【鱒の姿ずし】
富士山の雪解け水を活用した「鱒の姿ずし」は、御殿場線・御殿場駅の駅弁。
小さくかわいらしい、紅鱒の姿寿司である。細長い容器で酢飯に魚を合わせ、板昆布を貼り、魚の絵画もまたかわしらしい包装紙で包まれている。
鱒の姿寿司は昭和の頃まで全国各地で人気の駅弁となっていた。御殿場線でも戦前には山北駅の鮎寿司が全国的に知られていた。
天が魚に与えた流線型と、寸分違わず見事に形状を揃えた酢飯は白く輝くる食べやすいようにスライスされた鱒を見ればねその断面は白色に光る。何色と例えず昆布色と表現したい昆布の厚さと固さは、他に思い当たらない。歯応えを得るため嚙んでもよし、香りを付けて残してもよし。分量は控え目なので、景色を眺めながらの短い鈍行旅行にも丁度良い。
【百年の旅物語かれい川】
九州新幹線の開業日に1日限りに作られた「百年の旅物語かれい川」は、肥薩線・嘉例川駅の駅弁。
南九州の無人駅で駅弁が売られ続けているという噂が、関東の駅弁ファンに広まった。果たして古く黒ずんだ木造駅舎の中で、その駅舎の写真を描いた掛け紙を巻く竹皮編みの弁当容器がテ-ブルの上で客を待っているる
フタを開けると、中身は茶色く明るかった。炊き込みご飯の上にはシイタケのタケノコの煮物が乗る。「ガネ」と地元で呼ばれるサツマイモ入りの天ぷらが、けっこうな大きさで2分割されて鎮座。コロッケの中にもシイタケとタケノコが入る。切り干し大根は春巻きの皮の中に収まり、容器の隅でナスとカボチャが味噌田楽になっている。
どこを見て茶色く、どこを食べても温かみがある。そしてニンジンの細切りが弁当の中のいたるところで顔を出して陽光を放つから、見栄はくすむどころか鮮やかである。
すべてが冬の南国の温かさを感じさせ、素晴らしい旨味を出している。