ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

タワーリング・インフェルノ (The Towering Inferno)

2006年01月18日 | 映画


 パニック映画の超大作として非常に有名な作品ですね。
 総製作費は、実に1400万ドル。 
 もともとは、ワーナー・ブラザーズと20世紀フォックスが、それぞれビル火災をテーマにした映画を企画していました。しかし両社の間で、「多額の投資で競い合うよりは共同出資して大作を作る方が良い」という判断が下され、ハリウッド史上初めて大手2社によって共同製作されることになったのです。  


 出演者の顔ぶれもとても豪華です。ポール・ニューマンとスティーヴ・マックィーンの両巨星の共演ということで、当時はたいへんな話題になりましたが、共演陣にも、主演クラスの名前がズラリと並んでいますね。 
 ちなみにこの映画では、後年「ブルース・ブラザーズ」などで監督を務めるジョン・ランディスが、墜落死する男性役で出演しています。


        


 撮影は、実際に高さ33mのビルを建てて行われました。使った水の量は4000キロリットルにものぼるそうです。
 またスタジオに57部屋のセットを作り、うち49部屋を火攻め水攻めにして撮影しています。 
 この映画の製作はアーウィン・アレンですが、彼はあの「ポセイドン・アドヴェンチャー」を手がけた人でもあるんですね。 
 今の映画と違って、CGを使用したところもなく、実際に俳優やスタントマンが危険なシーンを演じているため、かえってリアルで重厚感が感じられるんです。 
 爆発して炎が一瞬にしてフロアーを走るシーン、火の中を走るシーン、ヘリコプターによるエレベーターの宙吊り、そしてそこでオハラハン隊長が落ちかけた消防士を片手で支えるシーン、クライマックスの給水タンク爆破など、ハラハラさせられるシーンの連続で、たいへん面白い娯楽作品です。 
 しかし、面白いだけでなく、多くのメッセージを含んでいる作品でもありますよね。


      燃える「グラス・タワー」 


 原題は「そびえたつ地獄」という意味ですが、その名の通り、サンフランシスコに完成したばかりの138階建て超高層ビルの81階で火災が発生するという設定です。
 工費を浮かせようと、指定されたものより質の落ちる電線を意図的に使用したため、電気系統に負荷がかかり、配電盤がショートして出火するのですが、これ、明らかに人災ですよね。安全性より利潤を追求しようとすることが災害に繋がる、ということを示唆しているようです。この部分、はからずも今の日本で騒がれている耐震偽造問題の本質を30年も前に予言しているかのようです。 
 ロバーツがダンカン社長にこう詰め寄る場面があります。
 「人々が安全に過ごせる建物になるはずだったのに…。コストを削るならなぜ階数を削らないのだ!」と。
 その時ロバーツはこうも言っています。「人を殺せば何と呼ばれる?」


     
     フェイ・ダナウェイ(左)、ポール・ニューマン(右)


     
     ジェニファー・ジョーンズ(左)、フレッド・アステア(右)


 高層ビル火災の恐ろしさも当然テーマのひとつでしょう。オハラハン隊長はロバーツに「確実に消せるのは7階までなのに、設計屋は高さを競い合う」と吐き捨てています。  
 ビルの防災設備を過信しているダンカン社長は、オハラハン隊長に「ボヤ程度でそう慌てることはないだろう」と笑顔で話しかけます。この時オハラハンは「安全な火事などない」と素っ気なく答えていますが、この言葉もとても教訓的だと思いますね。 
 また、ビルの住人で耳が不自由なオルブライト夫人には火災の知らせが伝わらないというエピソードは、小さいけれども見過ごすことのできない部分だと思います。実際、耳の不自由な人には危険の知らせが伝わりにくいので、災害の時には逃げ遅れる危険性が高いのだそうですね。  


     
     ウィリアム・ホールデン(左)、リチャード・チェンバレン(右)

     
     スーザン・フラネリー(左)、ロバート・ワグナー(右)


 最後のシーンでのそれぞれの言葉も印象的でした。 
 ダンカンは、「今はただ神に祈るのみだ。この惨事を繰り返さぬように」とつぶやきます。 
 ロバーツは「このビルをこのまま残すべきかな。人間の愚かさの象徴として」とスーザンに語りかけます。 
 そしてオハラハンはロバーツに「運よく死者は200名以下だ。しかし、今にこんなビル火災で1万人の死者が出るぞ。俺は火と戦い、死体を運び続ける。誰かに安全なビルの建て方を聞かれるまで」と、問いかけるように話すのです。
 これらの言葉も、ある意味「予言」ともとれそうです。


     
     ポール・ニューマン(左)、スティーブ・マックイーン(右)


 現実に高層ビルが乱立する時代となり、防災設備も進化しましたが、同時に高層ビル火災は悲惨さを増しています。
 この作品は、単なるパニック映画ではなく、火災に対する危機管理の見直しや、安全性の最優先などのさまざまな問題を、30年も前にぼくらに提言してくれています。 
 映画の冒頭で、「人命を救うために自分たちの命を犠牲にする全世界の消防士にこの映画を捧げる」という言葉が出てきますが、消防士にだけではなく、ビルを造る人たち、ビルを利用する人たちすべてへの教訓が含まれている作品なのだと思います。


      


タワーリング・インフェルノ/The Towering Inferno
  ■1974年 アメリカ映画
  ■製作
    アーウィン・アレン
  ■配給
    米国=20世紀フォックス
    日本=ワーナー・ブラザーズ/20世紀フォックス
  ■監督 
    ジョン・ギラーミン
  ■音楽 
    ジョン・ウィリアムス
  ■出演
    スティーヴ・マックィーン(マイケル・オハラハン隊長)
    ポール・ニューマン(ダグ・ロバーツ)
    ウィリアム・ホールデン(ジェームス・ダンカン社長)   
    フェイ・ダナウェイ(スーザン・フランクリン)   
    フレッド・アステア(ハーリー・クレイボーン)   
    スーザン・ブレイクリー(パティ・シモンズ)   
    リチャード・チェンバレン(ロジャー・シモンズ)   
    ジェニファー・ジョーンズ(リソレット・ミュラー)   
    O.J. シンプソン(ハリー・ジャーニガン警備主任)   
    ロバート・ヴォーン(ゲイリー・パーカー上院議員)   
    ロバート・ワグナー(ダン・ビグロー広報部長)   
    スーザン・フランネリー(ローリー)   
    ノーマン・バートン(ウィル・ギディングス工事主任)   
    ジャック・コリンズ(ロバート・ラムゼイ市長)
    シーラ・マシューズ(ポーラ・ラムジー市長夫人)
    グレゴリー・シエラ(バーテンダーのカルロス)
    ドン・ゴードン(カピー消防士)
    フェルトン・ペリー(スコット消防士)
    アーニー・F・オルサッティ(マーク・パワーズ消防士)
    カリーナ・ガワー(アンジェラ・オルブライト)
    マイク・ルッキンランド(フィリップ・オルブライト)
    キャロル・マケヴォイ(オルブライト夫人)
    ジョン・クロフォード(キャラハン地下機械室主任)
    ダブニー・コールマン(消防署副署長1)
    ロス・エリオット(消防署副署長2)
    ノーマン・グラボウスキー(フレイカー)
                             ・・・etc
  ■上映時間
    165分
  ■主題歌
    愛のテーマ/We May Never Love Like This Again(歌:モーリン・マクガヴァン)
                           
 


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4 コメント

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Unknown (bugalu)
2006-03-31 13:13:05
2006-01-19 23:55:28



この映画は、傑作中の傑作ですよね。



70年代後半から、80年代初め頃にかけては、テレビのロードショー番組でも、よく放送していたような記憶があります。(だから、何回か見たと思います)



この他では、スピルバーグの「激突!」も、個人的には70年代を思い出させてくれる、思い入れのある映画なんですが、両者とも、トテツもなくスリリングで、今の若いヒトにもぜひ観てほしいもんですよね。



DVD買いたくなりました。
返信する
Unknown (カント)
2006-03-31 13:13:26
2006-01-20 10:50:33



衝撃的な映画でしたね。いろいろ教訓も含まれてるし。華やかなパーティと消防士が対照的でした。

一時はCGの技術に「すごい!」と思ったけど、最近はCGじゃないことに「すごい!」と思ったりします。
返信する
bugaluさん (MINAGI)
2006-03-31 13:14:30
2006-01-20 13:55:52



当時はまだ我が家にはビデオデッキがなかったので、テレビで好きな映画が放映される日は準備万端整えてテレビの前に座ったもんでした



「激突!」、あれコワかったですね~。夢中で見ましたよ。すごくコーフンしました。
返信する
カントさん (MINAGI)
2006-03-31 13:15:23
2006-01-20 14:02:57



ほんと、衝撃的でした。しかも、大掛かりなだけではない、内容のある作品ですからね~。だから何度観ても飽きないんだろうな、と思います。



CGがあるからこそ映画の可能性が飛躍的に広がったんですが、反面、実写の方が「重み」みたいなものがあるんですよね。

CGを安易に使ったがために安っぽく見えることもあると思うんです。
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