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坂口恭平『TOKYO一坪遺産』

2013-04-01 07:02:00 | ノンジャンル
 トニー・スコット監督の'95年作品『クリムゾン・タイド』をスカパーのBSイマジカで見ました。チェチェン紛争が発端となりロシアの極右勢力が核爆弾を保有することとなり、核発射の命令が途中で途絶えた状態で、あくまで核発射を遂行しようとするアメリカの原子力潜水艦の艦長(ジーン・ハックマン)と、それを阻止しようとする副艦長(デンゼル・ワシントン)の争いを描いた映画でした。

 さて、宮田珠己さんが著書『はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある』の中で紹介していた、坂口恭平さんの'09年作品『TOKYO一坪遺産』を読みました。宮田さん曰く「建築探検家を名乗る坂口氏が、路上の不思議な風景、とりわけ狭い土地を強引なまでに重層的に利用して面白くなってしまっている場所を巡った散歩エッセイのようなもの」です。
 坂口さんは妹と弟と同じ部屋を共有していた幼い時、自分だけのスペースを作るため、自分の勉強机に毛布をかけて、机の中に潜り込み、自分だけの“家”を作り出した思い出から話を始めます。
 次に紹介されているのは、隅田川沿いに住む路上生活者で、廃品から自分の家を“自分に必要なだけの広さ”で作り、ガソリンスタンドで廃棄された12ボルトバッテリーを貰ってきて、その電力で電化製品を使っている生活の詳細を説明していきます。
 その後、高校の美術の授業の時に知った、赤瀬川原平さんの『宇宙の缶詰』(缶詰の内側に外のパッケージを貼って、缶詰の蓋を溶接してしまうと、缶詰の中から見た時に世界が反転し、自分たちを含む宇宙がすべて缶詰の中に含まれてしまう)の話を紹介した後、3階建ての家の前のスペースに、家とは別のコンクリートのベランダを3階分作り、そこに植物の他、イチゴ、ナス、キュウリ、サヤエンドウ、ネギ、ビワ、ブドウなどの果物や野菜まで育て、1階部分に駐車してある車(この車は車のために1日に1度は動かすようにしている)の上や周囲にも植物の鉢を置いている家を紹介し(ちなみに、それぞれの植物は皆継ぎ木か、果物を食べた後に残った種から育てたもので、原価はゼロ)、その後も、年間1万8千円の所場代だけでパラソルを開いた分の場所を使って営業する靴磨き屋さん、代々木公園の蚤の市の近くにあった雑多なものを路上で売っている人々、組立て式宝くじ売り場(宝くじ売りは個人事業主で、売り場もそれぞれの事業主が個人で発注して作っているので、全て違う建物なのだそうです)、本物と同じ材料を使って、ミチニュアの物を作るのに夢中になっている人、高校教師をしていた42歳の時に『私の稀覯本』という本と出会ったことで、豆本を作ることを思い立ち、五木寛之、浅田次郎、半村良、宮尾登美子などの錚々たる顔ぶれの作家たちに直談判して許可をもらい、豆本を作り続けてきた人、2つのみかん箱と1つの藤カゴだけで生活しているホームレスの人、空間が描き込まれているか否かだけに興味を持ってする“立体読書”という読書法が紹介され、最後に、実際に目の前にある空間ではなく、想像力を駆使することによって狭い空間を無限に広げて考える方法の大切さが語られます。
 宮田珠己さんは、この中でも特に“立体読書”に関して多くのページを割いていて、中野美代子さんの『奇景の図像学』の中で中井久夫氏が試みているエドガー・アラン・ポオの『ランダーの別荘』『アルンハイムの地所』などの地図、スティーヴン・ミルハウザーの『マーティン・ドレスラーの夢』、小林恭二の『ゼウスガーデン衰亡史』、逆柱いみりの『赤タイツ男』(これはマンガ)の面白さにも触れています。特に『ゼウスガーデン衰亡史』に関しては、詳細に論じていて、今後是非読んでみたい本の1つです。
 ということで、あっという間に読める本でした。廃刊になっているのが惜しまれますが、アマゾンでそれほど高価でない値段で売っているので、買ってみてもいいのではと思います。

 →Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto