つい最近のことです。ひょんなことから、BABYMETALなるグループの存在を知りました。このグループは、日本の芸能における特有の文化としてのアイドルの可愛らしさと、欧米で生まれ日本に根付いたヘヴィメタルの過剰でアグレッシヴなサウンドとのいわば異種配合によって生まれた斬新な和製ユニットです。
彼らの所属事務所はアミューズです。同事務所は、渡辺プロダクションでキャンディーズや梓みちよのマネジャーだった大里洋吉が同社から独立して、一九七七年に設立しました。当時フォーライフレコードの社長だった吉田拓郎から紹介された新人シンガーソングライター・原田真二を売り出すため、と言われています。その二年後には、サザンオールスターズを売り出しています。もともと本物のポップ音楽へのこだわりのある音楽事務所であると言ってよいでしょう。また、当ユニットの仕掛け人は、「重音部RECORDS」顧問を務めるアミューズのKOBAMETAL(コバメタル)氏です。本名はよくわかりません。
BABYMETALは、女性アイドルグループのさくら学院から派生したクラブ活動ユニットのひとつである“重音部”として二〇一〇年十一月にスタートしました。センターのSU-METAL(中元すず香・十六歳)がメインボーカルを担当し、両サイドのYUIMETAL(水野由結・十五歳)とMOAMETAL(菊池最愛・十五歳)がダンスとスクリーム(合いの手・掛け声など)を担当します。むろん、SU-METALも踊ります。ダンスにはヘッドバンギング、ダンス劇、格闘技などの要素がアレンジして取り入れられており、動画をご覧になると分かりますが、そのレベルはプロとして鍛え上げられたものです。楽曲の基調はもちろんヘヴィメタルですが、Jポップや歌謡曲や童謡などさまざまな要素が織り込まれています。なお、曲中でヘビィメタルならではのデスヴォイスが使用されることもありますが、メンバーは発声しません(メタルシーンは目下、さらに細分化されているようなのですが、それを論じることは私の手に余ります)。
バックバンドは三種類存在していて、「BABYBONE(ベビーボーン)」と「キツネ楽団」は当て振りでスタッフが担当し、「神バンド」は生で演奏しサポートメンバーが担当します。ライヴはもっぱら「神バンド」がサポートしているようです。その演奏ぶりは、うるさ方を黙らしてしまうほどの本格派です。
ライブ公演ではMCはありません。「キツネ様の黙示録」と呼ばれる紙芝居風の映像とナレーションが時折挿入されながら進行します。
以上は、wikipediaの記述内容などを適当に組み合わせたものです。おおむねどんなユニットなのかお分かりいただけたでしょうか。
このBABYMETALのアルバムやライヴが、実はいま欧米で大変な反響を呼んでいるというのです。それも、事務所による大々的なセールスプロモーションの展開の成果というわけではなくて、you tubeに配信されたデビュー曲のプロモーションビデオへのアクセス数がたまたま百万回を超えたりしたことで海外ツアーが実現し、行く先々で多くの人々を動員し、そのパーフォーマンスがライヴ会場に来た人々によって熱狂的に受け入れられることになったようなのです。要するに、当事者たちの思惑をはるかに超えたところでBABYMETAL現象が大きく展開されているのです。
二〇一四年二月に発売されたファーストアルバム『BABYMETAL』は、iTunes Storeを通じて海外にも配信され、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツなどのメタルアルバムチャートで1位、アメリカ、イギリス、ドイツ、台湾、インドネシアなどのロックアルバムチャートで1位をそれぞれ獲得しました。なお、アメリカのウィークリー総合アルバムチャートでは48位にランクインしました。さらに、アメリカのビルボードのカテゴリー別チャートにおいて、ハードロック・アルバムで12位、ワールド・アルバムで1位になりました。
同年七月の、イギリス・フランス・ドイツ・アメリカ・カナダでのツアーの成功の詳細については次のURLをクリックしてみてください。
http://news.livedoor.com/article/detail/9028704/?p=1 ヨーロッパ・ツアー
http://dng65.com/blog-entry-1208.html アメリカ・ツアー
http://dng65.com/blog-entry-1241.html カナダ・ツアー
これらのツアーの成功を受けて、英国メタル専門誌「METAL HAMMER」が、同紙のオンラインサイト上で行った一般投票による「Heavy Metal World Cup」決勝戦で、アメリカのバンド、マシーン・ヘッド(伝説的なヘビィメタルバンドです)を退けてBABYMETALが優勝を果たしました。「METAL HAMMER」のサイトには既に2000件を超えるコメントが寄せられていて、その反響の大きさを物語っています。
これらの出来事は、きゃりーぱみゅぱみゅがヨーロッパで人気がある、という次元をはるかに超えています。そのことは、コアなヘビメタファンたちの間で、BABYMETALが本物のメタルミュージックと言えるかどうかについて白熱した真剣な討論が繰り広げられていることからも分かります。そのこと自体が、欧米でのBABYMETAL人気がフェイクではないことを物語ってもいます。
どうしてこんなすさまじいことになってしまったのでしょうか。
まずは、世界規模のBABYMETAL現象のきかっけがyou tube であるということに着目したいと思います。つまり現在は、大げさなセールスプロモーションをしなくても、興味を著しく刺激する新鮮味と実力のあるパーフォーマンスが、あっという間に国境を超えて人口に膾炙する技術的な条件が存在する時代である、ということです。もちろん、降って湧いた大きなチャンスをがっちりとつかむためには、緻密な経営戦略が必要なのでしょうが、大きなチャンスそれ自体が、いま述べたようなひょんなことから生まれる可能性が、かつてよりかなり大きくなったことは確かでしょう。きゃりーぱみゅぱみゅも、そのあたりの事情はよく似ています。
次に、日本文化の特徴としての「かわいいもの」をことさらに愛でる縮み志向のもろもろのの産物が、世界の人々に「Kawaii」として広く認知されつつあるということが挙げられるでしょう。それは、豊かな経済的条件を背景として、日本女性が伝統的な美的センスに磨きをかけていることが土台にあるような気がします。端的に言えば、日本女性の磨き抜かれた繊細な美しさが世界的に認められるようになったということです。でなければ、欧米の人々がBABYMETALの三人の少女たちのかわいらしさに鋭敏に反応することはなかったでしょう。そういう事態に大きく貢献した過去・現在の存在を思いつくままに挙げれば、荒川静香・浅田真央・AKB48・女子バレー選手たち・女子カーリング選手たち・女子卓球選手たちと実は羽生結弦となります。羽生結弦を挙げたことを意外に思われるでしょうか。洗練された繊細な美としての「Kawaii」を世界の人々に認知させるうえで、羽生の果たしている役割はけっこう大きいというのが、私の見立てです。「Kawaii」の認知は、世界における美のスタンダードを少なからず変える可能性があるのではないかと私は考えています。
三つ目として、これも経済的な豊かさを背景にしていると言っていいと思われますが、ロックに限らず、高度な演奏をすることができるミュージシャンの層がかつてとは比べものにならないほどに分厚くなっていることが挙げられます。いつの間にか、日本の演奏の平均レベルが底上げされ、世界標準に迫りつつあるということですね。実際、「神バンド」の演奏は、玄人の耳を納得させるだけのものがあります。でなければ、ツアーの成功はありえませんでした。また、仕掛け人のKOBAMETALは、アイドルというメジャーの音楽シーンにヘビィメタルというアングラ音楽の実力者たちのアイデアを積極的に取り入れています。そういうことができるのは、メジャーの音楽シーンにはめったに顔を出さないミュージシャンの層が分厚いことを物語っているでしょう。
四つ目として、アイドルビジネスがアイドルたちに対して要求する水準がかつてとは比べものにならないほど高度化していることが挙げられます。可愛ければOKというわけではないのです。後ほど、動画で三人のパーフォーマンスをご覧ください。歌、踊り、表情。それらすべてが鍛え抜かれたものです。年齢は十五・六歳ですが、彼女たちは、十分に木戸銭を稼げるだけの堂々たるプロの技を披露しています。だから、海外で芸を披露する場合でも臆するところがないのです。日々の厳しい訓練のたまものといえましょう。若いので、ライヴのなかでどんどん成長している、という側面もあるでしょう。
最後に、これがもっとも大事な点であると思うのですが、仕掛け人であるKOBAMETALの存在の大きさを挙げたいと思います。彼はインタヴューに答えて、「アイドルとテクノとをつなげることでPerfumeという魅力的で斬新なアイドルグループが誕生した。次は、アイドルとメタルとをつなげるしかないと常々思っていた。自分は、アイドルもメタルもとても好きだ。それらの大好きなものをつなげることで新しいメタルミュージックを提示できたらというのがあった」という意味のことを言っています。そこから感じられるのは、彼には先見の明と音楽への真摯な思いがあるということです。それらが、先に述べた四つの要素をしっかりとつなげていると言えるのではないでしょうか。
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20121026/1044961/?P=7
ところで、FBでの古谷経衡氏のコメントによって次のような事実を知りました。
日本文化を海外に広めながら、ビジネスにつなげる――。安倍政権が成長戦 略の一つに掲げ、設立された官民ファンド「クールジャパン(CJ)機構」が 後押しする事業が21日、明らかになった。第1弾は、中国で日本文化を売り 込むショッピングセンターなど三つだ。事業規模は計約650億円で、このう ち百数十億円を年内にも出資する。
http://www.asahi.com/articles/ASG4P4SJ8G4PUTFK005.html
朝日新聞 小林豪 2014年4月21日21時03分
これを目にするや、私は怒りと脱力感が同時に襲ってきて、軽いめまいがしました。アニメや斬新な音楽をちっとも楽しめないようなダサい感覚しか持ち合わしていないくせに、垢まみれの利権だけは欲しがろうとする脂ぎったオヤジ連中が、「日本文化を海外に広めながら、ビジネスにつなげよう」などと柄にもないことを考えるとこういう愚にもつかないことを思いつく、という好例です。
クールジャパンを自然体で堂々と実践し、世界の人々が熱狂的に受け入れるBABYMETALと、CJ機構のバカ連中との気の遠くなるほどの隔たりが、クールジャパン政策の愚かしさを雄弁に物語っています。溌溂としてクールジャパンの王道を歩むBABYMETALと比べるとき、CJ機構の媚中的な振る舞いがいかにも薄汚くてみすぼらしく映ります。安倍政権のクールジャパン構想は、どうやら根本的に間違っているようですね。
世間は、「役人のダサいセンス」を敬遠します。そこには、「浮世はカネと色次第」という言い方に含まれる「ほんとうのこと」に対して、役人的マインドが致命的に鈍いことへの常識的で正当な感知があります。一方アイドル・ビジネスは、エロスとカネをめぐる衆生のありのままの現在についての鋭敏なセンサーの持ち主でなければ展開できないものです。また、そういう存在があってはじめて、アイドルやアニメや映画などの、日本の文化的産物がクール・ジャパンという魅力あるものとして海外で受け入れられるのです。でなければ、海外の人々のハートをつかめませんからね。つまり、クール・ジャパン政策は、いわゆる役人的なものから最も遠い磨きぬかれた鋭敏な感性によって担われるよりほかにないものなのです。
念のために申し上げておきます。「いわゆる役人的なものから最も遠い磨きぬかれた鋭敏な感性」の持ち主は、政府主導のクール・ジャパンの若者代表的な存在と目されている太刀川英輔氏(CJムーヴメント推進会議委員)のように、カタカナ語をやたらと散りばめて抽象的で無内容なことをペラペラとまくし立てるタイプの人ではありません。政府やNHKなどが抜擢する「若者代表」にロクなのがいないのは、古市憲寿氏の例でも分かります。そういうタイプは、自分の感性の鈍さ・地力のなさをそういう形でカモフラージュしているだけなのです。その意味で、彼らの小生意気そうな表情は、自分の貧弱な正体が見破られないための、防禦の構えにほかならないのです。
では、お待たせしました。BABYMETALの現状での代表曲ふたつと、イギリス・ロンドンでのライヴをご覧ください。ライブは三〇分ほどありますが、私は楽しく見続けることができましたし、なぜ彼らが欧米の聴衆に受け入れられているのかよく分かるような気がしました。
BABYMETAL - ギミチョコ!!- Gimme chocolate!! - Live Music Video
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BABYMETAL - メギツネ - MEGITSUNE (Full ver.)
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BABYMETAL in Sonisphere Festival UK 2014 fan cam Compilation
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