美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

「はなわちえ」という優れもの、発見 (イザ!ブログ 2012・7・28 掲載)

2013年11月24日 07時53分00秒 | 音楽
私は昔から『津軽じょんがら節』がとても好きでした。当楽曲がテレビで演奏される場合は、それが誰によるものであろうと関係なく、必ずと言っていいくらい、他のことをしていた手を休めて、聞き入ったものでした。津軽の吹雪の真っ只中から生まれてきたような、その哀切さと激しさと独特の繊細さに胸を打たれたのは一度や二度ではありません。

そういう個人的な事情を離れたとしても、これが日本における名曲中の名曲であることに、おそらくほとんどの人は異論がないのではないでしょうか。

では、誰の演奏がベストなのだろう。そう思い、You tube であれこれと聴き比べながら、試行錯誤してみました。

まずは、当然のことながら高橋竹山さんから。もちろん申し分ない。しかし、それなら誰でも思いつく。そう思うと、天邪鬼の虫が目を覚ます。上妻宏光。緻密な構成で抜群の上手さではあるのだが、技巧が目立ちすぎる嫌いがある。吉田兄弟。これはこれで驚異の三味線ユニゾンなので秀逸なのではあるが、もう少し探してみよう。ひょっとして、寺内タケシとブルージーンズがいいのでは。うーん。悪くはないのだけれど、どこか色モノ臭いところがあるなぁ。藤あや子のは、そのルックスともども捨てがたいけれど、基本、歌だしなぁ。

そんな風にして、物見高く物色していた私の耳と胸を、ものの見事にかっさらってしまったパーフォーマーに出遇いました。それが、はなわちえさんだったのです。(このとおりに、ひらがなで書きます)



(2012年7月27日飯田橋ラムラ ミニコンサート会場にて はなわちえさんのブログより転載)

彼女のプロフィールで、判明しているものを掲げておきます。

1982年6月18日生まれ。 茨城県日立市出身。 9歳の時に佐々木光儀氏に師事し、津軽三味線を習い始める。(上妻宏光氏と同門。)
2000年 津軽三味線全国大会A級女性部門に初挑戦して、17歳で最年少のチャンピオンとなる。
2001年 東京芸術大学音楽学部邦楽科入学。(長唄三味線専攻)
2004年 コロンビア・ミュージックからCD『月のうさぎ』が発売される。
2005年 マレーシアのペナン・ジャズ・フェスティバルに出演。東京芸大卒業。
2006年 マレーシア・クアラルンプールでのフェスティバルに出演。
2009年 東京芸大出身者による和楽器ユニット「結」(ゆい)を結成。また、同じく東京芸大出身のバイオリニスト沖増菜摘と「hanamas」を結成。
2010年 「hanamas」 として第1回ネオ・クラシック国際コンクール奨励賞受賞。


プロフィールから、彼女が津軽三味線界のサラブレッドであると同時に、その業界の枠やジャンルをはるかに超えて、自分の音楽本能のおもむくままに自由に活動している「異端児」でもあることがうかがえます。今の彼女は、「何をしているのか」と聞かれたら、しばらく考えた後、おそらく「音楽をやっています」と答えることでしょう。

しかしながら、彼女は、津軽三味線奏者としての求道的な一面も保持しています。最近のブログで、「自分の身体の中で鳴っている音と実際に出ている音とのギャップを感じる。それを埋めるには、ひたすら三味線を演奏し続けるしかないのだろう」と洩らしています。これは、真の表現者の生々しい告白であると、私は感じます。

彼女の、ジャンルを超えた旺盛な音楽活動は、自分の名をもっと世間に広めたいという虚栄心からのものではなく、止むにやまれぬ表現欲求、いいかえれば音楽的な生命感の発露そのものなのではないでしょうか。そのせいか、彼女は自分を商品として売り出すのがあまり上手ではないような気がします。

体重88kgでありながらもフットワークの軽い(?)私は、昨日彼女の無料ミニコンサートを聴きに、飯田橋ラムラまで足を運びました。行ったことはありませんが、暑さの本場インドにも負けないくらいの猛烈な暑さに眩暈を感じながらも会場にたどり着いた私ではあったのですが、いまでは、とにもかくにも行って良かったと思っています。

生演奏をする彼女は、とても楽しそうでした。そうして、これは外せないポイントなので申し上げておきますが、その小柄な卵型の身体像はとても可愛らしくて独特の、透明感のある色香を発散していました。それと、洗練された、右手の迫力のあるリズミカルなバチさばきや、まるで別の生き物のように、棹の上を自由自在に俊敏に動き回る左手の5本の指とが渾然一体となって、躍動感と迫力のあるコトコト音がリズミカルに空間に刻み込まれて行くのです。エロスの密度の濃い場がそこに成立していた、ということです。むろん、三味線弾きとしてはめずらしい立奏のもたらすダイナミックな効果も無視できません。

私のこの感じ方は、中年男のスケベ根性(その存在の否定はしませんよ)のせいとばかりはいえないようです。というのは、彼女自身がそのブログで、昨日のミニコンサートを振りかえり「最近自分の中で、「セクシーな表情で弾く」っていうテーマがある 色気とか艶っぽさとか出して行きたい」とコメントしているのですから。その演奏の核心が、彼女の音楽的生命の発露である以上、そういうこだわりを持つに至るのは当然のことでしょう。
演奏を聴いた感想がたくさんほしいとのことなので、彼女のブログのコメント欄に、私は次のコメントを投稿しました。

昨日のミニ・コンサート、行って来ました。ちゃんと投げ銭2000円を出しておふたりのCD(2nd Album『hanamas garland』―注)も手に入れましたよ。 (彼女のCDは、コンサート会場のみの販売だそうです―注)ノリノリの行進曲もよかったのですが、私の、はなわさんとの出会いが『津軽じょんがら節』だったせいで、やはり民謡2曲の『八木節』と『木曽節』(?)の哀調が印象に残りました。家に帰って聴いたCDは、そのセンスの新しさにおいて音楽界のおそらくトップランナーの演奏になっているように感じましたが、あくまでもポピュラリティを失っていないところに好感を抱きました。9月4日のコンサートにはぜひ行きたいと思っています。ちえさんの演奏についてのブログをアップしたらお知らせします。

9月4日のコンサートの内容を掲げておきます。

2012年9月4日(火)一夜限りの夢ライヴ開催! Girls instrumental Festa
「女性アーティスト3組によるインストゥルメンタル・ライヴです。二胡の野沢香苗、津軽三味線とヴァイオリンのhanamas、ピアノ&ヴィブラフォンのMIKI et MAKI。個性豊かな3組が心地よい音楽をお届けします。ご期待ください。
場所:原宿ミュージックレストラン ラドンナ(03-5775-6775)
時間:open18:00 start 19:00
チケット代 前売 3,500円 当日4,000円


ご紹介する演奏は、どうしても一つに絞り込めなかったので、二つになります。両方とも聴いていただければ、その理由が分かっていただけるのではないかと思われます。一言でいえば、二年弱の歳月の流れのなかでの、演奏家としての彼女の変化・成長が手に取るように分かるからです。人並みはずれた才能があるうえに美しくて魅力のある女性の、歳月による変化を目の当たりにするのは、打ち消しがたい喜びが伴うものです。


はなわちえ - 津軽じょんがら節@BoozyMuse 2009.11.20

2009年11月20日演奏。彼女の、内なる激しい表現欲求のストレートな発露が感じられる迫力満点の堂々とした演奏です。ここに、おのずと全く新しい『津軽じょんがら節』の誕生が告げられています。彼女の、表現者としての赤裸々な姿が原形として刻印されている、と申し上げても過言ではないでしょう。戦時中に小林秀雄が古典との邂逅を果たしたときの鮮烈さに似たものがここにあります。バチさばきの激しさをどう受けとめるか、見解が分かれるところではあると思われますが。

はなわ ちえ 「津軽じょんがら節」 独奏♪

2011年6月15日演奏。客に「見せる」「聴かせる」ことをより強く意識するようになった姿がここにあります。表現欲求の発露の激しさは、高度なプロ意識によって見事にコントロールされるようになっています。この演奏の続きをずっと聴いていたいものです。

*これをきっかけに、私ははなわちえ関連のライヴにせっせと通いつめることになりました。自慢にもなんにもなりませんが、これまでに10数回は行ったのではないでしょうか。おかげさまで、ソロとしての沖増菜摘さん、キーボード奏者・keikoさん、フルート奏者・Yumikoさん、ピアニスト・三枝伸太郎さんなどの素晴らしいミュージシャンと出会うこともできました。(2013・11・24 記)

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