聴くネタバレ映画・ドラマと英語日記

~元MC苅田三貴が見た映画やドラマを私情バンバンはさんでご紹介♪

ゆれる、真実と嘘の間で

2010-02-11 10:26:24 | 邦画ヒューマン
今年もキネマ旬報ベスト・テンが発表され
09年に映画好きをうならせた作品が出揃いました。

その代表とも言える日本映画作品賞
脚本賞最優秀主演男優賞に輝いたのは


ディア・ドクター 

ゆれる(06)で数々の賞を受賞した
若き女性(1974年生まれ)西川 美和監督の3作目。

"2つの面"がキーワードになっています。



人口1500人の田舎町。
村人にとっても慕われていた医者伊野 治(笑福亭 鶴瓶)が
突然姿を消します。

村では唯一のお医者さんだったので大騒ぎになり
波多野 行成刑事松重 豊)が
聞き込み捜査を開始。

話を聞いていくうちに
なんとも不思議な事が発覚。
誰も伊野の素性を知らないのです

研修医としてやってきた相場 啓介(瑛太)。
3年半一緒に働いていた看護士大竹 朱美(余 貴美子)。
病院に出入りする薬屋斎門 正芳(香川 照之)
村長(笹野 高史)等…



何故か

実は彼は医師免許を持っていなかったのです。
つまりは偽医者。

医療行為をしてはいけない人だった。
村人に嘘をついていたのです

でも皆に頼りにされ、慕われていたのは
紛れもない真実。


では彼の存在は本当?それとも偽物
そもそも本当って何だろう…


豪華な役者が脇を固め、僻地医療を題材にしたヒューマンドラマです








どのレビューやストーリー説明でも
主人公が"偽医者"だって事を書いていて
結局私もにズバリ書きましたが、かなり迷いました。

それは"偽者"だって事を知らなければ
全く違う見方が出来そうで
むしろ、私は知らずに見てみたかったから。


核心から言ってしまうと
この物語の肝は、人間のグレーゾーン、曖昧さ。

きっと誰もが信じているもの、世界って
すごく脆弱なもの。
嘘も本当も紙一重で、
崖から崖を、谷の上で綱渡りしている様なものなのかもしれない。

だからこそ皆必死でしがみつく。
自分の生きている世界がリアルなものだ、
正しいものだと信じて。


物語の中で、後半伊野が相馬に白状するんです。

「(医者の)資格がない」と。

でも、相馬はそれなら自分の方が
お金の事しか頭にない父親の方が
資格がないと反抗するんです。

もちろん、2人は物理的に医師免許は持っていますけど。

それまで相馬は伊野に胡散臭さを少し感じていたので
その言葉を聞いた時に
物理的な事だと受け止めても良かった。
でもそうしなかった。
むしろ、そう出来なかった…



これって人間の本質じゃないかなぁ。
何でも都合の良い方に解釈しようとする。
良い言い方をすれば、前向きに生きようとする。


そこで思うのです。
もし私が"偽医者"だというのを知らずに
この映画を見ていたら、このシーンをどう捉えたか

あくまで会話の流れで
「資格がない」なんて
自己嫌悪に陥った時に人はよく言う。

私だってしゃべる仕事していた時、よく言った

だからこそ思うのです。
知らずに見たら違う受け止め方をしたかもしれないと

まあ途中で偽者だって事が
徐々に明らかになっていくので
"全く知らずに"というのは不可能だと思いますが。



じゃあ、何故そんな楽しみがあるのに
ここでネタばらししているのか


それは最初に伊野が答えを言っているから。
これに気が付くと"むふふ"って勝ち誇りたくなる
この気持ち良さを味わって頂きたくて
他の皆さんと同じ様に書きました
これからご覧になるあなたはどうぞお見逃しなく


ところで脇を固める役者さんが豪華だと書きましたが
大竹と斎門は長く伊野と働いていたので
ある程度偽者だと気付いていました。
その曖昧さの表現がお2人とも絶妙

特に余 貴美子さんが手助けして死にそうな患者の命を救うシーンは
心に残ります。

余さんは3月に発表される日本アカデミー賞
この作品で助演女優賞にノミネートされています。
(香川さんは別の作品でノミネート)

松重さんの刑事もすごくハマっていました

井川 遥さんも田舎に母(八千草 薫)をおいて
東京で働くお医者さんを演じていましたが
いい味だしています

まだまだ書きたい事は沢山ありますが
枚挙に暇がないので、今回はこの辺で。

いずれにしろ、人はこの曖昧さ、グレーゾーンで
必死にもがき続けるのでしょうね。
良い意味でね