ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

マイ・バック・ペイジズ (My Back Pages)

2006年03月22日 | 名曲

  
 最近のぼくのヘヴィ・ローテーションの1枚が、前にも記事にしたことのある「コジカナツル3」。
 その中でも、アルバムの最後に収められている「マイ・バック・ペイジズ」(註:「コジカナツル3」では『マイ・バック・ページ』と表記されています)には、とことん惚れ込んでいます。


 この曲は、もともとはボブ・ディランの作品で、彼の4枚目のアルバム、「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」(1964年)に収録されています。
 「あの時のぼくはずっと年寄りだった。今のぼくははあの時よりずっと若い」と歌っている曲です。とても抽象的かつ難解な歌詞で、自己批判的なものも含まれているようです。
 ディランは、アコースティック・ギターだけをバックに、自分をさらけ出し、訴えかけるように歌っています。


     
     ボブ・ディラン 「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」


 原曲はトラッド・フォーク風の3拍子ですが、これを多少リハモナイズ(原曲のコード進行の再編)し、8ビートのゴスペル・ロック調にアレンジして演奏したのが、キース・ジャレットです。アルバム「サムホエア・ビフォー」(1968年)の1曲目に収められています。
 コジカナツルの「マイ・バック・ペイジズ」は、このキース・ジャレット・ヴァージョンを踏襲しているようですが、キースが内省的に、ロマンティックに演奏しているのに対し、コジカナツルは、よりブルージーに、よりロック色を強めていて、外に向けて膨大な力を発しているかのような、実にエネルギッシュな演奏を展開しています。


     
     キース・ジャレット・トリオ 「サムホエア・ビフォー」
     ■キース・ジャレット(pf)
     ■チャーリー・ヘイデン(b)
     ■ポール・モチアン(drs)


 「コジカナツル3」のライナーによると、この曲は、アルバム・レコーディング2日目の最後に録音されたそうです。それまでの録音作業でかなり疲れていた状態での演奏だったようですが、そんなことを微塵も感じさせない、異様な熱気をはらんでいます。三人それぞれが、自分の持てるものをとにかく楽器に注ぎ込むことだけに集中しているかのような、凄まじい演奏です。ほとんど無我の境地に近いものがあるんじゃないかな。そんな気さえするのです。


 イントロはベースの金澤英明によるルバートでのソロです。最初の一音から、ふくよかで、深みのある音色に心を揺さぶられます。テーマをモチーフにしたこのソロは、金澤氏の心象風景を見ているようでもあります。すでにもうこのへんで泣けそうになるもんなあ。素晴らしいです、金澤氏。


     
     金澤 英明


 インテンポになると、引き続きベースがテーマのメロディーを弾きます。そっと寄り添うように小島良喜のピアノがバックで鳴っている。そのままピアノがテーマを引き継ぐと、それを鶴谷智生のドラムが力強く盛り立てる。


 小島氏のピアノ・ソロが、これまた素晴らしい。ブルージーで、パワフルで、しかもとってもメロディック。そのうえ、えも言われぬ優しさにあふれている。とにかく「愛」が一杯に詰まっているような、そんなソロなんです。
 バックで支えるベースとドラムは、よりグルーヴィーに、より激しさを増してゆきます。揺るがぬビートで低音をしっかりと支えながらサウンド全体を包み込んでいる金澤氏のベース、燃え盛っている内面があふれ出して止まらないかのような鶴谷氏のドラム。
 この三人が一体となって頂点を目指し、突き進んで行くのです。興奮しないワケがない。やんちゃだけれど骨っぽい、そんな三者の息の合った様子は爽快感にあふれ、感動的でさえあります。
 「魂がこもっている」、というのは、こんな演奏のことを言うのでしょう。
 
 
 「名演」と言われているものは数多くありますが、近年では、コジカナツルのこの演奏も文句なしの名演だと言えるのではないでしょうか。
 ここ何ヶ月かのぼくの心は、この演奏を聴きたがってやまないのです。
 

 
◆マイ・バック・ペイジズ/My Back Pages
  ■発表
    1964年
  ■作詞・作曲
    ボブ・ディラン/Bob Dylan
   --------------------------------------
  ■演奏
    コジカナツル
      小島良喜 (piano)
      金澤英明 (bass)
      鶴谷智生 (drums)
  ■収録アルバム
    コジカナツル3 (2005年)
  ■プロデュース
    コジカナツル




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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おはようございます! (ジェイ)
2006-04-04 12:25:59
2006-03-22 08:00:55



私もコジカナツル3のこの「My back pages」が大好きです。金澤さんのイントロが温かく、ここで既にかなりもって行かれますね。(笑)中盤から炎となって燃え上がる3人は仰る様にまさに無我の境地、魂のぶつかり合いと感じます。

これを「自分的名盤名曲」に入れるなんて、流石に師匠です。ライブも素晴らしいですよ!5月が楽しみですね。
返信する
おはようございます。 (月子)
2006-04-04 12:28:14
2006-03-22 09:23:51



とりあえず、MINAGI さんの記事を読みながら「My Back Page」を聴いてみました

すると、いつも聴くMy Back Pageが、より深い味わいに聴こえてきました

本当にイイ曲ですね

また生で聴きたいです。



私もコジカナツルのアルバムの中ではこのサードアルバムが好きで、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日・・・・・(しつこいですか)聴いています。

多分、コジカナツル・イントロ当てクイズ~なんてのがあったら、

確実に私は優勝してますよ



ボブ・ディランやキース・ジャレット・トリオのMy Back Pageも聴いてみたいです。

いつも参考になることばかりで、私も僭越ですが師匠と呼ばせて下さい
返信する
ジェイさん (MINAGI)
2006-04-04 12:29:11
2006-03-22 11:14:36



こんにちは~

 おおっ、ジェイさんもこの演奏が大好きですか!この曲が好きな人はもう全部マイ・ブラザーです。女性であろうがブラザーです!(^Д^)/ yeah!



>中盤から

 ほんとに凄いです。ハジけてます。強烈です。そして泣けます。ぼくが目指しているのは(ジャンルやスタイルではなくて)、こういう熱さのある演奏なんです。



 師匠だなんてそんな、シショウだなんてコショウだなんてヘックショイ!穴があったら入ってそのまま掘り続けて金塊でも掘り当てたいくらいです。。。(*-_-*)

 そうそう、もし5月に京都行けるようになった時のために今から貯金しとかねば・・・(笑) いろいろあってまだ予定立たないんですけど、行きたいんですよぅ!
返信する
月子さん (MINAGI)
2006-04-04 12:30:07
2006-03-22 11:16:53



コジカナツル王候補の月子さん(^^)、こんにちは~

 ぼくもコジカナツル3の中ではこの曲が大好きで、毎日毎日毎日毎日(*^∀^*)聴いています。



>コジカナツル・イントロ当てクイズ

 悔しいですが、ぼくには優勝はムリでしょう・・・。しかし、「マイ・バック・ページ部門」なら自信があります(すでにクイズにならん、ちゅーねん)



 ここまで自分の心が反応できるのが不思議なくらいですよ。ほんとに名演だと思います。



>師匠

 月子さんよお前もか!byシーサー(違 それは沖縄)

 え~いもうまとめてかかってきなさい、、、って、えーんそんなに祭り上げないでよぅ~、ぼくはそんなたいそうな人間じゃないんだよぅ~

 コジカナ好きの人はみんなブラザーなのだ~(*^∀^*)
返信する
裏・エンドロール (みぃみ)
2006-04-04 12:31:23
2006-03-23 01:51:51



あたしは始めてこの曲を聴いた時。

とある風景が浮かんできました。

それは映画『レオン』の街の風景。

知っていますか?殺し屋レオンが小さな恋人マチルダを守るために悪党と最後に共倒れちゃう。。すっごく泣いたあの映画。



あのレオンの裏バージョン。

実はレオンは生きていて、マチルダを普通の生活に戻すため、死んだと思わせて、自分も堅気の道へ進もうとする。。

ダウンタウンの一角は暗いのだけれど、さぁ!歩き出すんだ!! という気持ちで、長いコートを サっ!と羽織る殺し屋。。

一角から出ると、明るい光が差し込んでいる。 でもその道は実は明るくはないのかもしれない― そしてエンドロール・・・



みたいな情景がバババッ!!っと浮かんできたんですよね~。。

そしてこの曲のもの悲しさに涙が出ました。



ボブ・ディランの曲だったのですね~。

聞いてみたいな^^
返信する
みぃみさん (MINAGI)
2006-04-04 12:31:59
2006-03-23 14:39:15



>『レオン』の街の風景

 言われてみると、「男のロマンが感じられるハードボイルドな演奏」という言い方もできそうですね。

 そういえば、金澤氏の風貌ってどこかジャン・レノみたいだし。(^^)



 感情のツボを刺激されるような演奏でもあるんですよね。ハードボイルドなんだけど、センチメンタル。

 あんなにハードで熱いのに、なぜか泣けてくる演奏です。
返信する
Unknown (ロブスター)
2006-04-04 12:33:03
2006-03-23 22:56:46



マイ・バック・ペイジズ、本当にいい曲ですよね~!

僕もこの曲本当に大好きです♪

しかもMINAGIさんの本文や皆さんのコメントを拝見させていただいたら、コジカナツルのヴァージョン、何だかすご~く聴いてみたくなりました!



ところで僕はこの曲を知ったのは、すごく遅かったんです(笑)

'92年のボブ・ディランの30周年アニバーサリーライブの模様をNHK(だったと思いますが)で放送していたのを見たのが初めて。遅すぎますよね~(笑)
返信する
ロブスターさん (MINAGI)
2006-04-04 12:33:42
2006-03-24 08:35:54



 ぼくが「マイ・バック・ペイジズ」を聴きこんだのは、逆にコジカナツルの演奏からです。次いでキース・ジャレット、ボブ・ディランの順で聴きました。

 ぼくがずーっと前から持っているボブ・ディランのベスト第2集には、この曲は収録されていたんですが、ほとんど記憶に残ってなかったのです・・・

 改めて聴くと、良い感じの泥臭さが心地よくて、割りに気に入ってます。



 バーズとか、真心ブラザーズなんかもこの曲をカヴァーしているようですね。
返信する
Unknown (moon)
2006-04-04 12:34:18
2006-03-31 01:11:45



私は、コジカナツルのアルバムの中で『3』が一番好きです。恥ずかしながら、初めてベースの美しさを知った一枚なのです。5月の京都でのライブが楽しみです。

ゲストに、Fried PrideのShihoさんだそうです。とっても素敵なライブになるんではないでしょうか?楽しみです。
返信する
moonさん (MINAGI)
2006-04-04 12:34:53
2006-04-03 02:41:22



>5月の京都でのライブ

 たしか26日のRAGですよね。

 最近鶴谷さんはパーカッションでフライド・プライドのバックを務めてるらしいですが、その縁なのかな。
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