キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

高慢と偏見、 そして殺人

2015-07-09 15:22:57 | 
高慢と偏見 上 (ちくま文庫 お 42-1)
Jane Austen,中野 康司
筑摩書房

          「独身の男性で財産にもめぐまれているというのであれば、どうしても妻がな

          ければならぬ、というのは、世のすべてがみとめる真理である」(阿部知二訳)

          これは夏目漱石も絶賛したというジェーン・オースティンの『高慢と偏見』の冒

          頭部分です。サマセット・モームの世界の十大小説にも入っています。(もっと

          もモームの選択は彼が英国人ということもあり、欧米に偏っています)ところが

          不思議なんです。身も蓋もない言い方をすれば、冒頭の文章が暗示するように、

          中流階級の五人姉妹が、いかにして独身の金持ち男性を勝ち取ったかというだ

          けの話なのですが、これが、読みだすと止められない。同じく十大小説に選ばれ

          ている『嵐が丘』のように劇的でもないし、自然描写が美しい訳でも、叙情的な訳

          でも、哲学的に深い訳でも、激動の時代を映している訳でもないのに、読み出し

          たら止められないし、何度も読み返したくなります。「ジェーン・オースティンは写

          実の泰斗なり。平凡にして活躍せる文字を草して技神に入る、、、」という夏目漱

          石の言葉でその素晴らしさがわかるでしょうか。

高慢と偏見、そして殺人〔ハヤカワ・ミステリ1865〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
羽田 詩津子
早川書房

          それだけの小説なので、いわゆるスピンオフの作品がたくさんあります。

          最近出た英国推理小説界の巨匠P.D.ジェイムズの最後の作品『高慢と偏見、

          そして殺人』は極めて質のよい『高慢と偏見』の後日譚というか、推理小説バー

          ジョンです。原作ほどの機知とウィットはないものの、プロットがしっかりして

          いるし、登場人物を違う側面から、ちょっと毒を持って描いていたりして、なか

          なか読ませます。P.D.ジェイムズというペンネームで女性であることを隠してい

          たかに見える作者ですが、同性のオースティンの『高慢と偏見』を愛し、深く読

          み込んでいたか、よくかわります。

Darcy's Story
Hugh Thomson
Copperfield Books

The Darcys of Pemberley: The Continuing Story of Jane Austen's Pride and Prejudice (English Edition)
Micah Hansen,Sharon Johnson
Heather Ridge Arts

Darcy and Elizabeth: Behind Pemberley's Walls: A Pride and Prejudice Short Story (English Edition)
Mary Lydon Simonsen
Quail Creek Publishing, LLC

Mr. Darcy and Mr. Collins's Widow: An Elizabeth and Darcy Story (English Edition)
Timothy Underwood
Timothy Underwood

Return to Longbourn: The Next Chapter in the Continuing Story of Jane Austen's Pride and Prejudice (The Darcys of Pemberley Book 2) (English Edition)
Micah Hansen,Sharon Johnson
Heather Ridge Arts

           その他にも、こんなに様々な後日譚やら何やらが書かれています。ヒロイン

           のエリザベスと、彼女と結婚したプライドの高い大金持ちダーシーにまつわ

           る逸話がほとんどです。

           18世紀の英国の片田舎に住み、数篇の作品を残して、まずまずの世間の注目

           の下に42歳でなくなった女性の、ある意味地味なラブストーリーが、今こ

           れほど世界中の人々の愛読書になっているとは、なにか面白いものです。

ジェイン・オースティンの読書会
Karen Joy Fowler,矢倉 尚子
白水社

ジェイン・オースティンの読書会 コレクターズ・エディション [DVD]
エミリー・ブラント,マリア・ベロ,エイミー・ブレネマン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

           数年前に映画にもなった『ジェイン・オースティンの読書会』は、『高慢と偏見』

           はもちろん、彼女の作品の読書会を通して様々な人間模様を描く、なかなか含蓄

           の深い小説です。ジェーン・オースティンの描く人物の中に、様々な人格が内在

           していて、自分とひき比べ、共感を呼ぶのでしょうか。
コメント
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