美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

特攻魚雷乗組員への最大限の敬意 

2022年06月03日 23時18分08秒 | 歴史

左が回天乗組員・仁科関夫中尉

渡辺惣樹氏の『第二次世界大戦とは何だったのか 戦争指導者たちの謀略と工作』(PHP研究所)を読んでいて、心をつかまれた箇所がありました。それについて触れましょう。

2001年8月、西太平洋カロリン諸島にあるウルシー環礁を統治するミクロネシア連邦は緊急事態を宣言しました。前月から同海域で石油の流出が始まっていたのです。同政府は米海軍に救援を求めました。石油の流出源が、海の底に眠る米海軍・油槽船「ミシシネワ」だったからです。同船は、大東亜戦争の最中の1944年11月20日・早朝5時45分に黒煙を上げ、やがて沈没したのです。そのとき、沈没の原因は分かりませんでした。

2003年2月、米海軍は船内に残る1300万リットルもの石油を抜き取る作業を終えました。海底のミシシネワには、船体とともに沈んだ多くの遺体が残っていましたが、米海軍はそのとき回収しませんでした。「海戦」の墓標としてとどめるために。

ミシシネワの乗組員には生存者がいました。その一人ジョン・メアは、息子のマイケルにミシシネア沈没の顛末を世に知らせてほしいと遺言し、2005年に亡くなりました。

2014年、マイケルは、父との約束を果たす書『KAITEN』を上梓しました。その書名から分かるように、ミシシネワは、特攻魚雷「回天」の攻撃で沈没したのです。先ほど「海戦」と申し上げたゆえんです。

特攻魚雷戦術を構想したのは、仁科関夫と黒木博司という二人の日本海軍士官です。1944年9月1日、二人が板倉光馬少佐とともに中心となって山口県大津島に基地が開隊され、同月5日より全国から志願して集まった搭乗員達による本格的な訓練が開始されました。ところが、 訓練初日の9月6日、提唱者の黒木が殉職する事故が起きました。

ミシシネワは、仁科中尉の操る回天の攻撃で沈みました。ミシシネワへ特攻する仁科の胸には、訓練中に殉死した黒木の遺骨があったそうです。享年21歳です。

ミシシネワの生存者が、「海戦」の事実を知らされたのは1999年のこと。日米の記録を照合して、ミシシネワが仁科中尉の操る回天の犠牲になったことが確定したのは2001年だったとの由。

2010年には、当時回収された遺体のなかに、一体だけ米海軍将兵のものとは考えられないものがあったとの証言が出ました。それは仁科中尉の遺体であると考えられています。

本書から引きましょう。

1999年、ミシシネワの生存者は友の会を結成した。彼らは、日本の回天関係者(回天顕彰会)と交流し、互いの経験を語り合った。『KAITEN』の上梓で父の願いを叶えたマイケル・メアはその書の最後を、回天会会長、小灘利春氏の言葉で締めくくった。

「特攻は愛するものを守りたいとの強い思いから生まれたのです」。

マイケルが、日本「軍国主義」の象徴とされる特攻の書物の掉尾(ちょうび)を小灘氏の言葉で飾ったのは、あの戦争を、恨みや善悪の感情から距離を置いたリアリストの目で見た証(あかし)なのである。


渡辺惣樹氏は、「リアリスト」という言葉に、万感の思いを込めているにちがいありません。その「万感の思い」のなかには、米国人マイケルの、特攻魚雷乗組員に対する最大限の敬意への深い感応が織り込まれているのは間違いないでしょう。私は、そのことに心をつかまれてしまいました。
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渡辺惣樹・茂木誠『教科書に書けないグローバリストの 近現代史』を読んで

2022年05月17日 22時11分10秒 | 歴史


本書は、高校生が読んで「本当の近現代史」の入り口のところまで行けるように、との目論見で書かれた本です。そのフォームは、歴史家・渡辺惣樹さんと世界史の予備校講師・茂木誠さんの掛け合いです。

では、「本当の近現代史」とはなんでしょうか。それは、世界が国際金融資本の「マネーの動き」によって決定的な影響を受け続けてきたことが明らかになる近現代史です。その「世界」には当然日本も含まれます。

私自身、そういう意味の「本当の近現代史」をとても大切なものであると考えています。なぜなら、「本当の近現代史」への理解を深めるほどに、国際金融資本勢力が世界を動かそうとする方向への感度が鋭敏になり、それを相対化し、世界認識の度合いを深め、叡智の領域へ自分なりに少しでも歩みを進めることができるようになるからです。

いま述べたことは、実のところ教育にとっても極めて重要です。教育が、子どもたちを愚民化するお手伝いをするなんて、馬鹿げたことであり、とんでもないことでもある。そうではなくて、教育はできうるならば子どもたちに叡智への道を指し示す役割を果たすべきである。そうではないですか?

さて、話を本書に戻しましょう。「はじめに」にとても印象的なくだりがあります。茂木さんの言葉です。

「産業革命以後の近現代史は、国家を超えた大きな力、つまり『マネーの動き』が決定的な役割を果たします。これは私も最近気づいたことで、それが明白になったのが2016年と2020年のアメリカ大統領選挙でした。

過去100年ほどのアメリカでは、世界の金融センターであるウォール街と合衆国政府がほとんど一体化していました。政府の意思はウォール街の意思を反映したものであり、両者を区別するのは困難でした。

それが2016年のトランプ政権の登場により、ウォール街と合衆国政府が敵対するようになりました。そしてウォール街を敵にした結果、トランプ氏は再選をあっけた2020年の大統領選で、奇妙な敗退をすることになったのです。

ウォール街(あるいはグローバリスト)と国家権力との関係が明らかになった今、従来どおりの国家間の関係だけを追いかける世界史では意味がありません。」

世界史の専門家が、2016年のトランプ大統領誕生と2020年の大統領不正選挙によるトランプ退場に刺激を受けて、世界史の抜本的書き直し、語り直しが必要であるという認識を得るに至ったと率直に述べているのです。私は、そのことに深く心を動かされました。

その認識の経緯が、及ばずながら、当方のいまの思いとかなり重なるところがあるからです。

若者たちを相手に教鞭をとる人々が、茂木さんに続く形でひとりまたひとりと、本気で「本当の近現代史」を教えるようになったならば、時代は大きく変わる可能性があります。その可能性を私は信じたい。

また本格的な歴史研究家が、渡辺さんに続く形でひとりまたひとりと、本気になって青少年と向き合い、彼らに「本当の近現代史」を語ろうとするならば、同じく、時代は大きく変わる可能性があります。

その可能性を私は信じたい。だから、絶望などしている暇はありません。

中身の詳細には触れませんが、もしも私の言葉があなたの心に触れたならば、ぜひ本書を紐解いてくださいね。読み終えたら、それぞれの立場で本書の中身や著者たちの思いを活用しましょう。そうして、お互い「本当の近現代史」を広める一翼を担いましょう。
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茂木誠講義【ユダヤから紐解くロシア・ウクライナの歴史①~⑦】

2022年05月14日 15時39分11秒 | 歴史


今日地元の大手の書店に立ち寄ると、まずは「ウクライナ・ロシア・コーナー」が目に飛び込んできました。

当方を含めて、目下、読書好きのみなさんの興味関心の的なのですね。

ウクライナ・ロシア問題を紐解くには、その歴史的な経緯をはじめから現在に至るまで一度はきちんと押さえる必要があります。

その点、今回紹介した茂木誠さんの講義の奥深さ・面白さ・納得感は、際立っているように感じます。

ひとつの動画は20数分です。全部で一時間以上ありますが、おそらく興味深く視聴し続けることができるでしょう。

ぜひごらんください。当方が中身の詳細についてあれこれと語る必要はないでしょう。


【ユダヤから紐解くロシア・ウクライナの歴史①】キエフ公国の誕生と滅亡|茂木誠


【ユダヤから紐解くロシア・ウクライナの歴史②】モンゴル支配とウクライナ・コサック国家の興亡|茂木誠


【ユダヤから紐解くロシア・ウクライナの歴史③】帝政ロシアの反ユダヤ主義からロシア革命まで|茂木誠


【ユダヤから紐解くロシア・ウクライナの歴史④】ロシア革命から第二次世界大戦、ソ連崩壊まで|茂木誠


【ユダヤから紐解くロシア・ウクライナの歴史⑤】ナチズムとは何か|茂木誠


【ユダヤから紐解くロシア・ウクライナの歴史⑥】ロシアがウクライナに侵攻する理由|茂木誠


【ユダヤから紐解くロシア・ウクライナの歴史⑦】ウクライナ戦争の見方|茂木誠
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林千勝さん、『日米戦争を策謀したのはだれだ!』を語る

2021年04月04日 16時45分00秒 | 歴史

フーバー元大統領

今回は、「林千勝さん、大東亜戦争を語る」シリーズから、ちょっと脇道にそれます。林千勝さんが、ご自身の最新刊『日米戦争を策謀したのは誰だ!』を語っている動画をたまたま目にし、とても興味深かったもので。

本書は、フーバー元米国大統領の自伝『裏切られた自由』を導きの糸にして話が展開されます。

林さんは、フーバーがフランクリン・ルーズベルトの第二次世界大戦への参戦をめぐる謀略を生々しく暴いている点を高く評価しながらも、フーバーに対する3つの違和感を表明します。それは、以下のとおりです。

開戦前の日本についてよく分かっていないこと。
フーバーは、権力掌握のためには、共産主義者でも極右でもだれでも利用し、日本が破滅しても平然としていられた近衛文麿を日本における良心的リベラルであり、彼こそが日本の平和実現の核であると思っていました。また、当時の陸軍参謀が実は最も平和的であったのにもかかわらず、日本が無謀な戦争に突入したのは陸軍と独裁者の暴走によると考えていました。さらに、当時のアメリカと同様に日本でも政治の世界に国際共産主義者の謀略が渦巻いていたことをまったく認識していませんでした。林さんは、フーバーのそのような無知に違和感を抱いたそうです。

反戦についての言葉だけがあり、それを実現するための策がない点。
戦争路線を推進しようとあの手この手の策謀をめぐらしている敵に対抗するためには、それを上回る策謀をめぐらし、スキを突かれてひっくり返されないようにしなければなりません。ところがフーバーは、反戦平和についての言葉だけがあり、それを実現するためのインテリジェンスや深謀遠慮がありませんでした。

③ 自伝のなかに、戦争路線を推進しようとする勢力に資金を提供し、実質的にそういう勢力を支える存在である「国際金融資本」という言葉、あるいは、ロック・フェラーやロス・チャイルドの名がまったく出てきません。林さんは、そのことに違和感を抱いたそうです。

林さんによれば、それらの3項目の逆をうまくまとめれば、戦争の道筋に対する正しい認識ができるのではないかと考えたそうです。

すなわち、こうなります。

ルーズベルトが、国民の大多数の厭戦気分を「見事に」ひっくり返して日米戦争を実現できたのは、①日本の政治状況を正しく把握していたからであり、②戦争を企てる陰謀・策謀を精緻にめぐらしていたからであり、③国際金融資本の資金的バック・アップがあったからである、と。

次に林さんは、戦争に関わる歴史をつかまえるための4段階を唱えます。

第一段階は、日本人ならだれでも一度はその洗礼を受ける「東京裁判史観」あるいは「自虐史観」の段階。多くの人は、この段階にとどまります。ちなみに、私の知り合いでもこの段階にとどまっている方がほとんどです。南京「大虐殺」や従軍慰安婦の強制連行を頭から信じ込んでいるのがその典型例でしょう。また、本人がこの段階を超えたつもりになっているだけ、という場合もあります。頭では「東京裁判史観」を否定しても、感性レベルになると超えられないのです。帝国陸軍や特攻隊や核兵器の保持に関して俄然否定的になったりするのがその例です。私はそう考えています。私自身、自分が東京裁判史観をどこまで乗り越えることができているのか、懐疑的です。

第二段階は、東京裁判史観・自虐史観からの脱却の段階。この段階にある人はぐっと少数になります。

第三段階は、コミンテルンの罠や謀略の存在を明瞭に認識する段階です。日本は、日米戦争に突入しアメリカに惨敗する過程において、国際共産主義者の罠にはまり、してやられました。その事実を直視することが、正しい歴史認識に通じる。林さんは、そう言います。

第四段階は、コミンテルンを動かし、そこに資金を投入し、サポートした国際金融資本の存在をはっきりと認識する段階。独裁者スターリンが、世界情勢の一から十までを把握し、的確に資金を過不足なく投入し、意図した方向に世界情勢を動かしたとは考えられません。世界を動かすには莫大な資金が必要なのです。国際金融資本がコミンテルンの資金源であるという歴史の真相をしっかりと認識するのが歴史の第四段階である、というのです。

第四段階に至ることで、東京裁判史観・自虐史観の乗り越えもより確かなものになる。林さんは、そう強調します。

それらをふまえたうえで、林さんは、次のように述べます。

ロックフェラー一世とロックフェラー二世に触れないことには、20世紀は語りえない。

日本の共産主義系列と国際金融資本系列の一群は、大日本帝国を日米戦争に導き、国家の破滅を通じて革命を成就しようとした。近衛文麿は、その一群を徹底利用することで日本の覇権掌握の野望を果たそうとした。ところが、その一群の関係図は、近衛との接触の前にすでにできあがっていました。つまり近衛は、利用したつもりになっていたが、実は利用されていた

共産主義系列と国際金融資本系列の一群とはなんでしょうか。共産主義系列のトップは、第一次近衛内閣で内閣書記官長に抜擢された風見章でしょう。国際金融資本系列の重鎮は、松本重治でしょう。その二人をつなぐ人物が、かの有名な尾崎秀美(ほつみ)です。いずれ明らかになるでしょうが、彼らを頂点とする20名ほどが、近衛とともに日本を破滅の淵に追いやった張本人、すなわち、戦争犯罪人の最たるものなのです。ちなみに、このグループの四分の一は朝日新聞社の人々です。朝日新聞は、戦前も戦後も「なんとしても日本を壊したい」というコケの一念を堅持する点で一貫しているのです。社風が、まったく変わっていないのです。これは批判というより単なる事実です。

ついでながら、意外なことに、海軍の重鎮、すなわち、米内光政・永野修身・山本五十六の三人は、100%の共産主義者である風見章を通じて、共産主義系列の一角を占めます。本書を紐解くまで、私は彼らのそういうつながりをまったく知りませんでした。この事実は、大東亜戦争のなりゆきに致命的な悪影響を及ぼすことになりました。それについては、いずれ。

では、ごらんください。

【林 千勝】日米戦争を策謀したのは誰だ!【WiLL増刊号 #016】
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林千勝、大東亜戦争を語る(1)

2021年04月03日 00時17分23秒 | 歴史

背景の大写しの人物は、ゾルゲ事件の尾崎秀美(ほつみ)

林千勝さんの「大東亜戦争の真実」動画シリーズをアップしてゆきたいと思います。今回は、第1回配信分をアップします。気長にお付き合いください。

私がそう思い立ったのは、林さんの3冊の歴史書を読んだ読後感が忘れがたいものだったからです。

私は『日米開戦 陸軍の勝算』『近衛文麿 野望と挫折』『日米戦争を策謀したのは誰だ!』を読んで衝撃を受け、少なからず自分の歴史イメージの変更を余儀なくされました。「自分は、大東亜戦争の真実について実はほとんど知らなかった」。そういう思いが強く残ったのです。

そうして、林さんの大東亜戦争をめぐる歴史イメージを、大東亜戦争に関心があるひとびとに、自分なりに少しでも伝えることができたならと思っていました。

今日たまたま「大東亜戦争の真実」動画シリーズを目にして、その思いを実現する気になりました。

林さんの歴史書を読むことで目からうろこが落ちる思いを味わった一例を挙げましょう。

私は、これまで、近衛文麿は、頭はそこそこ良いけれど、お公家さん気質の優柔不断なダメ政治家であると思い込んでいました。例えば、いわゆる日中戦争を拡大するような行動をしたかと思えば、突然家にこもったりして、行動に一貫性が感じられない。それは、彼の優柔不断な気質のしからしむるところなのだろう、と。
 
ところが、林さんは、そうではないと証拠の資料をふんだんに開示しながら言います。たとえばこういう風に。『日米戦争を策謀したのは誰だ!』から引きます。

近衛は優柔不断でもなく、平和主義者でもなく、皇室の藩屏(はんぺい)でもなく、共産主義者でもありませんでした。彼は諸勢力の「扇の要」に居ながら、敗戦革命をめざす共産主義者を利用して支那事変を拡大させ日米戦争を起こし、強大なアメリカ軍をもって天皇の軍隊を粉砕し、昭和天皇の退位を謀ったのです。ゴールは親米政権としての自らの覇権獲得です。大東亜戦争は、藤原(近衛)文麿による″昭和の藤原の乱″であったのです。(中略)
 近衛は国際金融資本家たちの期待通りに乱を起こし、そして口封じに消されたのでした。彼にとってはすべてが駒でしたが、国際共産主義者たちや国際金融資本家たちにとってもまた、彼は駒でした。彼はピエロのように踊ったのです。


引いたところは、本一冊分を凝縮したような物言いになっていますので、それを順に解きほぐして語るのはシリーズのアップ全体を通じて、ということになります。しかしながら、いわゆる通説的な近衛文麿像とは、かなりかけ離れたイメージがここで語られているのはある程度分かるのではないでしょうか。

林さんが語る歴史像は、このような知的スリルにあふれた、とても刺激的なものです。ご本人は、実直さを絵にかいたような人物のように思われますが。

当シリーズを通してごらんになれば、近衛文麿のみならず、山本五十六、米内光政、吉田茂、白洲次郎、牛場友彦、松本重治といった昭和史の大立物のイメージががらりと変わることでしょう。

では、動画をアップしましょう。


「大東亜戦争の真実」を語る新番組スタート!【CGS 林千勝 大東亜戦争の真実 第1回】
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