ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

スピーク・ライク・ア・チャイルド (Speak Like A Child)

2008年05月02日 | 名盤

 
 ついこの間CDショップを覗いたら、ジャズ・コーナーの売り上げベスト10の棚にハービー・ハンコックのグラミー受賞作「リヴァー」があったんです。買おうかどうしようか考えながら他の商品を見ていると、目に飛び込んできたのが、同じくハービーの「スピーク・ライク・ア・チャイルド」のジャケットです。
 ハービー・ハンコックは好きなミュージシャンでもあるし、どちらにしようか迷ったんですが、アコースティックなハービーが聴きたかったので、「スピーク~」をレジへ持って行きました。


 薄暮の中でキスをする恋人同士の写真が使われているジャケットがステキです。このふたりは、ハービーと恋人時代の現夫人なんだそうですね。
 このアルバム、少年時代との決別をコンセプトにしたアルバムらしいです。


     


 ピアノ・トリオ+ホーン・セクション3人のセクステット編成になっていますが、管楽器は時折りテーマを演るほかはバッキングに徹しています。管楽器は、基本的にはピアノ・トリオの音飾として使用されている感じで、その音色もとてもまろやか。フリューゲル・ホルン、バス・トロンボーン、アルト・フルートという組み合わせは、ホーン特有の金属的な響きが抑えられていて、とても耳馴染みが良いと思います。こういう編成からもハービーのセンスの良さが窺えますよね。
 管楽器群はソロこそ取りませんが、サウンドの組み合わせや凝った音使いのアレンジが相まって一種浮遊感の漂う不思議なムードを醸し出しています。これがハービーのピアノに彩りを添えているように思うんです。
 

 アルバムから漂ってくる落ち着いた雰囲気が心地よいですね。
 美しく柔らかいホーン・アンサンブル、スウィンギーなベースとドラムス、リリカルなハービーのピアノ。
 タイトル・チューンのほか、「ライオット」や「ソーサラー」などの名曲が収録されていて、ハービーの作曲者としての資質の高さも垣間見えます。
 ハービーのピアノはとてもリリカルでありながら思索的。決して甘さに流されておらず、爽やかでクール。ベタつかず、知性とちょっとしたシャレっ気みたいなものを感じるのです。


 「ライオット」は現在に至るまでのハービーの重要なレパートリーです。マイルス・クィンテットの1967年作のアルバム「ネフェルティティ」に収められているのが初演です。サスペンス・タッチの簡明なテーマに続き、ピアノが颯爽と弾き始めます。とても躍動感のあるナンバー。


 タイトル・チューンの「スピーク・ライク・ア・チャイルド」は、バラード系のボサノヴァ。黄昏時から夜の濃紺に移ってゆくジャケット写真の魅力そのものが現れている緩やかな曲です。


 「ソーサラー」はマイルス・デイヴィスの同名アルバム(1967年)が初演。ここではピアノ・トリオで演奏されています。「ソーサラー」(邦題:魔術師)とはハービーがマイルスに親しみを込めてつけたあだ名です。このアルバムでは、ハービーの饒舌で緊張感のあるプレイが爽やかに響き渡っています。


     
 
 
 「ファースト・トリップ」はロン・カーター作。ピアノ・トリオでスウィンギーに演奏されています。ロンの息子が初めて学校に通うことになった日の様子を表現したものだそうです。
 「トイズ」「グッドバイ・トゥ・チャイルドフッド」は、ともに巧みに計算されたブラス・アンサンブルの中から現れるハービーのピアノがとてもしっとり浮き上がってくる感じ。


 ピアニストとしてだけでなく、コンポーザー、アレンジャーとしてのハービーの存在価値を際立たせた作品だと言えるのではないでしょうか。新しい音を生み出そうとする気概のようなものも伝わってくる気がする新鮮なアルバムだと思います。 エレクトリックなハービーもカッコ良いのですが、こういったアコースティックなハービーの音楽もぼくは好きですね~。



◆スピーク・ライク・ア・チャイルド/Speak Like a Child
  ■演奏
    ハービー・ハンコック/Herbie Hancock (piano)
    -----------------------------------------------
    ロン・カーター/Ron Carter (bass)
    ミッキー・ローカー/Mickey Roker (drums)
    ジェリー・ドジオン/Jerry Dodgion (alto-flute)
    サド・ジョーンズ/Thad Jones (flugelhorn)
    ピーター・フィリップス/Peter Phillips (bass-trombone)
  ■リリース
    1968年
  ■録音
    1968年3月6日・・・①②③、9日・・・④⑤⑥
  ■プロデュース
    デューク・ピアソン/Duke Pearson
  ■レーベル
    ブルー・ノート/Blue Note
  ■収録曲
   A① ライオット/Riot (Hancock)
    ② スピーク・ライク・ア・チャイルド/Speak Like a Child (Hancock)
    ③ ファースト・トリップ/First Trip (Ron Carter)
   B④ トイズ/Toys (Hancock)
    ⑤ グッドバイ・トゥ・チャイルドフッド/Goodbye to Childhood (Hancock)
    ⑥ ザ・ソーサラー/The Sorcerer (Hancock)
  ■チャート最高位
    1968年週間チャート アメリカ(ビルボード)・トラデショナル・ジャズ・チャート14位、日本(オリコン)279位
 


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4 コメント

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ぐうっど・もーにん♪ (Nob)
2008-05-03 09:34:45
私にとっては当たり外れの激しい、ハービーさん。
そういえば、ジャケットはよく見るけど未聴でございました。
何と言っても「処女航海」が好きなのですが、その路線ですか?
 
東京の連休初日は雨でございますよ~
こんな日はやっぱりピアノですかね♪
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Nobさん (MINAGI)
2008-05-03 10:47:05
goooooood Mooooooooooooorning!
このアルバム、どのレコード評を見てもたいてい「初期の傑作」という解説がついてますね。
「処女航海」がお好きなら、たぶんこのアルバムも気に入るんじゃないかな~
そういえばハービーさんもエレクトリック路線から純ジャズ路線まで幅広いですよね。そのあたりで好みが分かれるのでしょうかね。

こちらはよく晴れておりますよ。連休の天気は最終日があやしいみたいです。
雨の日のピアノ、しっとりとして良いですね~ でもあまりしっとりしすぎるとキノコか何かが生えてきそうな・・・(汗) 
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Unknown (カルロス)
2008-05-03 12:05:29
これいいですよね~!
ハービーのアルバムの中ではダントツ好きです(^^)
ジャケット、すっばらしいですね!
音とジャケが両方共にすばらしいレコードってそうそうないですもんね。
一家に一枚必須のレコードですね(^^)/
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カルロスさん (MINAGI)
2008-05-03 18:18:08
おっ、カルロスさんもこれ好きですか~
ぼくは最初は「悪くはないな~」くらいだったんですが、何度も聴いているうちにどんどんこの雰囲気にハマってしまって、かなり何度も繰り返して聴いてます。(^^) もう少し早くこのCDを買うべきでしたよ。
ジャケット、映画のワン・シーンみたいで良いですよね。これがまた音楽と合ってるんですよね~
そう、一家に一枚! 子孫にもこのCDを買うように代々家訓として伝えてゆきます!(^^)
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