ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

PONTA BOX ライヴ・アット・ザ・モントルー・ジャズ・フェスティヴァル

2007年05月15日 | 名盤


 村上"ポンタ"秀一氏といえば、ジャンルを問わず1万枚以上のアルバムに参加していると言われる、日本を代表する名ドラマーである。そのポンタ氏が自分のやりたい音楽を追求するために結成したユニットがPONTA BOXだ。
 このアルバムは、そのPONTA BOXが出演した、1995年7月21日の第29回モントルー・ジャズ・フェスティヴァルでの、マイルス・デイヴィス・ホールにおける演奏を収録したものだ。


     


 全13トラック(実質全12曲。12トラック目の"Storm Of Applause"は聴衆の拍手と歓声だけが収録されたもの)が収録されている。
 1~6トラック目には、マイルス・デイヴィス関連の曲がメドレー風に演奏されており、マイルス・ミュージックのイディオムを消化したPONTA BOXのインタープレイが聴かれる。
 対して7~11目トラックには、PONTA BOXのオリジナルが収められている。マイルス・メドレーの後に演奏されるオリジナルだが、質が落ちて聴こえるということはなく、むしろオリジナルだけにより自在な演奏を繰り広げることができていると思う。
 最後の13トラック目、「ナルディス」がアンコール曲である。ビル・エヴァンスをトリビュートしての演奏だ。ここではメンバーの3人それぞれがソロをとっている。


     
     左から村上"ポンタ"秀一、佐山雅弘、水野正敏。     


 ポンタ氏はメトロノーム代わりのようなリズム・キープなど決してしたりしない。メンバーそれぞれがグルーヴしてくるのを前提として演奏しているのだろうと思う。つまり、メンバー相互の信頼関係ができているのである。だから常にピアノの歌う歌に絡み、演奏を引っ張り、時には後押ししたりして、曲を生き生きしたものに仕立てあげることに力を注いでいるのだ。ポンタ氏のドラムも常に歌い、人間味のある生きたビートを生み出していると言えるだろう。


 佐山氏のピアノは明快で変幻自在。遊び心満点で、ユーモラスでさえある。彼のプレイはハービー・ハンコックのプレイを彷彿とさせるようなところがある。
 水野氏は、佐山氏とポンタ氏の作り出す世界に溶け込むのが上手いと思う。堅実にビートを刻むかと思えば積極的にフロントに絡んでゆき、バンドに緊張感をもたらす。
 三人が揃って怒涛のように疾走する様は、聴いていて心地良いドライヴ感を覚えるのである。
 まるで、ピアノが絵を描き、ベースが構図を決め、ドラムが色を丹念に塗ってゆく、とでも言ったらいいのだろうか。そして時にはドラムが絵を描いてピアノが色を塗ったり、ベースが絵を描いてドラムが色を塗ったり、と三者の役割りが変化することでサウンドにも広がりをもたせていると言えるのではないだろうか。


 聴衆の反応が温かい。モントルーには何ヶ所も会場があり、聴衆は自分が聴きたいものが演奏されるところに足を運ぶ。PONTA BOXは決してヨーロッパで名が売れていたわけではないので、演奏次第では客席の空気が冷えかねない。そんな厳しい状況での演奏だが、彼らの熱のこもった演奏は聴衆を興奮の中へ巻き込んだと言っていいだろう。ひときわ大きな拍手や歓声はPONTA BOXの演奏の熱さを物語っている。


     


 このパフォーマンスはDVDにもなっている。DVDでは一番最後に収録されている「ナッシング・フロム・ナッシング」はとても楽しいナンバーなのだが、CDには収められていないのは、ちょっと残念だ。


 PONTA BOXはメンバーを柴田敏弥(keyb)、石村順(b)に入れ替え、現在は「NEW PONTA BOX」として活動している。職人芸と言えるポンタ氏のドラムをこれからも聴き続けたいと思う人は、ぼくをも含めて、大勢いるのではないだろうか。



◆ポンタ・ボックス・ライヴ・アット・ザ・モントルー・ジャズ・フェスティヴァル/Live At The Montreux Jazz Festival
  ■演奏
    ポンタ・ボックス/Ponta Box
  ■リリース
    1997年
  ■レコーディング
    1995年7月21日 第29回モントルー・ジャズ・フェスティヴァル マイルス・デイヴィス・ホール(スイス)
  ■プロデュース
    村上"ポンタ"秀一
  ■収録曲
    ① ネフェルティティ/Nefertiti (Wayne Shorter)
    ② ピノキオ/Pinocchio (Wayne Shorter)
    ③ ジンジャー・ブレッド・ボーイ/Ginger Bread Boy (Jimmy Heath)
    ④ 天国への7つの階段/Seven Steps to Heaven (Victor Feldman, Miles Davis)
    ⑤ フットプリンツ/Footprinys (Wayne Shorter)
    ⑥ イフ・アイ・ワー・ア・ベル~フリーダム・ジャズ・ダンス/If I Were a Bell (Frank Loesser)~Freedom Jazz Dance (Eddie Harris)
    ⑦ ピン・タック/Pin Tuck (水野正敏)
    ⑧ ドーン/Dawn (村上秀一)
    ⑨ フィフティーン/Fifteen (水野正敏)
    ⑩ コンクリート/Concrete (佐山雅弘)
    ⑪ ラヴ・ゴーズ・マーチング・オン(ルンバ)~ストレイト、ノー・チェイサー(クロージング・テーマ)
            Love Goes Marching on (佐山雅弘)~Straight, No Chaser (Thelonious Monk)
    ⑫ ストーム・オブ・アプローズ/Storm of Applause
    ⑬ ナーディス/Nardis (Miles Davis)
  ■録音メンバー
    村上"ポンタ"秀一(drums)
    佐山雅弘(piano)
    水野正敏(electric-bass)
  ■レーベル
    JVC


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2 コメント

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そういえば・・・ (Nob)
2007-05-16 19:38:26
ポンタさんのドラムは散々聴いているのに、彼のアルバムって不思議と聴いた事がないです。
PONTA BOXも結構活動が長いんですね。
忙しそうなのに(笑)
どちらかというと、丸っこいひょうきんなオジサマの印象だったんですが、上の写真,カッコイイです!
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Nobリーヌさん (MINAGI)
2007-05-17 11:40:27
ポンタさんのリーダー・アルバムって案外少ないですよね。でもデビュー25周年だか30周年だかの記念アルバムには凄いメンツを集めて制作してました。

>PONTA BOXも~
 そうそう。もう10年以上になるんですね。やっぱり佐山・水野・ポンタのトリオがぼくは好き、かな。

>丸っこいひょうきんなオジサマ
 ふふふ、いろんな意味で(汗)面白いお方ですよね。
 もう50過ぎてるのに、未だにヤンチャそのものなんですから。お体の具合もあまりよくない、と聞いてるんですが、相変わらずあちこちで叩きまくられてるみたい。まだまだこれからも頑張ってほしいです。(^^)
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