ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

アップ・オン・ザ・ルーフ

2023年04月13日 | 名曲

【Live Information】


 こどものころに思い切りやってみたかったけど、親にさせてもらえなかったこと。
 夜更かし。
 お菓子を飽きるほど食べる。
 冬のアイスクリーム。
 台風が来る時に、懐中電灯やおもちゃや本を持って押し入れにこもる。(これはそこまで怒られることじゃなかったけど、度が過ぎると押し入れからツマミ出された)
 日が暮れても遊びたおす。
 そして、屋根にのぼる。


 ぼくが生まれ、幼稚園くらいまで住んでいた家は、2階に物干し場があり、そこから1階の屋根にあがることができました。
 でも屋根の上によじのぼろうとすると、決まって「雨漏りがする!」と父に叱られたものです。つまり「屋根がいたむじゃないか」ってことですね。
 屋根にあがろうとするとなぜか必ず見つかるので、目的は達成できないままでした。


     
     屋根に上ろうとする皆木秀樹1歳2ヵ月。なぜかこの時の父は、叱るどころか面白がって写真を撮っていたそうです


 屋根の上って気持ちいいんだろうな・・・。
 屋根の上の景色を体感してみたかったな・・・。
 いま思えば子どものぼくは、屋根の上に「憧れ」のような気持ちを抱いていたのです。


 「ドラえもん」には、のび太が屋根の上で昼寝したり、星空を見たり、ドラえもんに話を聞いてもらったりする場面がたくさん出てきます。
 「ベニー・グッドマン物語」には、屋根の上ではありませんが、ベニー少年が悩んでいる時は屋上でクラリネットを吹いている、という場面が出てきます。
 「バックドラフト」では、カート・ラッセル演じるスティーブンに、別れた妻ヘレンが「あなたが屋根の修理をするのは何かがあった時ね」と言う場面があります。
 みんな、心に何かを抱えている時は屋根に上りたくなるのですね。


     


 「アップ・オン・ザ・ルーフ」は、ドリフターズの歌によって世に出ました。
 1962年にリリースされたこの曲は、ビルボードで5位にまで上昇するヒットを記録しています。
 作詞はジェリー・ゴフィン、作曲は当時のゴフィン夫人であるキャロル・キングです。
 キャロルの代表作のひとつでもあります。
 キャロル自身は、彼女のファースト・ソロ・アルバム『ライター』でセルフ・カヴァーしていますが、ぼくはキャロルのヴァージョンがとても好きです。
 気持ちが洗われるような気がするからです。


 1970年夏、友人のジェイムス・テイラーのツアーにピアニストとして参加していたキャロルは、彼女の母校でもあるクイーンズ・カレッジでのライブ直前に、ジェイムスから「アップ・オン・ザ・ルーフを歌ってくれよ」といきなり切り出されました。
 人前で歌うのがどうしてもいやだったキャロルはきっぱりとそれを断りましたが、ステージ上でジェイムスに「ピアニストのキャロル・キングは数々のヒット曲を生み出している作曲家でもあるんだけれど、実は彼女はこの大学の同窓生なんだ」と紹介され、いやでも歌わざるを得なくなりました。
 そして聴衆は、歌い終えたキャロルに惜しみない拍手を送りました。
 これがきっかけとなり、以後のキャロルは、作曲、ピアノ、歌をこなすソロ・アーティストとして活躍することになるのです。


 ピアノとギターで織り成すシンプルなサウンドのうえに流れる、優しく誠実なキャロルの声。
 心に刺さっていた棘がいつの間にか抜け、微かな笑みの宿った眼差しを注がれているような、そんな気持ちになります。
 ストリングスとパーカッションからも温かみがこぼれているんだなあ。
 フォーク・ソングのような自然な味わいがありながらも、適度に洗練されたメロディーは、キャロルならではのほんのりとしたフレンドリーな空気に満ちています。
 ちょっと感傷的で、ちょっとゴスペルの雰囲気もあったりして。
 王侯貴族の食卓に見られるような豪華な料理ではないけれど、まるで友だちを招いた時に作る「喜んでもらえるよう、贅沢ではないけれどあれこれ考え吟味した家庭料理」のようです。


     


 「この世のいろいろなことで落ち込みそうになると、人と顔を合わせることがいやになると、わたしは屋根の上にあがるの」
 「打ちひしがれて疲れ切っているときは、空気が新鮮な屋根の上にあがるの」
 「夜になると素敵な星のショーをわたしと一緒に見ることができるのよ」
 「屋根の上ではすべてが素晴らしいのよ、だからダーリン、一緒に屋根の上にあがりましょう」
 歌詞には、ひとが屋根の上にあがりたがる理由が分かりやすく、少々ロマンティックに描かれています。
 「わたしと一緒に屋根に上がってみようよ」・・・
 想像するとちょっぴり胸が「キュン」とします。


 大好きな人と夜空を眺めながら過ごす屋根の上、それは全ての憂いが消えた星明かりに照らされている楽園なのです。
 落っこちないようにしなくちゃね。


     


 歌 詞


 訳 詞


◆アップ・オン・ザ・ルーフ/Up on the Roof
  ■歌
    キャロル・キング/Carole King
  ■初出
    1962年9月17日(歌:ドリフターズ/The Drifters)
  ■作詞
    ジェリー・ゴフィン/Gerry Goffin
  ■作曲
    キャロル・キング/Carole King
  ■プロデュース
    ジョン・フィッシュバック/John Fischbach
  ■録音メンバー
    キャロル・キング/Carole King(vocal, piano, backing-vocals, arrangements)
    ダニー・コーチマー/Danny Kortchmar(acoustic-guitar, electric-guitar, conga)
    ジェームス・テイラー/James Taylor(acoustic-guitar)
    チャールズ・ラーキー/Charles Larkey(bass)
    ジョエル・オブライエン/Joel O'Brien(percussions)
  ■収録アルバム
    ライター(1970年)/Writer
  ■チャート最高位
    1963年週間シングル・チャート ドリフターズ・・・アメリカ(ビルボード)5位
    1968年週間シングル・チャート クライアン・シェイムズ・・・アメリカ(ビルボード)85位
    1970年週間シングル・チャート ローラ・ニーロ・・・アメリカ(ビルボード)92位
    1979年週間シングル・チャート ジェームス・テイラー・・・アメリカ(ビルボード)28位
    1995年週間シングル・チャート ロブソン&ジェローム・・・イギリス1位


    
  The Dorifters『Up On The Roof』             James Taylor『Up On The Roof』
 


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