。(参照:第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係

---  ここから  --

19の2-7 法第19条の2第1項第2号に規定する「当該相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の総額に、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額が当該相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額」の算出方法を算式で示すと、次のとおりである。 (昭47直資2-130追加、昭50直資2-257、平6課資2-114改正、平15課資2-1、平19課資2-5、課審6-3、平19課資2-5、課審6-3改正)
A×(C又はDのいずれか少ない金額÷B)

(注) 算式中の符号は、次のとおりである。

  1. Aは、当該相続又は遺贈(当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものに係る贈与を含む。以下19の4─4までにおいて同じ。)により財産を取得したすべての者に係る相続税の総額
  2. Bは、当該相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額(当該合計額に1,000円未満の端数があるとき又はその全額が1,000円未満であるときは、その端数金額又はその全額を切り捨てるものとする。以下19の2─7の2において同じ。)
  3. Cは、法第19条の2第1項第2号イに掲げる金額
  4. Dは、法第19条の2第1項第2号ロに掲げる金額

---  ここまで  --

そして、C および D の説明としては以下になります。(参照:相続税法

---  ここから  --
イ 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額に民法第九百条(法定相続分)の規定による当該配偶者の相続分(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続分)を乗じて算出した金額(当該被相続人の相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人)が当該配偶者のみである場合には、当該合計額)に相当する金額(当該金額が一億六千万円に満たない場合には、一億六千万円)
ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者に係る相続税の課税価格に相当する金額
---  ここまで  --
 
上記の A は、一次相続時の相続税の合計額であり、前回での記号を使うと F です。
上記の B は、本人の遺産であり、前回の記号を使うと a です。
上記の C は、配偶者の法定相続分もしくは1億6000万円のどちらか大きいほうの金額
上記の D は、配偶者が相続した金額であり、前回の記号を使うと p x a です。
 
ここでも前回と同様、以下のパラメータを設定します。なお、以下、金額の単位はすべて「万円」です。
 
本人と配偶者の資産:a, b
法定相続人:配偶者および子供(n人)
本人死亡時に配偶者が相続する資産割合:p
 
したがって、相続税配偶者控除(E)は
 
E = F x Min ( Max ( a/2, 16,000 ) , p x a ) / a = F x Min ( Max ( 1/2, 16,000/a ), p )   となります。
 
F = f (t/2) + n x f(t/(2xn))
t = a-(3000+600 x (n+1))
f(x):  法定相続分に対する相続税
 
E/F = Min ( Max ( 1/2, 16,000/a ), p )   より
 
a ≦ 16,000 の時
Max ( 1/2, 16,000/a) = 16,000/a ≧ 1 より  E/F = p 
 
16,000 < a < 32,000 の時
Max ( 1/2, 16,000/a) = 16,000/a < 1 より、E/F = Min (16,000/a, p) 
0 ≦ p ≦ 1/2 のとき、16,000/a > 1/2 より、E/F = p
1/2 < p ≦ 1 のとき、16,000/a > p であれば、E/F = p,   16,000/a ≦ p であれば E/F = 16,000/a 
 
a ≧ 32,000 の時
Max ( 1/2, 16,000/a) = 1/2 より、E/F = Min ( 1/2, p) 
0 ≦ p ≦ 1/2 のとき E/F = p
1/2 < p ≦ 1 のとき E/F = 1/2
 
上記から
a≧ 32,000 かつ 1/2 < p ≦ 1 のとき E/F = 1/2
16,000 < a < 32,000 かつ 1/2 < p ≦ 1 かつ 16,000/a ≦ p であれば E/F = 16,000/a 
上記以外はすべて E/F = p
となります。
 
相続税配偶者控除を考慮した、配偶者に対する相続税として
G(a,p) = p x F - E =  (p - E/F) x F   を定義します。
 
その結果、
a≧ 32,000 かつ 1/2 < p ≦ 1 のとき G = (p -1/2) x F  (領域A)
16,000 < a < 32,000 かつ 1/2 < p ≦ 1 かつ 16,000/a ≦ p であれば G = (p- 16,000/a) x F  (領域B)
上記以外はすべて G = (p - E/F) x F = 0 (領域C)
 
上記より、よく言われるように、配偶者が相続する遺産(p x a)が 16,000 以下あるいは法定相続分(p=1/2)以下であれば相続税がかからない、つまり G = 0 となることがわかります。さらには、法定相続分を超え、かつ遺産が16,000を超えていたとしても、G=0 (非課税) となる場合があることもわかりました。
 
以上から、相続税配偶者控除を考慮した、配偶者に対する相続税Gが定式化できました。
 
以下では、この相続税Gを使って、二次相続後の子供全員の資産c2(p)を定式化します。
 
本人死亡時(一次相続時)

配偶者が相続する遺産割合を p とすると、一次相続後の配偶者の資産 b2(p) は以下になります。
b2(p) = (配偶者の資産) + (相続した遺産)- (相続税配偶者控除を考慮した、配偶者に対する相続税)= b + p x a - G(a,p)

子供が相続する遺産割合の合計は 1-p なので、一次相続後の子供全員の資産 c(p) は以下になります。
c(p) = (子供全員が相続した資産)- (子供全員に対する相続税)= (1-p) x a - (1-p) x F= (1-p) x (a-F)

上記は、前回とほぼ同じです。違いは、配偶者に対する相続税について、相続税配偶者控除を考慮した部分だけです。
 
 
配偶者死亡時(二次相続時)
 
相続人は、子供なので、合計 n 人

よって、相続税の基礎控除は 3000 + 600 x n

課税資産総額:= 配偶者資産 -  基礎控除 より、課税資産総額は t2 = b2(p) - (3000+600 x n)

子供一人当たりの法定相続分が 1/n なので、子供一人の課税資産は t2 / n 。よって子供の法定相続分に対する相続税は f (t2 / n )
二次相続による子供全員に対する相続税は F2 = n x f(t2/n)

相続によって子供全員の資産 c2(p) は以下になります。
c2(p) = (一次相続後の子供全員の資産)+(一次相続後の配偶者の資産)ー(二次相続による子供全員の相続税)
         =   c(p) + b2(p)  - F2
         = (1-p) x (a-F) + b + p x a - G(a,p) - n x f(t2/n)
         = (1-p) x (a-F) + b + p x a  - G(a,p) - n x f [ { b + p x a - G(a,p) - (3000 + 600 x n) } / n ] ・・・①

ここで、b = k x a とし、新たな変数 k を導入します。よって①の b + p x a の箇所は、 k x a + p x a = (k + p) x a

さらに、c2(p) を規格化するため、H(p) = c2(p) / ( a + b ) = c2(p) / ( (1+k) x a) を定義します。

よって①より

H(p) = [ (1-p) x (a-F) + (k + p) x a - G(a,p) - n x f { { (k + p) x a  - G(a,p) - (3000 + 600 x n)} /n } ] / ( (1+k) x a) ・・・②

ゆえに、H(p) を最大化する p を求める、ということになります。

これを解析的に解けるといいのですが、とてもできそうな気がしません。

今回は、相続税配偶者控除を考慮した場合の、二次相続後の子供全員が受け取る遺産総額の定式化までとします。

次回、n, a, k, p のパラメータに対して具体的にH(p) を求め、H(p)が最大となる p について検討します。

 

今回のまとめ:

相続税配偶者控除を考慮して最終的に二次相続後の子供全員が受け取る遺産総額を求めました。

本人と配偶者の資産:a, b = a x k
法定相続人:配偶者および子供(n人)
本人死亡時に配偶者が相続する資産割合:p

一次相続時の法定相続分に対する相続税総額:F
F = f (t/2) + n x f(t/(2xn))
t = a-(3000+600 x (n+1))
f(x):  法定相続分に対する相続税

相続税配偶者控除を考慮した、配偶者に対する相続税:G(a,p)
G = (p -1/2) x F ( a≧ 32,000 かつ 1/2 < p ≦ 1 )
G = (p- 16,000/a) x F  (16,000 < a < 32,000 かつ 1/2 < p ≦ 1 かつ 16,000/a ≦ p)
G = 0 (上記以外)

一次相続後の配偶者の資産: b2(p) = b + p x a - G(a,p)

一次相続後の子供全員の資産 :c(p) = (1-p) x (a-F)
 
二次相続による子供全員に対する相続税: F2 = n x f(t2/n)
 
二次相続後の子供全員の資産 :c2(p) = (1-p) x (a-F) + b + p x a  - G(a,p) - n x f [ { b + p x a - G(a,p) - (3000 + 600 x n) } / n ]
 
c2(p)を本人及び配偶者の資産合計で規格化:H(p) = [ (1-p) x (a-F) + (k + p) x a - G(a,p) - n x f { { (k + p) x a  - G(a,p) - (3000 + 600 x n)} /n } ] / ( (1+k) x a)
 
 
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相続税対策として配偶者に資産をどれほど残すべきか(1)

2023-05-11 00:12:13 | 資産運用

GWでちょっと時間ができたので、以前から気になっていたことをまとめてみます。

ちなみに私は税理士でもないので、内容については間違いがあるかもしれませんがご容赦ください。また、相続税の計算方法については知っていることを前提とした説明となってしまいます。もし、あまり詳しくない方は、インターネットのあちこちでわかりやすく書かれた記事があるので、そちらをまずは見ていただいたほうが良いかもしれません。

 

相続税の基礎控除額を超える資産がある場合、遺産贈与の分配割合として、配偶者と子供にどれくらいの割合で遺産を相続させるのが良いのか。相続税という観点から考察してみました。

たとえば、以下の3通りの方法が考えられます。

  • 資産をまずはすべて配偶者に相続して、配偶者が死亡時に子供に相続する
  • 資産を法定相続分に従って配偶者、子供に相続する
  • 資産をすべて子供にのみ相続する

特に、最初の方法については、相続税の配偶者控除は少なくとも1億6千万円までは非課税。1億6千万円を超えても、法定相続分までは非課税。したがって、配偶者への相続時にはこの配偶者控除により非課税になりそうだが、その分、配偶者が死亡時(いわゆる二次相続)に相続税がかなりかかってしまうので、この配偶者控除の利用はよく考えたほうがよい、といったことがネットにも書かれています。単なる相続税支払いのさき送りという形になってしまいます。

 

そこで、以下で具体的に計算を行ってみました。

ストーリーとしては、夫婦と子供がいるケースで、相続人は配偶者および子供のみとします。そして、本人死亡時に遺産を配偶者および子供に相続し、配偶者死亡時に子供に相続することとします。

ここでのパラメータは以下の通りです。

本人と配偶者の資産:a, b
法定相続人:配偶者および子供(n人)
本人死亡時に配偶者が相続する資産割合:p

まずは、相続税の配偶者控除が無いものとして、検討します。

 

本人死亡時(一次相続時)

相続人は、配偶者および子供なので、合計 (n+1) 人
よって、相続税の基礎控除は 3000 + 600 x (n+1)

課税資産総額:= 本人資産 -  基礎控除 より、課税資産総額は t = a-(3000+600 x (n+1))

法定相続分が1/2より配偶者の課税資産は t/2。よって配偶者の法定相続分に対する相続税は f ( t/2 )

子供一人当たりの法定相続分が 1/(2 x n) なので、子供一人の課税資産は t / (2xn) 。よって子供の法定相続分に対する相続税は f (t / (2 x n) )
子供全員に対する相続税は n x f(t/(2 x n))

f(x):  法定相続分に対する相続税 (国税庁 No.4155 相続税の税率 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm)

以上から、本人死亡時の相続税合計は F = f (t/2) + n x f(t/(2xn))

配偶者が相続する遺産割合を p とすると、一次相続後の配偶者の資産 b2(p) は以下になります。
b2(p) = (配偶者の資産) + (相続した遺産)- (配偶者に対する相続税)= b + p x a - p x F = b + (a-F) x p

子供が相続する遺産割合の合計は 1-p なので、一次相続後の子供全員の資産 c(p) は以下になります。
c(p) = (子供全員が相続した資産)- (子供全員に対する相続税)= (1-p) x a - (1-p) x F= (1-p) x (a-F)

 

配偶者死亡時(二次相続時)

相続人は、子供なので、合計 n 人
よって、相続税の基礎控除は 3000 + 600 x n

課税資産総額:= 配偶者資産 -  基礎控除 より、課税資産総額は t2 = b2(p) - (3000+600 x n)

子供一人当たりの法定相続分が 1/n なので、子供一人の課税資産は t2 / n 。よって子供の法定相続分に対する相続税は f (t2 / n )
二次相続による子供全員に対する相続税は F2 = n x f(t2/n)

相続によって子供全員の資産 c2(p) は以下になります。
c2(p) = (一次相続後の子供全員の資産)+(一次相続後の配偶者の資産)ー(二次相続による子供全員の相続税)
         =   c(p) + b2(p)  - F2 = (1-p) x (a-F) + b + (a-F) x p - n x f(t2/n) = a + b - F - n x f { b + (a-F) x p - (3000 + 600 x n) } ・・・①

この c2(p) の式をみると、 a + b :  夫婦の資産合計、そこから本人死亡時の相続税が引かれ、さらに配偶者死亡時の相続税を引いた残りが、子供全員の資産という形になっています。

 

では、①の c2(p) が最大となる p を考えます。

便宜的に h = (3000 + 600 x n -b ) / (a-F)  と置くと、①は  c2(p) = a + b - F - n x f ( (a-F) x (p-h) )    ・・・②

a - F > 0 より、f(x) の x の正負は p と h の大小関係で決まります。また、f(x)は増加関数であることも重要です。

h は正負の値をとることができるため、h < 0,  1 < h,  0 ≦ h ≦ 1 で考えます。

 

h < 0 の場合:

f(x) は増加関数であるため、p -h が小さいほうが c2(p) を最大化できます。p - h > 0 より、c2(p) が最大となるのは、p = 0 のときです。

したがって、h < 0 の時の c2(p) の最大値は c2(0) であり、c2(0) = a + b - F - n x f (-h x (a-F))

 

h > 1 の場合:

p - h < 0 であるため、f(x) = 0 となります。よって、h > 1 の場合は常にc2(p)は一定であり、その値は c2(p) = a + b - F です。

これは配偶者死亡時の配偶者の資産が相続税控除額よりも少ない場合には、二次相続による相続税は非課税となるため、どのような配分(p)にしようとも子供が受取る資産額には影響しないことを意味しています。

 

0 ≦ h ≦ 1 の場合:以下ではさらに 0 ≦ h ≦ p ≦ 1 の場合と 0 ≦ p < h ≦ 1 の場合に分けます。

0 ≦ h ≦ p ≦ 1 の場合:

f(x) は増加関数であるため、p が小さいほうが c2(p) を最大化できます。その時の p  は、h ≦ p より、p=h の時です。

したがって、0 ≦ h ≦ p ≦ 1 の場合の c2(p) の最大値は c2(h) であり、c2(h) = a + b  - F です。

0 ≦ p < h ≦ 1 の場合:

p < h  より f(x) = 0 となります。よって、p < h の場合は常に c2(p) は一定であり、その値は c2(p) = a + b - F です。

以上から、0 ≦ h ≦ 1 の場合、c2(p) を最大化するのは、0 ≦ p ≦ h の時であり、その時の値は a + b - F です。

 

まとめると以下になります。

h < 0 の時は、c2(p) が最大となるのは p = 0 の時であり、その時の c2(0) は a + b - F - n x f (-h x (a-F)) = a + b - F - n x f(b - (3000+600 x n))
0 ≦ h ≦ 1 の場合、c2(p) が最大となるのは 0 ≦ p ≦ h の時であり、その時の c2(p) は a + b - F
h > 1 の場合、p によらず、c2(p) は a + b - F

h = (3000 + 600 x n -b ) / (a-F) 
F = f (t/2) + n x f(t/(2 x n))
t = a-(3000+600 x (n+1))
f: 相続税

配偶者の資産(b) が二次相続時の相続税の基礎控除をすでに超えている場合には、本人死亡時にはすべて子供へ相続 (p=0) させる。

配偶者死亡時に配偶者の資産(b2)が基礎控除を超えない範囲内であれば、一次相続による遺産を受け取っても、二次相続後の子供全員の資産受取額は変わらない。

配偶者の遺産配分は、本人死亡時に支払う相続税には影響しません。したがって、それ以上の相続税を払わないようにするためには、二次相続時の配偶者の資産に対する相続税を極力減らす、と考えると自然と上記の結論が得られます。

定式化のチェックもかねて、まずは相続税の配偶者控除がない場合を検討しました。

 

最後に上記式を使って計算例を示します。

ケース1)本人:2億円(a = 20,000)、配偶者:5千万円(b = 5,000)、子供2人(n=2)の場合

本人死亡時の基礎控除は、3,000+600x(n+1) = 4,800万円、よって t = a - 4,800 = 15,200 

法定相続分で按分した額から計算される相続税は、配偶者:f(t/2) = f(7,600) = 1,580,  子供一人当たり f(t/(2 x n)) = f(3,800) = 560

よって相続税の合計 F = 1,580 + 2 x 560 = 2,700

h = (3000 + 600 x n -b ) / (a-F) = (3000 + 600 x 2 - 5000 ) / (20,000-2,700) = -0.0462 < 0

h < 0 なので、p = 0 で最終的な子供の資産受取額を最大化できます。つまり、一次相続時には配偶者は本人の資産を一切受け取らず、すべて子供に遺産を相続するのがベストな選択になります。これはすでに配偶者の資産が、基礎控除額を超えていることから、実は計算する前からわかっていた結論です。

この場合、二次相続後の子供全員の資産受取額は

c2(0) = a + b - F - n x f (b- (3000 + 600 x n)) = 20,000 + 5,000 - 2,700 - 2 x f (5,000 - 3,000 + 600 x 2) = 22,300 - 2 x f (800) = 22,300 - 2 x 80 = 22,140

 

では、配偶者の資産が基礎控除額よりも少ないケースではどうなるでしょう。

ケース2)本人:2億円(a = 20,000)、配偶者:1千万円(b = 1,000)、子供2人(n=2)の場合

h = (3,000 + 600 x n -b ) / (a-F) = (3,000 + 600 x 2 - 1,000 ) / (20,000-2,700) = 0.185  より、0 < h < 1 です。

よって、最終的な子供の資産受取額を最大化するためには、0 < p ≦ h = 0.185 です。p = 0.185の場合、配偶者が相続する金額は具体的には 0.185 x a = 0.185 x 20,000 = 3,700 です。

この場合、二次相続後の子供全員の資産受取額は

c2(p) = a + b - F = 20,000 + 1,000 - 2,700 = 18,300 

まとめると、本人死亡時の配偶者への遺産相続額は3,700万円以内であれば、二次相続後の子供全員の資産受取額は変わらない、ということになります。

ここでふと疑問がわきます。二次相続時の相続税控除額は、3,000 + 2 x 600 = 4,200 万円。もともと配偶者は1,000万円の資産があったため、一次相続時の遺産相続額は3,200万円までであれば二次相続時は非課税になることが予想できます。しかし、上記の結果は3,700万円ということで、500万円も多い金額です。その理由としては、配偶者が本人の遺産を相続する際にも当然ながら相続税を支払うことになるため、それも考慮した結果と理解することができます。

3,700万円までであれば二次相続後の子供全員の資産受取額を最大化できる、という結果ですが、仮に 4,000万円を相続した場合、どの程度の違いとなるか試算してみます。

配偶者の受取額を4,000万円、つまり p = 4,000 / 20,000 = 0.2 です。

この場合 ① より

c2(0.2) = a + b - F - n x f { b + (a-F) x p - (3000 + 600 x n) } = 20,000 + 1,000 - 2,700 - 2 x f (1,000 + (20,000 - 2,700) x 0.2 - (3,000 + 600 x 2))
            = 18,300 - 2 x f (1,000 + 3,460 - 4,200) =18,300 - 2 x f (260) = 18,300 - 2 x 26 = 18,248

p = 0.185(3700万円) での二次相続後の子供全員の資産受取額は 18,300 でしたから、p = 0.2 (4,000万円)では52万円ほど減少していることがわかります。

 

 

次回は、相続税の配偶者控除を考慮した場合について試算します。

 

 

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自宅マンションを売却しました

2023-05-04 20:33:46 | 不動産賃貸業

自宅マンションを2022年の秋から冬にかけて売却しました。

きっかけは、いつもの不動産屋からの電話営業で、自宅のマンションを売却しませんか、という電話から始まりました。

これは売り物ではないんで、と断ってきたのですが、実はもう1-2年前ぐらいからそろそろ売却したほうがよいかもと、思い始めていたのも事実です。

その理由は以下の通り

  • 中古マンション市場が活況で、価格がここ数年で値上がりしつつある
  • 大規模修繕計画が新たに作成され、それによると今のままでは次の大規模修繕までに必要な修繕費用が足らず、その結果来年夏から修繕積立金が1戸あたり1万円ぐらい値上げされる
  • その値上げで次の大規模修繕までは何とかなるが、その時点で修繕積立金を使い果たし、それ以降の修繕費用をどのようにするのか(さらなる値上げ?)未定

<なぜ売るのか>
・マンションの大規模修繕資金が10年後に枯渇し、適切なメンテナンスが将来できなくなる。
そのため、今年夏から修繕積立金の値上げが予定されている。
・マンションがこの数年高く売れるようになっているため。

<なぜ賃貸にするのか>
・売却資金で社債による資産運用すると、その配当は毎月10万円ぐらいになる。
・賃貸ならこれまでかかっていた費用(固定資産税・火災保険・修繕積立金・管理費など、月3.5万円ぐらい)
を払わなくて済む。
・自宅は個人事業主の事務所も兼ねているため、賃貸家賃の半額を経費扱いとすると、月1万円あまり税金が安くなる。
・マイナスの要素としては賃貸の家賃(8万円ぐらい)がかかる。
⇒ 売却して賃貸に住むと、毎月6万円ぐらい収入増加になる。

さらに、マンションに住み続けた場合、そのマンションの市場価格も年々下がっていくことを考えると、さらに賃貸のほうがいいと思いました。

 

ただ、まだ仕事をしているため、家を手放して他の地域に移り住むのも難しいため、売却はあと2~3年後くらいでもいいかなと思っていたところでした。

しかし、ぜひとも納得できる金額で一度市場の反応を見ませんか、という不動産業者の言葉に誘われ、これは誰も買わないだろうという高値(私が13年前に購入した価格よりも500万円ほどの高い価格)でまずは市場に出してみたのです。

最初の1か月余は特に反応が無く、当然そうなるだろうと特に気にもせず静観していたのですが、12月に入り、内見したいという問い合わせがあったとのこと。その時には、売買のポータルサイトでは間取り図とマンション外観の写真のみの掲載でした。

特にどうしても売りたいというわけではなかったのですが、あまり散らかった室内を見てもらうのもなんだし、年末の大掃除もかねてちょっと気合を入れて掃除をしてみました。掃除後は以下のような状態です。この写真をポータルサイトに掲載していたら、もっと早く内見申し込みがあったかもしれません。

  

 

内見日では、たまたま2組の内見がありどちらもとても満足され、1組目に内覧をされた方がその日のうちに買付を入れていただき、あっという間に売買契約となりました。

不動産業者も価格だけを見たらこれでは買い手がつかないのではないか、と実は心配していたようですが、私がこの物件を購入と同時に200万円ほどかけてリフォームをしたこともあり(その時の売主さんが100万円だしてくれたため、自己負担は100万円だけでしたが)。結果としては、購入時よりも500万円ほど高く売却できました。私が住んでいたのは12年間ほどです。

購入時よりも500万円ほど高く売却できたのは、そもそも購入時の価格もその時の市場相場よりも100万円以上は安かったと思います。さらに、昨今の中古マンション市場がやや高騰していること、さらにリフォームによる効果が大きいような印象を持ちました。そのため、購入時にリフォームをしておくことは悪くはないなと実感しました。

ちなみに、安く購入でき、かつリフォーム費用まで出してくれた理由は聞いていないのでわからないのですが、この物件(和室?)で過去にご主人が病死されたようで、その時に事件性の有無を調べるために警察なども来て大変だったようです(ご近所さん曰く)。ただ、病死なのでいわゆる事故物件ではないのですが、その点について気にされていたのかもしれません。また、登記簿を見ると、売主さんが購入時に2500万円のローンを組まれていたのですが、2年後には物件名義が奥さんに相続され、抵当権が抹消されています。そのため、おそらくご主人死亡後のローン支払いが免責になったのではないかと推測しています。

そういった事情があって、相場よりも安く、かつリフォーム費用も一部負担してくれたんでしょう。

物件購入時の話に変わったついでにお伝えすると、当初、この物件を見つけて、不動産会社(客付け会社)に問い合わせたところ、客付け会社がその物件の担当業者(元付会社)に確認した結果、その物件はすでに売買契約が進行中で購入が難しいという回答だったとのこと。ただ、それでもポータルサイトでは物件が掲載され続けていました。そこで、専属専任契約を結んでいる不動産会社(いわゆる元付会社)を探し、直接問い合わせたところ、その日に内見でき、その翌日には買付を入れて購入できました。

私以外でも物件購入を検討中という人はいたらしいのですが、買付を入れているわけではなく、その返事待ちという状況だったようです。元付会社さんからしたら、その人が買ってくれた方が両手物件となり仲介手数料が倍もらえるので、おそらく他の仲介業者にはあえて紹介したくなかったのでしょうね。

色々と思い出深い自宅物件でした。

ちなみに、今はUR賃貸に住んでいます。家賃が安くて今のところ大きな問題はないですが、浴槽がやや狭いのが難点です。

 

 

 

 

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