佐世保便り

2008年7月に佐世保に移住。
海あり山あり基地あり。そしてダム問題あり。
感動や素朴な疑問など誰かに伝えたくて…

小さな駅で

2009-06-17 | 雑感
「潜竜ヶ滝」
初めて聞く名前の、小さな駅
薄暗い、短いホーム
改札もなく、踏切もなく、もちろん駅員も誰もいない
ホームの薄明りで真ん前に線路が見えるので、やっと駅だと信じられるけど・・・


大好きな詩人、藤川幸之助さんの講演があるのを新聞で知って駆け付けた

「インフィニタス江迎町文化会館で午後7時から」とあったので、
いつものようにネットで検索、場所と交通手段を確認。

地図で見ると電車の駅もバス停も近い、交通の便の良い場所にその会館はあった。
しかも時間的にちょうど良いバスがあった。
(なぜかバスの方が早い。電車は58分かかるのに、バスだと46分で行くらしい)

しか~し、往きはよいよい帰りは何とやら
バスの最終便は8時11分。これじゃあ半分くらいしか聴けない。
電車の最終便は9時11分だ。
よし!これにしよう。帰りは電車だ。
そう決めて、会場へ向かった。

バス停を降りると、道路の反対側に白い大きな建物が、目立って建っていた。
名前も確認せずに入って行ったが、やはりそこが「インフィニタス江迎町文化会館」だった。

受付を済ませてすぐに、受付の人に電車の駅までどう行くかを訊ね、最終電車の時間を告げ、
もしかしたら途中退席するかもしれない失礼を前もって詫びておいた。

その方は、私を大きな窓ガラスの所へ連れて行き、
「ほら、あそこの青い看板の右側に車が何台か止まっているでしょう。あそこがもう駅ですよ」
と、教えてくれた。
それは、嬉しいことにとても近かった。


初めて見るナマの藤川さんは、予想以上にお若くて明るい雰囲気の方だった。
詩を読むうちに私の中でかってにできあがっていたイメージとは程遠く、フレッシュな方だった。
話し方も、介護の疲れや暗さは微塵も感じさせない、爽やか熱血教師のような口調だった。

しかし、話の中身は、凄まじい認知症介護の現実。
私には縁がなかった、全く知らなかった認知症という病気の世界、
その世界に住む人の実態、
そして、その人を見守る家族の生き様、
すべてを率直に、温かいまなざしで受け止め、語っておられた。

そのような藤川さんの今があるのは、
「詩を書くこと」によって、苛立ちや葛藤を吐き出して、吐き出して、
心に残った大切なものに気づき、育んでこられたからだろうが、
また、「お母さんの面倒は俺がみる。俺がお母さんを幸せにする」と宣言して
その通りの日々を送ったお父さんの影響も大きいことだろう。

ご両親のエピソードで特に心に残ったのは・・・

お父さんは日々の生活をきっちりマニュアル化しておられたそうだ。
何時にお母さんと一緒に起きて、
何時にお母さんと一緒に朝食を食べ、
何時にお母さんと一緒に散歩に行くとかって。

その中に「お母さんと一緒に歌う」というのがあって、
二人はいつも「旅愁」の歌を歌ってた。

いま、寝たきりで、すべての言葉を失い、何もわからず無表情のお母さんが、
藤川さんが耳元で「旅愁」を歌ってきかせると、「おー、おー」と反応するそうだ。


9時近くなっても藤川さんのお話は続き、後ろ髪を引かれながら、会場をそっと抜け出した。

教えてもらった場所に、車が1台止まっていた。
そのそばの地べたに座って話し込んでいる若い"お兄さん"風の若者が二人。
暗くて駅舎ふうな建物も見えないが、その若者たちに訊くのはなんとなく躊躇われ、
そばにある小さな階段を上って行った。
と、確かに小さなホームがあって、ベンチもあって、駅に間違いなさそうだ。

が、切符はどこで買うんだろう?
窓口もないし、自販機はどこにあるんだろう?

しかたなく、もう一度階段を降り、くだんのお兄さん風の二人に声をかけた。
「あのー、ここは潜竜ヶ滝駅ですよね?切符はどこで買うんですか?」

「ああ、切符は電車の中で買うったい」と言い、一人が立ち上がろうとしたので、
「あ、大丈夫です。電車の中ですね。どうも」と、頭を下げ、急いでホームへ。

ホームの外は真っ暗で、何の気配もなく、ほんとに電車はやってくるのかしらと
不安な気にさえなってきたが、しばらくすると電車の近づく音がした。

電車はたった1輌だけ。
どこから乗るのかな…きょろきょろしていると、足音が近づいてきた。

さっきのお兄さん風の一人が後ろのドアを指さし「整理券ば取っとよ」と教えてくれた。
ああ、あの人も電車を待っていたのかと思いつつ、頭をちょこっと下げて乗車。
ほんとだ。乗るとすぐ右側に整理券の出るBOXがある。バスと同じシステムなんだ。

整理券を取りながら後ろを見たが、お兄さんの姿はなく、すぐにドアが閉まった。
あれ?窓からホームを見ると、その人は、外への階段を降りるところだった。
もしかしたら、わざわざ乗り方を教えるために上がってきてくれたの?
まさか…

でも、たぶんそうに違いない…
そう思えたのは、藤川さんのお話を聴いたばかりで、とても素直な気分になっていたからだろうか。


遠ざかる小さな駅の灯りが、私の心にほっこり残った。


コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする