キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

須賀敦子 - イタリア

2015-07-19 14:49:23 | 世界
コルシア書店の仲間たち (文春文庫)
須賀 敦子
文藝春秋

           今まで須賀敦子という人を知らなくて、なんと損をしてきたことかと

           思います。偶然彼女の名を見つけ、この『コルシア書店の仲間たち』、

           『ミラノ霧の風景』など、立て続けに読んでいます。ほとんどがエッ

           セイ、あるいは自伝で、どの作品も小説というには、個人的にすぎ、

           読み進むにつれ、須賀敦子という生身の人間の体験を、私自身も一

           緒になって生きているような気持ちになる、不思議な魔力を持ってい

           ます。一人の日本人女性がイタリアに自分のアイデンティティを見つ

           け、深く深く入り込み、イタリアを、特にミラノを中心とする北イタ

           リアを、その時代を、人を、その肌触りを、匂いを、大雑把に言えば

           文化を、文章で見事に具現化してみせました。彼女の描く人々(主に

           イタリアの)は上流の生まれであれ、極貧の生まれであれ、生死の境

           をさまよってきた人であれ、平穏な人生を送ってきた人であれ、皆そ

           れぞれの悲しみ、苦しみ、希望を持ち、限りなく魅力的で、愛おしさ

           を感じます。

須賀敦子全集〈第1巻〉ミラノ霧の風景・コルシア書店の仲間たち・旅のあいまに
須賀 敦子
河出書房新社

          須賀敦子は聖心女子大、慶応大と進み、1953年にパリ大に留学したと

          聞くと、才媛ではあっただろうけれど、よっぽど良いお家のお嬢さんだっ

          たのだろうと思われますが、まさにその通り。でもそこからが、並のお

          嬢さんと違うところです。フランスがどうも肌に合わないと彼女は、ペ

          ルージャでイタリア語を学び、そこから運命的にイタリアに惹かれてい

          きます。ミラノでイタリア人男性と結婚し、彼が急逝するまで、13年間

          を過ごします。
須賀敦子 静かなる魂の旅---永久保存ボックス/DVD+愛蔵本
須賀 敦子,中山 エツコ,ジョルジョ・アミトラーノ
河出書房新社

          彼女の全集に、池澤夏樹が「異国に生まれなおした人」という後書きを

          書いています。違う世界に行ってそこで暮らす。それがうまくいった時、

          その人はそこで生まれなおす。須賀敦子はそれができたのだろうと。
          
          rebornという言葉が浮かびます。そして彼女はそこで、旅行者ではなく、

          一時的な滞在者でもなく、そこに根ざしてほんとうに生活を生きました。

          その体験が、彼女の中で反芻され、深く理解され、成熟して、あの珠玉

          の作品たちになったのでしょう。日本とイタリア、2つの国のどちらでも、

          真実の生を生きた人、そんな感じがします。何十年も生きてきて、真面

          目に生と向い合ってきたのかと、時々おぼつかない気持ちになる私は、

          羨望にも似た憧れの気持ちで、彼女が語るイタリアの人々や街の話に

          読みふけっています。

             
                                   (フィレンツェ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする