ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

アフター・アワーズ (After Hours)

2008年05月31日 | 名盤


 山中千尋の通算7作目となる最新アルバム『アフター・アワーズ』は、2007年12月23日に惜しまれながら82歳で逝去した世界的ジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソンへのトリビュート作品です。
 ちなみに「アフター・アワーズ」とは、「ライヴが終わった後の時間」という意味で、その時にはお客で来ていたミュージシャンなども交えて、ジャム・セッションが繰り広げられるのが常となっています。


 山中さんは、当初は別の企画で新作を録音する予定だったそうですが、そのレコーディングの矢先にオスカーの訃報が飛び込んできました。このニュースを聞いた山中さんが急遽予定を変更して録音に臨んだのが、アルバム『アフター・アワーズ』というわけです。このアルバムは、今日に至るまで大きな影響を受けてきたオスカー・ピーターソンへの想いが詰め込まれたトリビュート・アルバムだと言えるでしょう。


     
     オスカー・ピーターソン(pf)


 収められているのは「オール・オブ・ミー」、「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」、「コンファーメイション」、「帰ってくれればうれしいわ」、「虹の彼方に」、「エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー」等、われわれが行うジャム・セッションでも御馴染みの曲ばかりです。
 しかしこれが、さっぱりしていてなかなか良いんです。もちろん、いつもの山中さんの個性あふれる演奏も良いですが、スタンダード集とはいってもこれはこれで「千尋カラー」を楽しめるアルバムだと思います。


 今作は、ピアノ+ギター+ベースというドラムレス・トリオですが、これは1950年代のオスカー・ピーターソン・トリオを思い起こさせるオールド・ファッションなスタイルです。『アフター・アワーズ』は、生前のオスカーが心をこめて取り上げていたスタンダード・ナンバーを、このドラムレス・トリオでトリビュートしたものです。





 トリビュート・アルバムとは言っても、偉大な先人の演奏をそのままコピーするのとは違い、オスカーをリスペクトしながら、山中さんも自分の個性を出そうとしているのではないでしょうか。
 そして、オマージュ的性格を持つせいでしょうか、このCDは、選曲が今までの山中さんからするとある意味意表を突くような、スタンダードの名曲を揃えているのが特徴です。


 バランス的には、ギターが全面に出ている時などピアノが引っ込んでいるし、流麗なピアノ・ソロの時は4ビートを刻むギターがほどよく流れていて、なかなか良いんじゃないかな、と思います。スウィング期によく聴かれたような鋭く刻むギターに乗っかって演奏されるリリカルな山中さんのピアノ、素敵です。その中心で野太く弾いているのがベースの脇義典氏。脇さんは、バークリー音楽大卒業後ずっとニューヨークで活躍されているベーシストです。ほんとうによく歌うベースを弾くので気に入ってしまいました。



左から 脇義典、山中千尋、アヴィ・ロスバード


 今までの山中さんのアルバムと比べると、オールド・スタイルでやや地味であることは否めないでしょうけれど、お酒でも飲みながら気楽に楽しんだり、ジョギングのお供に聴いたりするのに適した、リラックスしたアルバムだと思います。
 また、このアルバムから感じられるレトロな雰囲気も温かくていいなぁ。全員の体に共有して流れるビートから躍動感が感じられて楽しいです。
 急なレコーディングだったけれど、急遽集まってサクサク録音をこなしてみた、という雰囲気のするノリも、昔のバップ華やかなりし頃の空気を醸し出ているような気がします。1曲1曲の時間が短いことも、40~50年代の録音物を意識してのことかもしれません。
 

 山中千尋さんは2001年のデビュー以来、澤野工房から3枚のアルバムを発表しました。2005年には澤野工房からヴァーヴへ移籍し、それ以降も『アフター・アワーズ』を含め4枚のアルバムをリリースしています。2007年春にはヨーロッパでアルバム・デビューを果たし、同年11月に行われた初のワールド・ツアーも大成功を収めました。現在の彼女はニューヨークを拠点に、内外で精力的な演奏活動を展開、今や名実共に日本を代表するジャズ・ピアニストのひとりに挙げられています。昨今目立つ日本人プレーヤーの活躍ですが、これからも山中千尋さんや、他の日本人ミュージシャンに期待しています。



◆アフター・アワーズ/After Hours
  ■ピアノ
    山中千尋
  ■リリース
    2008年2月27日
  ■プロデュース
    山中千尋
  ■録音
    2007年12月30日、2008年1月3日 イーストサイド・サウンド(ニューヨーク市)
  ■収録曲
    ① オール・オブ・ミー/All Of Me (Seymour Simons, Gerald Marks)
    ② ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー/There Will Never Be Another You (Harry Warren, Mack Gordon)
    ③ コンファメーション/Confirmation (Charie Parker)
    ④ ユード・ビー・ソー・ナイス・トウ・カム・ホーム・トゥ/You'd Be So Nice To Come Home To (Cole Porter)
    ⑤ スー・シティ・スー・ニュー/Sioux City Sue New (Keith Jarrett)
    ⑥ オール・ザ・シングス・ユー・アー/All The Things You Are (Jerome Kern, Oscar HammersteinⅡ」)
    ⑦ 虹の彼方に/Ove The Rainbow (Harold Arlen, E.Y. "Yip" Harburg)
    ⑧ エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー/Everything Happens To Me (Matt Dennis, Tom Adair)
    ※All songs arranged by Chihiro Yamanaka
  ■録音メンバー
    山中千尋 (piano)
    脇義典 (bass)
    アヴィ・ロスバード/Avi Rothbard (guitar)
  ■レーベル
    VERVE





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2 コメント

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こんにちわんわん (Nob)
2008-06-01 17:29:52
あ、そうそう、一時期、澤野工房のアルバムにかなり興味があった時に彼女の名前を見ました。
澤野工房では、ベルギーのジャズとかロシアのジャズアルバムを持っていますが、彼女はまだ聴いた事がないんですよ~
若くて美人で才能がある女性・・・なぜかこの時点で躊躇するのはどうしてなんだろう(汗)
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Nobさん (MINAGI)
2008-06-01 20:01:51
こんぶぁんわ!
へえ~、澤野工房のロシアやベルギーのジャズ・アルバムですか~。
いったいどういう経緯でそのCDを買ったのかが気になります。ジャケ買いかな。でも澤野さんもいろんなところからミュージシャンを発掘して良いアルバムをたくさん出してますよね。
以前通販で澤野さんからCDを買った時、納品書に手書きで一言お礼の言葉が書いてありました。それだけでも嬉しかったです。
躊躇はしなくて大丈夫です!Nobさんは正統派おフランスなお方、なにも心配(?)はいりませんです!(^^)
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