「エビネ」は、ラン科エビネ属の多年草。地上性のランである。ジエビネ、ヤブエビネと呼ばれることもある。
『分布』
日本、朝鮮半島南部、中国の江蘇省、貴州省に分布する。日本では北海道西南部から沖縄県までに分布する。
『形態』
球茎は広卵状、球状で長さ、径ともに約2センチ。古い球茎は時に10年以上残り、地表近くに連なる。和名はこの形をエビに見立てたことに由来する。
直径2-3ミリの根を多数生じる。秋には翌年の新芽を生じ、冬までに少し生長してから越冬する。葉は2-3枚つき、薄く、形は長楕円形から倒卵状披針形で先は尖り、縦に5本の脈がある。基部は細い葉柄になる。冬を越すと横状するが、数年間は枯れずに残る。
花は春咲で、新芽の展葉とともに高さ30-30センチの花茎を伸長させる。花茎の半ばより上に多数の花をつける。花はほぼ横向きに平開する。萼片は狭卵型、側花弁は倒卵状披針形、ともに先に尖る。唇片は3つに避け、左右の裂片が広い。中央の裂片には縦に3本の隆起線があり、先は板条に立ち上がる。唇片の基部は深くくぼんで後ろに突出し、長さ8-10センチの距となる。花期は4-5月。
『変異・変種』
花の色は変異が多い。萼片と側花弁は赤褐色、褐色、黄褐色、緑など。唇片は白または薄紫紅色。花の色に基づいてアカエビネ、ダイダイエビネなどの品種を認めることがある。
『利用など』
鉢栽培・園芸植栽用に販売される。一般には栽培が困難な植物とされていになが、春咲き系のエビネ属は栽培中にさまざまな植物ウイルスが容易に感染し、あるいは栽培下への移行によって植物内ウイルス濃度が上昇する。ウイルス量の増加した個体は、葉の落蕾、花の変形などの諸症状が出現し観賞価値が著しく低下する。ジエビネが栽培下で長期にわたってウイルス感染を発症せずに栽培できる事例は稀で、同一個体が栄養繁殖により増殖普及した例はほとんどない。