ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ボクサー

2023年02月23日 | 名曲

【Live Information】


 ふと気づけば、ぼくもいままでの人生を振り返って感慨にふける年頃になりました。
 人の生き死には自然なことだし、いずれは自分に順番が回ってくるものだと思っているのですが、今年は若い頃に身近に感じていた方々の訃報がいつもよりとても多いような気がしています。
 ざっと書き出してみると、
 1月10日 ジェフ・ベック(ギタリスト)
 1月11日 高橋幸宏(「サディスティック・ミカ・バンド」「YMO」のドラマー)
 1月18日 デヴィッド・クロスビー(「クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング」のヴォーカリスト)
 1月24日 門田博光(プロ野球選手 南海、オリックス、ソフトバンクに在籍 通算567本塁打は日本プロ野球史上歴代3位)
 1月27日 フロイド・スニード(「スリー・ドッグ・ナイト」のドラマー)
 1月28日 トム・ヴァーレイン(「テレヴィジョン」のギタリスト、ヴォーカリスト)
 1月29日 鮎川誠(「シーナ&ザ・ロケッツ」のギタリスト)
 2月5日  貴家堂子(『サザエさん』のタラちゃん役で有名な声優)
 2月8日  バート・バカラック(作曲家)
 2月13日 松本零士(漫画家 作品に『宇宙戦艦ヤマト』『男おいどん』など)
 2月22日 笑福亭笑瓶(落語家)。。。


 「えっ!?」という声がこれだけ立て続けに出たことは、記憶にありません。
 でも落ち着いて考えると、これは年々亡くなる方々の世代に自分の年齢が近づいてきているからなんですね、きっと。
 同じ時代を生きた時間が長くなればなるほどそういう方々から受ける影響は大きくなり、より身近に感じるようになるのは当然のことです。だからこそ、自分が年齢を重ねるにつれ、訃報に接する時の衝撃や悲しみが大きく深くなるのだと思います。
 それにしても立て続けすぎな気がします。


 訃報を聞くたびに思い出す、亡くなった方の記憶、そしてその頃の自分。
 思いは、かつての日々に自然に重なります。
 人生を振り返るのによくなぞらえられるのは、「道」や「川の流れ」、時には「アルバム」だったりします。
 サイモン&ガーファンクルの「ボクサー」の歌詞に出てくる主人公も、自分の過去を振り返っています。


     


 「貧しい少年が、現実から逃れようとかすかな希望を持ってニューヨークへやって来るが、時を経た今は『懐かしい故郷へ帰りたい』と願っている」という歌詞です。
 しかしクライマックスに差し掛かると、
 「開拓地にひとり立つボクサー。自分に打撃を与えたグラブの一撃を決して忘れない。彼は怒りと恥辱の中で『俺はやめる。もうたくさんだ』と叫ぶ」と歌っています。
 そして最後は、
 「だが、その戦士は今もまだ戦い続ける」という言葉で締めくくられているんです。
 倒れてもくじけても、何度でも立ち上がる。
 まさに人生ではありませんか。
 歌詞の主人公がボクサーなのではなくて、「この世で生きる人すべてがボクサーであり、戦士であり、人生と戦い続けるファイターなのだ」と歌っているのだと、ぼくは思っています。
 勝ち続ける人を見ると元気が出ます。
 でも、負けても負けても立ち上がる人を見ると、勇気が出てくるのではないでしょうか。


 劇的な演奏を演出しているのは、ジョー・オズボーン(bass)、ハル・ブレイン(drums)ら「レッキング・クルー」と呼ばれる腕利きセッション・ミュージシャンたちです。


     


 アコースティック・ギターのきれいなアルペジオと、ポール・サイモンとアート・ガーファンクルによる澄んだハーモニーで曲ははじまります。
 爽やかで、ほのかな土の香りと温かみのあるサウンド。
 清楚ですらあります。
 典型的なアメリカン・フォーク・ソングのような出だしです。
 しかし、歌詞と歌詞をつなぐ「ライラライ」の部分は一転してマイナー調。
 辛い現実、嘆き、絶望。
 主人公の、遠ざかることはできるけれど逃げることはできない、いうなれば彼の人生の「足枷」を表しているのかもしれません。
 この部分の「ダーン」という、深いリバーブがかかった印象的な打楽器音は、ボクサーのグローブとグローブが激しくぶつかり合うさまを表しているのだそうです。
 宗教音楽を思わせるような間奏の美しい音色は、ペダル・スティール・ギターとトランペットをミックスしたものです。


 最後の、延々と続く「ライラライ」のリフレイン。
 次第に厚みを増すストリングスと、地鳴りのようなバス・ハーモニカや打楽器。
 荒れる夜の海のような、暗さや激しさをかき立てます。
 まるで、打たれ続け、倒れゆくボクサーのようでもあります。
 しかし、最後に訪れる、ひとすじの光のような、清らかなアコースティック・ギターの音色。
 これが主人公の、いや、ボクサーのように倒れては立ち上がる人すべてへの救いのように思えてならないのです。


 ポール・サイモンの人生観が現れたと言われている名曲です。
 人生の終盤にさしかかりつつあるぼくも、まだまだ力尽きて倒れるわけにはいきません。
 何度でも立ち上がってやる、という気持ちは持ち続けていたいです。


     


 歌 詞

 <訳 詞>


◆ボクサー/The Boxer
  ■シングル・リリース
    1969年3月21日
  ■歌・演奏
    サイモン&ガーファンクル/Simon & Garfunkel
  ■作詞・作曲
    ポール・サイモン/Paul Simon
  ■プロデュース
    ロイ・ハリー、ポール・サイモン、アート・ガーファンクル/Roy Halee, Paul Simon, Art Garfunkel
  ■録音メンバー
    ポール・サイモン/Paul Simon(vocals, acoustic-guitar)
    アート・ガーファンクル/Art Garfunkel(vocals)
    -------------------------------------------------------------------
    フレッド・カーター・ジュニア/Fred Carter Jr.(electric-guitar, acoustic-guitar, dobro)
    カーリー・チョーカー/Curly Chalker(pedal-steel-guitar, piccolo-trumpet)
    チャーリー・マッコイ/Charlie McCoy(bass-harmonica)
    ジョー・オズボーン/Joe Osborn(bass)
    ハル・ブレイン/Hal Blaine(drums)
  ■収録アルバム
    明日に架ける橋(1969年)/Bridge over Troubled Water
  ■チャート最高位
    1969年週間シングル・チャート アメリカ(ビルボード)7位 イギリス6位 オランダ2位 スウェーデン5位 オーストラリア8位 オーストリア9位 ニュージーランド9位


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