ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ホーム・アゲイン ライブ・イン・セントラル・パーク

2023年11月16日 | 映画

【Live Information】


 岡山市にある単館系映画館「シネマクレール」。
 大手配給会社に属していないので、スターが煌めいているような映画はあまり見かけませんが、予告編や掲示されているポスターを見ると思わず興味をそそられる文芸作品や社会派作品が多く上映されています。
 音楽系映画が多いのも特徴で、いままでミシェル・ペトルチアーニ、エリック・クラプトン、ホイットニー・ヒューストン、アレサ・フランクリンなどなどのドキュメンタリー映画を観ました。


 先日は、1960年代末期から70年代前半にかけてロック界を席捲したクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルのドキュメンタリー映画「トラヴェリン・バンド」(しかも後半はロンドン、ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ!)が上映中(しかも期間はわずか一週間!)だったので、なんとか最終日に観に行ったのです。
 ところがですね、生活のリズムが夜型になったことによる寝不足というか、とりあえずは休みなしでお店を開けている日ごろの疲れというか、それやこれやが真っ暗な映画館の中にいると睡魔と化してやって来るんです。いつの間にか意識は消え失せ、たびたび目は覚めるんですが、おそらく合計すると全編の半分近くはうたた寝してしまったんです
 ああ。。。
 でもその時の予告編で、キャロル・キングのライヴ映画が来るのを知って狂喜乱舞!
 まあ実際は狂っても踊ってもいないのですが、これは絶対観なければ、と心に誓ったのでした。


 「ホーム・アゲイン ライブ・イン・セントラル・パーク」は、1973年5月26日(土)に、ニューヨークのセントラル・パークで行われたキャロル・キングのフリー・コンサートの模様が収められた、ドキュメンタリー映画です。
 1971年2月に発表したアルバム『つづれおり』が大ヒットして世界的な人気シンガー・ソングライターとなったキャロルは、生まれ育った街ニューヨークで、いわば凱旋コンサートを行いました。「故郷への恩返し」だったそうです。キャロルの故郷は、セントラル・パークから約20kmほどしか離れていないブルックリンなのです。
 当時ほとんどライヴを行っていなかったキャロルの、それも無料ライヴということもあって、集まった聴衆は、実に推定10万人以上。


     


 ライヴは2部構成です。
 1部は、キャロルのソロ・パフォーマンス。おもに『つづれおり』からの選曲です。
 2部は、バンドを従えて、このコンサートの数ヵ月後にリリースされる予定の新作『ファンタジー』の収録曲を演奏しています。
 バンド・メンバーは、当時の夫君のチャールズ・ラーキー(ベース)をはじめ、ハーヴィー・メイスン(ドラムス)、デヴィッド・T・ウォーカー(ギター)、トム・スコット(サックス)など錚々たる面々が名を連ねています。


 しかしキャロルって、なんてチャーミングなんでしょう。
 歌っている時のひたむきな表情。
 歌い終わって聴衆に向ける人懐っこい笑顔。
 例えば、高校の時に同じクラスにこんなコがいたら、きっと好きになってしまうな。


     
 

 単なるラブ・ソングだけでなく、生きているからこその悩み、つまずき、孤独に共感し、手を差し伸べてくれるような歌詞。
 だからこそ聴衆は安心して自分の素直な気持ちを委ねられるのでしょう。
 崇め奉ったりひれ伏したり、そんな絶対的な上下の関係ではなく、そっと後押ししてくれたり、気持ちを共有してくれている気がするからこその、穏やかな聴衆の顔、顔、顔。


 それにしても、ヴォーカリストとしてのキャロルも、とても素晴らしかったです。
 エネルギッシュで、ロック・ヴォーカリストのような面も観ることができました。
 でもやっぱり、彼女の「歌」は、彼女のオリジナルな「歌」なんですね。
 もともと作曲者だったキャロルが作るデモ音源には、キャロル自身による仮の歌が入れられていましたが、それが関係者のあいだでは高く評価されていたそうです。
 しかし当時のキャロルは歌うことに対しては興味がなく、いや、もっと言えば嫌がっていたそうなのです。
 その彼女に強く歌うことを勧めたのが、ジェームス・テイラーです。
 ジェームスは、彼のツアーのピアニストにキャロルを起用しましたが、キャロルの出身大学でのライヴの時に、ステージ上で「キャロルはこの大学の出身なんだ。そのキャロルにこれから1曲歌ってもらおう」と突然紹介されてしまい、仕方なく歌ったんだそうです。そしてこれがヴォーカリストとしてのキャロルのスタートになったのです。
 キャロルとジェームスが親友であることは有名な話で、ふたりは今でも変わらぬ友情で結ばれています。
 『君の友だち』を歌う前に、「ある人に捧げます」とアナウンスしたキャロルにすかさず飛んだファンからの声が、「ジェームス・テイラー!」
 思わずニヤリとしてしまいました。


     
 

 客席からは、「愛してるよ」とのファンからの声も。
 それに対して、「わたしも愛してるわ」と応えるキャロルの優しい表情が、とても印象的でした。
 『ロッキー2』で、試合後のリング上でインタビューに答えるロッキーに飛んだ「愛してるぞロッキー」の声に、「おれも愛してるぞ」と応じた場面が思い出されましたね。
 ステージから離れたところからキャロルに花束を渡そうとする少女。
 「ちょっと遠くて届かないね」とのキャロルの声に、聴衆の手から手へとリレーされてステージに届けられた花束。
 ステージも客席も、愛に覆われています。
 微笑ましくも、ちょっぴり感動しちゃいます。
 そしてこの雰囲気が、コンサートの場面全体を通じて、静かに、温かく流れているような気がするのです。



◆キャロル・キング ホーム・アゲイン
 ライブ・イン・セントラル・パーク/Home Again:Carole King Live in Central Park
  ■2023年アメリカ映画
  ■配給
    ディスクユニオン
  ■製作
    ルー・アドラー
    ジョン・マクダーモット
  ■公開
    2023年11月3日(日本)
  ■監督
    ジョージ・スコット
  ■バンド・メンバー
    キャロル・キング(voval, piano)
    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 
    クラレンス・マクドナルド(electric-piano)
    デヴィッド・T・ウォーカー(guitar)
    チャールズ・ラーキー(bass)
    ハーヴィー・メイスン(drums)
    ボビー・ホール(percussions)
    トム・スコット(sax)
    マイク・アルトシュル(sax)
    ジョージ・ボハノン(trombone)
    ディック・ハイド(trombone)
    ジーン・ゴー(trumpet)
    オスカー・ブラシアー(trumpet)
  ■上映時間
    79分


     


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 桑野信義さん | トップ | 世界の片隅の小さなジャズバーで »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事