美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

貨幣と租税(中野剛志氏講演のレジュメ・最終回) 美津島明

2017年05月26日 16時53分25秒 | 経済


当シリーズの最終回となりました。今回は、中野氏のレジュメと順序が異なります。また、中野氏の趣旨をより鮮明にするために、三橋貴明氏の論考を引用しております。

当シリーズにお付き合いいただいたみなさま、どうもありがとうございました。(編集者 記)


***

*想定問答集の続きです。といっても、一つっきりですが。財務省の緊縮財政思想に洗脳され切った原理主義的心情的財政危機論者の発言が登場します。

それでも日本は財政危機。なぜなら、みんな財政危機だと言っているから。経済学者もみんなそう言っている。GDP比230%という世界最悪の政府累積債務がいつまでも続けられるはずがない。これ以上財政赤字を拡大すると、何か分からない理由で、いつか必ず何か悪いことが突然起こるはず。そうなってからでは遅い。後世にツケを残さないことが政治家の責任、官僚の矜持。財政赤字は不健全不道徳。とにかく財政再建。できない理由ばかり言っていては何もできない。待ったなし、決めるセイジ。この道しかない!

*ここまでくると、もはやカルト思想の領域に突入した感があります。民主党現幹事長の野田毅氏や昨日逝去の記事が出回った与謝野馨元財務大臣などは、こうした信条の持ち主なのでしょう。さすがの中野氏も、この手の信念に対しては打つ手がないと匙を投げていらっしゃいます。こうやって見てくると、緊縮財政とはカルトである、と言ってもいいのではないかと思えてくるのは私だけでしょうか。

*中野氏は、上記の狂信派の発言を取り上げる前に、インフレ政策とデフレ政策という経済政策の基本的な二分類の表を掲げ、インフレ時とデフレ時では政策の方向性が正反対になると指摘していらっしゃいます。その表は、もともと三橋貴明氏が考案したもので、中野氏はそれを当講演で提示したのだと思われます。それは、両者の暗黙の連携プレーなのではないかと察します。それで、ここではその表それ自体を掲げるのではなくて、その表を踏まえた三橋氏の明快な解説を見つけたので、それを以下に掲げます。

まず三橋氏は、経済政策にはインフレ政策とデフレ政策の二つしかない、と言い切ります。
(以下、https://seikeidenron.jp/book/vol6/#!21  から引用します。)

経済政策には2種類しかない、と言われても戸惑う読者が多いだろう。とはいえ、本当にそうなのだ。すべての経済政策は、インフレ対策とデフレ対策のいずれかに分類できる。

で、三橋氏をよく知る人々ならご存知の、インフレギャップとデフレギャップの図が登場します。




三橋氏は、そもそも「経済環境」が2種類しかないために、そのことに対応して、経済政策も2種類しかないと主張します。では2種類の「経済環境とは何なのでしょうか。

すなわち、インフレギャップとデフレギャップである。国民がモノ(財)やサービスを生産する能力、すなわち「潜在GDP」に対し、国民がモノやサービスの購入する総需要、すなわち「名目GDP」が過大になっていれば、インフレギャップが発生し、物価は上昇する。

逆に、名目GDPが潜在GDPに対し過小になると、デフレギャップ拡大により物価が下落していく。すなわち、総需要の不足によるデフレ深刻化だ。

名目GDPとは、もちろん国民経済計算における国内総生産(GDP)そのものである。それに対し、潜在GDPとは、日本の労働者、工場、設備等が100%稼働した際に生産可能なGDPになる。すなわち、完全雇用が成立している環境における、国内総生産だ。


ではインフレ対策とは何なのでしょうか。

上の図を見れば、インフレ対策、すなわち「インフレギャップを埋める政策」は、「総需要(名目GDP)を削減するか、もしくは潜在GDPを引き上げる政策」であることが理解できるだろう。総需要削減策とは、具体的には増税、公共投資削減、公務員削減、診療報酬・介護報酬の削減という、政府の需要削減策と、政策金利(中央銀行が市中銀行に融資する際の金利)の引き上げ、売りオペレーション(中央銀行が国債を売却することで通貨を回収する)などの金融政策になる。政策金利の引き上げも、売りオペレーションも、共に金融市場の「金回り」を悪くする。結果的に、民間がお金を借りにくくなり、需要が減るわけだ。また、潜在GDPを引き上げる政策には、規制緩和、国営企業・公営企業の民営化、グローバル化(国境を越えた規制緩和)がある。政府の規制を緩和し、国営企業などは民営化し「市場競争」のなかに放り込み、外国企業を含めて市場競争を激化させるのだ。すると、各産業への新規参入が相次ぎ、企業が生産性の向上に努力し、潜在GDPが引き上げられる。総需要が減り、潜在GDPが大きくなれば、インフレギャップが縮小し、物価上昇率は抑制できる。

次に、デフレ政策とはどういうものなのでしょうか。

次に、デフレ対策であるが、こちらは「総需要を拡大する」政策以外には存在しない。デフレギャップを埋めるためには、「潜在GDPを削ればいいのでは?」などと思った読者がいるかもしれない。とはいえ、潜在GDPの削減とは、要するに企業のリストラクチャリング(リストラ)だ。企業が人員解雇や事業整理を進めると、失業者が増え、消費が減り、設備投資や住宅投資は先送りされ、総需要が減ってしまう。総需要が小さくなると、結局のところデフレギャップは埋まらない。というわけで、デフレ対策は「総需要拡大策」以外には存在しないのだが、具体的にはインフレ対策(総需要削減策)の逆になる。すなわち、減税、公共投資拡大、公務員増強、診療報酬・介護報酬の増加、政策金利の引き下げ、そして量的緩和(中央銀行の買いオペレーションの拡大)だ。

最後の量的緩和について、中野氏は「量的緩和ではデフレから脱却できない」とする立場なので、三橋氏の意見には賛成しないでしょう。もっとも三橋氏自身、いまでは量的緩和無効説に組するものと思われます。私自身は、経済学者・青木泰樹氏からじきじきにレクチャーしていただいたときに、量的緩和が金融政策として無効であることを納得した次第です。

当たり前のことですが、インフレ時にはインフレ政策を、デフレ時にはデフレ政策を実施するのが、まともな経済政策です。ところが緊縮財政派と原理主義的新自由主義者は、デフレ時にインフレ政策を断行しようとします。私の目には、気が触れた連中としか映りません。それを1997年以来ずっと続けてきたのですから、デフレが20年間続いているのは当たり前のことです。残念至極ではありますが、それが現実です。この当たり前のことが多くの人々によって共有されたならば、日本の経済状況は大きく好転することになるのでしょう。それが私の心からの願いです。
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貨幣と租税(中野剛志氏講演のレジュメ・その4) 美津島明

2017年05月25日 16時26分24秒 | 経済

*ローマ帝国は、アッピア水道をはじめ、その滅亡までにローマ市内に11本の水道を引き、その内の何本かは現在でも市民の日々の生活に使われています。これが、「将来の世代への投資」のお手本です。ローマ帝国は、やはり偉大なのです。

*今回は、想定問答集といった趣です。財務省・財務省シンパ国会議員・正統派経済学者・大手マスコミの経済脳を呪縛する緊縮財政思想から繰り出される財政赤字否定論の典型的なもの(《 》で囲ってあるもの)を、中野氏は、なで斬りにします。(編集者 記)


***

・《日本の財政が国際的な信認を失ったら、国債は暴落し、金利は上昇する!
 〈反論〉
①日本の国債はそのほとんどを国内で消化しており、国際的な信認とはほとんど関係がない。
②それ以前に、そもそも国債発行は(国内外問わず)民間金融資産の制約を受けていないので、国際的信認とは本来無関係である。
*前回までの繰り返しになりますが、政府は個人や企業とは異なりいわゆる通貨主権を有するので、政府債務が自国通貨建てである限り、借り手である政府の返済能力に制限はありません。
 経世済民の観点からすれば、国債の真の発行制約は、物価上昇率です。いずれにしても、国際的信認とは関係がありません。「消費増税しないと国際的信認が損なわれる!」などと喚き散らしていた財務省コバンザメたちの愚かさ・無責任さが思い出されます。

③仮に何らかの理由(日本が財政破綻するという風説の流布によるパニック?)で日本国債の投げ売りが起きたとしても、瞬間的に金利は上がるかもしれないが、日銀が即座に国債を買い入れれば金利の上昇はすぐに収まる。

・《財政再建の規律を緩めると、歯止めがなくなり、ハイパーインフレになる
 〈反論〉
①何もハイパーインフレになるまで歳出を拡大白と言っていないだろ、落ち着け。
②これまで財政赤字の拡大が抑制できなかったのはデフレ不況による税収の急減が原因である。
デフレ下で歳出抑制や消費増税まで断行した国が、インフレ下で歳出抑制できなくなるはずがない
ハイパーインフレの事例が極めて少なく、しかもいずれも戦争等による供給能力の破壊が原因である。
*「世界のハイパーインフレ事例」という記事があります。ごらんいただければ幸いです。http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=282659 いずれも、戦争・内戦などで国内経済が混乱の極みにあるときにハイパーインフレは起こっています。
⑤万一ハイパーインフレになったら、緊縮財政論者たちが懸念する政府債務は実質的に急減することになる。
*Wikipediaによれば、ハイパーインフレは「最低でも国際会計基準の定める3年間で累積100%(年率約26%)の物価上昇、フィリップ・ケーガン(英語版)による定義では月率50%(年率 13000%)を超える物価上昇」と定義されています。その後に、「但し具体的なインフレーション率の値によるのではなく、単に《猛烈な勢いで進行するインフレーション》のイメージを強調する際に用いるマスメディアも多い」と述べられていて、緊縮財政論者たちは、そういうセンセーショナリズムで同語を使っているようですね。日本では、45年8月の敗戦から49年2月のドッジラインまで続いた戦後インフレがハイパーインフレとされています。「狂乱物価」とまで形容された1973年~74年のインフレは、消費者物価指数が73年11.7%、74年23.2%の上昇なので、ハイパーインフレの定義にはかなっていません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

・《公共事業はムダが多いからやってもムダ
〈反論〉
①財政支出の中身は公共事業に限らないし、公共事業も必要なものや効果的なものに限定すればよい。とにかく重要なのは、デフレを脱却するまで財政赤字を拡大し続けることである。
デフレ下においては「無駄な公共事業による財政拡張」は「無駄な公共事業の削減による財政緊縮」よりもはるかに望ましい。
③1990年代前半の公共事業はムダであったという議論があるが、IMFは「世界経済見通し」(2014年10月)で、「効果はあったが規模が不充分」と分析している

・《もはやかつてのような経済成長は望めない。これ以上欲しいものもないから、無理に成長する必要はない
〈反論〉
経済成長が必要か否かを論じる前に、最低限、デフレという異常事態からは脱却しなければならない
②デフレは消費のみならず投資も縮小させる。投資とは将来世代の生活水準の維持・向上のためのものである。現在の世代が欲しいものはなくても、将来世代のための投資は必要である、そのためにデフレ脱却が不可欠である。
*前回の冒頭に掲げた画像のキャッチ「子供たちにツケを残さないために、いまの僕たちにできること」の正しい答えがここに明示されています。それは「長期のデフレを完全脱却し、子どもたちの明るくて豊かな将来のために、投資を盛んにすること」です。これを政策立案の基本に置かない政治家は、将来世代に対して無責任のそしりをまぬがれえません
③自分が欲しいものがないからと言って、デフレを放置し投資を怠る発想こそが将来の世代へのツケである。 (つづく。次回が当シリーズ最終回です)
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貨幣と租税(中野剛志氏講演のレジュメ・その3) 美津島明

2017年05月24日 18時13分30秒 | 経済

日経ビジネスオンラインは、上記のようなタイトルで、財政再建を推し進めるキャンペーンを展開しています。デフレ下で財政再建を推し進めることが、いかに愚かで無謀な振る舞いであるのか。中野氏の議論をよく読めば、そのことは明らかであると思われます。上に掲げた画像は、一言でいえば、「亡国のキャンペーン」です。はらわたが煮えくり返ります。(編集者 記)

***

デフレ下での財政再建は無駄な骨折りである
「税収=国民所得×税率」という等式のなかで、政府は税率を意のままに決定できる。しかし国民所得は景気に依存する。政府は税率を操作できても不景気である限り税収は増えず財政再建は不可能となる。
*この箇所を目にして、思い浮かべるのは、消費増税と税収の関係です。消費税の税率をアップすれば、消費税は増えるかもしれないが、消費が冷え込むことで景気が悪化し国民所得が減るので所得税法人税が減り、トータルで税収が減る、というバカげた事態を、日本政府は繰り返しています。それを後押しする大手マスコミは愚の骨頂です。

「誰かの債務=別の誰かの債権(政府債務=民間債権)」
*この等式について、『富国と強兵』では次のように述べられています。

経済全体でみると支出の合計は所得の合計と同じである。マクロ経済は国内民間部門、国内政府
部門、海外部門から成り立っているが、ある部門における収支の赤字は別の部門における黒字に
よって相殺される。したがって、各部門の収支を合計するとゼロになる。「国内民間部門の収支
+国内政府部門の収支+海外部門の収支(資本収支)=0」
の等式が成立するのである。


・このことからデフレ時、すなわち民間債権が増大しているときに政府債務を減らすことは不可能である。デフレ時に政府債務が増えるのは(財政赤字が増大するのは)不可避なのである。また、政府債権の増大(すなわち財政黒字)が実現するのは、民間債務が増大しているとき、すなわちバブル時である。

*『富国と強兵』では、次のような事例が挙げられています。

「一九八〇年代後半、政府部門の赤字は縮小し続け、一九九〇年には黒字に転じているが、同時期の民間部門の黒字は対照的に減少し続け、一九九〇年に赤字に転じている。この時期の民間部門の赤字はバブルによる過剰債務を示すものである。民間部門がバブルにより債務を増大させたことで、政府部門の債務は減少した」

「バブルが崩壊し、あらに一九九〇年代後半にデフレに突入すると、民間部門は債務を減らし、債権を増やし、その裏返しとして政府部門が債務を累積させるようになっている」

「二〇〇三年ごろから二〇〇七年ごろまで政府部門の収支バランスが改善しているが、同時に資本収支が悪化している、これは、アメリカの住宅バブルによる好景気の影響で、日本の輸出が増大したためである」


☆財務省HPより
債務残高(対GDP比)の国際比較
債務残高の対GDP比をみると、90年代後半に財政健全化を進めた先進国と比較して、日本は急速に悪化しており、最悪の水準になっています
また、
平成27年度末の公債残高は807兆円に上ると見込まれていますが、これは税収の約15年分に相当します。 つまり将来世代に、大きな負担を残すことになります
とある。
http://www.mof.go.jp/zaisei/matome/thinkzaisei09.html
債務残高(対GDP比)の国際比較グラフは、次の通り。

 
*右クリックすると、画面が拡大されます。

・財務省の情報を踏まえたうえでの、次のような見解がマスコミ等で流布している。
財政赤字が拡大すると金利が上昇して債務の返済負担が重くなり、大変なことになる

・以下は、その見解に対する反論である。
①2000年以降、政府債務は累積し続けたが、長期金利は世界最低水準で推移している。日本が財政危機国家ならば、ギリシャのように金利が暴騰するはずだが、そうなっていない。かえって金利は異様に低い。なぜなのか?
②日本は1997年来の長期のデフレ下にある。デフレで借り手がいない限り、金利が急激に上昇することはまずありえない。例えば、 借り手あまたのバブル期において、20年国債の金利は7%という高率であった。現在は0.644%である(*財務省HPによれば、17年4月28日現在の金利は0.562%とさらに下がっています
https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/data/jgbcm_all.csv)。
③金利が上昇しはじめたら、それは借り手が増えた、つまりデフレ脱却が実現し景気回復軌道に乗ったことの兆候なのであるから、むしろ喜ばしい事態なのである。金利上昇を恐れるのは景気回復を恐れることに等しい*まったくもって愚かとしか形容のしようがありませんね)。  (つづく)
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貨幣と租税(中野剛志氏講演のレジュメ・その2) 美津島明

2017年05月23日 18時58分58秒 | 経済

「政治の無策によって、高齢者による社会保障費の増大も加わり、日本は1000兆円超という途方も無い借金を抱えています」などという言い方がまことしやかに流通していますが、それは本当なのでしょうか。中野氏は、貨幣の本質から説き起こし「それは誤った言説である」と言い切ります。(編集者 記)

***

量的緩和とは、銀行が日銀に開設した「日銀当座預金」を増加させる政策である。

・しかし銀行は、日銀当座預金を原資として貸出しを行うわけではない。銀行預金(通貨)は借り手がいなければ創造されない

・借り手が増えれば銀行預金は増える(通貨供給量が増える)ので、銀行は日銀当座預金を増やさなければならない。しかしデフレで借り手がいなければ日銀当座預金は増えない。

・つまり、インフレが日銀当座預金を増やすのであって、日銀当座預金を増やせばデフレから脱却しインフレになるのではない

・それゆえ量的緩和ではデフレから脱却できない

国債の発行制約(1)
・日本政府のいわゆる財政危機なるものについて、次のような意見をよく耳にする。すなわち「日本が巨額の政府債務を抱えているのにもかかわらず破綻しないのは、巨額の民間金融資産があるから。しかし今後、少子高齢化により家計の貯蓄率が低下するので政府債務は持続可能ではない」。

・この意見はもっともらしいが、実は誤りである。銀行の国債購入は政府預金を増やす。国債増発によって得た資金(政府預金)を政府が支出すれば、民間金融資産はその分増加するのである。

・その事態を、L.ランダル.レイは『現代貨幣理論』で次のように言っている。
政府の赤字がそれと同額の民間部門の貯蓄を創造するのであるから、政府が貯蓄の供給不足に直面することなどありえない

財政政策は金融政策
・国債発行(すなわち財政赤字)が通貨(すなわち預金)供給量を増やす。このことは、財政政策は同時に金融政策であることを意味する。
*この一事からだけでも、「日銀が政府の財政赤字をファイナンスすることはまかりならぬ。禁じ手である」などという真面目ぶった議論が愚論にほかならないことを雄弁に物語っています。

・銀行が国債を購入するには、銀行が日銀に保有する当座預金残高を利用する。その具体的な過程は次のようになる。
①銀行が国債を購入すると、銀行保有の日銀当座預金は政府の日銀当座預金勘定に振り替えられる。
 ↓
②政府は公共事業の発注にあたり企業に小切手支払う。
 ↓
③企業は取引銀行に小切手を持ち込み代金の取り立てを依頼する。
 ↓
④銀行は小切手相当額を企業の口座に記帳する(ここで新たな預金が創造される。すなわち、貨幣が新たに供給される。*「万年筆マネー」ですね)。銀行は同時に日銀に代金の取り立てを依頼する。
 ↓
⑤政府保有の日銀当座預金が、銀行の日銀当座預金に振り替えられる。これは銀行からすれば日銀当座預金が戻ってくることを意味する。これで振り出しに戻ったことになる。それゆえ、原理的には、①→⑤の過程は無限に繰り返すことができる。すなわち国債発行に資金的な制約はない

国債の発行制約(2)
・貸出しの制約は、貸し手の資金量ではなく、借り手の返済能力である。したがって、政府債務の制約は、民間金融資産の総額ではなく、借り手である政府の返済能力である

・しかし、政府は個人や企業とは異なり通貨を創造する権限を有する(*すなわちいわゆる通貨主権を有する)。したがって、政府債務が自国通貨建てである限り、借り手である政府の返済能力に制限はない。自国通貨建て国債は(政治的な意志によって返済を拒否しない限り)デフォルトしえず、また歴史上そういう事例は皆無である。デフォルトした例は、自国通貨以外の国債(いわゆる外債)だけである。

国債の発行制約(3)
・Q 自国通貨建て国債がデフォルトしないのならば、財政赤字は無限に拡大できるのか。

・A 財政赤字の拡大により通貨供給量が増大すると通貨の価値が下がりインフレになる。
財政赤字(通貨供給)が過剰に拡大すると過剰なインフレ(悪性インフレ)を起こすので無限には拡大できない。
国債の真の発行制約は、物価上昇率である

・よって、デフレである限り財政赤字の拡大の制約はない。その意味で、日本は1997年以来の長期にわたるデフレなので、財政赤字は多すぎるというのでなくて少なすぎるというべきである。(つづく)
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中野剛志氏を招いての『富国と強兵』の読書会のご案内

2017年05月22日 15時12分50秒 | ブログ主人より


私は、日本近代思想研究会という読書会を主宰しております。ふた月に一度のペースで実施し、次回で56回目になります。

次回は、昨年話題になった『富国と強兵 地政経済学序説』の著者・中野剛志氏を招いて、同書の読書会を実施します。奮ってご参加ください。詳細は以下の通りです。ご不明な点があるならば、当ブログコメント欄にお書込み願います。

《実施要項》
・日時:6月11日(日)午後3時~7時(3時始まりです!)

・場所:ルノアール新宿区役所横店6号室
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13116914/dtlmap/
(立ち上がった画面を少しスクロールしてください。地図が
出てきます)
住所:新宿区 歌舞伎町 1-3-5 相模ビル1F 2F 03-3209-6175

・テキスト:『富国と強兵 地政経済学序説』
(中野剛志 東洋経済新報社 3600円+税)

・レポーター 藤田貴也さん

参加費用は、人数によりますが、場所代・飲み物込みで
一人当たり一五〇〇円前後(場所代・飲み物代)+1300
円です。プラス1300円は、中野氏への謝礼に充当されます。
ご理解のほど、お願いいたします。また、中野氏が2次会に
参加なさる場合、氏の分は、ほかの参加者で均等負担する
ことになります。合わせて、ご理解のほどお願いいたします。

                          美津島明 
コメント (3)
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