ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

血と汗と涙 (Blood Sweat & Tears)

2019年03月11日 | 名盤

【Live Information】


 中学生のころって、ジャズとか聴いてたっけ。。。
 黒人音楽全般に対しては正直接点なんかなかったような気がします。
 やっぱり白人(人種ではなく音楽的背景のことです)の作るロックが一番好きだったし、身近に感じてもいました。当時はビートルズやクイーンなどに夢中になっていたものです。


 高校に入ったぼくは、ドラムを叩きたいがために吹奏楽部に入部しました。そこで先輩たちに影響されたりして、ジャズとも関わるようになりました。
 すると、相変わらずロックばかり聴いてはいたけれど、ちょっと背伸びしてもっといろいろな形態のロックを聴いてみたくなってきたんですね。例えば管楽器の入ったものとか。
 まずはブラス・ロック・バンドの「シカゴ」にハマりました。
 そして「シカゴ」を聴いているうちに、必然的に「シカゴ」と並び称されるブラス・ロック・バンド「ブラッド、スウェット & ティアーズ(BS&T)」に手を出してみようと思うに至ったわけです。


 1960年代後半になると、ロック・ミュージックに様々な要素を持ち込んで独自の音楽を指向するグループが増えてゆき、ロック界にクリエイティブな風が活発に吹くようになります。こうした動きは、当時生まれた「ニュー・ロック」「アート・ロック」という言葉でカテゴライズされるようになりました。
 この「ニュー・ロック」の重要なグループのひとつがBS&Tです。





 この「血と汗と涙」はBS&Tのセカンド・アルバムです。
 「実験的精神を持ちつつも成熟した、大人のロック」という感じがします。 
 BS&Tは、シカゴのように政治的な主張を明確にしているわけではありません。また、同じくブラス・セクションを擁してはいても、シカゴほどハードに押しまくってもいません。
 若いバンドにありがちな荒々しさこそありませんが、音楽的な幅と余裕が充分にあるので、アダルトな雰囲気も自然にあふれ出ているのでしょう。

 
 「血と汗と涙」に収録されている曲のラインナップは、現代音楽(『エリック・サティーの主題による変奏曲』)やフォーク(『アンド・ホエン・アイ・ダイ』『サムタイムス・イン・ウィンター』)、ロック(『微笑みの研究』『モア・アンド・モア』)のほか、ジャズ(『神よ祝福よ』)、R&B(『ユーヴ・メイド・ミー・ソー・ヴェリー・ハッピー』)など実にバラエティに富んでいます。
 『ブルース・パートⅡ』では、クリームの『サンシャイン・ラブ』と『スプーンフル』の一節が聞かれますが、これは遊び心であると同時に当時の白人によるブルース・ロック・ブームの隆盛ぶりを物語っているようにも思います。
 またローラ・ニーロやトラフィックの曲を取り上げているところが面白いです。これは当時としての先進的な感覚の現れなのかもしれません。
 それらの素材をうまく料理し、BS&Tのサウンドとして構築・昇華しているところが、バンドの抜きん出た技量と底力を証明していることになるのではないでしょうか。

 
 このアルバムからは「ユーヴ・メイド・ミー・ソー・ヴェリー・ハッピー」「スピニング・ホイール」「アンド・ホエン・アイ・ダイ」の、3曲のシングル・ヒットが生まれています。とくに「スピニング・ホイール」はBS&Tの代表曲と見なされているばかりでなく、1960年代後半のロックを象徴する曲のひとつとして、いまだに多くのリスナーに愛されています。
 余談ですが、シングル・カットされた3曲はいずれも全米チャート2位どまりだったという偶然が生まれています。





 さてその「スピニング・ホイール」ですが、この曲にはトランペッターのアラン・ルービンが参加しています。
 このことを知った時には少々驚いたというか、昔の友だちに久しぶりに会ったような気持ちになりました。
 そう、アラ・ルービンは、あの「ブルース・ブラザ-ズ・バンド」の名トランペッターなのです!
 アランは、ぼくの大好きな映画「ブルース・ブラザーズ」「ブルース・ブラザーズ2000」の両方で、トランペットばかりでなく多くの場面に出演しています。そして独特の味がある軽妙な演技で観ているわれわれを大いに楽しませてくれています。


 個々の演奏はやはりジャズ寄り、というか、ジャズ的なアプローチが色濃いように思います。
 管楽器奏者はもちろんでしょうが、ベースのジム・フィルダーとドラムスのボビー・コロンビーのアプローチもジャズ色が強いし、なかなか個性的で面白いプレイを聴かせてくれます。
 デヴィッド・クレイトン-トーマスの力強いボーカルも存在感が大きく、強く印象に残ります。

 
 1960年代後半からの百花繚乱のロック界の中にあってもこのアルバムはユニークな存在だと思いますし、その時代を語るのに外すことはできない作品だと思います。
 アルバムの中に、「その時代」がパッケージされているような気がするのです。






血と汗と涙/Blood Sweat & Tears
  ■歌・演奏
    ブラッド、スウェット & ティアーズ/Blood Sweat & Tears
  ■収録曲
    [Side-A]
    ① エリック・サティーの主題による変奏曲(第1楽章、第2楽章)/Variations on a Theme By Eric Satie(1st and 2nd Movements)
      (Adapted from "Trois Gymnopèdies Arr. by Dick Halligan)
    ② 微笑みの研究/Smiling Phases (Steve Winwood, Jim Capaldi, Chris Wood)
    ③ サムタイムス・イン・ウィンター/Sometimes in Winter (Steve Katz)
    ④ モア・アンド・モア/More and More (Vee Pee Smith, Don Juan)
    ⑤ アンド・ホエン・アイ・ダイ/And When I Die (Laura Nyro)  ☆全米2位
    ⑥ 神よ祝福を/God Bless the Child (Billie Holiday, Arthur Herzog Jr.)
    [Side-B]
    ⑦ スピニング・ホイール/Spinning Wheel (David Clayton-Thomas)  ☆全米2位
    ⑧ ユーヴ・メイド・ミー・ソー・ヴェリー・ハッピー/You've Made Me So Very Happy (Berry Gordy Jr., Brenda Holloway, Patrice Holloway, Frank Wilson)  ☆全米2位、全英35位
    ⑨ ブルース-パートⅡ/Blues-Part Ⅱ (Blood Sweat & Tears)
    ⑩ エリック・サティーの主題による変奏曲(第1楽章)/Variations on a Theme By Eric Satie(1st Movements)
    ☆=シングル・カット
  ■リリース
    1968年12月11日
  ■プロデュース
    ジェイムス・ウィリアム・ガルシオ/James William Guercio
  ■録音メンバー
    ☆ブラッド、スウェット & ティアーズ/Blood Sweat & Tears
     フレッド・リプシャス/Fred Lipsius (alto-sax, piano)
     チャック・ウィンフィールド/Chuck Winfield (trumpet, flugelhorn)
     ルー・ソロフ/Lew Soloff (trumpet, flugelhorn)
     ジェリー・ハイマン/Jerry Hyman (trombone, recorder)
     デヴィッド・クレイトン・トーマス/David Clayton-Thomas (lead-vocals②,④~⑨)
     ディック・ハリガン/Dick Halligan (organ, piano, flute, trombone, vocals)
     スティーヴ・カッツ/Steve Katz (guitar, harmonica, vocals, lead-vocals③)
     ボビー・コロンビー/Bobby Colomby (drums, percussion, vocals)
     ジム・フィールダー/Jim Fielder (bass)
    ★ゲスト
     アラン・ルービン/Alan Rubin (trumpet⑦)
  ■チャート最高位
    1969年週間チャート  アメリカ(ビルボード)1位、イギリス15位
    1969年年間チャート  アメリカ(ビルボード)3位




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